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空想未来研究所2.0

あの電撃は一般家庭2000世帯以上分!? 愛ゆえに強すぎるラムちゃんのエネルギー/うる星やつら

『うる星やつら』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「電撃」。今年10月、36年の時を経て令和版の新作TVアニメがスタートした名作マンガ『うる星やつら』(1978〜1987年)。ヒロインのラムが放つ電撃をエネルギーの観点から考察してみました。

浮気性な主人公を愛の電撃でお仕置き!

多くのマンガやアニメには、「お決まりのシーン」というものがある。

戦隊ヒーローの変身&自己紹介、巨大ロボットの合体、ケンカの後に芽生える友情……。

成人向けのドラマでも、「この紋所が目に入らぬか!」「倍返しだ!」「この家、私が売ります!」など挙げれば切りがない。

読者や視聴者は、毎度のことに飽きるどころか、待ってましたと喜び、ヤンヤの喝采を送る。ちょっと不思議な現象である。

マンガ『うる星やつら』の場合、それはラムちゃんの電撃シーンだ。

女好きの主人公、諸星あたるが女性を見かけて口説こうとすると、鬼型宇宙人のラムちゃんは「この浮気者~!」などと叫んで、指先からバリバリバリーッと電撃を浴びせる。これが幾度も繰り返された。

それも仕方がないのである。ひょんな勘違いから、ラムちゃんはあたるが結婚相手だと思い込んでいるのだから。

それにあたるには、もともと三宅しのぶという彼女もいる。

にもかかわらず、美しい女性を見ると、あたるは迷わず接近を試みる。原作コミック全18巻中、最初の2巻だけでも、巫女(みこ)のサクラ、雪女のおユキ、福の神軍の弁天……などなど、実に14人も!

さらにこの間、あたるはクラス委員長に立候補しているが、公約は「俺が委員長になったら、クラスの女はみんな俺のものっ!」。それ、女子は当然、男子だって絶対投票しないと思うっ!

もちろん、その全てのケースで電撃を食らうわけではないし、別の理由で食らうこともあるのだが、ここまで女好きだと、ラムちゃんの電撃が恒例化するのもナットクである。

だが、いくらお決まりのシーンとはいえ、あたるは大丈夫なのか。戦隊ヒーローの自己紹介や水戸黄門の印籠がダメージに直結することはないが、電撃となると命に関わる。ラムちゃんの電撃は、いったいどれほどのエネルギーを秘めていたのだろう。

ラムの電撃は、愛情表現のときに一番強くなる

マンガを初めから読んでみると、意外や意外。筆者はラムちゃんの電撃について「嫉妬または怒り⇒電撃」というイメージを抱いていたが、これは事実誤認であった。

第1撃は「ダーリン!!」と抱き付きながら放っている。第2撃も同じ(以上第1巻3話)。第3撃は「愛情表現!」と言いながら放っている(同第4話)。あたるは「はぎゃーっ!!」「ぎえーっ」「うぎゃーっ!!」ともん絶するのだが、ラムちゃん本人が言うように、当初は愛情の表れだったわけである。

変化が起きたのは、第1巻5話。当時、あたるは、しのぶと付き合う上で、ラムちゃんを邪魔な存在と考えていた。こっそりしのぶと電話していたら、ラムちゃんが送話口に向かって「ダーリン、もう寝るっちゃ-っ!!」「土曜の夜は子どもを作るっちゃーっ!!」と叫ぶ。

怒ったあたるが「でてけーっ!!」と怒鳴ると、ラムちゃんはあたるに至近距離から電撃を見舞い、泣きながら空のかなたへ飛び去る。なるほど、あたるを愛するあまり、愛が怒りに変わったわけですなあ。

そして、あたるが直接しのぶに会いに行こうとすると、空の上から放たれた電撃がガラガラピシャーンと直撃! あたるは「ギャ~~ッ!!」と叫びながらも「さてはUFOから見張ってやがんな…」と冷静に分析した。

実はこのエピソードで、ラムちゃんの電撃の3つの基本パターンが出そろっている。

(1)接触放電(愛情表現)
(2)近接放電(泣きながら去る直前)
(3)遠隔放電(UFOから)

まず、遠隔放電から見てみよう。電撃の電圧が推定できるからだ。

そもそも、電気は本来、空気中を流れることはない。しかし、非常に高い電圧が掛かると、自然界の雷のように地表にまで届かせることができる。雷は、積乱雲(入道雲、かみなり雲)の雲底から発生し、その高度は地上2000m付近。電圧には大きな幅があるが、標準的なもので1億Vとされる。

一方、あたるが電撃を受けたとき、空は乱層雲(あま雲、ゆき雲)に覆われていた。乱層雲は地上500~2000mにできるから、ラムちゃんが乗ったUFOがいちばん低い乱層雲の中にあったとしても、地上までの距離は500mもある。自然界の雷の標準電圧(1億V)を基準にすると、電撃の電圧は2500万V!

