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大人の未来見学

地球規模の乾燥地問題に立ち向かう研究所に潜入!

乾燥地の土壌や植物を研究する「鳥取大学乾燥地研究センター」

未来を創る最先端の現場を訪ねる「大人の未来見学」。第3回は、鳥取砂丘から目と鼻の先にある「鳥取大学乾燥地研究センター」へ。このセンター、なんと地球規模の課題である乾燥地問題に取り組む日本唯一の施設だという。その研究の最前線を見学すれば、“地球の防波堤”とも言われる乾燥地の今と未来が見えてくる!

国内唯一の研究施設

鳥取県に日本で唯一の研究機関があると聞き、われわれ取材班は一路現地へ向かった。

JR鳥取駅からタクシーに乗り換え、運転手さんに行き先を告げると、ちゅうちょすることなく車が走り出す。さすが日本唯一の研究機関、地元では有名なようだ。

タクシーに乗車すること約20分、閑静な住宅街の中に突如、やけに古ぼけた門構えが現れる。

「日本にここだけの研究機関」という言葉だけが先走っていたため、最先端のビル群を想像していたが、予想とは違った印象だ。

門から100mほど車を走らせて丘の上まで行くと、数百m先にいくつかの建造物を発見。その中ですぐさま目に入ったガラス張りのドームに向かった。

植物から気候条件まで乾燥地を再現

たどり着いた先は「アリドドーム」という施設。世界各地の乾燥地植物を集めた資源バンク室なのだそう。約1000㎡の広さを誇るドームの中で、亜熱帯と冷涼帯という異なる乾燥地の気候を再現し、植物を育てている。

例えば、お好み焼きソースの原料にもなっているナツメヤシや、塩分を含む土壌でも育つジャイアントソルトブッシュ、種子に毒があって乾燥地の動物も食べないというジャトロファなど、ドーム内にある植物のほとんどが、日本国内では自生していないものばかり。

ナツメヤシ

ジャイアントソルトブッシュ

ジャトロファ

アリドドームは実験施設という側面も持っているため、ドーム内には、土壌劣化の原因となる表土侵食を研究するための降雨シミュレーターや、乾燥地の気象条件を再現しながら土壌内の水や塩の状態をリアルタイムかつ壊すことなく調べられる砂漠化機構解析風洞システム/塩分動態モニタリングシステムなども備わっている。

そもそも乾燥地とは降水量よりも蒸発量が多い場所を指す。砂漠のような極乾燥地域を上位に、乾燥地域、半乾燥地域、乾性半湿潤地域という4つに分類されており、現在では世界の約4割が乾燥地と言われている。

同センターは大正時代から砂丘地の利活用に関する研究を行ってきたことが発展し、現在の乾燥地研究を実施する国内唯一の施設となったという。

そんな長年の歴史を感じられるのが、施設内にある「乾燥地学術標本展示室(ミニ砂漠博物館)」だ。

模型やパネルなどで乾燥地について紹介しているほか、世界各地から収集した貴重な標本なども展示している。中には、今では日本国内に持ち込むことができないアルジェリアで採れた砂漠の花といった標本もあるそうだ。

他にも、広大な敷地内には、乾燥地の過酷な環境に耐え得る植物を育てるための実験を行う圃場(ほじょう)という共同実験農場をはじめ、さまざまな実験施設が点在している。

乾燥地植物気候変動応答実験設備(気候変動チャンバー)や乾燥地環境再現実験設備(デザートシミュレーター)など、人工的に乾燥地をつくり上げる実験機器を備え、現地から収集した外来種の植物や遺伝子組み換え植物の育成を多様な環境下で検証している。

世界の防波堤を維持するため

センター内を一通り見学したことで、どのような研究を行っているかは分かった。しかし、これらの研究がどのように社会へと還元されるのだろうか。副センター長の辻本壽(ひさし)教授に話を聞いた。

「多くの研究所は学問分野に特化したものとなっていますが、ここは『乾燥地』というテーマに基づき、さまざまな分野の研究者が集まる希有(けう)な研究施設です。研究のフィールドは多岐にわたり、気候学や情報学をはじめ、遺伝子組み換え植物の研究者や水の専門家などの研究者が乾燥地をテーマに多彩なアプローチを行っています。乾燥地は世界が抱えている課題が集約されたエリア。貧困やジェンダー、食糧問題といった課題は、一つの分野だけでは解決することができません。多分野の専門家が知恵を出し合い、挑まなければならないのです」

乾燥地とは、例えるなら「世界の防波堤」。この環境が崩れてしまうことは、地球自体が一気に崩壊してしまう可能性があるそうだ。

だからこそ、有している技術によって地球環境の維持に貢献することは、先進国に数えられる日本の役割であり、さらには新たなビジネスチャンスの獲得にもつながるのではないかと辻本教授は言う。

食糧自給率が40%に満たない日本では、多くの原料を輸入に頼らざるを得ない。特に、小麦などは乾燥地から輸入している割合も多く、われわれが文明的な生活を続けられるのは、乾燥地の存在によるところも大きい。

同センターでは、乾燥地の自然を維持するだけではなく、そこに住む人々がより豊かな暮らしを享受できるための取り組みも行っている。現代の地球が抱える課題解決の一端を、このセンターが担っていると言っても過言ではないだろう。

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