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空想未来研究所2.0

王騎、騰、龐煖。武将たちの“強さ”と“速さ”/キングダム

『キングダム』で描かれたエネルギーについて考えてみた

マンガやアニメの世界を研究する空想未来研究所が、今回取り上げるのは『キングダム』。個性豊かな登場人物の中から、王騎将軍と2人の武将にスポットを当てて、彼らの技をエネルギーの観点から考察しました。

舞台は2000年以上前の中国。体力も智謀も人知を超える武将たちが覇を争う。
この壮大な物語が始まったのは2006年。なんと今年は『キングダム』20周年である。

『空想未来研究所2.0』でも遅まきながら2022年に、主人公の信(しん)と親友の漂(ひょう)の身体能力について、熱く研究した。

【2022年6月掲載記事】
剣を振る速さは時速7730km!? 最初からだいぶ強かった信のエネルギー/『キングダム』で描かれたエネルギーについて考察してみた

だが、『キングダム』には、どうしても研究したい英傑がいる。秦の怪鳥・王騎(おうき)将軍だ。

「ンフフフ 相変わらず大雑把な戦いぶりですねェ」などと、余裕たっぷりのおネエ言葉で話すけれど、かつてその名を天下に轟かせた「秦の六将軍」の最後の1人。軍の指揮にも長けているが、個の強さにおいても、他の追随を許さない。「将軍自ら先頭を行くとき 王騎軍は鬼神と化す」といわれている。彼の強さが、全軍を奮い立たせるのだ。

映画では、前作『キングダム 大将軍の帰還』で静かに退場した。今年7月から上映されている『魂の決戦』にも、その影を色濃く残している。今こそ、この偉大な大将軍にスポットを当ててみたい。 そして王騎がいたからこそ、光り輝いた2人の武将にも迫ってみよう。副官の騰(とう)、そして因縁の宿敵・龐煖(ほうけん)である。

王騎将軍はどれだけデカい?

王騎といえば、まずその群を抜く巨躯である。

初めて近くで王騎を見た信は、圧倒されてこう独白した。「なっ…何だ こいつは――!!(中略)強さも怖さも でかすぎて解からねェ!!!」。そのコマでは、王騎の腰から上が、信の身長の3倍ほどにも描かれている! さすがにこれは信の心象風景だったようで、2人が並んだ複数のコマで測定すると、王騎の身長は信の1.5倍ほどである。

とはいえ、身長で1.5倍とは大変な違いだ。当時15~16歳で、それほど大柄ではない信の身長を1m60cmと仮定すると、王騎将軍の身長は2m40cmである!

想像していただきたい。日本家屋の天井の高さは、7尺(2m10cm)から8尺(2m40cm)。天井の高い和室に立ち、頭を天井板にくっつけて、「ンフフフ」と見下ろす大巨漢……それが王騎というヒトなのだ。

体重はどれほどか。身長と比べた体の横幅は、横綱大の里(192cm、184kg)を上回るようにも見えるが、大の里が身長240cmに相似拡大したときと同じだとしよう。拡大率は240÷192=1.25倍。すると体重は「1.25倍の3乗」で1.953倍、およそ360kg!

矛もデカい!

この巨体で、長大な大矛(おおぼこ)を振るうのだから、それはもう強いだろう。

王騎の身長と比べると、矛の全長は2m85cm! 各部を測定し、いくつかの仮定を加えると、重さは33.7kg。当時の矛は3~6kgぐらいだったというから、常矛の6~11倍である。

この大矛の脅威が炸裂したのは、趙の渉孟(しょうもう)との戦いだ。渉孟は驚異の肥満体ながら強さは突出していて、秦の鱗坊(りんぼう)将軍はこう言った。「この先 もしも渉孟に出くわしたら 絶対に奴を殿(王騎)に近づけてはならん。武に関して奴の強さは底が知れぬぞ」。つまり王騎将軍も渉孟には負けるかも……と警戒していたわけだ。

ところが、王騎は戦場に渉孟を見つけると、余裕の笑みで突進し、渉孟の矛を弾き返して、その胴体をスパッと水平に斬った! 同じ一振りで馬の首もスパッと斬った! 渉孟の胸から上と、馬の頭部は、高さ10mくらいまで飛び上がった!

