2021.10.28
脱プラの一手に。紙×ポリ乳酸の自然由来素材「PAPLUS®」製タンブラーが発売へ
販売から回収、そして再利用のサイクルを確立して市場へ投入
紙と生分解性樹脂であるポリ乳酸を合わせることで、石油由来樹脂の使用割合をほぼ0%に抑えたプラスチックの代替素材「PAPLUS®」(パプラス)を開発したリサイクル素材開発のベンチャー企業・株式会社カミーノ。2019年に素材開発を発表してから約2年、ついに一般向け製品を2021年11月からリリースする。どれほどの可能性を秘め、どの程度社会に浸透していきそうな素材なのだろうか。詳細を聞いた。
- 第1回脱プラの一手に。紙×ポリ乳酸の自然由来素材「PAPLUS®」製タンブラーが発売へ
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プラスチック代替素材で作った製品が販売開始
2020年7月よりコンビニエンスストアなど小売店でレジ袋有料化が始まり、「脱プラスチック」という言葉を耳にする機会が増えた。捨てられたプラスチックゴミが海に流れ着き、海洋生物が誤飲するなど自然環境に悪影響をもたらしていたことがその背景にある。
その後、2021年6月にプラスチック資源循環促進法が成立し、買い物時に無償で配布される使い捨てスプーンやフォークといった12品目のプラスチック製品についても、国は2022年4月の同法施行と同時に有料化することを目指している。
このように環境汚染への対策から脱プラスチックの流れが強まるにつれ、注目を集めるのがプラスチックの代替素材だ。
代替素材に求められるのは、石油由来のプラスチックとは異なり微生物の働きによって最終的には二酸化炭素と水にまで分解され、自然界へ還(かえ)っていく「生分解性」だと言える。
日本のみならず世界中のメーカーが低環境負荷の素材開発を進める中、リサイクル素材開発のベンチャー企業・株式会社カミーノ(以下、カミーノ)が2019年に開発を発表。それが、生分解性樹脂であるポリ乳酸に粉末状の紙を合わせることで、製品の安定製造に必須なごく一部の添加剤を除き石油由来樹脂の使用をほぼ0%に抑えた素材「PAPLUS®」(パプラス)だった。
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PAPLUS®を用いて作られた試作品
「2019年の発表から約2年かけ、食器や容器、日用品など異なった形状のものでも大量生産できるように原材料の組成や金型、成形ノウハウなどを改良してきました。その結果、ついに本格的な販売を開始できるめどが立ったのです」
そう語るのは、カミーノ代表取締役の深澤幸一郎氏。コロナ禍の影響で想定より商品開発が若干遅れはしたが、この11月にPAPLUS®を用いた一般消費者向け製品の予約受付を開始し、12月には順次発送するのだという。
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通常のプラスチックとは粘度なども異なるため大量生産が難しく、成形用の金型にも工夫が必要だったと語る深澤氏
そんなPAPLUS®という素材の特性は、次のようなものだ。
・紙と、トウモロコシやサトウキビ搾汁のデンプンを発酵して得られる乳酸から作られるポリ乳酸という、いずれも生分解性を持つ素材を複合している
・ポリ乳酸の弱点だった耐熱性や耐久性が、自然由来の粘土鉱物を添加することで改善され、120度の高温にも耐えられる
・独自開発した金型や技術で、石油由来のプラスチック同様、自由に成形することができる
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販売開始までには数々の失敗作が生まれた
「環境への意識が高いEUなど欧米諸国でもプラスチックの代替素材はいくつも開発されていますが、このような特性を持ちながら、かつ石油由来樹脂の使用割合がほぼ0%という素材はほとんど見ることがありません」
カミーノの取締役である鍵本政彦氏も、その独自性に胸を張る。
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主に生産管理や販売を担当する鍵本氏
生分解ではなく、回収してリサイクルすることを重視
深澤氏は、初めに念押しする。
「誤解されがちなのですが、生分解性があるからといって、そのあたりに適当に放置しておけば土に還るというわけではありません。生ごみや落ち葉などを堆肥化させたコンポスト環境下や土中でなければうまく分解は進みませんし、コンポスト環境下でも分解するのに3~6カ月程度の時間が必要です」
そのためカミーノでは、「使用後はその辺に放置すればいい」というようなことは推奨していない。
目指すのは、使い捨て文化からの脱却。つまり製造から販売、そして回収、リサイクルと、素材を循環させていくこと。まさに、紙のリサイクルと同じ構造だ。
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カミーノが目指すリサイクルの形
資料提供:株式会社カミーノ
製品は回収後に粉砕し、未使用のペレット(ポリ乳酸と粉末状の紙の混合物)を混ぜて品質の劣化を防ぎつつ、新しい製品にリサイクルすることができる。
前述の通り、素材自体には石油由来の成分はほぼ使われていない。ただし、耐熱性を高めるため商品化する際には粘土鉱物と微量の添加剤が加えられている。120度までの高温に耐えられるグレードの商品の場合、天然由来成分の使用割合は93%になる。
「本当は天然由来成分100%にしたいのですが、やはり耐熱性や耐久性を考えると現状難しいです。最近では『天然由来成分100%』とうたった商品を見ることもあります。ただ、よくよく聞くと『添加剤は原材料ではないから』と言って除外して計算しているようなものも少なくありません。竹の箸と言いながらも、主成分はプラスチックで竹の使用割合は3%しかなかった、なんてこともありました」(深澤氏)
欧米は環境への意識が高いと思われているが、実はそのような「グリーンウォッシング(環境に配慮していると見せかけている)」の製品も目に付くのだという。今後の社会では、グリーンリテラシーといった能力も必要になってくるだろう。
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左から紙の粉、ポリ乳酸、そしてPAPLUS®のペレット。紙の粉とポリ乳酸を合わせるときに熱を入れるため、紙の粉にヤケが生じやすい
カミーノが目指すリサイクルは、実現すれば「見せかけ」ではない理想的なリサイクルだと言えるが、問題は販売した製品をどのように回収するかだ。
学校の給食や企業の社員食堂、あるいはホテルやレストランに向けたトレーや食器だと一度に大量納品するため、まとめて回収もしやすい。では、個人向けの販売分はどうするのか。
「販売した製品それぞれにロットナンバーを割り当てます。そのナンバーを見れば、いつどこで売られたものかが分かる仕組みにしています」(鍵本氏)
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2021年末までの発売を予定している法人向けのタンブラー(サンプル)
「個人で購入いただいた方にはロットナンバーと共に、使用し終えた製品を返送していただくことになります。そこでポイントやクーポンの制度を導入し、返送いただいた方には返送料分程度のインセンティブを還元することを検討しています」(鍵本氏)
紙を素材に使った理由とは?
