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道路補修工事がなくなる!?「自己治癒するコンクリート&アスファルト」のすごい効果

工事にまつわる環境負荷・費用・時間が大幅カットできる「インフラ長寿命化」のメリットとは?

最新の自律移動ロボットが導入されるなど、建設現場で活躍する「機械」は今、自動化・最適化が進められている。では、コンクリートやアスファルトといった道路に用いられる「素材」そのものにイノベーションは起きていないのだろうか。インフラの長寿命化を目指す會澤高圧コンクリート株式会社の研究開発から、道路工事の未来を探った。

コンクリートのイノベーションで地球を救う

北海道に拠点を構える會澤高圧コンクリートは、高耐久なコンクリート配合設計技術で知られる。その技術力を生かし、道路などインフラの主要素材の課題を解決するためのプロダクトやソリューションを数多く研究・開発してきた。中でも非常に興味深いのが、「自己治癒するコンクリート」だ。

「自己治癒するコンクリート」の試験サンプル。中央の白い亀裂が修復した部分

画像提供:會澤高圧コンクリート

同社の技術研究所に所属し、主に海外との技術移転を担当する中村聖二氏は、「道路の舗装とひとくくりに言っても、構成する割合はアスファルト約95%、コンクリート約5%。それに高架部の舗装下部にはコンクリートや鋼材が用いられており、それぞれに課題を抱えています。そこで、われわれがまず取り組んだのが、私たちの主力製品であるコンクリートの課題解決です」と語る。

「『自己治癒するコンクリート』を開発しようとした背景には、環境問題への懸念があります。コンクリートの原料となるセメントを1t生産しようとすると、およそ0.8tの二酸化炭素が排出されます。日本のセメント消費量は年間で約4300万t。そこから計算すると、約3400万tもの二酸化炭素が大気中に放出されていることになるのです。日本の場合、これは全産業の放出量のうち5~7%に相当します」

コンクリートはその頑強さから安全性に対して高い信頼があり、道路などには欠かせない素材だ。ただ、その生産によって地球環境に負荷をかけることは、今の時代に許容されるものではない。そこで、コンクリートを長持ちさせ、二酸化炭素の排出を削減しようという目標を會澤高圧コンクリートは掲げてきた。

加えて、日本ではこれから道路などの補修工事が増加し、国や地方自治体の財政を圧迫することが確実視されている。仮に自己治癒するメンテナンスフリーのコンクリートを生み出せれば、「サステイナブルなインフラ整備も可能」(中村氏)となるだろう。

「実は、そもそもコンクリートには自己治癒する性質があるのです。しかし、年数が経過するとその能力が低下して直りが悪くなる。施工状況にもよりますが、基本的に5年から10年たてば、一度は補修が必要になることが多いのです。そして、その原因の大半は『収縮』です。コンクリートは、硬化の過程で20mの長さに対して0.5~1mm程度の収縮が避けられません。結果、建造物全体にストレスがかかってマイクロクラックなどのひびが入り、そこから水と酸素が侵入して、骨格となっている鉄筋部分を腐食させてしまう。鉄筋が腐食すると、さびの膨張圧によってコンクリートがさらに壊れていく悪循環が起こってしまいます」

小さな亀裂が、倒壊などの原因となることもある

画像提供:會澤高圧コンクリート

自己治癒するコンクリートとは

では、自己治癒するコンクリート改め、「自己治癒能力が高いコンクリート」とはどのようなものなのか。

會澤高圧コンクリートは、生物が持つ自己修復能力をコンクリートに組み込むことで実現できるのではないかと考えた。というのも、コンクリートの原料となる石灰石(炭酸カルシウム)はバクテリア(細菌)が起源だからだ。

ところが、課題が立ちふさがる。コンクリートの主成分であるセメントはアルカリ性なのだが、日本国内でアルカリに強い耐性を持ったバクテリアを探すことが難しかった。

「時には、コンクリートに“納豆”を入れてみたこともあります(笑)。しかし、いずれのケースもアルカリにバクテリアが全て殺されてしまいました。情報収集の末にたどり着いたのが、オランダ・デルフト工科大学のHendrik marius Jonkers博士の研究です。博士は長らくバイオ技術によるコンクリート自己修復を研究されていました。そこで、2017年に契約し、共同開発をすることになったのです」

研究によって生み出されたバクテリア「Basilisk HA」(以下、バジリスクHA)は、普段、胞子に包まれコンクリートの中で休眠している。しかし、コンクリートにひびが入ると目を覚まし、周辺にある乳酸カルシウムを分解して石灰石を生成していく。

共同開発されたバクテリア「バジリスクHA」のサンプル

画像提供:會澤高圧コンクリート

バクテリアは“餌”となる乳酸を取り込むと、“排せつ物”として石灰石を放出する

画像提供:會澤高圧コンクリート

「コンクリートの中にバジリスクHAを点在させると、ひびから侵入する水と酸素が引き金となって生物活動を開始し、石灰石を排出してひび割れを徐々に埋めていってくれる。バクテリア自体は自己複製を繰り返しながら増殖し、ひび割れが修復して、水と酸素がなくなれば、再度休眠に入ります。そして、再びひびが入れば、同じように活動を再開する。これが、自己治癒能力が高いコンクリートになるという仕組みなのです」