王騎は、どんな勢いで矛を振るったのか。「人間の胴体を切るエネルギーを求める公式」などというモノは存在しないから、ここでは、肉屋さんが骨付き鶏モモ肉を包丁で叩き切るシーンを参考に、筆者が推測で計算してみよう。

その仕事ぶりを何度か見た記憶によれば、肉屋さんは包丁を時速30km(秒速8.33m)ぐらいで振り下ろしていたように思う。包丁の質量を500gとすると、そのエネルギーは、1/2×質量×速度2=1/2×0.5×8.332=17.3Jだ。

物体を刃物で叩き切るのに必要なエネルギーは、切られる物の材質が同じなら、「横幅×厚さの2乗」で決まる「断面係数」に比例すると考えられる。

「鶏モモ肉が幅8cm、厚さ5cm」「渉孟の胴体が直径80cm」「馬の首が直径30cm」と仮定すると、「渉孟の胴体+馬の首」の断面係数は、鶏モモ肉の2700倍だ。両者の材質を同じと見なすと、渉孟& 馬を斬るのに必要なエネルギーは、肉屋さんの一撃(17.3J)の2700倍で、4万6700J。

さらに、渉孟の胸から上と馬の頭部の重さを合わせて100kgとすると、これを高さ10mまでぶっ飛ばすエネルギーは、質量×重力加速度×高さ=100kg×9.8m/秒2×10m=9800J。切断のエネルギーと合わせて5万6500J。ライダーを含めて270kgのバイクが、時速74kmで衝突するのと同じ!

王騎は、左手で矛の根元から30cmほどの位置を、右手でさらに50cmほど離れた位置を握っていた。この体勢で、長さ2m85cm、重さ33.7kgの矛を振るい、5万6500Jのエネルギーを出すための速度とは、先端部で時速274km!

王騎が出したとみられる力は7.3tである。オスのアフリカゾウ(体重5~7t《東京ズーネット》)と素手で戦っても、見ごたえのある勝負が展開されるだろう。

ファルファルとは何の音か?

この王騎が、絶対の信頼を置いていたのが、副官の騰である。
どことなくペルシャの香りがする顔立ちで、常に将軍を支え続けた。

王騎は死に際して、騰に告げた。「本来あなたの実力は私に見劣りしません。この軍の先のこと一切をあなたに委ねます」。騰は、拱手(こうしゅ:左手で右の拳を包む中国式の敬礼)して静かに聞いていたが、強く握った拳からは血がしたたる……。その悲しみは、筆者の胸にも染みわたった。

この人は後に将軍に昇格するので、ここからは騰将軍と呼ばせていただこう。
騰将軍は、剣の腕もすごい。騎馬隊を率い、剣を振り回しながら敵陣に斬り込んでいくと、敵兵の首や腕が矛の柄が、切断されてポンポン飛び上がる。剣の軌道は円形で、その半径は剣の長さぐらい。おそらく、自分の手首を中心にして剣を回転させているのだろう。
そのとき、不思議なことが起きる。「ファルファルファルファル……」という音が鳴り響くのだ。
一体何の音なのだろうか?

これは間違いなく、剣が空気を切る音であろう。物体が空気中を運動したり、物体に風が当たったりすると渦が発生し、速度が速ければ音が出る。「エオルス音」と呼ばれる。

だが、騰将軍のファルファル音は、明らかに「ファ」と「ル」の2音で構成されている。剣を振り回す速度は一定であろうに、なぜ2つの音が出るのだろう?

考えられるのは、「ドップラー効果」だ。物体が音を出しながら運動すると、近づくときに音は高く聞こえ、遠ざかるときには低く聞こえる。救急車のサイレンが好例だ。
騰将軍が剣を前方回転させながら迫ってくるとしたら、剣は上を通過するとき観測者に接近し、下を通過するときは遠ざかる。これによって、エオルス音が高くなったり低くなったりすると考えられる。

音の高さは周波数が大きいほど高くなり、その関係は次の式で表される。

 観測される周波数=音源での周波数×音速/(音速-接近速度

また「接近速度」とは、観測者に対する剣の速度であり、騰将軍は馬を駆っているのだから、前方回転する剣が上を通過するときと、下を通過するときで、次のように異なる。

 上を通過する(前方に動く)とき:接近速度=馬の速度+剣の速度
 下を通過する(後方に動く)とき:接近速度=馬の速度-剣の速度

騰将軍の馬が特段に速いという描写はないから、速度は時速60kmほどであろう。
では、剣の速度は?