このようにPAPLUS®開発はあくまで手段として考えられており、それを使うことでプラスチック使用量をどう減らしていくかを念頭に置いている。だが、なぜ紙を使うという発想に至ったのだろうか。
実は、カミーノはそもそも紙のリサイクル会社として2015年に創業している。創業前、深澤氏は再生紙メーカーへのコンサルティングを行っていたことがあり、この先を生き残るための事業戦略考案に携わったのが大きく関係する。
「当時は、脱プラスチックに関心を持つ国内企業はまだまだ少なかったですし、サステナビリティなんて言葉も定着していませんでしたが、EUを中心に急激に盛り上がりつつありました。そこで、紙の分野でリサイクルの総合プロデュースができる会社を目指すべきだと提案したところ、『じゃあやってください』と。それが創業のきっかけになりました」(深澤氏)
創業当初、広島県広島市の平和記念公園に年間約1000万羽も届く折り鶴を再生紙に変えて循環していくプロジェクトに携わった。
「折り鶴を再生して作った『FANO』(ファーノ)という扇は好評でした。2015年8月6日に被爆70年を迎えた広島市で開かれた式典で、エシカル(倫理的)かつサスティナブルなお土産として採用していただきました」(深澤氏)
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広島市の平和記念公園に届けられた折り鶴
撮影:仁井慎治(エイトワークス)
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折り鶴を再生して作られた扇「FANO」
写真提供:株式会社カミーノ
さらに再生紙をリサイクルして作ったバンダナなど、紙を布にして使う商品の開発も進めた。その中で、強度や耐熱性といった、素材としての紙の弱点が気になるようになっていく。同時期、2015年12月に採択されたパリ協定の影響もあり、国内でも地球温暖化やサステナビリティといった単語が一般的になっていた。
「EUを見ても、この先は脱プラスチックの流れになると感じていました。その時に、植物由来で自然に還る紙と、同じ植物由来で生分解性を持つ樹脂をうまく合わせられれば、プラスチック問題に一石を投じる日本発のソリューションになるんじゃないかと思ったのです」(深澤氏)
ただ「環境にいい」だけではない製品に
再生紙からスタートし、さまざまな思いや技術が詰まっていることは分かったが、今後、商品をどう世に広げていくのか。
「まずは食器関係を学校やレストラン、ホテルなどに販売していくつもりです。ただ、それに加えタンブラーなどをカフェやファッションブランドにも取り扱ってもらおうと、話を進めています」(鍵本氏)
通常のプラスチック製品の主な原材料であるポリプロピレン(PP)に比べて、PAPLUS®の主原料であるポリ乳酸(PLA)はkg当たりの単価が4倍程度高くなるという。製品化すると価格差はかなり縮まるが、一般的なふた付きタンブラーが2000~4000円程度で買えるところ、PAPLUS®製は4000円強になる見込みだ。
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11月中旬より予約受付が始まる予定のプラスチックフリータンブラー。価格は4620円(税込)。ロットナンバーはパッケージまたは同梱されるカードに刻印される
photo:千葉正人
「価格のハンディを埋められる、高付加価値商品にしていければ」と、深澤氏。
現在、世界各地でポリ乳酸をはじめとするバイオプラスチックの増産が急ピッチで進められている。ただ、大量生産が可能になったとしても、PPほどコストダウンすることは難しいそうだ。
「PPなどの安価なプラスチックが必要な分野もたくさんあるので、なくなることはありません。これからの製品は脱炭素のためにも、プラスチックでなくていいものには使わないという方向に変わっていくでしょう。デザイン性が高くて長く使えるもの、そして不要になればリサイクルもでき、土にも還るもの。そうした循環型ライフスタイルごと提案できればと思っています」(深澤氏)
カフェやショップで「面白いものを見つけた」というような軽い気持ちで手に取り、後でその裏に隠されたシリアスなストーリーにも気付いてもらう。カミーノが目指すのは、そんな広がり方だという。
環境問題を意識せず、そうした製品を誰もが自然と使う時代が来たとき、脱プラスチックも実現に近づいているのだろう。
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