1. TOP
  2. 空想未来研究所2.0
  3. 時速3000km超の蹴りを放つ巨人のエネルギー/進撃の巨人
空想未来研究所2.0

時速3000km超の蹴りを放つ巨人のエネルギー/進撃の巨人

『進撃の巨人』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるテーマは「巨人」。昨年放送されたアニメ完結編が多くのファンをうならせた『進撃の巨人』(2009~2021年)。物語に登場する数々の巨人たちが見せた動きをエネルギーの観点から考察しました。

驚きの展開を見せた『進撃の巨人』

2021年に完結した『進撃の巨人』は、今思い起こしてもすごいマンガだった。

100年前に出現し、ひたすら人間を食らう謎の生物・巨人。身長3~15mという圧倒的な巨体故、捕まったが最期、なすすべもなく食われる。骨をかみ砕くパキパキという乾いた音には、人間の無力さを痛感させられる。

人類は高さ50mに及ぶ三重の壁を築き、王城を守る憲兵団、壁を守る駐屯兵団、巨人の生態を探る調査兵団を組織して、壁の内側にこもって生き永らえてきた。

だが、ある日、身長60mというとてつもない巨人が現れ、壁を蹴り破る。そこからなだれ込んだ大小の巨人が、人間を食い散らし始める……。物語はここから始まる。

巨人は謎に包まれていた。多くの巨人たちは人間を食うことにしか興味を示さず、知性らしきものは全く見られない。だが、中には特異な者たちもいる。前述の超大型巨人、体を硬質化させた鎧(よろい)の巨人、格闘能力に優れた女型の巨人、明確に言葉を話し、投てき能力に秀でた獣の巨人。そして主人公のエレン・イェーガーが巨人化した巨人。そして、これらの巨人たちは、エレンの巨人のように、人間が巨人化したものであり、ある目的のために行動していることが、徐々に明らかになっていく……。

ところが、物語の中盤で、この世界観が根底からひっくり返る。人類が世界の全てだと思ってきた壁内の都市は、大陸の北に位置する島にあった! 大陸にはマーレという国家があり、世界の国々と国際社会を築いていた! つまり、壁内は、世界のほんのごく一部! 特異に見えた巨人こそが、代々能力を受け継いできた正当な巨人であり、通常の巨人たちは「無垢(むく)の巨人」と呼ばれ、マーレに反逆した者たちが巨人の骨髄液を注射されて巨人となったもの! そして、エレンが変身する巨人の名は「進撃の巨人」。なんと、マンガのタイトルは、「巨人が攻めてくる」という世界観を表すのではなく、主人公が変身する巨人の名前だったのだ!

この驚天動地の大どんでん返しに、しばらくぼうぜんとした後、気が付けば拍手していたのを思い出す。その感動のままに、考えたい。巨人たちは、あの巨体で、いったいどれほどのエネルギーを発揮していたのか。

超大型巨人が放った蹴りのエネルギー

超大型巨人が初めて人類の前に姿を現したのは、エレンがまだ幼かった劇中暦845年。蹴破ったのは、一番外側のウォール・マリアの南から半円状に突出したシガンシナ区の壁である。

これで飛び散った破片は、市街地に降り注ぎ、建物を破壊するなど、甚大な被害をもたらした。エレンの母も、これで家の下敷きになり、逃げられずにいるところを巨人に食われた……!

エレンの悲しみに、胸ふさがる思いだが、このシーンで超大型巨人が放ったエネルギーを考えてみよう。

マンガの描写から、壁の厚さは10mほどと見られる。これと比較すると、蹴破った穴の幅は10m、高さは12m。標準的な岩石の密度(2.7kg/L)から計算すれば、破壊した石材の重さは3400tである。超大型巨人は、これを破壊した上に、破片を遠くへ飛ばしたわけである。

岩石1tを破壊するには、10万Jのエネルギーが必要だが、破片を飛ばすにも、やはりエネルギーが必要だ。物体を飛ばすとき、最も飛距離が出るのは仰角(地面からの角度)が45度のときで、これに必要なエネルギーは次の式で求められる。

エネルギー=1/2×質量×重力加速度×飛距離

重力加速度とは重力の強さを表す数値で、地球の場合は9.8[m/秒2]である。

破片はシガンシナ区の各所に降り注いだ印象なので、破片の飛距離を平均500mとしよう。すると、1t当たりのエネルギーは、

1/2×1000[kg]×9.8[m/秒2]×500[m]=245万[J]

なんと、超大型巨人の「蹴撃」の恐ろしさは、壁の破壊(1t当たり10万J)より、破片を飛ばしたことにあった!

破壊するエネルギーと合わせて1t当たり255万J。3400tで86億7000万J 。TNT爆薬に換算して2.2t分である。身長60mもの巨体なら、これほどのネルギーを発揮できるのか。

それは体重にもよる。超大型巨人は、その巨体にしては頭部が小さいが、全体のボリューム感としては、身長180cmの人間なら、体重80kgほどありそうな体格だ。この体形の男性を身長60mに相似拡大すると、体重は3000tになる。

ただし、巨人の生態を研究し、それ故に筆者が最も親近感を抱くハンジ・ゾエ分隊長が、コミックス5巻でこう言っている。

「切断した3m級の生首を蹴っ飛ばした時だった 軽かったんだ 異様に 巨人の体が」

感覚的な表現なので事実は分からないが、「異様に」という言葉の語感から、ここでは巨人の体の密度が人体の5分の1だと仮定しよう。それでも超大型巨人の体重は600t。アフリカゾウ(大型のオスで7.5t)の80倍という巨体だ。

人間が蹴りで発揮するエネルギーは、体重の4%の物体が足の先端と同じ速度で衝突した場合に等しい。体重600tの4%とは24t。大型観光バスなど、特別な許可なしに公道を走れる車両の上限(25t)に近い。これが激突して86億7000万Jのエネルギーを放つ速度とは、秒速850m=時速3060km=マッハ2.5! なんと、ジェット戦闘機の最高速度に等しい!

