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地域連携で脱炭素化の価値と投資が循環するエコシステムを構築!マツダの描くエネルギービジョン

マツダ株式会社 経営戦略室/商品戦略本部 カーボンニュートラル戦略 統括主査 木下浩志【後編】

マツダでは今、省エネ、再生可能エネルギー(以下、再エネ)への転換、カーボンニュートラル燃料の導入を3本の柱として「2035年グローバル自社工場でのカーボンニュートラル実現」に挑んでいる。前編では、自社工場内で実施されている省エネ施策について聞いた。後編では、いかにして工場内外から供給される電力を再エネへと転換していくのか、またカーボンニュートラル燃料は現在どこまで現実的なのかに迫る。

再エネの積極的な導入を促す仕組みづくり

前編でも紹介した製造工程における省エネ化は、今後も技術革新を進めていくべき領域だ。

しかし、省エネ技術をいくら追究しても、製造に使用するエネルギーを脱炭素電源に転換しない限り、カーボンニュートラルを達成することは難しい。

自動車工場から排出されるCO2には「電力起源」によるものと、ガスや石油の燃焼など「非電力起源」によるものに分けられる。この「電力起源」と「非電力起源」をいかにしてカーボンニュートラルに近づけていくかが今後の課題となっている。

※【前編の記事】工場からのCO2排出を実質ゼロに! マツダが目指す2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ

現在は電力起源の省エネ化、再エネ導入が進み、その比率は非電力起源に近づいている。2035年に向けてCO2を一切排出せずに工場内で消費する全てのエネルギーを賄うのが目標だ

「電力起源のエネルギーについては現在、その大部分を工場内にある自家発電設備で賄っています。これを太陽光発電、バイオマス発電などに転換することで低炭素化、脱炭素化を進めていくというのが施策の一つです。その上で、電力会社など外部から供給を受ける電力についても、脱炭素化することが求められています。カーボンニュートラルな電力を安定的に調達できる環境を整備するには、地域・企業が一体となって再エネへの投資を促し、価値を循環させる仕組みをつくることが大切です」と木下浩志氏は語る。

事業成長・地域経済成長とカーボンニュートラルの両立を理想に、マツダの脱炭素化施策を推し進める木下氏

マツダが本社(広島県)を置く中国地方では2021年末、地域内に拠点を置く企業および自治体などで構成される「中国地域カーボンニュートラル推進協議会」が設立された。

その中にある部会の一つに「カーボンニュートラル電力推進部会」がある。

部会長を現マツダ会長である菖蒲田(しょうぶだ)清孝氏が務め、事務局もマツダ本社に置かれ、木下氏は事務局長という立場だ。

中国地方は自動車をはじめとする運輸部門の製造、輸出が製品出荷額の大きな割合を占める地域。またCO2排出量が多いとされる、鉄鋼業界や非鉄金属(銅、アルミニウム)業界、セメント業界、紙・パルプ業界などの素材産業が盛んな地域でもある。

幅広い分野の企業と関わり、世界中に広大なネットワークを持つ自動車メーカーが中心となって地域のカーボンニュートラルを進めることは大きな意義があるだろう。

「カーボンニュートラル電力推進部会」にはマツダをはじめとする企業や電力会社、中国地方の各県が参画。再エネを効率的に調達し、投資と価値が循環するエコシステムの構築を目指す

その「カーボンニュートラル電力推進部会」が今、取り組んでいる施策の一つが「オフサイトコーポレートPPA」だ。

これは自社の敷地外に他社所有の発電所を設置し、そこで発電する電気を購入する手法のこと。需要地から離れた場所で発電する場合、一般の電力系統を使って送配電が行われる。

需要地の敷地内に再エネ電源を設置する「オンサイトコーポレートPPA」に比べて、より大規模に、より多くの事業者を巻き込みながら再エネ電源を導入できるという利点がある。

需要家と発電事業者は一定の期間、定額で電力契約を結ぶのが基本的な条件だ。

需要家側から見ると大規模に、比較的安定して再エネ電源を導入でき、発電事業者にとっても長期的に一定の収益が確保できる。つまり双方にメリットのある電力契約の一形態として注目されている。

「再エネの需給を拡大するためには、電力事業者に対して一方的に要請するような形ではなく、供給側と需要側の相互にメリットのある仕組み、再エネに投資する価値を生み出すことが必要だと考えています。短期的な再エネ導入施策においては国や自治体の支援も不可欠ですが、長期的に仕組みを維持するためには再エネへの投資が自発的に続く環境が求められるでしょう。それが投資と価値の循環です。まずは私たちがこれまでに築いてきた技術や知見を地域の価値として利用しながら、中国地域での再エネ拡大を目指していくのが第一歩だと考えています」

