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パンチだけではない!“マジシリーズ”のエネルギー/ワンパンマン

『ワンパンマン』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「ワンパンマン」。圧倒的な強さと飄々としたキャラクターで異彩を放つヒーローマンガ『ワンパンマン』から、主人公・サイタマが放った技をエネルギーの観点から考察しました。

ワンパンチで戦いを終えるヒーロー

強大な敵が出現! 主人公は苦しみながらも何とか勝利を収め、地球に平和が訪れる……というのが、ヒーローマンガの王道である。ところが『ワンパンマン』は全く違う。それがよく表れていたのが、1撃目(第1話)だ。

身長50mはあろうかという巨人が出現。破壊の限りを尽くし、逃げ遅れた少女を、事もあろうに握りつぶそうとする。そこへマントを羽織った男が現れ、少女を救う。巨人が「何者だ お前は」と問うと、男は飄然と「趣味でヒーローをやっている者だ」。これぞ我らの主人公、サイタマである。

巨人は怒り心頭。「私は人間どもが環境汚染を繰り返すことによって生まれたワクチンマンだ。地球は一個の生命体である――」と長口上を述べていると、サイタマは話も聞かず、表情も変えずにワンパンチ。ワクチンマンは断末魔の声を上げ、その体はバラバラに飛び散るのだった……。

これがサイタマの戦い方なのである。どんなに強そうな敵が出てきても、その主張に理があろうとなかろうと、ほとんど興味を示さずにワンパンチ。これであっさり勝ってしまうのだ。あまりにも簡単に勝てるので、本人も、戦いに恐怖も喜びも緊張も怒りも感じないという。「力と引き換えにヒトとして大切な何かを失ってしまったのだろうか?」と悩む日々……。

非常に変わったヒーローマンガだが、作品としても珍しい形になっている。

元々『ワンパンマン』は、マンガ家デビューしていなかったONEさんが、2009年からネット上で公開していたマンガだ。それを読んでいた人気マンガ家の村田雄介先生が声をかけ、村田先生の絵による連載が「原作 ONE/漫画 村田雄介」として「となりのヤングジャンプ」(集英社)で2012年にスタートした。ストーリーもキャラクターもほぼ同じなのだが、ONEさん自筆のマンガも終わったわけではなく、現在、2つの『ワンパンマン』が描き続けられている。

ここでは、村田先生版を基に、サイタマの強さに、エネルギーの観点から注目してみよう。

パンチで相対性理論

3撃目、超巨大なマルゴリが出現。公式ファンブック『ONEPUNCH-MAN ヒーロー大全』(集英社)によれば、その身長たるや270m!

元々世界で一番強い男を目指していたマルゴリは、兄が開発した究極のステロイド剤を飲んで、この姿になった。元の体格は身長180cm、体重90kgほどに見える。これが身長270m=150倍になると、体重は「150の3乗」倍で、30万3750t! 高さ300mのあべのハルカスが総重量28万5000tだから、それより重い!

このマルゴリに対し、サイタマは地面を蹴って一直線に跳び、左頬に右ストレートをぶち込んで、あおむけにぶっ倒した!

人間があおむけにぶっ倒れるとしたら、例えば同じ体格の人間に全力で殴られた場合だろう。このように「相手にどんな運動をさせるか」は、エネルギーではなく「運動量=質量×速度」で決まる。

ボクサーのストレートは時速40kmほど。元々マルゴリがプロボクサー並みの時速40kmのパンチを打てたとしよう。筆者の研究によれば、巨大化すると、体を動かすスピードは身長の平方根に比例する。

身長が150倍になったマルゴリの場合、パンチの速度は12.2倍で時速488km=秒速136mだ。また、パンチの運動量は、体重の6%の質量のものが、パンチと同じ速度でぶつかったときと同じになる。マルゴリの場合、体重の6%とは、1万8225tだ。

一方、サイタマのようにジャンプしてパンチを打つ場合、その運動量は全体重から生まれると考えられる。サイタマの体重は70kg。これがぶつかることによって、「1万8225tの物体が秒速136mでぶつかるのと同じ運動量」を持つための速度とは、秒速3万5200km。光速の11.7%である!

