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利用者にも管理者にも快適さと使いやすさを! 三菱地所とTOTOが考える“5年・10年後のオフィストイレ”

メンテナンスの効率化や節水、省エネ化と同時にジェンダーレス化についても研究を加速する

2021年7月、三菱地所株式会社とTOTO株式会社のコラボレーションにより「TOKYO TORCH常盤橋タワー」に誕生したオフィストイレ「nagomuma restroom(ナゴムマ・レストルーム)」。昨今のトイレは空間としても多様な機能が望まれつつあるが、同施設は“体と心のリフレッシュ”を目的とし、生き生きと働くための未来志向のトイレとして注目を集めている。その特徴と狙いを、三菱地所株式会社 TOKYO TORCH事業部 事業推進ユニットの牛尾莉緒氏と、TOTO株式会社 販売推進グループ 特販本部の久冨勤子(いそこ)氏に話を伺った。

オフィストイレの進化の可能性を検証

三菱地所は現在、東京駅日本橋口周辺を再開発する「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」を進めている。その中核を成し、2027年度に竣工が予定されている高さ390mの「Torch Tower」は、「あべのハルカス」(地上300m/大阪市阿倍野区)を抜いて日本一の超高層ビルとなる。

プロジェクトを担当する同社TOKYO TORCH事業部 事業推進ユニットの牛尾莉緒氏は、「2017年の始動時より、“2027年度にふさわしい街づくり”に重きを置き、中でもオフィス部分は、オフィスワーカーの皆さんにとって居心地の良い空間の追求、その実現を目指しています」と説明。

その上でトイレの位置付けをこう話す。

「トイレという誰もが共通して使う場所が“5年後・10年後、未来はどうなっているか?”を検討し、実現を目指すことになり、世界でその名が知られるTOTOさんへのご相談に至りました」

“10年先の、未来のトイレを”というリクエストに「とても素晴らしく、タイミング的にもベストなご相談でした」と、TOTO株式会社で三菱地所の建物を担当する販売推進グループ特販本部の久冨勤子氏が話す。

「弊社の製品は国内外で高評価をいただいている一方で、“現在のトイレが完成形なのか?”“まだ進化の余地があるのでは?”という思いを常々抱えているのが現状です。特にオフィストイレは、オフィスの在り方やオフィスワーカーの働き方が変化する反面、節水や省エネ、清掃など技術面以外での変化に乏しく、より進化を求められるカテゴリーと考え始めた矢先でした」

2021年6月に竣工した「常盤橋タワー」。建設予定の「Torch Tower」と合わせて、「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」の中核を担う

(C)yama1221 / PIXTA(ピクスタ)

TOTOが実施した意識調査によると、「トイレ・化粧室の快適性が仕事のモチベーションに大きく影響する」という回答が多く挙げられた。

TOTOではオフィストイレの在り方を考えるべく2018年に意識調査を実施。仕事のモチベーションにトイレが大きく影響するという調査結果も出ていた

画像提供:TOTO株式会社

「オフィスではコミュニケーションが重要な一方、一人でリラックスできる時間も大事です。一人になって心身を休めて、気持ちを切り替え、頭を活性させる…それをオフィスで可能にする唯一無二の場所がトイレだと考えます。トイレを単なる排泄場所にとどめず、“特別な場所”と位置付け、今回の計画を進めました」(久冨氏)

こうして2社は協議を重ね、その着想を「Torch Tower」へ実装するための技術検証を兼ねて、「TOKYO TORCH(東京駅前常盤橋プロジェクト)」内で先駆けて竣工した常盤橋タワーに導入したのが「nagomuma restroom」である。

「いろいろな検証データを取りたいという狙いから、テナントにより男女比や使用時間に偏りが生じることも考慮し、できるだけさまざまな方が共用できる下層フロアのスペースに設置しています」(牛尾氏)

「和む間」という意味を冠したネーミングの「nagomuma restroom」は一般利用も可能。中に入ると六角形の個室ブースが並ぶ(写真は女性化粧室)

オフィストイレは、建物の端に隠れるように設置されがちだが、「nagomuma restroom」は建物のほぼ中央部分の、明るく人通りも比較的多い通路沿いに設置された。

「トイレは敷地の余剰スペースや薄暗い場所に造られることが多かったものの、リフレッシュ空間としてリラックス効果が認知されつつあり、少しずつですが、その認識に変化が起きています」(以下、久冨氏)

その一方で、オフィスビルならではの事情が変化の障壁にもなっている。

「開発部門の視点からすれば、コストとスペースを極力投じさせない発想もあります。これまでもオフィストイレについてさまざまな提案を行ってきましたが、推進し難い事情があったとも感じています」

こうした状況の打破に一石を投じる意味でも重要な施設となっている。

六角形の空間が生み出すリラックス効果

実際に「nagomuma restroom」で、どのようなリフレッシュ効果が得られるのか──。

六角形に設計された個室ブースには、プライバシーが守られ、かつ包まれるような安心感のある空間を演出する工夫が男女共通で盛り込まれている

画像提供:TOTO株式会社

「六角形の個室を4パターン設置し、気分と好みで選ぶ楽しさを演出しています。足を踏み入れると、足元の照明がともり、便座に座るとサウンドが流れリラックスタイムが始まります。照明は人が快適に感じる色、明るさのバランスにこだわり、サウンドも内装に合わせて4種類の音源が流れます」(牛尾氏)

