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進化するメタバース

日本発の3D都市モデル「PLATEAU」が導くメタバースな都市計画

パノラマティクス主宰・齋藤精一氏が考える未来のまちづくり

近年、頻繁に耳にするようになった「メタバース」。その拡大が今年、急加速している。大きな動きの一つに、2021年3月に国土交通省から発表された3D都市モデルのオープンソース「PLATEAU(プラトー)」がある。「まちづくりのDX(デジタルトランスフォーメーション)」の一施策として作成された“地図”には、都市を構成するあらゆる情報が3次元の仮想空間に網羅され、実社会の動きをリアルに近いレベルで分析することが可能となる。都市が変われば、人の動き、ビジネスの方法、エネルギーの使い方も変わる。仮想空間上に生まれたプラットフォームが、これからの都市をどう変化させるのだろうか。プロジェクトのディレクションを手掛けるパノラマティクスの齋藤精一氏に話を聞いた。

始まりは地図への危機感

建物や街路など、実際の都市にある構造物を3Dで作成し、形や名称、用途、建設年といった属性情報を付加する。目に見えるものと見えない情報を問わず、現実世界で都市空間を構成する物体のデータをデジタル上に視覚的に再現したのが「PLATEAU」だ。

現在は国内56都市の3Dデータのほか、土砂災害や洪水による浸水災害の想定をするデータなども組み込まれており、気候や交通などの変化を高い解像度で分析・シミュレーションすることができる。

PLATEAUはまちづくり、防災、サービス創出など、さまざまな分野への活用が期待される

この3D都市誕生の先駆けは、2017年の経済産業省が主催したデジタルインフラ化の先を見るプロジェクト「3D City Experience Lab.」(3Dシティ・エクスペリエンス・ラボ)だった。同プロジェクトでクリエイティブディレクションを手掛けた齋藤精一氏は当時、日本の地図そのものに対して危機感を抱いていたという。

「2015年頃、自動運転などフォトグラメトリー(多角的に撮影した被写体の画像を解析・統合して3DCGモデルを作成する手法)にまつわるプロジェクトが出てきた際に、私は地図がどうあるべきかを考えていました。日本は地図というものをどうしていくのか。そこから、3Dで起こした地図にどんな活用方法があるのかを識者にヒアリングしたり、実際に3Dスキャンしたオープンデータを提供したり。一体どんな人たちが使うのか、そもそも需要があるのかを確認する実証実験を始めたのです」

プロジェクト全体のディレクションを担当するパノラマティクス主宰の齋藤氏。自身の一番の役割を「このプラットフォームを知ってもらうこと」だと話す

これがPLATEAUプロジェクトの萌芽となる。国レベルが抱える情報をデジタル化させるのに高い障壁があるのは、想像に難くない。数年単位で形にできた決め手は、元からある膨大なデータの活用に他ならない。

「もちろんゼロからデータを整備すれば、大きなコストと労力がかかります。でも、そもそも行政は多くのデータが集まる場所。それに、各自治体は航空測量により『都市計画基本図』という地図を定期的に作成していて、このデータがあれば3Dデータは作成できます。都市政策は、行政、民間、地方自治体など、主体はさまざまですが、その中にあって3次元の地図を整備するのは、いの一番にできることです。元々あるデータを利用したこともあり、ゼロから作るよりもはるかに早く実現できました」

こうして2021年春にローンチされたPLATEAUだが、齋藤氏が強調するのは「あくまでプラットフォーム」ということだ。

「“エリアマネジメント”という考え方が中心です。人はなぜその都市を選ぶのか、交通の利便性とか立地以外に、近年ではウェルネスなどの指標も重視されています。安全・安心の分野で見れば災害予測や避難、便利・快適の面では緑化計画など、地図がないと何も進みません。だからこそ、まずは地図の整備なんです。地図の提供がゴールではなく、このプラットフォームを基に多様化するニーズに対し、都市に求められる機能をどう成長させていくか。個別最適と全体最適を見ながら考えられるものになることを目指しています」

地図の本領を発揮する4段階の再現レベル

PLATEAUとは、実際どのようなものなのだろうか。

大きな捉え方は冒頭で述べた通りだが、最たる特徴は仮想空間上にある3Dデータに「LOD(Level of Detail)」という概念が導入されていることだ。

LODとは、構造物の情報量によって再現レベルを区分すること。「LOD  0」は2Dの図形のみ、「LOD 1」は建物をシンプルな「箱」として再現する。屋根の形状を加えた「LOD 2」、窓やドアなど外構まで含む「LOD 3」という段階を経て、最終的には建物内部の詳細までを再現する「LOD 4」に到達する。