マンガを見ると、剣の軌道を表す円の直径は、円と円の間隔の1.8倍ほどだ。騰将軍が剣を一定の速度で回転させているなら、円と円の間隔は、馬が走る速度に比例する。また、円周=直径×3.14だから、騰将軍は、馬の速度の1.8×3.14=5.65倍の速度で剣を振るっていることになる。つまり、時速60km×5.65=時速339km!

武器の速度では、王騎将軍(時速274km)を上回る。「本来あなたの実力は私に見劣りしません」という王騎将軍の言葉は真実だった!

そして、「ファ」のほうが高音だとすると、上の3つの式から、「ファ」の周波数は「ル」の周波数の1.82倍。周波数が2倍になると、音はジャスト1オクターブ高くなるから、「ファ」は「ル」より1オクターブ近くも高いことになる。この不気味な「ファルファルファル……」が聞こえてきたら、剣を時速339kmで振るう猛将が迫りつつあるということだ。敵兵は、恐怖におののいたであろう。

生きざまは対照的だが、どっちも強い!

龐煖は、マンガで見る限り、王騎に遜色のない巨体で、手にする大矛も王騎のそれと変わらない長大さだ。
だが、武将としての生きざまは対極にあった。

王騎が、目前の強敵と戦いながらも、軍を勝利に導こうとするのに対し、龐煖はひたすら己の強さを追求する。秦と趙の決戦では、共に総大将を務めたが、龐煖は用兵を軍師に任せ、王騎を求めて個人行動を繰り返す。
この両雄が、ついに一騎打ちで相まみえた。

王騎が大矛で、龐煖を馬ごと10mほどもぶっ飛ばし、「意外と軽いんですねェ 龐煖さん」と挑発すれば、趙の武将が「相手の力を充分に引き出してから 本気を出す」という龐煖も、大矛を振るって王騎をぐらつかせる。

やがて両者は、大矛を激しくぶつけ合い始めた。両軍の将兵が見守る中、秦の兵士たちが「すごい戦いだ…」「二人のあの大矛の動きが…見えぬ」。これは、どれほどのスピードなのか!?

人間は、動くものを見るとき、眼球を動かす。最も速い「衝動性眼球運動(跳躍性眼球運動、サッカード、とも)」では、0.1秒に40~70度の動きを追えるという説がある。兵士の衝動性眼球運動の速度を、やや速めの「0.1秒で60度」と仮定して、順を追って計算してみよう。

(1)2人の大矛の軌跡は、直径2mほどの円で描かれている。
(2)兵士から2人までの距離を10mとすれば、大矛の軌道直径2mは、兵士の目を中心にして11.46度の範囲を動くことになる。これは60度の5.236分の1だ。
(3)それが「見えぬ」ということは、大矛の先端は軌道の端から端まで「0.1秒」の「5.236分の1」すなわち0.0191秒で動いたはず。
(4)大矛の軌道が半円なら、動いた距離は2m×3.14÷2=3.14m。
(5)これを0.0191秒で動く速度とは、秒速164m=時速592km!

こんな激しい戦いをしたら、膨大なエネルギーを消費するだろう。これも、順を追って計算しよう。

(1)時速592kmとは、渉孟を両断したとき(時速274km)の2.16倍。
(2)エネルギー(渉孟戦では5万6500J)は、速度の2乗に比例して4.67倍の26万4000J。
(3)1kcal=4184Jなので63.1kcal
(4)人間は、外部に仕事をするとき、体内で3.33倍のエネルギーを消費するから、1振り210kcal
(5)2人が大矛を1分間にわたって打ち合わせたなら(0.0191秒に1回)、3141回。
(6)消費したエネルギーは65万9600kcal。
(7)人間は7200kcalを消費すると、体脂肪が1kg減るから、92kgの体重減!

並の人間なら、体が消滅していた。お互いに体重が360kgもあって、ヨカッタ~。

応援していたキャラが物語から去るのは、まことに悲しい。なんとか活躍を続けてくれる道はなかったものかと思う。だが、それが実在した人物(王騎は紀元前244年没)である限り、どれほど切なく願っても叶わない望みだ。それでも、われわれ読む者、観る者の胸には、作品とともに生涯残るだろう。人間の想像力は、本当に素晴らしい!

※記事では数値を四捨五入して表示しています。このため、示している数値を示された通りの方法で計算しても、答えが一致しないことがあります

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