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パブリックトイレも建設用3Dプリンターで印刷する時代へ! 最先端技術×発想力で工程の効率化を目指す

3Dプリンター×ドローンで未来のトイレの設計・建築に取り組む會澤高圧コンクリート株式会社

2020年9月、會澤高圧コンクリート株式会社は国内で初めて「3Dプリンターで小規模建築物を“印刷”した」と発表した。この小規模建築物(2基の公衆トイレ)は、各企業の最先端技術を組み込んだ未来志向の特徴を備えている。その特徴とこれからの展望について、同社執行役員の東 大智氏に伺った。

3Dプリンターの最新技術にいち早く着目

北海道苫小牧市に拠点を構え、生コンからプレキャスト(側溝や管、マンホール、くい、橋桁、建物の一部などのコンクリート製品を工場であらかじめ製造すること)、基礎地盤などの事業を展開する會澤高圧コンクリート株式会社。

バクテリアの代謝機能を活用してクラック(ひび割れ)を自ら修復する自己治癒コンクリート(Basilisk)など、マテリアルと先端テクノロジーを掛け合わせた研究・開発を行っている。中でも非常に興味深いのが、「コンクリート3Dプリンター」だ。

2011年に入社し、プレキャストコンクリート(コンクリート二次製品)の設計に携わっていた東 大智(あずま たいち)氏。2015年より同社の研究開発部門・アイザワ技術研究所の研究員を兼務し、2018年より3Dプリンターの導入・活用に関する研究に取り組んでいる。3次元ソフトウェアで作成した設計データを基に、複雑な断面形状を積層した立体造形を出力する3Dプリンターへの可能性を見いだしたという。

「樹脂などの3Dプリンターは今でこそ家庭向けも登場していますが、セメント系材料を使用したものは国内での実績は乏しい過渡期にありました。2018年に当時の最新技術を学びに、オランダやドイツ、中国など学べると思えばどこへでも向かいました。また、実際に使いこなそうとすると、アームなどのロボット技術やその使用方法も必須になります。他にも、普通のコンクリートとは全く異なる特殊材料に関しても徹底的に学びました」

その機会を通じて東氏および會澤高圧コンクリートは、3Dプリンター研究・開発の先進的な企業の一つであるオランダのベンチャー企業、サイビー・コンストラクション社(以下、サイビー社)とライセンス契約を結び、2018年9月にABB社(スイス)の大型ロボットアームとサイビー社のコントローラーを組み合わせたセメント系材料用の3Dプリンターを導入した。

會澤高圧コンクリートが導入した3Dプリンター。幅2380×奥行き2220(mm)で、土台にクローラーを備え、建築現場へ運び入れての出力も可能。材料運搬の軽減、効率化も図ることができる

そんな先進的な3Dプリンターを導入した翌2019年、社内で新たにSDGsチームが発足し、東氏がリーダーに就任。チームが取り組んだミッションの一つが、SDGsにおける持続可能な開発目標の「6:安全な水とトイレを世界中に」の実践だった。

「SDGsチームは20~40代が中心で、女性スタッフも3名配属されました。私自身も一からSDGsを勉強しつつ、彼女たちに主体性を持って動いてもらっています」(東氏)

「この目標を基にチーム内で“インドに上下水道不要の公衆トイレを設置する”プロジェクトが発案されたのですが、そもそもインドでの事業も、トイレを事業として手掛けるのも初めてで、とにかく、まず一度現地に行ってみなければといった感じでした」

海外のトイレ事情、建築基準法…難題を乗り越えて

程なくSDGsチームは現地へと飛び、日本では想像し難い公衆トイレ事情を知ることになる。

「まず個室に鍵がなく、夜間に利用者が暴漢に襲われる事件が起きていたり、たまった糞尿を地下浸透させる方式により土壌汚染が深刻化しているなど、驚かされることばかりでした」

チームはこれらの解消には、高額かつ時間を要するインフラ整備より“上下水道と連結させずに使用できる自己完結型トイレ”の普及が望ましい、という判断に至った。

「もちろん私たちの技術だけでは困難だったので、パートナー探しから始めました。その過程で、“バイオトイレ”という技術をお持ちの正和電工株式会社(北海道旭川市)さんにご一緒していただくことになりました」

正和電工のバイオトイレの概念図。小便や大便、トイレットペーパーをおがくずで分解処理し、肥料として再利用でき、第一次産業が盛んな日本でも、エコの観点から注目されている

資料提供:正和電工株式会社

この他にも、空気中から水を生成できる装置を開発したアクアムホールディングス株式会社(東京都港区)など、多方面の協力企業との出会いがプロジェクトを推し進める原動力となった。東氏も「さまざまな企業とのタイミングのいいご縁が、非常に重要でした。ありがたかったです」と振り返る。

