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紙、リバイバル。

お菓子、ボディーソープ、生鮮食品の脱プラ。印刷会社が開発する紙製パッケージの実力

プラスチック製品から紙製品へと置き換えが進むパッケージ業界の今

脱プラスチックへ向けた社会の動きが活発になって以降、従来プラスチック製だった製品を紙などの環境低負荷の素材に置き換えるケースが見られるようになった。その中でも大きな話題になった一つが、「キットカット」の外袋の紙化だろう。開発したのは、印刷大手の凸版印刷株式会社。同社は他にも、水回り製品や生鮮食品用トレーの紙化にも着手。どのようなパッケージが紙に置き換えられつつあるのか、なぜそれを手掛けるのが印刷会社なのか。詳しく聞いた。

印刷会社ならではの技術で「キットカット」の外袋を紙に

2019年9月、ネスレ日本株式会社が製造・販売しているチョコレート菓子「キットカット」の大袋タイプ製品の外袋が、それまでのプラスチック製から紙製へと変更になった。

SNSなどでも話題になったので耳にしたことがある、あるいはスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの売り場で実際に見たことがあるという人もいるはずだ。

この変更の背景にあるのは、2015年9月の国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、世界的に環境配慮や省資源化といった取り組みに注目が集まったことだ。ネスレ日本は実際に「キットカット」大袋タイプの外袋紙化を推進したのだ。

プラスチック製から紙製へと変わったことで話題になった「キットカット」の外袋。現状では中に入っている個別の包装はプラスチック製

画像提供:ネスレ日本株式会社

その紙製外袋をネスレ日本と共同開発したのが、印刷大手の凸版印刷株式会社だった。印刷会社と聞くと、書籍や雑誌、フライヤーやポスターなどの印刷を行う会社だとイメージするが、凸版印刷の事業は印刷だけではなくコンテンツ制作やマーケティング、エレクトロニクスと多岐にわたる。

「そのうちの一つがパッケージ事業です。印刷会社が?と思われるかもしれませんが、実は弊社の事業の中でも主要なものの一つになっています」

そう語るのは、凸版印刷 西日本事業本部 事業戦略本部事業戦略部の和田伸午(わだ・しんご)部長だ。新規事業の策定などを担当しており、パッケージ事業にも深く関係している。

キットカットの外袋紙化においては、大きな課題が2つあったという。一つが耐久性で、もう一つが印刷だ。

「凸版印刷」という社名だが印刷以外の業務もあり、それを行う社員は年々増えているそう。「実は私も入社以来の二十数年間、書籍や雑誌の印刷という業務に携わったことがありません」と和田部長

「まず耐久性ですが、プラ製の袋と違って紙製の袋は、屈曲したときに破れやすい。運送中に段ボール箱にぶつかったり商品同士で擦れ合ったりしても破れないように製紙メーカーさんとも相談を重ねながら、バランスのいい厚さの紙を選びました」

さらに、和田部長は印刷についても次のように語る。

「一般的には紙よりプラ製の袋に印刷した方が色の再現性が高いと言われています。ですが、弊社が培ってきた印刷技術で、ほぼ同レベル色の再現性が実現できたため、販売が実現しました」

印刷会社ならではの技術が、紙製外袋を生み出せた大きな要因だったのだ。

印刷会社が提案する新しい紙製パッケージの特徴とは

代表的な紙製パッケージの一つに、今でもよく見かける日本酒の紙パックがある。この登場は1970年代までさかのぼる。当時は、海外で紙製パッケージの技術が登場し始めたころであり、凸版印刷は日本での開発、販売を手掛け始めた。

「牛乳パックと似た形状ですが、日本酒の賞味期限は牛乳よりかなり長く、約1年。その間に日光から守り風味を維持させるための特殊なフィルムを内側に張り合わせた紙パックを、『EP-PAK(イーピーパック)』という名称で約40年前に売り出しました」

凸版印刷のパッケージ事業の最初期から製造されている「EP-PAK」。今も日本酒売り場などで見掛ける

画像提供:凸版印刷株式会社

重たく形状が円筒状の瓶より軽く、組み立てると直方体状になる紙の方が輸送コストも安い。そんな「EP-PAK」は凸版印刷のパッケージ事業の主力商品になり、今もなお技術革新を繰り返しながら販売が続いている。

「キットカットの外袋のようなパッケージ素材を軟包材と呼んでいます。最近注目を集めたのはこの軟包材でしたが、実は『EP-PAK』を発展させて脱プラに適合した紙製パッケージも既に販売しているのです」

それが「キューブパックTM」だ。「EP-PAK」の技術を応用して作っているため形状が似ているように見えるが、決定的に違う点が2つある。一つが「キューブパック」には底面に紙を張り合わせた部分がなく、もう一つが天面にも張り合わせた部分がないので口栓を天面に付けられることだ。

側面で紙を張り合わせる「キューブパックTM」の構造は「EP-PAK」と大きく異なる

画像提供:凸版印刷株式会社

「底面に紙を張り合わせた部分がないので、水回りで使っても紙の重なった面が浸水しにくくカビが生えにくいのです。さらに、天面の真上に口栓を付けられたことで、プラ製容器のように洗って乾かしてから中身を入れ替える必要がなくなります。パッケージ自体が付け替え用の容器になり、プラ製ポンプを付け替えるだけ。大幅に入れ替えの手間を省けます」