この速度になると、エネルギーの計算には特殊相対性理論を使う必要がある。

運動エネルギー=質量×光速2×{1/√(1-光速比2)-1}
★「光速比」とは柳田の造語で「速度÷光速」のこと。

結果だけを示すと、4京3900兆J(ジュール)。日本全国の発電所(1億kW)が5日かけて生み出すエネルギーと同じである。

それにも驚くが、人間大のヒーローがパンチしているだけなのに、特殊相対性理論! サイタマのすごさがまざまざと伝わってくる。

月まで蹴っ飛ばされたサイタマ!

35撃目、宇宙人ボロスとの戦いはすさまじかった。

ボロスは、体内エネルギーの放出を推進力として、生物の限界を超えた速度とパワーを出す「メテオリックバースト」で、サイタマに膝蹴りを見舞い、なんと月面まで飛ばした!

サイタマは、蹴られた直後に月面にぶつかったような印象だが、地表から月面までは37万6000kmで、光でさえも1.26秒かかる。何物も光の速さは超えられないから、ここではサイタマが1.3秒で月にたたきつけられたと考えよう。その場合、サイタマは光速の96.5%で飛ばされたことになる。ボロスの脚が放ったエネルギーは2420京J。全国の発電所7年8カ月分!

だが、サイタマは死ななかったどころか、月面を蹴って、地球に戻ってきた! その時間も1.3秒だとすると、サイタマの脚も2420京Jを放ったことに! ここまでは互角である。

ボロスはビーム技・崩星咆哮砲(ほうせいほうこうほう)を出す。これをサイタマは、必殺“マジシリーズ”マジ殴りで迎え撃つ! 見開き5連続で描かれたすさまじいエネルギーのぶつかり合いが鎮まると、宇宙からのアングルに変わる。マジ殴りで発生したとみられる爆風が、崩星咆哮砲を弾き飛ばした上に、中心角30度の扇形に広がり、そこにあった雲を、日本から米国あたりまでキレイに吹き飛ばしていた!

日本から米国西海岸まで8000km。これが10秒間の出来事だったとすると、爆風の風速は平均で800km/秒。この爆風を上記の領域に起こすためのエネルギーとは、1.07×1028J。日本の伝統的な表記法では、1穣(じょう)700秭(じょ)J。全国の発電所34億年分!

サイタマと同じ体重70kgのボクサーのストレートのエネルギーは300J。サイタマのパンチは、その36秭倍も強い! 筆者が計算した限り、これがサイタマの放ったエネルギーの最大値である。

ワンパンマン“マジシリーズ”の威力を見よ

その後もサイタマは“マジシリーズ”で、驚異の現象を起こしていく。

44撃目、サイタマの前に「音速のソニック」が現れる。動きが速過ぎて、普通のヒーローには姿が見えないが、サイタマは軽くあしらう。ソニックは、特殊な歩行技術と超高速な身のこなしによって残像を発生される「究極奥義 十影葬」で10体に分身!

これにサイタマは「必殺“マジシリーズ”マジ反復横跳び」で、無数に分身! ソニックは倒れ「な 何をし……がはっ」と問う。サイタマが「反復横跳びしながら通り過ぎただけだ」とぶっきらぼうに答えると、ソニックは「衝撃波だけでこの威力か」と独白して失神した。

反復横跳びとは、1m間隔で引かれた3本の線を、真ん中→右→真ん中→左→真ん中……と繰り返しまたぐ運動だ。体力テストでは「真ん中→右」などを「1回」と数え、20秒間に何回できるかを計る。サイタマと同じ年代の25~29歳男性の平均は54.60回だ(スポーツ庁統計「体力・運動能力調査2022年度」より)。

もちろん、マジ反復横跳びはそんなレベルではない。コマに描かれたサイタマの丸い頭を数えると63個。これは、ソニックと同じく「残像」によるものだろう。反復横跳びでは、右や左で折り返すときは一瞬静止するから、それが残像になったと思われる。

人間の網膜に残像が残る時間は0.1秒といわれるから、サイタマは0.1秒間に63回折り返したことになる。体力テストと同じ20秒続けたら、1万2600回の折り返し。反復横跳びの記録としては2万5200回!