自己完結型トイレの内部構造についてのめどは立ち始めた。だが、同社の本業である外郭、建築物をコンクリートで印刷するという部分には、まだ大きな壁が残った。

それを乗り越えるすべを見いだす上でも“インドでの挑戦”には意味があった。

「日本では建築基準法が厳しく、3Dプリンターでコンクリート造の建物を出力・建築すると基準に抵触してしまいます。そこでまずは法的に可能な海外、インドでチャレンジしたという事情がありました。3Dプリンターを利用した建築を普及させたいという意味では、公衆トイレのサイズ感がうってつけだったという理由もあります」

3Dプリンター制トイレは、まず1基をデリーのトイレ博物館に寄贈予定だったが、新型コロナウイルスの世界的まん延により現地での着工が現状では困難となる。

そこで東氏は試行錯誤し、「3Dプリントした中空状の外装を型枠代わりに、その中にコンクリートを充てんし配筋を施した鉄筋コンクリート造とする」ことで、建築基準法をクリア。国内で出力・建築を実現した。

北海道深川市の工場に設置されたインド向けトイレのプロトタイプ。細やかな装飾やコンクリートの美しい湾曲も出力、“花のつぼみ”をイメージした現地の景観にマッチする外観に

「屋根を含めて全7パーツで形成され、プリントに合計5時間ほど。その後、外壁の設置や内装に2週間ほどを要し、約1カ月で建てられる計算になります。通常の施工・建築と比べると工期は通常の1/3~1/4となり、人的なエネルギー効率が高いと言えるでしょう。扉の解錠は、アプリによるスマートロックを採用しました。これはインドでもスマートフォンが広く普及していることが決め手です。また、ブロックチェーンで利用状況をレーティングできる仕組みも導入し、次の利用者のためにトイレをきれいに使う習慣が定着できればとも考えています」

インド向けと併せて“札幌市型トイレ”の印刷も。「札幌市内の公衆トイレの建築基準に沿って設計し、印刷しました。国内向けに自治体や企業の参考になればうれしい」(東氏)

印刷された2基のうち、1基は国内展開を視野に入れたもので、各地から反響も届いている。

「世界遺産の仁和寺(京都市)が管理している“御室八十八ヶ所霊場”に2022年度中に3Dプリンターでトイレを新たに設置する計画が進行中です。霊場が山中にあり、上下水道のインフラもなく、バイオトイレとしての特徴にも興味を示していただきました」

資材の運搬が困難な山中へ、3Dプリンターを自走させて運び入れ、現地で印刷・組み立てを行うことで環境への負荷も軽減できる。また、現地の特徴を踏まえ、バイオトイレは株式会社エコまるくん(兵庫県西宮市)の循環式トイレを導入予定という。

「バイオトイレの大きな課題に“電力の安定”があります。エコまるくんの循環式トイレは限られた敷地でもソーラーパネルで発電した電力のみでポンプを動かし、水を循環させることができ、より条件に適したパフォーマンスを発揮できると期待されています」

未来のトイレは3Dプリンター×ドローンで造られる!?

3Dプリンターで出力されたトイレには、まだまだ課題もあり今後も改善に取り組むという。

「電力の安定・確保もそうですが、空気循環や暑さ・寒さ対策も必要で、設計データをアップデート、デザインすることで改善は可能です」

現在、3Dプリンターで新たにグランピングスペース(テント型宿泊施設)を建築中で、設置場所の計画も含めて、手ごろな大きさの建築物での実績を重ねている。

「トイレを印刷している3Dプリンターは、クローラー付きの本体上部にロボットアームを搭載したタイプですが、次の段階として、4本の柱の中をロボットアームが縦横無尽に動いて印刷するタイプ(ガントリー式)へ移行する予定です。このタイプになると印刷範囲がより拡大し、大型建造物にも対応できるようになります。さらに、3Dプリント機能を搭載したドローンを開発し、飛行しながら印刷できる技術の確立も目指しています。これならば極論、大きさの制限はなくなると考えます」

2023年4月操業予定で、福島県浪江町に研究(Research)・開発(Development)・生産(Manufacturing)の3機能を兼ね備えた次世代中核施設「福島RDMセンター」を建設中。東氏は同施設で3Dプリンター×ドローン活用の研究・開発を担う

コロナ禍の影響で海外展開が難しい中、東氏は「(海外展開は) 落ち着けば、また改めて挑戦したい」と思いを明かす。

国内外を問わず3Dプリンターの可能性と、その技術がもたらす恩恵は、SDGsの観点からも多大な変革をもたらすはず。

もしかしたら近い将来、あなたが利用した公衆トイレがミライを切り開く入り口になるかもしれない。

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