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世界初! JAXAと日立造船が宇宙で全固体リチウムイオン電池の充放電に成功

宇宙空間で安定的なエネルギー取得に前進

従来のリチウムイオン電池に代わる次世代電池として期待される全固体リチウムイオン電池。現在盛んに研究が進む中、世界で初めて宇宙での充放電に日本の研究グループが成功した。今後の宇宙開発にも大いに影響を与える最新研究の詳細をお届けする。

過酷な宇宙空間でも利用できる全固体リチウムイオン電池

本格的な宇宙時代の幕開けともいわれる21世紀──。

現在、米国では再び人類を月に送り出すべく米航空宇宙局(NASA)主導の下、関係各国と共に新たな月探査計画「アルテミス」をスタート。その最初のミッションとなるアルテミス1号の打ち上げが間もなく行われる予定だ(※10月現在、11月中の打ち上げを目指すとされている)。

今後は宇宙開発競争がさらに激化していくと予想されるが、そのためにも長期にわたって宇宙で活動できる安定した電力が必要になる。

しかし、従来の液体電解質を媒体とするリチウムイオン電池は、温度領域が狭く発火のリスクがあり、真空かつ温度の高低差が激しい過酷な宇宙環境下では使用が困難となっていた。実際のところ、衛星などの設備内部に設置して、温度管理をしながら使用されているのが現状だ。

そのため、真空状態や厳しい高温・低温環境においても使用できる上、コンパクト化も期待できる全固体リチウムイオン電池の実現が求められているのだ。

そうした中、国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と日立造船株式会社が、世界で初めて宇宙で全固体リチウムイオン電池の充放電を確認したと今年8月5日に発表した。

実証実験の際に本電池の電力を使って撮影された画像

なお、今回の成果は、宇宙探査イノベーションハブの研究提案公募の枠組みの下、2016年から全固体リチウムイオン電池の共同開発を行ってきた両者が、2021年2月に締結した「宇宙での全固体リチウムイオン電池の実用化に向けた実証実験に関する共同研究」契約によるものだ。

設備の小型化や省エネ化への期待大

今年2月には、国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げた全固体リチウム電池軌道上実証装置(Space As-Lib)において実証実験を敢行。ISSにある日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置される中型曝露(ばくろ)実験アダプタ(i-SEEP)上の「船外小型ペイロード支援装置(SPySE)」に取り付けて行われた。

Space As-Lib(左)とその構成図(中)。実証実験で使用する全固体リチウムイオン電池は縦65×横52×厚さ2.7(各mm)、重量25g。セル(右)1つ当たりの容量は140mAhで、15セルを並列接続することで約2.1Ahの電源として使用できる

使用されたのは、日立造船が2016年に開発したものをベースにJAXAと日立造船が共同開発した全固体リチウムイオン電池で、-40℃から120℃という広い温度範囲で使用可能な上、破裂発火のリスクが極めて低く、揮発(きはつ)成分を極小化した電池構成により真空下でも大きく膨張しないといった特長がある。

i-SEEP/SPySEの外観と全個体リチウムイオン電池の設置場所を示した図

今回の成功を受けて、「実験に用いた全固体リチウムイオン電池は、温度差が激しく、真空かつ放射線にさらされる宇宙環境で利用する設備の小型・軽量化、低消費電力化への寄与が可能です。また、有機電解液のリチウムイオン電池では難しかった省スペース化が求められる小型機器への適用や、船外実験装置などで使用できるようになります」と期待を寄せる両者。

今後は宇宙環境下における同電池の特性などを評価する次のステップとして、基本的充放電特性データと宇宙環境曝露(ばくろ)部特有の条件(真空、放射線、微小重力など)による容量劣化推移の評価に必要なデータの取得を計画している。

将来的には、月面に設置する観測機器や小型ローバ(探査車)、大容量化の実現後は大型ローバといった宇宙機での活用が期待されている全固体リチウムイオン電池。

さらなる宇宙開発の促進に向けて、研究開発の発展に期待したい。

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