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CO2排出量の実質「0」を目指して! ‟へらす、かえる、つくる”小田急の脱炭素施策

小田急電鉄株式会社 経営戦略部(サステナビリティ担当) 課長 屋昌宏

小田急グループは、事業活動を通じたCO2排出量の実質「0」を目標とする「小田急グループ カーボンニュートラル2050」を2021年9月に掲げた。これに伴い、小田急電鉄株式会社は各種施策を推進するとともに、2023年4月には業種の異なる他社との連携を発表。脱炭素の実現に向けた取り組みを加速化させている。これまでの経緯や取り組みの意義、今後のビジョンなどを、経営戦略部(サステナビリティ担当) 課長の屋昌宏氏に聞いた。

地球温暖化対策において企業責任を果たす

日本政府が2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言したことを受け、多くの企業が脱炭素に向けた取り組みを進めている昨今。他の交通機関と比較してエネルギー効率が高く、電化も進んでおり、総じて環境負荷の低い交通機関であるといわれる鉄道業界も、それは例外ではない。

なぜなら、環境負荷が低いといえども、鉄道のCO₂排出量の約9割が電力由来であるとともに、日本における使用電力の多くは火力由来であるという背景があるからだ。さらに、鉄道が日本全体の電力の約2%を消費しているという現状も、無視できないポイントとなる。

この状況に対して、小田急グループは2021年9月に「小田急グループ カーボンニュートラル2050」を発表し、2050年におけるCO₂排出量の実質「0」と、その達成に向けた2030年におけるCO₂排出量の50%削減(2013年比)を目標に掲げた。この目標を実現すべく、小田急グループは一丸となってさまざまな施策を推進しているわけだが、脱炭素社会を実現するための取り組みは「何も昨日今日に始まったわけではありません」と小田急電鉄 経営戦略部(サステナビリティ担当) 課長の屋昌宏氏はいう。

「小田急グループ カーボンニュートラル2050」で小田急グループが目指す2050年の社会のイメージ。多彩な施策が導入されているとともに、エネルギーや資源の地域循環も想定されている

画像提供:小田急電鉄株式会社

例えば鉄道事業では、省エネ性能に優れたモーター制御装置である「VVVFインバータ装置」を1980年代後半から段階的に採用し、現在は全ての車両に導入済み。また、照明のLED化などにも取り組むなど、車両の省エネ化は継続的に実施されている。

これに加えて、上りと下りの線路をそれぞれ2本ずつ設ける「複々線化」を2018年3月に完了させ、「混雑の緩和」「所要時間の短縮」「利便性の向上」を実現させた。これらの効果に加え列車の渋滞が解消されることで「2013年度で21万トンあった鉄道事業のCO₂排出量は、2022年度で15万トンにまで削減できています」と、屋氏は説明する。

屋氏によれば、複々線化によって「192%あった朝ラッシュピーク 時の平均混雑率は151%にまで減少。町田駅から新宿駅までの所要時間は37分となり、着工前よりも22分短縮されました」と話す

もちろん、このような取り組みは鉄道事業だけにとどまるものではない。不動産業では高効率な空調機器の導入や照明のLED化などを進め、2013年度で13万トンのCO₂排出量を2022年度で9万トンにまで削減。バス・タクシー事業でも環境性能に優れたハイブリッドバスやハイブリッドタクシーを導入し、燃料消費率の向上やCO₂排出量の削減に努めている。

「『小田急グループ カーボンニュートラル2050』では、美しい地球環境と優しい社会を未来の世代に引き継ぐことを使命とし、事業を通じたCO₂排出量削減や資源循環、自然資源の保全・活用などの環境課題に積極的に取り組むことをビジョンに掲げました。これはつまり、小田急グループが地球温暖化を防ぐことに対して『企業としての責任をきちんと果たしていく』という決意に他なりません」

3社の共創による脱炭素への取り組み

「小田急グループ カーボンニュートラル2050」では、事業を通じたCO₂排出量の削減に向けたスローガンとして、「へらそう作戦(省エネ)」「かえよう作戦(電化・水素化)」「つくろう作戦(再エネ)」という3つを掲げている。そして現在、それに伴う新たな取り組みとして注力しているものの一つに、オンサイトPPA(※1)やオフサイトPPA(※2)を活用した「再生可能エネルギーの確保」がある。

