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エネルギーの革新者

「EMIRAビジコン2024」最優秀賞は? 全国の学生142チームの頂点が決まる

「モビリティ×エネルギー」をテーマにしたビジネスコンテストの最終審査が開催

2020年からスタートした、EMIRAと早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム(以下、PEP)がタッグを組み開催する学生ビジネスアイデアコンテスト「EMIRAビジコン エネルギー・インカレ」。今回で5回目となるこのコンテストの最終審査に残った4チームによるプレゼンテーションが行われた。果たしてどのアイデアが、最も優れたアイデアに授与されるEMIRA最優秀賞に輝いたのか?

テーマは「モビリティ×エネルギー」

イノベーションを「エネルギー」という視点から読み解いて未来を考えるメディア「EMIRA」と、電力・エネルギー業界の人材育成を進める「PEP」が共同で開催した「EMIRAビジコン2024 エネルギー・インカレ」。その最終審査が2月10日、東京都新宿区の早稲田大学 リサーチイノベーションセンターで行われた。

>第1回「SDGs×エネルギー」リポートはこちら
>第2回「食×エネルギー」リポートはこちら
>第3回「住まい方×エネルギー」リポートはこちら
>第4回「カーボンニュートラル×エネルギー」リポートはこちら

新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類になって以降、初の開催となった今回の最終審査

今回のテーマは、「モビリティ×エネルギー」。

2023年5月に新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に変更され、コロナ禍以前のように行動を制限されることなく好きな場所へ自由に行き来できる日常が戻ってきたことが、テーマ設定のきっかけ。自由に行動することによる「ワクワク感」「ドキドキ感」を共有できるようなビジネスアイデアを、学生らしい自由な発想で考えてもらいたいという思いが込められている。

全国の大学生・大学院生から集まったビジネスアイデアの数は「142」。厳正な審査が行われ、その中から最終審査に残ったのは以下の4チームだ。

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【アイデア名/チーム名】
1.トピタル(Taxi Of Hospital)/ひかり(東京大学)
2.マンション区分所有者間のカーシェアリング/椙山女学園大学 現代マネジメント学部
3.モビリティデータ/Well-Vehicle(早稲田大学)
4.再配達削減のための宅配業者連携公式ライン/のらりくらり(中央大学)
———————————————–

初めに、審査員を務めるEMIRAの亀谷潮太編集長が「移動はすごくワクワクするもの。今回は、『(コロナ禍において)行動ができない』という体験をされた皆さんがモビリティの観点から、若い感性でどういうアイデアを出してくださるのかをとても楽しみにしています」と、開会のあいさつをした。

亀谷編集長は「今まで考えもしなかった、『移動』というものの価値を改めて見つめ直すことを私たちは体験してきた」とも述べた

続いて東京電力ホールディングス株式会社 EV推進室室長の河野秀昭氏、早稲田大学理工学術院 教授・同大スマート社会技術融合研究機構 機構長・同大卓越大学院PEPプログラム プログラムコーディネーターの林泰弘教授、早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 総合機械工学科・同大大学院 環境・エネルギー研究科の草鹿仁教授(同大次世代自動車研究機構 機構長)、O ltd. CEOでMakaira Art&Designおよびザ・ソーシャルグッドアカデミアの代表を務める大畑慎治氏の4人の審査員が紹介された後、学生たちによるプレゼンテーションが始まった。

東京電力ホールディングスの河野氏

早稲田大学の林教授

早稲田大学の草鹿教授

O ltd. CEOなどを務める大畑氏

学生らしい着眼点と専門知識を活用したアイデアが続々登場!

最初に登壇したのは、東京大学 工学部 システム創成学科3年の2人によるチーム「ひかり」。病院へ通院する高齢者に特化した乗り合いタクシーの配車サービス「トピタル(Taxi Of Hospital)」を発表した。

(写真左から)「ひかり」の西村理季(としき)さんと谷口尚紀さん。2人は同じ学部の同級生であり、同じサークルで活動していた仲間でもある

自家用車からの二酸化炭素(以下、CO2)排出量と、高齢ドライバーによる交通事故の多さに着目。同じ時間帯に通院する患者を集め、既存のタクシー業者に乗り合いでの配車を依頼することで、タクシー業者は新たな顧客獲得にもつながり、患者も安くタクシーを利用できるというサービスだ。

スマホの操作が苦手な高齢者が主な顧客となるため、スマホアプリではなく病院にデジタルサイネージを設置して集客。その広告費を病院に支払うことで、病院側にもメリットが生まれる。複数人で乗り合いタクシーを利用することで、CO2排出削減にも寄与できるという仕組みだ。

「トピタル」のビジネスモデル

「トピタル」のアイデアは、それだけにとどまらない。仕組みを流用して、通塾する子供たちの送迎サービスにも転用できる点、乗り合いタクシーにEVを導入して災害時には病院への電力供給を行えば地域医療の災害時のレジリエンス強化にもつながる点なども披露して、発表を締めくくった。

続いては、椙山女学園大学 現代マネジメント学部 2年の9人による、マンション区分所有者間のカーシェアリング「カルノリ」のプレゼンテーション。1人当たりを1km移動させる際に排出されるCO2量は、航空機やバス・鉄道と比べて自家用車が多いというデータから、「自家用車の台数を減らせばCO2排出量も減らせる」として、大規模マンションの駐車場に置かれている自家用車をマンション住民で共有して利用するカーシェアリングのビジネスアイデアに結び付けた。

(写真左から)水野英雄准教授のゼミ生9人が協力して考えたアイデア。この日は髙橋華さん、松田成未(なるみ)さん、坂根璃胡(りこ)さん、武藤愛佳(まなか)さんの4人が代表で発表を行った

