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都心の地盤を立体データ化! 都市開発を変える「3次元地質地盤図」の潜在能力

東京都のハザードマップやインフラ整備などに利用。産業技術総合研究所が安全で強固な都市開発に貢献する地質図を作成

国は国家のリスクマネジメントの観点から防災と国土強靭(きょうじん)化を進めている。その動きを受け国立研究開発法人産業技術総合研究所が改めて日本の地質情報解析に着手し、2021年5月に東京23区版の「3次元地質地盤図」を完成させた。今まで分かっていなかった詳細な地下構造が明確になった上、データ活用によるメリットも多数あるという。今回明らかになった東京都心部地下の新事実や、一般公開もされている3次元地質地盤図のポテンシャルに迫った。

最大地下100mの深さまで地層形状を立体化

自然災害の多い日本では、防災への取り組みが必要不可欠である。特に甚大な被害を出しやすい巨大地震への備えは重要で、国民の生命に関わる上、国の発展を停滞させる脅威となり得る。

経済産業省は2013年に発表した「第2期知的基盤整備計画」の中で、防災・減災を一層強化するため、首都圏地下の地質情報の整備を決めた。国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門の情報地質研究グループ(以下、産総研)がその任を受け、2018年3月に千葉県北部地域(柏~成田~船橋~千葉近辺)、2021年5月に東京都心部それぞれの3次元地質地盤図を完成させた。

東京・恵比寿、広尾周辺の3次元地質地盤図

青色の部分は東京層下部、黄色の部分は東京層上部と呼ばれる地層

そもそも3次元地質地盤図とは、地質の構造を3Dで立体的に表した地質図のことである。まず各地点のボーリングデータから、地質学的な法則のもとコンピューター処理によって各地層の境界面を割り出し、図を作る。次に、その境界面図や地形図、地表地質図を深度データに合致するように重ねることで、立体化した地質図が完成する。

作成作業はボーリング調査と地質分析班、コンピューター処理班に分かれて、それぞれの専門の研究者によって進められた

地質図といえば平面図が一般的で、これまで国土地理院の地形図を基に作成されていた。そのため地表の地層分布しか表示できず、地中は断面図を別に作成し、その2つの図を統合して立体的な地層の広がりを把握してきた。

しかし、最大で地下100mまでの地層を再現した3次元地質地盤図であれば、1つの図で深さと奥行きが分かり、角度も変えられるので容易に地質の分布状況が把握できるようになるという。

それに何よりも画期的だったのは、各所から集められた膨大な地質データを解析したことだ。

完成した東京都心部の3次元地質地盤図で言えば、産総研が新たにボーリング調査した11地点と過去の研究で調査した7地点、東京都が採掘した2地点、さらに東京都土木技術支援・人材育成センターから提供を受けた土木・建設工事のボーリングデータ約5万地点の地質データが集められた。それを地質学専門の研究者が地道に分析していった。

産総研の同プロジェクト担当者によれば、「分析した数は、従来の地質図作成のときとは比べものにならないほど膨大で、東京の地質におけるこれまでの考え方にとらわれず作成している」という。つまり、都心部の地質情報が一新されたわけだ。

下方に向かって伸びる円柱はボーリングデータ。水色は泥層、黄色は砂層、橙色はれき層、ピンク色は有機質土と、地層の種類によって色分けされている

専門家の推理が必要だった従来の地質図

3次元地質地盤図の完成によって、従来の地質情報を一新するような大変化を起こしたわけだが、その中で東京下町の低地に存在する沖積層(ちゅうせきそう)と呼ばれる地層の分布について興味深い事実が分かった。

軟弱な泥層を主体とする沖積層は、約2万年前の海面低下でできた谷を埋めるように分布していることが以前から知られていた。だが今回の分析で、その下にある谷の細かな起伏まで描き出すことができたのだ。

大昔、河川の浸食によって形成された東京下町の地下にある埋没谷の詳細図。細かく複雑な形状が分かるのは大量のデータとコンピューター処理のたまもの

実は従来の地質図では、それほど詳細な図を描けなかった。というのも、これまで地質図作成のために行われる地質調査は、崖や斜面、あるいは採掘現場など地表に地層が露出した場所で行われてきた。都市平野部では、建設工事でのボーリングデータを使用したり、必要最小限のボーリング調査を行ったりすることもあるが、調査範囲の地下領域をくまなく調べられていたわけではない。データのない領域については、専門家の推理によって定めるしかなく、細かく複雑な地層の形状や広がりは描きようがなかったのだ。

それが今回、従来にない大量のデータをコンピューター処理することによって、人が主観的に推理する領域の分量が減り、細部までより客観的に描き出せたわけである。

他にも判明した事実がある。それは昔から強固な地盤とされている山の手の武蔵野台地にも、一部で先述の沖積層に似た軟弱な地層が存在していたことだ。建設現場などでボーリング調査が行われていたこともあり、工事関係者の間では経験則的に知られていたそうだが、科学的に証明されたのは今回が初めてだという。

解析したところ、約14万年前の氷期に武蔵野台地の一部で谷が形成され、そこへ約12~13万年前の間氷期に海が侵入し、泥層によって谷が埋められたということまで分かった。

土地を扱うさまざまな業界が利活用可能

こうした新しい事実が続々と明らかになることで、変化していくのは都市計画だろう。

インフラ整備や産業・商業施設建設において、3次元地質地盤図を参考にすることで地盤の状況を確認し、対応を検討できるようになる。それが、将来的により災害に強い都市を生み出すことへとつながっていく可能性がある。

千葉県北部地域の3次元地質地盤図は、県による地下水流動調査に利用された実績を持つ

3次元地質地盤図は産総研のウェブサイトにて無料公開されており、誰でも閲覧することができる。2.5km四方の枠で区切られた2万5000分の1の縮尺の地質平面図から、各エリアの3Dマップデータがダウンロード可能。3Dビューアーを利用すれば、拡大縮小させ全方位から見ることができる。

産総研としては、今後、2025年ごろまでに埼玉県南東部や千葉県中央部、神奈川県東部の地下構造を順次分析し、首都圏主要部をカバーする3次元地質地盤図を完成させる予定だ。2030年以降には他の主要都市への展開も計画している。

地表を支える地下の姿が明らかになれば、都市構想や居住エリアの在り方が変わり、ゆくゆくは日本という社会の地図を書き換えるかもしれない。

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