実際に自己治癒を行ったコンクリートの様子。バジリスクHAによる炭酸カルシウムの沈積によってひび割れが自動修復された(Before=図A、After=図B)

画像提供:會澤高圧コンクリート

実は、コンクリートのクオリティーは国によって異なる。特に日本のコンクリートは世界的に高い水準にあるそうで、會澤高圧コンクリートは品質基準を日本市場に合わせた上で、2020年内の実用化を目指しているという。

また、補修用で言えば、既に販売を開始している製品もある。水で溶いたバクテリアを散布して既存コンクリートの自己治癒能力を補う液状タイプ「Basilisk ER7」と、ひび割れた隙間に充てんするモルタルタイプ「Basilisk MR3」の2種だ。

「ER7は、コンクリートの小さなひび割れや傷に吹き付けて使用します。また、大きめのひび割れを補修するためにMR3も用意しました。この2つの製品は、既存のインフラの維持補修や修復後の自己治癒化の実現でお役に立てているのではないかと思っています。そもそも日本のコンクリート生産技術は非常に高く、20~50年は耐えられる性能を持っています。しかし、多くのコンクリートインフラは建設から50年以上が経過している。それをどうやってさらに10~20年伸ばすか。研究や製品化を通じて、日本のコンクリートの長寿命化を実現していきたいです」

アスファルトも自己治癒する

會澤高圧コンクリートではコンクリートだけでなく、道路のもう一つの主要素材であるアスファルトのイノベーションにも取り組んでいる。こちらは「自己治癒するアスファルト」と名付けられている。

「車の走行、停止や始動、紫外線、温度変化などが要因となり、アスファルトは劣化します。よって、定期的な補修が必須となり、そこには多くのコストがかかる。日本では、年間でおよそ6000~7000億円が投じられています。また、補修工事には通行規制がつきものですよね。交通渋滞による社会損失は、時間的損失のみならず排気ガスによる環境汚染も大きな社会問題となっています。われわれはその課題解決のために、自己治癒するアスファルトも研究しているのです」

アスファルトが“自己治癒”する仕組みはこうだ。

まず、新たに道路を敷設する際に、アスファルト混合物(舗装用材料の総称)の中にアスファルト(接着剤の役割)を再活性させるカプセルとスチールファイバーを混ぜる。再活性カプセルの中には、アスファルトを柔軟にするオイルが入っており、小さなひび割れなど初期の劣化は、このカプセルによって修復される。

本格的な補修が必要となったら、路面をIH(誘導加熱)機器搭載の電磁誘導用車両で走行する。中に含まれたスチールファイバーが加熱され、およそ80℃に達すると、接着材の役割を担うアスファルトが柔らかくなる。そうなれば、舗装材料の大部分を占める骨材(砕石)との活着を取り戻し、路面が復活するのだ。

「技術的には可能」と中村氏が語る“自己治癒するアスファルト”。日本では社会実装するため、認定や認証などクリアしなければならない条件が多いという

画像提供:會澤高圧コンクリート

「自己治癒するアスファルトや関連ソリューションが実現できれば、コンクリート舗装の耐久性を高め、修繕工事までの期間を伸ばし、長寿命化が実現できます。電磁誘導による治癒は、歩く速さと同等となる1時間に3~4kmの補修をすることを目標にしています。同じ距離を補修しようとすると、通常のオーバーレイ工事(舗装工法の一つ)の交通制限に必要な期間は1週間ほど。現在、実用化に向けて電磁誘導用の車両開発に取り組んでいるところです」

大型ハイブリッドドローンが補修作業、その先の未来

素材開発だけでなく、會澤高圧コンクリートでは現在、前述した自己治癒材バジリスクの液状タイプであるコンクリート修復剤の活用方法を広げるため、ドローン研究にも注力しているという。橋梁(きょうりょう)タイプの高速道路など高所にあるインフラの場合、足場を組むことも難しい。そこでドローンを使って作業を代替できないかというわけだ。

専用機体を開発するため、マサチューセッツ工科大学(MIT)出身のLong Phan博士らが率いる米国ドローンスタートアップ「TOP FLIGHT TECHNOLOGIES」と提携。長時間飛行と大型積載重量を両立できるハイブリッドエンジンを搭載したドローンと、そのオペレーションについて共同で研究開発している。

「日本には橋長2m以上の橋が70万橋以上あり、われわれの地元である北海道だけで3万橋もあるのです。地元への貢献という点だけでも、やれることはたくさんある。補修工事にはドローンの力が有効だと思いますが、まだまだ実戦に耐えうる機体やオペレーションの精度を高めていかなければなりません。今後も研究を続け、コンクリート関連のソリューションと相乗効果を生んでいきたい。また、電磁誘導の原理を使うアスファルト関連のソリューションやドローンは、基準化や法規制がネックの一つとなっています。技術開発だけでなく、法律との擦り合わせも続けながら、イノベーションを育んでいきたいです」

ドローン開発は、インフラの維持・管理・修復だけでなく、災害の予測や救援、被害調査、物資輸送、さらには農畜産業へのサービス展開など、幅広い活用を検討している

画像提供:會澤高圧コンクリート

現在の日本において、インフラの長寿命化を目指す技術革新は、時代的要請から考えても一日でも早い実現が求められる待ったなしの状況だ。規制と既存の産業構造を変化させていく道路技術の“破壊的イノベーション”の登場に期待したい。

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