※1 発電事業者が需要家の敷地内に発電設備を設置して、電気を提供する仕組み
※2 発電事業者が一般送電網を介して、特定の一般需要家に電気を提供する仕組み

また、この取り組みの一環として2023年4月に発表されたのが、小田急電鉄、東京電力ホールディングス株式会社、出光興産株式会社による3社の共創であった。

この共創は、東京・神奈川を中心とする小田急グループの事業フィールドへのオンサイトPPA・オフサイトPPA を通じた太陽光発電設備による再生可能エネルギーの導入、地域で発電される再生可能エネルギーや蓄電池を活用した分散型エネルギーのマネジメント、バスのEV化や付随する充電などの各種マネジメントによるクリーンモビリティへのシフト推進などを目指すことを目的としている。

「それぞれの業種は異なりますが、3社が共に“脱炭素社会への取り組み”をビジョンに掲げている点は共通です。地域の脱炭素に向けて、各事業領域での強みやノウハウをうまく補完し合っていくことで、さまざまな施策を実現できればと考えています」

3社による共創施策の第1弾としては、小田急線海老名エリアへのオンサイトPPAによる太陽光発電設備の設置が計画されている。2023年度に着手し、2024年に稼働を開始する予定だ。海老名エリアは2000年ごろから小田急グループが中心となってまちづくりを進めてきた背景があり、「オンサイトPPAを含めたさまざまな施策を展開することで、サステナブルなまちとして形成していきたい」と期待を寄せる。

海老名駅周辺の様子。オンサイトPPAの計画としては、小田急グループが所有する不動産施設の屋根の上などへの太陽光発電施設の設置を検討しているそうだ

画像提供:小田急電鉄株式会社

カーボンニュートラルに向けた今後のロードマップ

なお、小田急電鉄は共創施策の方向性を5つ挙げている。

1つ目は前述したオンサイトPPAなどによる「再生可能エネルギーの導入」、2つ目は鉄道やバスなどのCO₂排出量削減を見据えた「クリーンモビリティへのシフト」、3つ目は企業だけでなく一般市民にも脱炭素を目指してもらう「新しいグリーンライフの提案」、4つ目は非常時のエネルギー確保などを念頭に置いた「レジリエンスの強化」、5つ目は電力の地産地消を実現する「分散型エネルギーのマネジメント」である。

海老名エリアの施策以外でオープンにできるものはまだないが、ビジョンとしては「単純に再生可能エネルギーを導入するだけでなく、新しい価値も提供できるような形で展開していきたい」とのことだ。

また「小田急グループ カーボンニュートラル2050」の今後のロードマップについては、前出の3つのスローガンに沿ってさらなる施策に取り組んでいく考えだ。

「小田急グループ カーボンニュートラル2050」の実現に向けたロードマップでは、脱炭素に向けた小田急グループの取り組みだけでなく、地域の環境課題解決も含まれている

画像提供:小田急電鉄株式会社

「へらそう作戦(省エネ)」では、鉄道の回生電力(電車がブレーキをかけたときに発生する電力)のさらなる有効利用を検討中。屋氏によれば、既に「一部は運行している他の電車のエネルギーとして再利用されているが、全ての回生電力を再利用できているわけではないため、使い切れずに余った回生電力を一時的に蓄電池へ貯蔵し、駅舎の電源などにも活用できるような仕組みを検討している」そうだ。

「かえよう作戦(電化・水素化)」では、バス事業の電動化がメインとなる。小田急グループは全体で3000台以上のディーゼルバスを保有しており、日本屈指のバス保有台数となることから、脱炭素を目指す上でEVバスの導入は必要不可欠。そのため、「まずは早期に多くのEVバス導入を実現すべく、取り組みを加速させている」という。

そして最後の「つくろう作戦(再エネ)」では、オンサイトPPAに加えてオフサイトPPAや環境価値(=非化石証書)の購入なども視野に入れ、段階的に取り組みを広げていく予定だ。

小田急グループの神奈川中央交通(※)が導入したEVバス。まずはグループ全体で、2023年度に6台導入される予定だ。なお、EVバスは充電に5~6時間かかることからエネルギーマネジメントが必須となるほか、電源インフラの充実なども今後の課題になるという ※神奈川中央交通株式会社は持ち分法適用会社のため「小田急グループ カーボンニュートラル2050」で掲げる環境長期目標の対象外

画像提供:神奈川中央交通株式会社

この3本柱の作戦を進めていくことで、まずは2030年のCO₂排出量50%削減(2013年比)を目指すわけだが、その一方で小田急電鉄は、脱炭素の視点を踏まえた“社外的な取り組み”にもチャレンジしている。後編では、その取り組みの内容や誕生の経緯などを紹介する。


<2023年9月27日(水)配信の【後編】に続く>
鉄道や不動産に続く新たな柱に! 小田急が‟ごみ問題”に取り組み意図とは?

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