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スポーツマネジメントの極意

チームの絆を深める!ラグビーの世界的名将が実践するコミュニケーション術

ジャパンラグビートップリーグ(TL) トヨタ自動車 ヴェルブリッツ監督 ジェイク・ホワイト【後編】

各国のラグビーチームを率いて、結果を残してきた名将ジェイク・ホワイト氏。これまで膨大なエネルギーを費やしながら、強靭な意志で数々の改革を断行しチームを作り上げてきた。チームを高みに導くエネルギー源ともいえる、彼のマネジメント術の本質に迫る。

ホワイト氏の考えるコーチングとティーチングの違い

ラグビーワールドカップ2015で日本代表を率いた前監督のエディー・ジョーンズ氏をはじめ、ラグビーの指導者には元教師という経歴を持つ人物が多い。ホワイト氏もその一人で、かつては母国・南アフリカで教鞭を執っていた過去がある。

それだけに選手を育成することにたけているようにも思えるが、どういったところに重きを置いてエネルギーを注いでいるのだろうか?

「私にとってラグビーを教えるのは、数学や化学を教えるのと同じだと思っています。どうやって教えるかがポイントになりますが、その伝え方には特にエネルギーを使いますね。これまでに南アフリカだけでなく、オーストラリアやフランス、そして日本でコーチングをしてきましたが、それぞれ伝え方が異なります。教える内容は一緒ですが、どんなメッセージにするか。そこはこだわってきました」

今回の取材でもそうだったが、ホワイト氏は日本語がまだそこまで話せないため、通訳を介して対応する。フランスやオーストラリアもそれぞれ言語が異なり、また母国・南アフリカのように選手によっては母語が違うというケースもある。そんな状況で彼らに“自らの思いを的確に伝える”ことが、指導に当たる上で大きなテーマになっているという。

思いを伝えることの難しさを物語るエピソードとして、こんな例を挙げてくれた。

ときにジェスチャーを交えつつ熱く語るホワイト氏。分かりやすく確実に伝えるということは、チームを指導する上でもキーポイントになる

「これは日本に来て、いまだに忘れられない出来事の一つです。あるチームと対戦した際、最後の最後でトライを取られ、ボーナスポイント(※一定の条件をクリアすることで順位を決定する勝ち点に加算されるボーナス点)を失い、勝ち点5を取れるべきところが4点で終わってしまいました。

プレー後、私が円陣に入ろうとしたとき、選手たちは“ジェイクに怒鳴られるだろう”と思っていたようなのですが、私はあえて怒らず“次は頑張ろう”と声を掛けたんです」

ホワイト氏のこの行動に、マネジメントスタッフ全員から“なぜあのときに叱らないんだ?という声が上がったそうだ。実際はホワイト氏も怒り心頭に発していたといい、怒鳴り散らすという選択肢も持っていた。だが、それをしなかった裏には、ホワイト氏なりの信念があったとのこと。

「もし私があそこで怒鳴り散らしたら“やっぱりな”と思われますよね?それが嫌だったんです。それでは本当に怒ったときのインパクトがなくなってしまいます。これがティーチングとコーチングの違うところで、選手たちにインパクトを与えるにはどのタイミングで何を言うかが重要であることを理解しなければいけません」

“教える”という点でティーチングとコーチングは同じ言葉だが、その実態は大きく非なるもの。

ティーチングは“できる人ができない人に教える”という一方的なアクションに対して、コーチングは“相手との対話の中で、教わる人自身に考えさせて気付かせるもの”だ。

もちろん監督と選手という立場を示す必要があるときにはビシッと言うべきだが、毎回怒鳴り散らせばいいというものではない。むしろ、トップに立つ人間が怒鳴り散らすことが恒常化した現場にいる人間は委縮してしまうだけ。

選手の自立心を育み、答えを“与える”のではなく“引き出す”には同じ“教える”でもコーチングが大切といえる。この違いをいち早く理解し、的確なところで適切な言葉を投げかけることができるかどうかが、指導者には問われていることを痛感させられる。

ビジネスにおいても、組織やチームを正しく導くためにも肝に銘じておきたいところだ。

仕事を楽しむ様子を見せることも重要なチーム作りのメソッド

ラグビーのように全体で勝利のために突き進むチームスポーツでは、チームワークを構築することも監督としての重要な仕事に思える。ホワイト氏はそのコツについて「飲みニケーション!」と笑って答えたが、「それも重要なときがある」と付け加えた。

厳しい表情ばかりでなく、時に笑顔を見せるホワイト氏。この切り替えもチームを率いる指導者には重要だ

「人は心地いい環境に置かれると仕事が楽しくできますよね。だから私はよく若い選手にはこう言うんです。『ほかの社員と違って、ラグビーに集中して一日を過ごせるなんて最高じゃないか?』と。好きなことを仕事にできる環境は最高ですからね。その思いを持ってプレーすることでチームワークが構築できていくと考えています」

“楽しく仕事をする”というのは難しいように思えるが、ホワイト氏の振る舞いを見ていると、とても簡単なことのように思えてくる。なぜなら彼自身がこの仕事を楽しんでいるからだ。そうした環境を与えられた選手たちはラグビーに目いっぱい打ち込める。

この取材中も対面の部屋からは選手たちがストレッチする際の掛け声がひっきりなしに聞こえてきた。「こうした声が聞こえるチームにしたかった」とはホワイト氏の弁だ。

チーム練習の様子。おのおののトレーニングでも掛け声を出しながら打ち込んでいた

「選手たちがハッピーにプレーできているチームでは、うるさいくらいに声が出るものです。こうした声が出るようになってきたということは、このチームはますます強くなりますよ」

楽しく仕事をした結果に見える“選手たちの思い”

自分自身が仕事を楽しみ、その様子が選手たちに波及するというホワイト流のチーム作り。その最たる例として、ホワイト氏はチームを支えるベテラン、北川俊澄選手のこんなエピソードを挙げてくれた。

「昨年、キヤノンと東京で試合をした後、ホテルに戻るバスに乗ったのですが、そのときに缶ビールとお弁当を用意してもらいました。すると選手たちがバスの中で、ちょっとした宴会を始めたんです。音楽をかけて歌いながら、それは楽しそうに。北川は“10以上トヨタでラグビーをやってきて、最高の夜です”と言って喜んでくれました。ただビールとお弁当を渡してバスでホテルに帰る、それだけのことなのに」

先ほど“飲みニケーション”と笑って答えていたが、ちょっとしたイベントを行うこともチームを鼓舞し、絆を深めるためには必要なのかもしれない。さらに自身がキャプテンに抜擢した姫野和樹選手にもこんなこぼれ話があるそうだ。

「いい指導者になるのに誰かのマネなんかいらない」。コーチング術を語るホワイト氏

「日本代表のファーストテストマッチを終えて、姫野がチームに戻ってきたときだったと思いますが、彼は初めて着た日本代表のジャージを私にプレゼントしたいと言ってきてくれました。当時23歳の選手が初めて代表に選ばれたときのジャージを誰かに渡すなんて、たとえ自分の親にだってしないでしょう。そこまで私を慕ってくれたことがうれしかったですね。やってきたことは間違っていなかったと思いましたし、私の中でも大きなモチベーションになりました」

最後にホワイト氏自身が思う、理想の監督・コーチ像という質問をぶつけてみた。すると、いかにも彼らしい答えが返ってきた。

「選手の心に残る人になるべきだと思っています。ただ、誰かのマネをしてわざとらしいことをしても意味がない。今まで秘密にしてきたことですが、『こういうコーチングをされたい』と私が思えるようなコーチングをしている。それこそがベストではないかと考えています」

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