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特集
これからのエネルギーとの関わり方

脱炭素化と電力の安定供給を両立させるエネルギー対策

カーボンニュートラル実現と共に電力を安定させるためのベストミックスとは?

近年、発生リスクが高まっている電力の需給ひっ迫。本特集第1回では、株式会社ユニバーサルエネルギー研究所代表の金田武司氏が、その背景として、欧州に端を発したエネルギーショックや、日本国内の電力システムの構造上の問題があると指摘した。今回は、電力の需給ひっ迫の防止策や電力安定供給に向けた提言について聞いた。

知られざる、エネルギー取引の特殊性

電力の需給ひっ迫対策を考える前に知っておきたいのは、エネルギー取引の特殊性だ。一般的な消費財とは異なり、エネルギーの売買には取引上の制約や商慣習がある。

金田氏は「石油は先物取引やマーケットがかなり成熟している。オイルショックなど過去の苦い経験があるため、国際的に高騰しないための工夫が相当なされている」とする一方、「天然ガスは比較的近年になってマーケットに出てきた燃料。両者の価格決定メカニズムは根本的に異なる」と説明する。

「石油は採掘した後にタンカーに積み込むなど、運搬工程が簡素です。一方、天然ガスはマイナス162度まで冷却・液化して特殊なタンカーに積載しなければなりません。天然ガスの冷却装置は設備・運用費用共にとても高額。一度止めてしまうと、生産サイドには多大なコスト負担がのしかかります。そのため設備を止めることができず、掘り始めたら掘り続けなければなりません。つまり、天然ガスは需要がなくとも生産し続けなければならないのです」

当然、需要の先行きが見えなくとも設備を止めることができない。そうなると売り手側は15~20年の長期契約を希望する。長期契約は売り手側の資金回収不能リスク、買い手側の在庫を抱えるリスクがあり、買い手側はバランスをみながら長期契約を締結してきた。

国内にめぼしい資源がない日本にとっては、長期契約は供給の約束が固く守られ、産出国も契約をしっかりと履行するといったメリットを享受してきた。ただし今後、国際的にエネルギー不足が深刻化していくとすればどうか。多くの国々がエネルギー保障の観点から長期契約を希望し、長期契約における単価の高騰が不可避となれば、欧米のように電気料金の高騰などで需要側が影響を被る可能性は高まる。

日本における電力不足への対策

では、実際に電力の需給ひっ迫を防ぐための対策とはどういったものなのか。一般的に電力不足の対策は、「kW対策」と「kWh対策」に区分されている。この2つにはどのような違いがあるのか。

まずkW対策とは、電力会社が発電所を通じて確保する電源量の計画や対策のことを指す。電力会社は、消費者が一斉に電気を使用した際の上限を想定して、それ以上に電力供給力に余裕がある状態を保つように準備する。いわば、予備電源を確保する供給サイドの対策=kW対策だ。電力会社は、電力の需給ひっ迫が起こりうる状況に対し、古い火力発電所を再稼働させる、脱炭素電源の新規投資の促進などの対策を行っている。

ユニバーサルエネルギー研究所の金田氏

「東日本大震災以前、日本の発電所の予備率は9%程度でしたが、近年では予備率も低下しています。現在の日本では安定供給のために予備率3%が必要とされており、綱渡りを強いられている状況です。新たな発電所ができないどころか多くの原子力発電所も稼働を停止しており、再生可能エネルギーの電力供給を優先したため天然ガス火力発電所など既存の設備も非効率な稼働を迫られています。供給サイドは電力不足の構造的な背景を基に、しっかりとした対策を立てる必要があるでしょう」

もう一方のkWh対策は「世の中で使われる電力の総量をいかに減らすか」(金田氏)、すなわち消費サイドの対策となる。例えば、5分で済むドライヤーを10分使えばkWhは2倍になる。なお燃料高騰の影響はkWではなくkWhに直接的に反映される。

「電気料金において、kWは電線・発電所など設備費用に該当する基本料金となります。燃料が高騰してもそれほど影響を受けません。一方、kWhは燃料を使用した分の従量料金。エネルギー高騰の影響をじかに受けます。電気料金高騰の現在、喫緊の課題はkWh対策。節電しないと燃料高騰の影響を受けますし、計画停電を検討しなくてはならないリスクもゼロではありません」

