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開発進む日本最大級のバイナリー方式地熱発電所! 環境配慮・地域との共存に期待が高まるオリックスの取り組み

自然の力を活用、環境へ配慮した建設が可能に

近年、再生可能エネルギー事業を推進しているオリックス株式会社。中でも地熱発電事業に着目、全国的に注力し、現在、北海道函館市に国内最大規模のバイナリー方式発電所(南茅部<かやべ>地熱発電所/2022年稼働予定)を建設中だ。国内初の技術投入により発電所の敷地をコンパクト化し、周辺の環境や景観、地元事業への配慮を徹底。環境に溶け込んだ温泉エネルギーの活用を進める同社環境エネルギー本部事業開発部地熱チームの田巻秀和課長に、南茅部地熱発電所の概要をはじめ、同社が考える地熱発電のビジョンについて伺った。

投資・不動産事業経由のエネルギー事業参入

“温泉大国”日本では地熱発電の潜在性は高い。

あふれ出る温水を漬かるだけでなくさらに有効活用できないものか──。1925(⼤正14)年に、九州屈指の温泉街・別府温泉(大分県)で⽇本最初の地熱発電(出⼒1.12kW)に成功。以来、東北、九州、北海道の各地方を中心に地熱発電事業は徐々に広がっていった。

しかし、その開発過程は費用対効果の面から、企業的には他の発電事業に比べると参入に及び腰になりがちだ。異業種から参入したオリックス株式会社の田巻氏もこう話す。

「例えば太陽光発電の場合、資源はいつも空にありますが、地熱発電は井戸を掘って、熱源が確保できた場合にやっと太陽光と同じスタートラインに立てる事業なのです」

熱源が確保できない場合もあれば、掘削・開発の過程が自然環境に影響を及ぼす可能性もあり、周辺への配慮、そして地域の人々との共存が不可欠である。この課題に対し、オリックスは現在、地熱発電所では日本初となる技術を用い、自然や地域への配慮を最大限に行い、地熱発電所の開発を進めている。

同社の再生可能エネルギーへの取り組みは、投資がスタートだった。

「1995年、風力発電事業に出資し、いわゆる投資家の立場で携わったのがきっかけです。そこで事業そのものを自社で取り組める環境が整い、出資する側から事業を行う側へとシフトしていきました。一番最初に動きだしたのが太陽光、その後、地熱、風力と続きました。バイオマス発電に関しては、FIT制度(再生可能エネルギー固定価格買取制度)施行前から運営しているんですよ」(田巻氏)

地熱発電への取り組みも「不動産事業で、大分県別府市の温泉旅館『別府温泉杉乃井ホテル』を保有したこと」が始まりだったという。

同社が取得した杉乃井ホテルはさかのぼること1981年、ホテル事業で初めて地熱発電所を本格稼働した。

「自家発電用として運営している地熱発電所のデータを調べたところ、FIT制度なども考慮すれば、改めて事業として成り立つ算段が立ち、取り組んでみようということになりました。

専門の技術者を集め事業部門を発足させた後は、データから得たノウハウをフル活用し、ポテンシャルの高い地域へアプローチ。地域から『やりましょう!』と声が上がれば本格的に動きだすという流れが加速していきました。その流れの一つが函館市南茅部地域でした」

「南茅部地域は、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)による地熱促進調査の有望地域の一つで、地元の方々との話はとてもスムーズでした」(田巻氏)

「南茅部地域は過去に地熱事業に関する調査が行われていたものの、手を挙げる開発事業者がなかなか出てこなかったようで、井戸の掘削に反対の声もなく、むしろ『本当に地熱発電所ができるの?』『やれるならやってみた方がいい』という期待のこもった反応で、ありがたかったです」

温泉バイナリー発電とは、100℃以下の温水で代替フロンなどの低沸点の媒体を蒸発させ、その蒸気で発電機を回す方式。南茅部地熱発電所は発電出力6,500kWで同方式の施設としては国内最大規模となる(画像は杉乃井地熱発電所)

温水の透水性が実現させた新技術の投入

こうして2014年に始まった南茅部地熱発電所の建設では、地域、そして自然へどのような配慮がなされたのだろうか。

「掘削は、南茅部地域の2カ所の温泉で約6年間並行してモニタリングを実施。温泉への悪影響もなく行うことができました。また、同地域はコンブ漁で有名で、漁場への土砂流出を防ぐため漁の時期は一部工事を中断させるといった配慮をしました」

