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新開発の小型発電機と“温泉廃熱”が温泉街の未来を切り開く!

長野県諏訪市とヤンマーエネルギーシステム株式会社が温泉熱発電の可能性を探る

長野県諏訪市は行政主導で温泉の配湯事業を行う、国内でも珍しい温泉地だ。その歴史は古く、鎌倉時代初期には、すでに人々が利用していた記録が残る。しかし、そんな諏訪市の配湯事業も1992(平成4)年をピークに利用者が減少。温泉を市民の生活文化であり、かつ重要な観光資源であると捉える諏訪市は、新たな利活用法を模索する。そして2016年、経済産業省の「地熱発電の資源量調査・理解促進事業費補助金」を活用して行った調査によって、同市湖岸通りに位置する「あやめ源湯」で廃熱を利用した発電の可能性を見いだした。EMIRAでは2020年10月、「あやめ源湯」で小型発電システムの実証実験がスタートしたことを第一報としてトピックスにて掲載済み。今回は実証実験を行う諏訪市水道局とヤンマーエネルギーシステム株式会社に、経緯や展望などの詳細を聞いた。

温泉を活用したい諏訪市と廃熱を活用したいヤンマーの思い

長野県諏訪市では、諏訪湖畔に湧く温泉を一部地域の希望住民に有料で引くことで、住民サービスの一環としてきた。しかし近年になって高齢化や人口減少によって利用者が激減。諏訪市は入浴だけではなく、暖房への利活用など温泉の新たな使い道の模索を始める。

そこで着目したのが、温泉廃熱を利用した発電システムだ。

ヤンマーホールディングスのグループ会社であるヤンマーエネルギーシステム株式会社(大阪府大阪市/以下、YES)が、湖岸通りの「あやめ源湯」に小型発電機を設置し、2020年8月にシステムの実証実験がスタートした。
※当時の記事『温泉から作る再エネ! 長野県諏訪市で小型発電システムが稼働開始』

長野県諏訪市水道局 施設課温泉係の飯田嘉幸氏は「温泉は市民にとって生活文化の一部であり、観光業などの事業者にとっては経営資源です。永続的な安定供給のために、温泉の新たな利用方法の研究・情報発信が求められていました」と語る。

そうして諏訪市では「あやめ源湯」の利活用についての模索をするのだが、一筋縄ではいかなかった。

「発電の可能性が見いだせたあやめ源湯は住宅街に位置し、しかもホテルに隣接しています。それゆえ課題となったのが騒音。発電機選びの最重要ポイントとして、騒音などの影響が出やすいクーリングタワーを使わず、かつ源湯施設内で使用している水量だけで発電を行える、小型の発電機が必要でした」(飯田氏)

その選定は困難を極めた。いくつかの企業から業務提案がなされたものの、発電能力が十分でなかったり、冷却水を使用するために源湯温度が低下し配湯事業へ影響が出たりと、事業化に至るものはなかった。

「そんなときに耳にしたのが、YESで小型の発電機が新規開発されるというニュースでした」(飯田氏)

YESが諏訪市での実証実験のために製作したORC(オーガニック・ランキン・サイクル)発電機。ダブルベッドほどの非常にコンパクトなサイズだ

大阪に本社を構えるYESは、空調システムや発電システムなどの開発・製造、施工、メンテナンスを行っている企業だ。

その事業の中に、ガスによる発電と同時に廃熱を有効活用する、コージェネレーションシステムがある。これは必要な場所で、必要なときに、必要な分だけ発電できる高効率なオンサイトシステム。元々は天然ガスを燃料とするので、地球温暖化防止にも貢献する。

「天然ガスの代わりに、余った熱を利用して電気に変えることができないかというのが、その小型発電機開発のきっかけです」

そう語るのは、YESソリューション推進室技術開発部熱電グループ小野泰右課長だ。

実証実験開始に向け、諏訪市とのさまざまな折衝を行ったソリューション推進室の小野氏

「最初に行ったのは、国内に余った熱がどれくらいあるかを調べること。すると環境省が発表しているものを含め、相当量あることが分かりました。数年前までは廃熱が注目されることはありませんでしたが、最近は『高効率化』という考え方が浸透する中で、廃熱にも注目が集まってきたわけです」(小野氏)

そこでYESは、少量の廃熱でも発電できる小型のORC発電システムの開発に着手。これをYESのホームページで知った諏訪市が問い合わせをしたことで、両者のコラボレーションがスタートすることになる。

捨てるしかなかったエネルギーを活用することに活路を見いだす

YESが開発するORC発電システム。ORCとは「オーガニック・ランキン・サイクル」の頭文字をとったもの。

地熱や工場廃熱などの高温で水を熱し、それによって生まれた蒸気でタービンを回転させてエネルギーを生む仕組みがランキン・サイクル。これを水の代わりに有機媒体(オーガニック)を使うから、ORCとなる。

オーガニック・ランキン・サイクルの仕組み。ポンプを使って有機媒体を蒸発器に送り込む。ここで廃熱(諏訪市の場合は温泉)を使って加熱。膨張機で膨張したエネルギーを回転力として発電する。使い終わった有機媒体は冷却水を通って、再びポンプへ。これを繰り返していく

「仕組みとしてはバイナリー発電(加熱源により沸点の低い媒体を加熱・蒸発させ、その蒸気でタービンを回す方式)にも使われるもので、目新しいものではありません」

YES開発部試験部の岩見拓馬氏が解説する。

「ORCで使う有機媒体には沸点の違いなどさまざまな特性を持つものがあります。諏訪市の場合は『HFC-245fa』というもの。特徴は低沸点冷媒であり、100℃以下でも十分に熱を回収できるところにあります。またオゾン破壊係数がゼロで、地球温暖化係数が低いことも大きな特徴です」