歴史に学ぶべき、エネルギー対策

金田氏は島国・日本はエネルギーや電力確保において独自の道を歩んできたとし、今回の電力の需給ひっ迫を乗り越えるためにも「歴史に学ぶべきだ」と強調する。

「今回、日本は欧州発のエネルギーショックの被害者だと思います。言ってしまえば、落ち度はないのに欧州の影響を甘んじて受けている状況。1970年代に中東の産油国が原油価格を引き上げることで起きたオイルショックのときもそうでした。しかし当時の日本は省エネ・新エネ・原子力発電でその難局を克服しました」

省エネ=消費者による節電というイメージが強いが、ここには発電所の効率を上げるテクノロジー開発や、省エネ製品を作るための電気メーカーの研究開発投資など、より広範な取り組みが含まれる。日本はオイルショックという困難をチャンスに変えて、世界に誇る省エネテクノロジーを数多く生み出してきた。

脱炭素前から、省エネは生活家電のブランディングに使われてきた(写真はイメージ)

「世界で初めて省エネに取り組んだのは日本です。米国は自国でガソリンが供給できるため安価で、消費量も多い。一方、資源が少ない日本は買ってきたものを大事に使う精神を発揮しました。高燃費の車や、冷蔵庫、クーラー、テレビなどの省エネ製品を生み出し、世界が欲しがるブランドを確立したのです。危機的状況で磨かれた省エネのアイデアは、日本経済復活の武器にもなりました」

今でこそ脱炭素や再生可能エネルギーへのコミットに注力する欧州だが、そもそも新エネルギー(現在の再生可能エネルギー)に最初に取り組んだのも日本だ。日本はオイルショック後に、新エネルギー総合開発機構(現、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、NEDO)をつくり、国を挙げて開発に取り組んだ。また日本は半年から1年ほどの予備エネルギーが必要なことに気付き、「ためる技術の開発も世界に先駆けて乗り出した」という。

「最も強調したいのが原子力発電です。オイルショック後、諸外国が日本再興の理由を分析していますが、どれも答えは原子力発電がその一つとしています。興味深いのは、原子力発電と貿易収支の関係です。日本の貿易収支は東日本大震災以降に赤字に転落してしまった。それまで原油価格がどれほど高くても黒字を維持していたのにもかかわらずです。理由は明白で原子力発電所を止めてしまったから。電力の需給ひっ迫と経済低迷を同時に解決するためにも、省エネ・新エネ・原子力発電という柱をいま一度思い返す必要があるのではないでしょうか」

日本の財政や資源を考えた、現実的なエネルギーミックスを

では、脱炭素を目指しながら、電力の安定供給を実現することはできるのだろうか。金田氏は、「極端な理想論ではなく、自国に根差したバランスの良いエネルギーミックスこそ、電力の安定供給を実現する方法です」としながら、現実的な考え方として、「エネルギーミックスを志向する際にその財源が無限でないことも前提に置くべきだ」とする。

日本は石油、天然ガス、石炭といった燃料、再生可能エネルギーの資機材など全てを海外からの輸入に頼っている。限られた財政の中で、安定供給と脱炭素を両立するためには、独自のエネルギーミックス観を追求する必要がある。

未曽有のエネルギー危機の中で、消費サイドはどのような対策を立てることができるのだろうか。金田氏は「電気のようなインフラ事業は供給側によって左右されてしまい、一般消費者が対策を立てづらい領域だ」としつつも、「節電をはじめ、家庭用蓄電池などの予備電源を自前で確保することなど、可能な範囲で電力確保に努めるべきだ」と助言する。

「何より電力やエネルギーについて消費者が知識を深めることが重要です。なぜ電力の需給ひっ迫が発生し、電気料金が上がるのか。また自分たちにできる対策は何か。それらをしっかりと知ることは、極端な議論に惑わされず、自分たちの生活を守ることにつながるでしょう」

日本の経済や資源を考えた上で、どのようにエネルギーを確保し、脱炭素社会を実現していくのか。それを考えるためには、エネルギー経済の仕組みや実情を把握するのが不可欠と言えそうだ。

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