色の付いた水に「EP-PAK」(左)と「キューブパックTM」(右)を漬ける試験を行った結果。「EP-PAK」は紙の張り合わせ部分から浸水するが、「キューブパック」は影響がほとんどない

画像提供:凸版印刷株式会社

これで、従来のプラ製容器よりも石油由来材料の使用を55%抑えられるのだという。ただ、プラスチックの代わりに紙を使うとなると、結局捨ててゴミになるのが少し気になるところだ。

「実は弊社でもその点は気になっていました。そのため、紙には森林破壊につながらないように計画的に管理された森林の伐採木を原料にした森林認証紙を使っています。さらに牛乳パックと同じように回収に出せば、ティッシュペーパーなどの原材料としてリサイクルされるのです」

このように、これまでのプラ製容器よりも大きく脱プラ化、省資源化できるのが「キューブパック」だ。2019年2月に開発を発表して以降、化粧品大手の株式会社コーセーと株式会社Sunshine Delightが共同開発した日やけ止めクリーム「SunDひやけどめ」の容器に採用され、生活協同組合(生協)のパルシステムにはボディソープの容器として用いられている。

SunDひやけどめ(左)と、パルシステムのボディソープ(右)

画像提供:「SunDひやけどめ」株式会社コーセー(左)、パルシステム生活協同組合連合会(右)

特にパルシステムは牛乳パックなどを独自回収するルートを構築しているため、「キューブパック」も同様に回収可能だ。

さらに、和田部長は「キューブパック」ならではの利点がもう一つあると指摘する。

「それはパッケージの見た目です。プラ製容器ですと、天面や底面には印刷がないはず。でも『キューブパック』は天面にも底面にも印刷できる形状になっているんです。ささいなことかもしれませんが、これによってパッケージで商品の魅力をよりアピールしやすくなるのではと考えています」

これは印刷会社が開発したパッケージならではの利点だといえよう。

さらに、現状では印刷・成形済みの「キューブパック」を納入し、メーカーが内容物を注入して商品化する仕組みをとっているが、将来的に印刷して平たく折り畳まれた状態の紙製パッケージを納品する仕組みも考えている。

実現すれば、納品された平らな紙製パッケージをメーカー側が箱の形にし、その上で内容物を詰めて製品として出荷していくことになる。これまでのような空の容器よりも効率的に運搬することができる。凸版印刷が考えるこの仕組みが実現すれば、空のパッケージの輸送にかかるコストや環境影響は低減できるだろう。

「キューブパック」が実現するパッケージ輸送時のスリム化もまた、現代社会の課題に貢献する部分は大きい。

白いプラ製食品トレーも紙に置き換えられる

ここまでキットカットに用いた紙製の軟包材と「キューブパック」について取り上げてきたが、凸版印刷のパッケージ事業は紙製のものだけに注力しているわけではない。

「パッケージにおいては紙製、プラ製は適材適所のような関係でして、紙製の方が良い場合もあれば、プラ製が適している場合もあるのが現状です。そのため弊社では、どちらも取り扱っています」

和田部長はこう話しながらも、「ただし」と続ける。

「やはり昨今の情勢で、紙製パッケージの問い合わせが増えているのも事実です。ですので、現状は紙に置き換えられるものは置き換えましょうという姿勢で、新しいパッケージの開発に取り組んでいます」

その姿勢から新たに開発された紙製パッケージがある。スーパーマーケットなどで肉や魚などが入れられているプラスチック製の食品トレーを代替する「グリーンフラット」だ。台紙の上に食品を置き、上から特別なフィルムで圧着するパッケージになっている。

食品を台紙の上に置き、上からフィルムで圧着する「グリーンフラット」

画像提供:凸版印刷株式会社

「グリーンフラット」の仕組み

資料提供:凸版印刷株式会社

買い出しをすれば必ずと言っていいほど付いてくるプラスチック製の食品トレー。あれを紙に置き換えられたのなら、プラスチック使用量の削減に大きく貢献できるだろう。2020年に発表され、現在食肉の卸や輸出を手掛けるスターゼン株式会社が導入している。

「グリーンフラット」を使用したスターゼン株式会社の食肉商品

画像提供:スターゼン株式会社

プラスチック製トレーではなく、「グリーンフラット」で包装することで、プラスチック使用料削減以外の利点はあるのだろうか。

「台紙の印刷によって、より食品をおいしそうに見せることができるようになります」

プラスチック製トレーは、だいたいの商品が白い。比べて「グリーンフラット」はデザインや写真などが印刷可能で、食品の魅力をこれまで以上にアピールできることにつながる。

「さらに、台紙にQRコードを印刷すると、どうでしょう? 買い物時でもスマートフォンで読み取れば、その食材の産地やあるいはその食材を使ったレシピなどの情報にアクセスさせることも可能です」

今後スーパーマーケットやコンビニエンスストアで買い物する際に、ふと売り場の印象が華やいだと感じるときが来るかもしれない。それは、「キューブパック」や「グリーンフラット」が今以上に広まり、脱プラスチックが進んだ社会になっていることの表れだろう。

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