個室にはそれぞれテーマを持たせた4タイプの内装が採用されている。ブラウンを基調とした木目調で落ち着きやぬくもりを与え、緊張を緩和する個室「くつろぎ」(左)。ベージュが基調の優しい色合いの空間で、ほっと安らげる「いきぬき」(右)

都会的に洗練され、落ち着いた雰囲気で高揚した気持ちを静める「おちつき」(左)。爽やかなホワイトを基調とした空間によって、気分を一新し、心と体が冴え渡る「ひらめき」(右)

また、個室の構造は密閉性にもこだわり、トイレ空間で包み込まれる感覚を存分に味わえる。

「個室は本来、換気の都合で扉の上部を開けて設計されますが、今回は“完全なプライベート空間”というテーマの下、換気機能などを強化し完全密閉型にこだわりました。外からは何も見えずブース内で世界が完結しているというのは、とても面白い取り組みだと思っています」(久冨氏)

「『nagomuma restroom』のネーミングは利用者への分かりやすさを意識し、とてもしっくりときています。『トイレに行こうよ』より『nagomumaに行こうよ』の方が、より親しみやすく感じていただけるかと思います」(牛尾氏)

「六角形の間取りは面積を要してしまうものの、四角形と比べて広がりと包容感が生まれました。リラックス効果が高まり、働く人の気分を切り替えるトイレにふさわしい形状になりました」と牛尾氏は実感を込めて話す。

今後、タワー内の利用者へのアンケートも実施予定だが、既にさまざまな感想が届いている。

「就業フロアからわざわざ降りてきたのか、たまたま通りかかったのか、トイレを利用する目的は同じでも、足を運んだ理由が違うのではないか?と。そういった声を集めることで『nagomuma restroom』の有効性を確認できるのでは、と考えています」(久冨氏)

「2カ所の個室は2辺にドアを設置し、男女ブースの切り替えを可能にしています。オフィストイレにおける“個室の数が足りない”という意見への対応として、テナント入居後に男女比に合わせて調整できる仕組みを試験的に導入しています」(久冨氏)

画像提供:TOTO株式会社

メンテナンス効率化の重要性

TOTOでは、地球環境に貢献するサスティナブルプロダクツの提供をTOTOらしさと位置付けて、「nagomuma restroom」において節水と省エネ観点、さらにコロナ禍でニーズが高まっている非接触にもこだわって設備とトイレタリーを提案。

特筆すべきは、2021年6月より展開が始まった「TOTOパブリックレストルーム設備管理サポートシステム」が導入された点だ。

センシング技術を活用した「空き状況表示サービス」と「設備管理サポートシステム」の2軸で、管理の効率化を重要視する三菱地所にとって期待のシステムでもある。

AIとIoTを活用して空き情報を配信する「空き状況表示サービス」(サービス提供:株式会社バカン)では、個室の混雑状況を利用者がスマートフォンやサイネージによって、遠隔&リアルタイムで把握することができる

「メンテナンスの実情としては、清掃や消耗品の補充は人の手で行われますが、オフィスビルの階数が増えれば増えるほど、トイレの個数も、労力や手間も必然的に増えていきます。地上63階のフロア数を有する『Torch Tower』ではメンテナンスの効率化は重要な課題で、その解決策となる技術でした。『nagomuma restroom』は同システムを導入した最初の施設です」(牛尾氏)

各地で超高層ビルの再開発が進む一方、労働力不足が懸念される日本において、未来のオフィストイレは、メンテナンスの効率化が不可欠と言える。

設備管理サポートサービスのシステム概要図。「水回り器具×IoTでトイレ空間をサポートし、利用者の不満と施設管理者の負担を軽減します」(久冨氏)

画像提供:TOTO株式会社

「ハンドソープやトイレットペーパーの過不足を何度も確認して回るのは大変な労働になってしまいます。それが、端末を通じて消耗品を補充すべきフロアも、トイレの詰まりも一括管理して清掃担当者に伝わることで、手間も時間も省くことができます」(牛尾氏)

「研修で商業施設の清掃に同行した際、たくさんの数のトイレを短時間で清掃されていて本当に大変だと衝撃を覚えました。だからこそメンテナンスの簡略化・効率化はもっと加速させていきたいと考えています」(久冨氏)

利用者にも管理者にもより良い空間へと進化するオフィストイレ。「nagomuma restroom」のさらにその先、トイレはどのような課題を乗り越えていくのだろう。

前述の通り、AIとIoTを活用して空き情報を配信するなどのテクノロジー面はもとより、国(経済産業省)も女性の健康課題を解決する「フェムテックの推進」に乗り出し、女性個室トイレから女性特有の健康問題を啓発するなどのアプローチを行っている。

「女性には生理や出産前後、さらに年齢を重ねて起きる体の変化などさまざまな悩み事があります。女性が長く、安心して働き続けられるオフィスビルを創出するためには、女性のウェルネスという視点が重要であり、『nagomuma restroom』のような空間が、より求められていくと思います」(牛尾氏)

「『nagomuma restroom』は当初、性的マイノリティーへの配慮の実現も検討されていました。時代の変化と共に、トイレのジェンダーレス化についても研究・検討を加速させたいと考えています」(久冨氏)

「常盤橋タワー」は2023年より完全再エネ化を実現させ、トイレを含めた全電力を環境に配慮していく。

環境に、エネルギーに、人に優しい──。

そんなオフィストイレの在り方が、これからのスタンダードになりそうだ。

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