ポイントは、低沸点冷媒であることだ。低温水利用はエネルギー効率として高くはないが、元々は廃熱である。捨てるエネルギーを回収して再利用できると考えれば、エネルギーコストはゼロだ。

利用率が下がっている温泉の新たな活用法として「発電」にチャンスを見いだした諏訪市は、YESのORC発電システムに興味を持ち、実証実験を共同で行うことを決めた。

岩見氏が隣接するホテルの窓から撮影した、実証実験の現場。ホテルとの距離の近さが実感できる

YESのORCシステム導入を決定した要因について飯田氏は、「まず発電機自体が小型であったこと。実証実験の結果を見た後で、有力であれば複数台設置できる可能性が見て取れたことは良かったです。限られた温水と冷却水を有効に使えるわけですからね」と語る。

一方、YESの小野氏は「ORC発電機を試したいと思っていた規模に合致したのです。加えて、実証実験でまずは1台を投入し、その結果いかんで増設できるという仕組みも、諏訪市のニーズに合うものだったと思います」と言う。

諏訪市とYESは、お互いが求めるものが見事に合致したというわけだ。

諏訪市がYESに最初に打診したのは2018年10月。協議を重ね、諏訪市が議会に実証実験としての事業報告を行ったのが翌2019年12月だ。

そこからYESではORC発電機の製作に入り、諏訪市では発電するための設備工事(熱交換器や配管など)を行うとともに、電気事業法に定められた電気主任技術者を選定。2020年6月にORC発電機をあやめ源湯に設置し、試運転を行った後、8月から実証実験がスタートした。

ORC発電機ならエネルギーを効率よく活用することができる

「実証実験に臨む上で課題となったのは音です。ORC発電機は、例えば工場の機械室の中に入れることを想定していたので、騒音対策がほとんど施されていませんでした。ところが諏訪市で設置するのは住宅街で、かつホテルの隣。そこで24時間フル稼働させたいということで、とにかく音を小さくしなければなりませんでした」(岩見氏)

実証実験に使用するORC発電機の開発を担当した、開発部試験部の岩見氏。実証実験スタート後も現地に足を運び、データを観察している

課題となったのは発電を行う「膨張機」の振動だ。ORC発電機は構造上、この「膨張機」が絶えず振動している。その振動音を抑えるために、内部はもちろん、支える台座部分の構造まで見直す必要があった。

「台座の剛性を変えたり、設置する際に浮かせてみたり、さまざまな手法を試しました」(岩見氏)

防音対策には諏訪市も取り組んだ。

「実証実験であるために防音に予算をかけることができず、必要最低限のコンパネと工業用防音シートなどを用意しました。最終的にはYESの尽力もあり、簡易な防音設備で騒音を基準内に収めることができました」(飯田氏)

ORC発電機の騒音対策として、全体をコンパネで覆う。この処置はYESではなく、諏訪市が行った

騒音対策を施してスタートした実証実験だが、YESが気にするもう一つの課題「信頼性」については、これから使用していく中で検証されることになる。

では、このORC発電機でどれくらいの電気を発生させることができるのか?

「諏訪市の運転条件ですとORC発電機に入ってくる温水の温度が約85℃。一方、冷却する冷水温度は15~20℃くらいとなっており、今のところ平均で7.5~8.5kWくらいの出力です。これはおおよそ期待通りの数値ですね。カタログ値では9kWと表記していますが、それは温水90℃、冷水20℃という条件ですから」(岩見氏)

温水の温度が発電量に及ぼす影響は大きいが、元々は廃熱だ。大きな出力を得ることが目的ではなく、出ているものをいかに再利用するかという諏訪市の目標とは、今のところ合致する結果が出ている。

「例えば、他社の大型ORC発電機の場合、新たに採掘してより高い温度の温水を持ってきたりする必要があります。そのためには準備期間もコストも必要です。しかし弊社のORC発電機は、すでにくみ上げている温泉の排水ラインを使って、そこにある温度のままで電気を生み出すことができます。その意味でも諏訪市の実証実験は、使い方として非常に良い例になっていると思います」(小野氏)

現場に設置されているORC発電機のPRパネル。実証実験について、地域住民に対してこのように可視化することは、SDGs(持続可能な開発目標)の側面からも重要な取り組みといえる

実証実験が始まって、まだ4カ月。その結果を問うには時期尚早ではある。

しかし飯田氏は「今回の実証実験によって売電収益を上げることが可能であれば、温泉収益として温泉利用料に反映したいと考えています。また住宅地であるために条件は厳しいですが、発電によって生まれた二次熱水の有効活用も検討したいです」と、今後の期待を語る。

また小野課長は「温泉熱に限らず、工場廃熱やバイオマス、大型発電機の冷却水などORC発電機に活用できる廃熱は多いと思っています。しかし、それを使えているユーザーは少ないはず。実際、工場などでは冷却塔を建てて大気中に廃熱を捨てている例も多いのです。そういうところにORC発電機を入れることができれば、少しでも効率よくエネルギーを活用できるようになります。エネルギーの有効活用に貢献していきたいですね」と、これからの展望を語った。

廃熱という少ないエネルギーを大事に集め、環境負荷を減らす形で電気を生み出し、われわれの生活や産業に生かしていくORC発電機。

そのさらなる可能性への模索が、長野県の温泉街で始まった。

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