オフサイトコーポレートPPAは発電事業者と送配電事業者(および小売電気事業者)、需要家が相互に契約し、再エネ電力の安定的な需給体制を築くもの

出典:公益財団法人 自然エネルギー財団「日本のコーポレートPPA:契約形態、コスト、先進事例」

地域全体でカーボンニュートラルの動きが広がることは社会的責任を果たすだけでなく、新たな価値を生み出すことにもつながると木下氏は考えている。

脱炭素化が進んで産業競争力が高まれば、地域に新たな産業が誘致されるようになり、ESG投資(企業の有責性だけでなく環境や社会への貢献度、ガバナンス要素を考慮した投資のこと)の呼び込みや“人財”の流入といったポジティブな効果がもたらされる。

これは、地域経済の成長によって得られた収益で脱炭素化をさらに推し進めていくという好循環だ。

一企業としてではなく、ここまで会社を育ててくれた地域全体でカーボンニュートラルに取り組む姿勢はいかにもマツダらしい。木下氏が前編で「カーボンニュートラルを企業や地域経済成長の機会として捉える」と言った真意もそこにある。

脱炭素化時代の内燃機関はどうなる?

さて、電力起源の脱炭素化については前述のオフサイトコーポレートPPAなどで推進されていくが、非電力起源のエネルギーについてはどうか?

熱源を得るため、あるいは機械を動かすために燃料を使用するシーンをゼロにはできないだろう。

「電化が難しい領域については、メタネーション(水素とCO2から天然ガスの主成分であるメタンを生成すること)や、バイオ燃料に置き換えていくという対策で進めたいと思っています。また、ひろしま産業振興機構、中国経済産業局、広島県、広島市、広島大学と一緒に活動している『ひろしま自動車産学官連携推進会議』では、2020年に『ひろしま “Your Green Fuel” プロジェクト』による、次世代バイオディーゼル燃料の実証実験を始めました。これはバイオディーゼル燃料の原料製造・供給から利用に至るまでのバリューチェーンを構築し、同燃料の利用を促すものです。実際に社用車や役員車、公用車の一部は既にバイオ燃料を使用して走っています」

オリジナルのラッピングが施された、バイオディーゼル燃料を使用しているマツダの社用車。車両は市販のディーゼル車と全く同じだ

2021年のスーパー耐久レース(日本国内で開催されている市販車による耐久レース)には100%バイオ由来の次世代バイオディーゼル燃料(ユーグレナ社製サステオ)使用マシンで参戦したマツダ。

そこでは既存のディーゼル車と全く変わらない性能が確認できたという。

バイオディーゼル燃料は既存のエンジンに一切手を加えず、再エネに転換できることが大きな利点だ。EV(電気自動車)など次世代自動車への転換を進めながらも、内燃機関車を見捨てないマツダの姿勢が強く表れている。

サプライヤーや地域と知財を共有しながら歩む

ここまで主に2035年に向けたグローバル自社工場でのカーボンニュートラル施策について話してもらったが、もちろんマツダの取り組みはそれで終わりではない。

最終到達地点は2050年サプライチェーンでの脱炭素化だ。

それには自社工場内だけでなく、部品を供給するサプライヤー、最終的に自動車を廃棄、リサイクルする業者も含めたライフサイクル全体での脱炭素化推進が必要となる。

「サプライヤーなどのお取引先様や協力会社様と私たちは、カーボンニュートラルに向けて協調・協働しようと呼び掛けています。例えば今後、欧州などの市場では製造時に排出されるCO2に対して厳しい制限が設けられる可能性があります。そうした要件に適合するための準備は、私たち自動車メーカーとサプライヤーが一緒にやっていかなければなりません。ステークホルダーの期待に応えるためにも、脱炭素化に向けた各企業の活動を私たちがしっかり支えていく必要があると感じています」

マツダは現在、60社以上の協力企業と共にCO2削減に向けたロードマップを作成している。

その中では、発注先に対して一方的に“部品製造時のCO2を減らしてください”と要請するようなことはしていないという。

どうしたら実現できるのかをサプライヤーと共に考え、マツダの知見が必要となればそれを提供し、地域連携しながら解決策を導き出していくのがマツダのスタンスだ。

「周辺企業との協調なくしてカーボンニュートラルも、事業成長や経済発展もあり得ません。これは国内だけでなく海外の生産拠点においても同じです」と話す木下氏。

協力企業や地域と連携しながら挑戦するカーボンニュートラルの実現。

その姿勢には地域を代表する企業にまで成長し、地域に愛されてきた企業としての矜持と使命が感じられた。

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