南茅部地熱発電所建設地での噴気実験のようす。「発電所は内陸の森に建設していますが、森の豊かさは海の豊かさに通じますので、コンブに影響が出ないよう綿密な事業計画を提案しました」(田巻氏)

この提案に盛り込まれていた具体策の一つが、掘削において国内で初めてラインシャフト方式のダウンホールポンプを採用することだった。

「温水のくみ上げポンプは先端にモーターが付いているタイプが主流ですが、ラインシャフト方式ではモーターは地上に設置され、シャフト先端のプロペラだけで温水をくみ上げる仕組みとなります。この方式ならくみ上げ時にモーターが高熱で壊れてしまうリスクが回避できるのです。結果、井戸の本数を減らし、開発に必要な敷地面積のコンパクト化も可能になりました」

井戸の本数と開発面積が減ることで自然への影響をおさえられる。海外では200本以上も採用されているダウンホールポンプだが、これまでなぜ日本で使われなかったのだろうか。

「国内メーカーは対応できず、海外からのポンプの搬送が大掛かりになることに加えて、透水性(温水の土中における流れやすさの数値。ダムや井戸など土中構造物の建設に重要視される。近年はゲリラ豪雨対策に透水性の高いコンクリートが開発されている)の高い井戸でのみ使用できることが理由に挙げられます。南茅部地域は井戸の透水性が高かったことが功を奏したと言えますね」

「発電に使用した温水は地下に還元し、再び熱せられたものをくみ上げ発電に使用できるよう計画しています。また冷却装置に空冷方式を採用することで蒸気の排出がなくなり、樹木へのダメージを抑えることもできます」(田巻氏)

温泉が点在する北海道には森町、弟子屈(てしかが)町など地熱発電をきっかけに地域活性が進んでいる自治体もあり、南茅部地域でもこの画期的な地熱発電所の稼働に期待を寄せる声が多いという。

「地熱の余剰熱を周囲へ供給する事例もありますが、南茅部発電所は集落や他の施設から離れた山奥という立地で、地元への還元予定は今のところありません。ですが、建設から稼働に至る地元企業との連携、地元のお祭りなど催し物への参加、交流を積極的に行っています。稼働すれば数十年続く事業ですので、末永く自然環境、そして地域と共存していけたらと考えています」

遅いけど早い?事業としての地熱の可能性

南茅部地熱発電所以外にも計画中の事業を含め、地熱発電を積極的に進めているオリックスだが、同社において本事業は、少し特殊な立ち位置にあるようだ。

「大規模事業を複数抱える弊社において、地熱発電は相対的に小さな事業と見られ、どうしても準備に時間を要し、手間ひまをかけることから『事業スピードが遅い』と社内評価されがちです。太陽光部門をうらやましく思うこともありますね(笑)」(田巻氏)

「地熱発電が可能な地域は主に北海道、東北、九州地方が中心。各地で掘削しているのですが、資源が期待値に至らない事例もあります。事業は掘削して終わりではなく、地域への貢献を含めて進めています」(田巻氏)

ただ社外(電力会社や資源会社など同事業を進める企業)からは“新規参入ながら、事業スピードが早い”との評価もあるようで、田巻氏も「部署の立ち上げ時に自ら手を挙げてよかったと感じていますし、これからも前向きに、そして気長に取り組んでいきたいと考えています」と、取り組みがいを語る。

「最近は、地熱事業に興味を持って、社内の公募制度で異動してきた社員も多いです。地熱開発の現場を見学した際、温泉とは違う、パワフルに噴き出す蒸気を目にして『地球の力を感じた!』と感動し、すっかり地熱に魅せられた女性社員もいて、部署内では“地熱女子”なんて呼ばれていますね(笑)。そんな新たな戦力が、これからの地熱発電を開拓していってくれるはずです」

CO2がほぼ排出されない、クリーンな再エネの一つである地熱発電。

地中深くでうごめくエネルギーが、昼夜や季節の変動にかかわらず安定した電気をつくる方法として、ますます活用される可能性を秘めている。

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