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空想未来研究所2.0

ティラノサウルスを捕食する最古の人類・ピクルのエネルギー!/範馬刃牙

『範馬刃牙』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「動作」。30年以上にわたって連載が続き、今なおアニメ化などで人気を博する「刃牙」シリーズ(1991年~)。その第3部『範馬刃牙』で読者を驚かせたキャラクター・ピクルの人間離れした動きをエネルギーの観点から考察しました。

1億9000万年前の最強人類

『グラップラー刃牙』に始まる「刃牙」シリーズには、恐るべき男たちが多数登場する。

トランプ52枚を重ねたまま、指の形にちぎり取る花山薫! 前日まで死闘を繰り広げていた大男を背負い、川の水面を走って渡る烈海王! 至近距離から散弾銃で撃たれても、筋肉の力で弾丸を押し出すビスケット・オリバ!

そして、「地上最強の生物」と恐れられ、推定体重1600tのアフリカゾウを倒し、米軍1個歩兵旅団を壊滅させ、アメリカ合衆国が個人を相手に友好条約を締結した範馬勇次郎!

父である勇次郎に強さを認めさせるために、身長167cm、体重71kgという小さな体で、17歳にして地下格闘技のチャンピオンになった範馬刃牙!

この大好きなシリーズの第3部『範馬刃牙』に、万人の世界認識を根底から覆す男が登場する。1億9000万年前に形成された岩塩層で発見され、よみがえったピクル! 作中でも言及されていたように、人類の誕生は700万年前なのに! しかも、胃の内容物の成分は、一緒に発掘されたティラノサウルスの筋肉と一致した。このジュラ紀の人類は、ティラノサウルスを捕食していたらしい!

ピクルの肉体は、岩塩の中で生きていたときのまま保存されていた。あらゆる手を尽くしたが、91日たっても眠ったままだった。ところが、不真面目な研究員が、あろうことかティラノサウルスの肉をステーキにして食べていたところ、その匂いで目覚めたのである!

いくら塩漬けになっていたとはいえ、人体が1憶9000万年も保存されるのか? 完全に保存されていたとしても、何らかの刺激を与えれば、よみがえるのか? これらの問題に文字数を費やすことは、読者の皆さんの望むところではないだろう。ピクルが1億9000万年の眠りから目覚めたのは、マンガ内の厳然たる事実なのだから! 

この男の強さをエネルギーの観点から明らかにすることこそが、筆者の使命だと信じるッッッ!

ピストル並みの速さで弾丸を投げるピクルのエネルギー

目覚めたピクルは、いきなり驚異の身体能力を見せた。前述のふらちな研究員が、ピクルを恐れて至近距離から腹部にピストルを3発撃ち込むが、その強靭な腹筋は貫けなかった。ピクルが3発の弾丸をまとめて投げると、1発は研究員の肩を、2発は壁を撃ち抜いた!

これは、ピクルがピストルの弾丸3発を、まさにピストルの弾丸並みの速さで投げたということだろう。どんな力やエネルギーを発揮すれば、こういうことができるのか。

ピストルの弾丸は、標準的なもので重さが10g、初速が秒速400m。3発合わせても30gだが、軽いから速く投げられるというものではない。弾丸を秒速400mで投げるには、手を秒速400mで動かさねばならず、それにこそエネルギーが必要なのだ。こちらに比べれば、弾丸の重さやエネルギーは無視できるレベルだ。

野球のピッチャーは肘や手首を柔らかく使って、腕の力とエネルギーを効率よくボールに伝えるが、そこまで計算するのは、筆者の能力を超える。最も単純に、腕を曲がらない棒と見なし、肩を中心に180度回転させる場合で計算すると、必要な力とエネルギーは、次の式で求められる。

エネルギー=1/6×腕の質量×手の速度2
手が出した力=エネルギー÷円周率÷腕の長さ÷重力加速度

重力加速度とは、重力の強さを表す数値で、地球の場合は9.8[m/秒2]。これで割ることによって、力を[kg重]、日常生活では[kg]と略される単位で出すことができる。

また、物を投げるには肩の力を使うが、回転運動ではテコの原理が働くため、回転の中心に近い肩の力を求めると、想像を超えて大きな数値になる。ここでは実感しやすさを優先して、手の位置で出した力に置き換えさせていただきたい。

ピクルは身長2m、体重200kg。横たわったシーンで測定すると、腕の長さは90cmである。人間の片腕の重さは、体重の5%を占めるが、その筋肉量から考えて、ピクルの場合は、その1.5倍の7.5%はあるだろう。すると、片腕の重さは15kgとなる。

ここから、発揮したエネルギーを計算すると、1/6×15×4002=40万J。

車重1tの乗用車が、時速102kmでぶつかるのと同じである! 何と、ピクルに投球動作で引っぱたかれたら、スピード違反の車にハネられたのと同じダメージを受けるということだ!

手が出した力は、40万÷3.14÷0.9÷9.8=14400kg=14.4t!

中型の路線バス(10t前後)を片手で持ち上げる! ジュラ紀の力とエネルギー、恐るべし!