自家用車を所有するマンション住民が車を利用しない時間帯に、利用を希望する他のマンション住民に貸し出すことができる。マッチングはアプリで行うため直前でも予約可能で、レンタカーやカーリースよりも手軽に利用でき、お得感ある利用料金に設定することもできるとアピールした。

「カルノリ」を利用した際の料金モデル。レンタカーとほぼ同額だが利便性は高いため、競争力があると訴えた

「カルノリ」が実現すれば自家用車の台数自体の減少に結び付くため、自家用車の維持・管理だけではなく、マンションの駐車場建設・解体に伴うコストや資源・エネルギーの削減、マンション住民間のコミュニティ形成につながる。

また、自家用車を提供する側、利用する側双方にメリットがあるとした上で、大手デベロッパーの社員から「マンションの付加価値を高めるいいプラン」という意見をもらったことも説明。所有するマンションの資産価値を高めることにもつながることを披露した。

3番手として登壇したのは、早稲田大学3年の2人による「Well-Vehicle」。ITを用いて安全で利便性の高い交通社会を実現したスマートシティの仕組み作りをビジネスアイデアに落とし込んだ。

(写真左から)これまで「ウェルビーイング(市民の幸福感)」についても学んできた早稲田大学 先進理工学部 生命医科学科3年の倉橋輝(ひかる)さんと、コンサルティング企業へのインターンでデータ解析に携わってきた同大学 社会科学部 社会科学科3年の澤田健佑さん。お互いの経験を生かした内容だった

道路や交通に関するさまざまなオープンデータを利用して最適なルートを割り出すということは、既存のマップアプリなどでも行われている。このアイデアではそれに加え、利用者の好みなどについての個人データやウエアラブルデバイスによって走行中の生体データも収集、解析することで、暮らしの課題を特定できるとした。

「Well-Vehicle」のビジネスモデル

さらに、さまざまなデータや評価基準が乱立する現状についても触れ、このアイデアでは一元化されたデータを民間企業や自治体に提供することでEBPM(証拠に基づく政策立案)を推進するとともに、新たな市場を開拓していくことを目指せると訴えた。

最後は中央大学 法学部3年の3人のチーム「のらりくらり」によるプレゼンテーション。宅配便における不在時の再配達が約11.1%にも上り、それに伴うCO2排出量が年間約25.4万tに達し、さらに運送業界の人手不足にも拍車をかけているという問題に着目。多くの人が利用しているメッセンジャーアプリ「LINE」を複数の宅配業者と連携させ、さらに街中にある宅配ロッカーの利用を促進することで再配達の発生を防ぐ「再配達削減のための宅配業者連携公式ライン」のアイデアを発表した。

この日は中央大学 法学部3年の板橋知哉さんと原彩夏さん(写真左から)が代表して登壇

再配達削減をしようとしても、荷物の受け取り手にとっては再配達を減らすメリットがないこと、街中にある宅配ロッカーが十分に利用されていないこと、玄関前の「置き配」にはリスクを感じる人が多いことなどの課題があることを指摘。「のらりくらり」はこのビジネスアイデアで、LINEを使って指定した宅配日時に従って自宅で荷物を受け取る、あるいはLINEを通して宅配ロッカーに荷物の配達を依頼すればLINEポイントが付与され、再配達を減らすメリットを生み出すことができると説明。

「再配達削減のための宅配業者連携公式ライン」のビジネスモデル

国内の宅配業者は大手3社が95%を占めているため、その3社と連携できればほとんどの荷物をカバーできること、大手3社が再配達を削減することで生まれた利益の一部を利用者に付与するLINEポイントに充てられることなど、実現の可能性やマネタイズについての考えも示し、プレゼンテーションを終えた。

全国142チームの頂点、EMIRA最優秀賞に輝いたチームは?

審査員は別室に移り議論を重ね、ついにEMIRA最優秀賞が決定。全国の学生から集まった142アイデアの頂点に立ったのは、「ひかり」による「トピタル(Taxi Of Hospital)」だった。

EMIRA最優秀賞を手中に収め、笑顔を見せる「ひかり」の西村さん(中央)と谷口さん(右)

審査員を務めた草鹿教授は「料金設定が非常に具体的で、競合他社のベンチマークもしっかりしていた。通院だけでもアイデアとしては完結していたが、そこに通塾やEV、災害時のことまでアイデアに盛り込んできたことで、若い人たちの想像力を遺憾なく発揮してくれたと感心した」と評価。

受賞した「ひかり」の西村さんは、「僕たち2人は普段サイエンスを勉強している。100人いれば100人が同じ答えを出せる学問。ただ今回感じたのは、ビジコンで大切なのは想像力や直感、ひらめきというアート領域の力。今後はその部分もしっかりと磨いて社会に出て活躍していきたいと感じました」と抱負を述べた。

ほかKADOKAWA賞には「のらりくらり」、TEPCO賞には「椙山女学園大学 現代マネジメント学部」、優秀賞には「Well-Vehicle」がそれぞれ選ばれた。

各チームの表彰の後、審査員を務めたPEP林教授が総評。「本当に刺激的だった。次の若い世代にたすきを渡すことが我々の使命」などと、参加した4チームをねぎらった。

総評を行うPEP林教授

最後に「みんながワクワクドキドキしながら幸せになっていく中で、結果的にCO2排出を削減できるのが理想的な社会。ぜひ皆さんの柔らかい発想で引っ張っていってもらいたいと思います」と若い力に期待を寄せ、最終審査の幕が下りた。

「EMIRAビジコン2024」に参加した全ての学生が今後も変わらず「モビリティ×エネルギー」について関心を抱き続けてくれるなら、思い描く「理想的な社会」の形成も夢物語ではない――。そう思わせてくれる最終審査だった。

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