マンガの描写から、サイタマが動いた距離は片道3mほどと思われる。すると0.1秒間に63回折り返すから、スピードは3m×63÷0.1秒=秒速1890m=マッハ5.6!
 
物体が空気中を超音速で運動すると、衝撃波が発生する。サイタマが、ソニックから1mの距離をマッハ5.6で通過したとすると、ソニックが受ける衝撃波の衝撃は940kg。体重をはるかに上回るから、ぶっ飛ばされたのも当然だった。

さらにすごかったのは、マジ水鉄砲。115撃目に、怪人王オロチとの戦いで放たれた。

オロチは、サイタマを地下深くにおびき寄せる。そこには、超古代の神殿があり、周囲にはマグマが池のようにたまっていた!

オロチが、「神になるためにサイタマを生贄にする」と告げると、サイタマは「……マジか……ッッ!!」「ウッソだろォオオオオオ」と声を上げる。

衝撃を受けているのかと思いきや(そんなわけはないのだが)、マグマに風呂のように漬かって、熱さをガマンしていただけ。やがて「あ 慣れた」と快適そうな表情になる。マグマの温度は800~1200℃。どうなっているのか、このヒトのカラダは。

オロチも驚いて全力での攻撃を決意。地震や噴火を起こしながら地球の中心部からエネルギーをくみ上げて、燃え盛るガイア砲を放つ……!

これにサイタマは、マグマに漬かったまま「マジ水鉄砲」を放つ。その手からは猛烈な勢いでマグマが噴出し、簡単にガイア砲を弾き飛ばした。

手による水鉄砲のやり方は、主に2種類がある。①両手を水面に漬けたまま、親指の側から真上に飛ばす。②両手を水面から上げて、小指の側から水平に発射する。

サイタマがやったのは後者で、手のひらにためたマグマを飛ばしたことになる。筆者が水を使って手のひらにためられる体積を量ると40mLであった。

ところが、サイタマの手から放たれたマグマは、円すい形の巨大な奔流となって飛んだ。計測すると、手元から先端までの「円錐の高さ」は22.5m。円すいの底面は直径4m。体積を計算すると94.2㎥だ。前述した40mLの236万倍である。なぜこんなことが起きる!?

小4理科で「空気は縮むが、水は縮まない」と習うが、液体も強い力をかければ、わずかに縮む。例えば直径10cmの円筒に深さ1mまで水を入れて、1.8tの力をかければ1mm縮むのだ。ここから考えれば、サイタマも猛烈な力でマグマを圧縮したのだろう。

だが、その圧縮率は236万分の1! マグマの体積弾性率(縮みやすさ)が水と同じだとすれば、これに必要な力は12億5000万t! エネルギーは4000億J! 打ち出したマグマの速度はマッハ5.2! なるほど、たいていの攻撃は跳ね返せるだろう。

ちなみに、驚くのは、サイタマがこれほどまでに強くなった理由である。本人によれば、「腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、ランニング10km」を3年間毎日やった結果だという。これをやったら、36秭倍も強くなれるの!?

サイタマが毎日一定の割合で強くなったとしよう。3年とは1095日。ここで驚きの事実を明かそう。

1.0552113……1095≒3.6×1025=36秭

つまり、1日に5.5%+αずつ強くなれば、3年で36秭倍に強くなれるのだ! 上のトレーニングによって、それだけ強くなれるかどうかは別にして、日々の鍛錬を積み重ねることが、いかに実り豊かなのかを実感させてくれる。

あまりに強過ぎて、戦いが盛り上がらず、自らの達成感も得られないヒーロー。だが、いざ真剣になれば、笑ってしまうしかない強さを見せつける。それでも本人は涼しい顔。これほどの超人でありながら、強さの秘密は日々の鍛錬にあることが、読者に親近感さえ湧かせる。人間の想像力は本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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