超巨体から放たれる超音速の蹴り。もし、ハンジ分隊長が分析&計算していたら、背筋が凍り付いたことだろう。

鎧の巨人が見せたショルダータックルのエネルギー

だが、これでは終わらなかった。前述したように、超大型巨人が蹴破ったのは、ウォール・マリアの南から突出したシガンシナ区の壁。ウォール・マリアの内側との間には、石の扉がある。ここを死守すれば、被害をシガンシナ区だけにとどめて、壁の内側を守ることが可能だった。ところが、その扉を硬質化した鎧の巨人が、ショルダータックルで破ってしまったのだ! 

このとき鎧の巨人が発揮したエネルギーはどれほどか。

この巨人が破った石の扉は、壁よりはるかに薄く、マンガでは厚さ50cmほどに見える。一方、破った穴のサイズは超大型巨人が開けた穴より大きく、鎧の巨人の身長15mと比べると直径20mほど。破壊した岩石は424tで、必要なエネルギーは4240万Jだ。

ただし、鎧の巨人は、壁を破った後もスピードをほとんど落とさず、停止するまでにかなりの距離を走っている。これも仮定するしかないが、激突によって速度が90%に落ちたとすると、エネルギーは0.9×0.9=0.81=81%に減少する。

これは、突進のエネルギーの19%で壁を破壊したということで、それが4240万Jなら、突進のエネルギーは2億2300万Jだ。

鎧の巨人は筋骨隆々で、身長180cmなら体重100kgはありそうな体型だ。超大型巨人の場合と同様の計算をすると、体重は12tとなる。これが突進して2億2300万Jになる速度とは、秒速196m=時速707km!

超大型巨人と比べると、速度の値は小さいが、走ってこのスピードというのは恐ろしい。調査兵団は、巨人への接近および退避に馬を駆っていた。マンガの「現在公開可能な情報10」によれば、調査兵団の馬のトップスピードは、時速75~80km。鎧の巨人に追いかけられたら、アッという間に追いつかれる! 

こうして人類は、ウォール・マリアを放棄して、1つ内側のウォール・ローゼにまで後退しなければならなくなったのである。

巨岩を運んだ進撃の巨人のエネルギー

その5年後の劇中暦850年、再び超大型巨人が現れ、ウォール・ローゼの南から突出したトロスト区の壁が破られる。これ以上の後退は、なんとしても避けたい!

だが、5年の歳月を経て、エレンは幼なじみのミカサ・アッカーマンや、アルミン・アルレルトと共に、調査兵団の兵士となっていた。そして、巨人たちとの戦いを経て、自らも巨人となれることを知った!

初めは力をコントロールできずにいたが、ついにその力を人類のために役立てるときが来る。調査兵団の若い兵士たちが、無垢の巨人たちを必死に食い止める中、巨大な岩を担いで運び、壁の穴をふさいだのだ! その後、無垢の巨人たちは、急きょ駆け付けた調査兵団の本隊と駐屯兵団工兵部によって殲滅された。

しかし、その岩の大きさが半端ではない。直径が身長の7割ほどもある! 巨人となり、岩に近づくエレンを見て、ミカサは独白する。

「人間の比率で考えれば あの岩を持ち上げられるとは思えないけど…きっとエレンには私達を導く強い力がある」

前半の感想は、当然だろう。エレンの設定と同じ身長170cmの人間にとって、その7割とは1.2m 。重量は2.4t。 そんな岩を持ち上げられる人間は、確かにいない。

だがエレンは、この大岩を両手で支え、肩に載せて運んだ。巨人化したエレンの身長は15mほど。ただし、他の巨人たちよりスリムで、身長170cmなら体重70kgぐらいの体格だ。この場合、巨人エレンの体重は9.6tになる。これに対して、岩の直径は15mの0.7倍で10.5m、重量は1640t。自分の体重の170倍である!

エレンはこの岩を、担ぎ上げた。肩の高さを13mとすると、ここで発揮したエネルギーは2億900万J。

さらに、超大型巨人が開けた穴に全力でたたきつけ、壁に入っていたヒビをさらに増やした。エレンが発揮したエネルギーには、この分も加えるべきだろう。ただし、1640tの岩石は1億6400万Jで破壊される(1t当たり10万J)ので、岩を叩きつけたエネルギーはこれを下回るはずだ。すると、エレンが出したエネルギーは2億900万~3億7300万Jと考えるのが妥当だろう。

おお、超大型巨人の86億7000万Jには及ばないが、鎧の巨人の2億2300万Jは、たぶん上回った!

他の動物を狩ってきた人類が、狩られる側に回される恐怖。それだけでも充分過ぎるほどのインパクトだったのに、その先に、いや根底に、想像を超える物語世界が広がっていた。そのスケールの大きさは、主人公たちの序盤での振る舞いに鮮烈に表れていたと、筆者は感じる。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 空想未来研究所2.0
  3. 時速3000km超の蹴りを放つ巨人のエネルギー/進撃の巨人