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東京五輪メインスタジアム、建つ! 木、光、風が紡ぐ「国立競技場」に潜入

人や環境に優しい未来社会にあるべきスタジアムが完成

2019年11月30日、間近に迫った東京五輪のメインスタジアムとなる「国立競技場」が、ついに竣工した。「未来の社会にあるべきスタジアムの先例」と言われてきたが、実際にどのようなものができ上がったのか。“新”たな国立競技場に潜入してきた。

見た目も機能もスゴい未来型スタジアム

残すところ数カ月。間もなく開催される東京五輪。そのメインスタジアムとして使用される新しい国立競技場が2019年11月30日、ついに竣工した。

2020年に入り、元日にはサッカーの天皇杯、1月11日にはラグビーの全国大学選手権の決勝戦がそれぞれ開催されたため、既にその姿を目にした人も少なくないだろう。

敷地面積は約10万9800m2、建築面積は約6万9600m2で、いずれも旧国立競技場(敷地面積約7万4000m2、建築面積約3万3700m2)を上回る大きさ

2016年12月に着工してから、およそ3年。これまで、さまざまな物議も醸したが、でき上がってしまえば、そういった声も耳にしなくなった。

周辺環境との調和や自然の力を最大限に利用できる省エネ設計から、これからの未来社会に適応するスタジアムと言われてきた。これまで通称として頭に「新」を冠していたスタジアムは、竣工の日から「国立競技場」が正式名になっている。

まず、遠目にもはっきりと分かることが一つある。計画発表時に話題となったが、新たな国立競技場はスタジアムとしては珍しく、木材が多用されているということだ。

国立競技場をぐるりと囲む木製の庇(ひさし)。全国から建築材料が集められた

設計は建築家・隈研吾氏。氏が手掛けた建築の特徴である「和」を前面に押し出し、神宮の森がある周辺環境と調和できるデザインとなっている。

外壁を取り囲む木材は、日本建築特有の庇がイメージされている。下から3段目までの庇を「軒庇(のきびさし)」と呼び、47都道府県から調達したスギ(沖縄はリュウキュウマツ)を使用。それぞれの杉材が、その産地の位置に応じてスタジアム全周に配置されているという。

地上5階、地下2階、全高約47mもの巨大なスタジアムの中に入ると、その広さと美しさにハッとすることだろう。

国立競技場では、東京五輪の開会式、閉会式、陸上(トラック競技)、サッカーなどが開催される

合成ゴム製の走路は、”高速トラック”とも呼ばれるイタリア・モンド社製。ロンドン、リオと2つの大会で得たノウハウを結集させた進化版で、世界記録更新に期待が高まる

中央に広がる真新しい天然芝のグラウンド、周囲には400m×9レーンの全天候型トラック。そして約6万(うち、車いす席が約500)もの観客席は、まるで既に人が座っているかのようにも見える。

観客席がモザイク調に見えるのは、座席の色がバラバラだから。木漏れ日が差した風景をイメージし、5色のアースカラーで配色されている。フィールドに近い席には大地を連想させる濃い色が多く、上に行くほど木々の緑や空をイメージした白が多い。

客席は、旧国立競技場の席よりも広く設計されており、折り畳みも可能

また、観客席は、1層目が20度、2層目が29度、3層目が34度の勾配が付けられたすり鉢状の3層構造になっている。3段階の勾配があることで、どの席に座ったとしても、フィールドが近く感じられる工夫が施されている。

そして、席に座ると、フィールド以外にも目に飛び込むものがある。中空をぐるりと覆っている屋根だ。

国立競技場の観客席をぐるりと囲むように覆う屋根。木材と鉄骨の枠組みが印象に残る

最長部は約60m。屋根の構造材にも、もちろん木材が使われている。鋼鉄と木のハイブリッド材で、カラマツを鉄骨の両側面と下面にボルトで固定することで強度を増している。

木と鉄で組まれた屋根の一部はガラスで覆われており、そこからフィールドや観客席に太陽が顔を出す。木漏れ日のような光が差すことで、グラウンドに広がる天然芝の成育促進にも役立っている。

むき出しの枠組みの奥から、太陽の光が差し込んでくる

さらに、このガラス屋根には、薄膜太陽電池が設置されており、国立競技場内に電気まで供給している。発電容量は、およそ25kW。一般的な住宅用の太陽光パネルは4.5kWほどなので、約5倍の発電容量がある。

「自然の力を最大限に利用」できるといっても、太陽光パネルを天井などに配したスタジアムは、既に各地に存在している。新たな国立競技場が、それらから一線を画すのは「風」も利用すること。ここで大きな役割を担うのが、「風の大庇(かぜのおおびさし)」と呼ばれる外壁を覆う最上段の庇だ。

5階フロア「空の杜」から見た「風の大庇」。実は、木材に見える部分はアルミ製で、風雨にさらされても腐食しにくく、強度が高い。周囲の環境と調和させるために、表面を木目調に加工している

国立競技場のある地域は、地上では風速2m、上空では風速10mの風が吹くという気候的特徴がある。この自然に吹いている風を利用して、スタジアム自体に排熱機能を持たせている。

仕組みは、この上なくエコロジカルだ。外を吹く風が「風の大庇」によって場内へと誘導されると、観客席に沿って吹き降りて、フィールド内へ。その風は、フィールドにこもっている熱を上空へと押し上げ、天井の穴から場外へと放出される。

無風時でも、場内に185台設置された気流創出ファンや、8カ所に設けられたミスト冷却装置が活躍する

つまり、風の通り道を、巨大なスタジアム全体を使って設計したということ。夏場の熱中症などを防止し、快適な競技・観戦環境を生み出すことができる、まさに「自然を最大限に利用」した機能だろう。

「風の大庇」は、季節によって取り込む風の量を調節するため、方角によって隙間の開口率を変えている。東側は、夏の涼しい風を取り込むためにアルミ材の数(風が当たる面)が多い

冬の冷たい風が吹く北西側は、アルミ材の隙間が広い。寒い北風は隙間を通過させて、そのままスタジアム上空に抜けていく仕組み

2019年12月21日には、こけら落としのイベントが催され、陸上男子100m、200mの世界記録保持者、ウサイン・ボルト氏やサッカー界の現役にしてレジェンドの三浦知良選手、アイドルグループの嵐らが、新たな国立競技場のフィールドに足を踏み入れている。

ただ、竣工し、大会も開催されているものの、現在の国立競技場は東京五輪開催に向けて工事を続けている。敷地には仮囲いが設置されており、テストイベントなどを除いて中に入ることも、近くで見学することもできない。

選手らが通るフィールドの出入口「フラッシュインタビューゾーン」。あんどんをイメージした照明がつり下げられ、落ち着いた空間に

国立競技場は今後、5月に陸上競技のテスト大会を開催するなどして、2020年夏の本番を迎えることになる。

真に完成した姿を見ることができるのは、もう間もなく。これから日本の新時代を彩るスポーツの聖地として、年輪を深く刻んでいくに違いない。

夜の国立競技場。暗闇に照らされる庇から、木のぬくもりを感じる

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