3DのLODは4段階。段階が進むごとに建物の詳細が反映される

「都市プランニングの活用を考えたとき、このLODという概念は欠かせないと思っています。例えば、Google Earthは、ポリゴンとして見ると崩れている部分が結構ありますが、そこにテクスチャーを入れて見た目を成立させています。目で追って状況をつかむ分にはそれで十分でも、それを基に設計やシミュレーションはできないですよね。LODは、細かい部分まで計測されたデータで成り立っていますから、建物内の情報まで含めたLOD 4になると、災害避難時のシミュレーションをしても、何分で全員が外に出て、どこに避難すべきかまで精緻に再現できます。これくらいの質がないと、都市プランニングには使えません」

目的地に行くくらいの用途ならLOD 0でも支障はない。しかし、平面であれ立体であれ、再現性が地図の本質である。実物に対して縮尺通り精緻に再現されているからこそ、設計やシミュレーションに用いることが可能となる。実際に公開から1年少しで、PLATEAUの公式サイトには、さまざまな企業によるケーススタディが掲載されており、相当数に及ぶ。

「今はおよそ60の都市データですが、ここから100単位で増えていきます。そうなれば、PLATEAU内の地図を見るだけで、このエリアには何を置いて、といった都市モデルが構築でき、ディテールにわたるまで考えられるようになるのです」

公式サイト内の「PLATEAU VIEW」では、平易なインターフェースで、3D地図にさまざまな情報を重ねて表示させることができる

エネルギーの観点からすると大きいのが、都市データの中に組み込まれている「太陽光発電のポテンシャル」データだ。これを利用すると、ソーラーパネルをどこに設置すれば、どのくらいのエネルギーが賄えるのかが見積もれるようになるという。コストや時間が膨大にかかる大規模計画ほど、造る前にあった多くの課題を解決に導く可能性は高い。

「『PLATEAU』というネーミングは、フランス語から来ていて、『精神の高台』という意味があります。哲学的にみんながつながれる場所であろうと、意志を持って付けました。3Dデータが拡張し、さまざまな情報を持っていけば、企業やアカデミアなどのプレーヤーが、そこでそれぞれソリューションを考えて実装していく。それがさらにつながっていくと、都市開発の中で大きな役割を果たしていくのではないでしょうか」

日本をトップランナーに押し上げるPLATEAUの価値

こうした3D都市モデルの取り組みは、日本だけに限らない。諸外国でも、ロンドン、ヘルシンキ、ボストン、シンガポールなどが先進事例として報じられている。その中でも、PLATEAUの存在感は際立っていると齋藤氏は自信を見せる。

「LODまで組み込んでオープンデータ化されたPLATEAUが、群を抜いて世界ナンバーワンのフォーマットだと思っています。例えば、『バーチャル・シンガポール』は政府内だけのデータ閲覧だったものが一般公開されました。これは日本の動きを意識してのものだと感じます。日本は、組み立てられていないプラモデルのようなものなのかなと。各パーツはよく磨かれているのに、結び付きが弱いのが弱点。今回、PLATEAUという共通の土台に多くの企業がケーススタディに集ってくれました。この取り組みなら、日本は世界のトップランナーになれる可能性が十分にあります」

「都市整備、開発においても、日本は課題先進国。それなら先にノウハウをため、他国をリードする、ビジネス展開するといった道を探るべき」と日本の進むべき方向を示す

都市計画の進め方、在り方を根本から変えるメタバースは、決してまちづくりでの活用にとどまらない。プロジェクトのローンチ翌日、齋藤氏が一番印象に残っている光景があるという。

「PLATEAUの3Dモデルを使って、初音ミクが踊っている動画が上がっていたんです。都市の専門家たちではなく、こうしたカルチャーの人たちが真っ先に反応してくれたことがうれしかったですね。PLATEAUがローンチされて約1年。目指す姿に対して、僕の中では25%くらいの到達点というイメージです。でも、そこまでで4~5年はかかると思っていたので、予想よりもかなり早いペースで認知が進んでいます」

PLATEAUは行政が主導するプロジェクトであり、現状では国づくり、まちづくりの要素が強く見える。“その先”に、どのような社会変革があるのだろうか。

「行政の仕事は、あらゆるプレーヤーがやりたいことを実現するためのプラットフォームを作り、みんなが入り口に立てるようにすることだと思います。PLATEAUもその一つです。何かを考えるときに、『まずはPLATEAUでシミュレーションをする』みたいに、まるで空気のような当たり前のものとなっていくべきだと思います。その中で、民間がビジネスを展開できれば理想ですし、最終的にサービスやエンターテインメントなどの産業で活用されるようになっていけばいいですよね」

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