音速を超えるピクルの突進エネルギー

このピクルに、烈海王が挑んだ。場所は東京ドームの下にある地下闘技場、刃牙がチャンピオンに輝いた場所である。

烈海王は、4000年の歴史を持つ中国拳法で、ピクルの頭部に6連撃を見舞い、脳を揺らしにかかる。さらに、右足の指でピクルの髪をつかみ、かかと落としの要領で相手の頭を引きずり下ろし、左足で顔面に膝蹴りを見舞うという身の毛もよだつ技を見せたが、ピクルの脳は全くダメージを受けない。ピクルの頸椎が、水牛並みに太かったからだ!

だが、ピクルは烈海王を「強敵」と認め、反撃に出る。両手両足を地面に着け、短距離走のクラウチングスタートや、相撲の立ち合いよりさらに低く構えるピクル。まさに、ライオンが獲物に跳びかかる直前のように!

ここから猛然と突進。烈海王は崩拳(中段突き)で迎え討ったが、はじき飛ばされ、闘技場を囲む分厚い板壁をバカッと突き破り、一直線に飛ばされて、通路の奥のコンクリートの壁にドギャと激突し、これをも大きく破壊した!

詳細は省くが、板壁を突き破ったエネルギーは36万J、コンクリートの壁を破壊したエネルギーは21万J。合わせて57万Jである。しかし、筆者が戦慄したのは、これらの破壊ではない。板壁から通路の壁までの目測30mを、一直線に飛んだことだ!

もちろん、地球には重力があるから、どんな高速で飛んでも、本当に一直線に飛ぶことはなく、その間に少しは落下する。このケースでは、落下高度はせいぜい10cmではないか。ここから、飛んでいた時間を求めると、0.143秒である。

速度は30m÷0.143秒=秒速210m=時速756km。

体重106kgの烈海王がこの速度で飛ぶエネルギーとは234万J。板壁やコンクリートの壁など、ほんのついでに破壊できるのだ。

それでも、板壁にぶつかる前は、36万J+234万J=270万Jのエネルギーを持っていたことになる。飛ばされた速度は秒速226m=時速812kmだ!

すると、ピクルが発揮したエネルギーは270万Jかというと、そうではない。衝突において保存する(一定に保たれる)のは、エネルギーではなく「運動量=質量×速度」だからだ。

衝突後の一瞬、ピクルと烈海王の速度は一致していたはずである。ピクルの体重が200kg、烈海王の体重が106kgだったことを思い出すと、運動量保存の式はこうなる。

200kg×ピクルの速度=(200kg+106kg)×秒速226m

ここからピクルの速度は、306kg×秒速226m÷200kg=秒速345m=時速1243km。わあっ、音速(気温15℃のとき秒速340m)を超えたあ!

このときピクルが発揮したエネルギーは1/2×体重×速度2=1190万J。弾丸投げ(40万J)を大きく超えたが、当然だろう。あの科学者の風上にも置けないヤツが、ピクルにとって「強敵」であるはずがない。

約3億超のエネルギーを発するピクルの脚力

その後も、強者たちがピクルに挑戦する。彼が最大のエネルギーを発揮したと思われるのは、刃牙の異母兄ジャック・ハンマーとの戦いである。

ジャックは、激烈な痛みを伴う「骨延長」によって、身長を193cmから213cmに伸ばし、戦いの前には薬物を大量に摂取するという恐ろしい男だ。そのアッパーは、200kgのピクルを2mほど浮かせた!

ところが、ジャックの攻撃でピクルの心に憎悪が湧いたとき、異変が起きた。ジャックのパンチやキックが空を切るのである。ピクルはその場から一歩も動いていないのに!? ギリギリでかわすなどという技術を持っているとは思えないのに!?

空振りを続けながら、ジャックは2つの事実に気付く。自分が攻撃したとき、「バアン」という不可解な音がする。そして、大量の砂ぼこりが立つ……。

やがて謎は解けた。ピクルは、ジャックの攻撃を後ろへ跳んでかわし、10m後方の板壁をバアンと蹴って、元の位置へ戻っていたのである! マジですか~!?

ジャックの体重は160kg。この体から放たれ、体重200kgのピクルを2m浮かせるパンチの速度とは、秒速137m=時速492kmである。静止していた拳が、80cm動いてこの速度に達するまでの時間は0.0117秒。

このまばたきする間(0.1秒といわれる)よりはるかに短い一瞬に、ピクルは後方10mまで往復したのだ。その速度は、秒速1710m=時速6150㎞=マッハ5.02!

エネルギーは2億9200万J。激突した場合の破壊力は、ライフル弾12万発分! これなら、太古の昔、ティラノサウルスを倒しても不思議はない!

1億9000万年前、恐竜を捕食する人類がいた。それが現代によみがえり、ひたすら強さを求める者たちが、衝動のままに立ち向かっていくが、ことごとくはね返される。ならばと科学で立ち向かうと、その強さに何の誇張もなかったことが、まざまざと浮かび上がってくる。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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