こんなモノを食らって、あたるは大丈夫だったのか!? マンガでは「ラムの仕業」と分析するほどの余裕があったのだが……。

それでも大丈夫(!?)な理由は冬の静電気にあり

これを心配する皆さまと、あたるのために朗報をお伝えしたい。

冬、ドアノブと指の間に、パチッと静電気が飛ぶことがあるが、実はあの静電気の電圧も1000~1万Vなのである。これを受けて、我々はなぜ死なないのか? 理由は2つある。

(1)数千Vの電圧が掛かるのは「指とドアノブの間」であって、体に掛かるわけではない
(2)放電のエネルギーは「電圧×電荷」に比例し、静電気の電荷は極めて小さい

「電荷」とは聞き慣れない言葉だが、「電気の量」のことで、単位は「C(クーロン)」。1A(アンペア)の電流が1秒間流れたときに移動する電荷が1Cだ。

電撃のダメージの目安として、よく電圧が問題になるが、残念ながら、ドアノブと指の間に掛かる電圧から、体に掛かる電圧を求めることはできない。ただし、指が受ける放電のエネルギーは概算できる。

例えば、指とドアノブ間の電圧が5000Vのとき、人体にたまる電荷は100万分の1Cほど。静電気のエネルギーは次の式で求められる。

静電気のエネルギー[J]=1/2×電圧[V]×電荷[C]

このケースでは。1/2×5000[V]×100万分の1[C]=0.0025[J]。1円玉(1g)が25cmの高さから落ちるのと同じというわずかなエネルギーだ。それでも指先のほぼ1点に集中するので、神経を刺激して激痛が走る。

では、あたるの場合はどうなのか。雷の電流は1000~20万Aで、流れる時間は0.00008秒と言われる。ラムちゃんの電撃の電流が最も低い1000Aだとしても、移動する電荷は0.08C。

これで電圧が2500万Vなら、エネルギーは1/2×2500万[V]×0.08[C]=100万[J]。これを力学的な現象に置き換えると、車重1tの乗用車が高度100mから落ちるのと同じ!

実際には、発生する熱で、あたるの体内の水分が加熱されるだろう。彼の体重を65kgとすると、体内に含まれる39kgの水(体重の60%)の温度が、平均6.1℃上昇する。もちろんこれは大変なことだが、それも平均の話で、電気の流れやすい箇所では沸騰が起きるかも。とても「ギャ~~ッ!!」で済むような事態ではない。

2500万Vの接触放電

遠隔放電でこの惨事。近接放電だとさらに事態は悪化するとみられるが、最もヒドイことになるのは、言うまでもなく「接触放電」である。ラムちゃんが本気を出せば、全身に2500万Vがモロに掛かる!

しかも、遠隔放電が一瞬の出来事なのに対し、前述した愛の接触放電では、ラムちゃんはかなり長い時間にわたって放電している。放電音は3回とも「バリバリバリ」。これは、どう見ても1秒は放電しているのでは!?

すると、移動した電荷がモノスゴイことになるだろう。その具体的な大きさは電流によって決まり、これはオームの法則「電流[A]=電圧[V]÷電気抵抗[Ω]」から求められる。

人体の電気抵抗は、体が乾いている状態で5000Ω前後、ぬれているとその10分の1といわれる。だが、それも電圧が数百Vレベルまでの話で、1000Vを超えると、一気に20分の1になる。すると、あたるの体が乾いていても、2500万Vに対しては250Ω。電流は2500万V÷250Ω=10万A!

一般家庭の契約アンペア数は30~50Aで、最大でそれだけの電流が使えるということだ。あたるの体に流れる電流は、一般家庭2000~3333世帯が電気をフル稼働させたのと同じ!

人体に0.1Aの直流電流が流れると命が危ない(交流電流は0.02A)といわれるから、あたるの体には、致死量の100万倍の電流が流れることになる。それでも死なないとは大変なことで、青酸カリ(成人の致死量0.2g)を200kg飲んでも平気みたいなもの。人知を超え過ぎた耐電体質!

だが、いくら電気に強くても、発生するエネルギーはどうしようもないだろう。10万Aが1秒流れたら、10万Cもの電荷が移動することになる。

世界は広く、人類の歴史は長いといえども、単位[C]に「10万」をつけたのは、恐らく本稿が初であろう。[C]というのは非常に大きな単位で、積乱雲にたまる電荷でさえ、20Cなのだから!

2500万V、10万Cとなると、発生するエネルギーは1兆2500億J。直径1.2m、重量2.8tの隕石が秒速30km(隕石の標準速度)で地球に落ちてきたときと同じ! 全身の水分39kgが、わずか0.000001秒で沸騰した上に蒸発! 水は100℃で蒸発すると体積が1700倍に膨張するから、体は大爆発!

でも、それも常人だったらの話。あたるは、これを何度受けようと、次のコマでは立ち直るのだから、ラムちゃんが鬼型宇宙人であるように、このヒトも宇宙人なのかもしれない。

自分を心から愛してくれるグラマーでかわいい女の子。多くの少年たちの夢である。だが、その幸福に安住せず、飽くなき浮気に励んでは、常人なら爆殺されるようなお仕置きを食らう。それがお決まりのシーンとなるほど繰り返されても、自分の生きざまを曲げない主人公。その営みが浮気でさえなければ、全世界が惜しみない拍手を送るだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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