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世界のエネルギー事情2023

エネルギー政策のポイントは“自給自足”!日本の進むべき道を探る

電気料金の値上げが続く今、存在感を増しつつある原子力発電

ウクライナ危機の終わりが見えない中、電力を安定的に供給していくため、日本はどのような対策を取るべきか。また今後、国内ではどのようなエネルギーが重要になるのか──。常葉大学名誉教授であり、NPO法人 国際環境経済研究所所長でもある山本隆三氏に、海外の情勢も交えつつ、日本を取り巻くエネルギー事情を解説していただいた。
カルーセル画像:Blue flash / PIXTA(ピクスタ)

第一次オイルショックを教訓に、エネルギーを分散

長らくロシアから石炭、石油、天然ガスの一次エネルギーを輸入してきた日本。しかし、その量は日本の一次エネルギーにおける輸入量全体の10%にも満たない。

これはドイツやイタリア、フランスなどがロシアから輸入していた一次エネルギー輸入量と比較すると低くなっている。

日本が今日に至るまで、ロシアに極端に依存せずに済んだのはなぜか。

背景にある歴史的経緯を山本氏は次のように説明する。

環境経済学やエネルギー環境政策論を専門とする山本隆三氏

「1973年に『第一次オイルショック』が起きました。当時は、イスラエルとアラブ諸国による『第四次中東戦争』の真っただ中です。アラブ諸国は、イスラエル支援国への対抗策として原油輸出の禁止などを決定し、これを引き金に日本でも石油の価格が大幅に上昇しました。なお、当時の日本では、全体の76~77%にあたる発電が石油由来です。また、原油に関しては、アラブ諸国にかなり依存していたため、アラブ諸国による原油の輸出禁止措置は日本にとっては大打撃でした。外交努力の末、日本への原油の輸出は中断しませんでしたが、一連の騒動を通じてエネルギーの調達先を一部の国に依存するのは非常に危険であると痛感しました。

その後はエネルギーの多様化を図るべく、原油だけでなく石炭、天然ガスも積極的に輸入するようになりました。さらにはエネルギーの輸入国も意図的に分散させてきました。例えば、アラブ諸国から原油を輸入する傍ら、オーストラリアや米国を中心とする国々から石炭を、オーストラリアやカタール、マレーシア、ロシアなどからLNG(液化天然ガス)を輸入するようになりました」

再エネ発電を取り巻く複数の課題

ロシアによるウクライナ侵攻が勃発した後、EUや米国、日本などは、同国産の化石燃料の禁輸措置を採択した。

これを受けてロシアは、EUをはじめとする国々への化石燃料の輸出を制限し、代わりに中国やインドといった制裁に参加しない国々に向けて積極的に輸出している。

しかし、中国やインドが輸入している化石燃料の量は、EUや米国、日本などが輸入してきた化石燃料の量と比較すると大幅に少ない。

「これはすなわち、市場で流通する化石燃料が大幅に減少したことになります」と山本氏。

つまり、需要に対して供給が圧倒的に不足している状況がつくられた結果、化石燃料の価格が釣り上げられ、世界各地で電気料金や物価の高騰が起きているのが現在の国際情勢だ。

世界における一次エネルギーの価格推移を表したグラフ

「『第一次オイルショック』を経験した後、日本は化石燃料の種類と輸入先を分散させる方向へシフトしました。しかし、今回のエネルギー危機に直面して分かったのは、エネルギー源を化石燃料の輸入に頼るのはもはや難しいということです。今後、エネルギーの安定供給を図る上では、エネルギーの自給自足が必要になります」

現在の日本は、発電に必要な燃料の約8割を化石燃料に頼っている。そのうち日本の域内で産出される化石燃料はごくわずかで、ほとんどの化石燃料を輸入に頼っている。

こうした現状を踏まえて山本氏は、エネルギーを自給自足する上での現実的なビジョンを次のように語る。

「今後、化石燃料を使っての発電は徐々に停止し、再生可能エネルギー(以下、再エネ)や原子力を使った発電に切り替えるべきでしょう。再エネによる発電であれば燃料を国内で調達できますし、原子力は準国産エネルギーと見なせますので、世界情勢に左右されることもありません」

しかし、再エネによる発電には、少なからずデメリットもあるという。

「日本の国土は決して広くなく、全国を雨雲や雪雲が覆う日もあります。そのような日は、国内のどの地域でも太陽光による発電が難しくなりますよね。また、日本の送電網は海外とつながっていないので、他国から電力を得ることもできません。つまり、日本は再エネによる電力を安定的に得るための条件を満たしていないのです」

また、再エネを生み出すには多大な資材を調達しなければならない。米国エネルギー省がまとめた「発電設備別 必要な資材量」を見ると、太陽光発電と風力発電設備には、原子力発電設備の何倍もの資材が必要であることが分かる。

「太陽光発電や風力発電設備には、莫大な量のガラス、セメント、鋼鉄といった資材が必要です」と山本氏

ちなみに、再エネ発電設備に必要な資材量は、米国の実業家で慈善活動家でもあるビル・ゲイツ氏も見過ごせないようだ。

巨額の資金を投入するなどし、再エネ開発と普及に努めている同氏は、莫大な資材を必要とする再エネ発電設備が持続可能性にそぐわないこと、建設時や発電時にかかる莫大なコストが電気料金に反映されることを懸念しているという。

「ビル・ゲイツ氏は、『すべての発電を再エネで行った場合、電気料金が大きく膨れ上がり、多くの人が電気料金を払えなくなってしまう。再エネが賄えるのは、全体の3分の2が最大。全体の3分の1の発電は、原子力で行うべきだ』とも語っています。それが、ゲイツ氏が自らの資金を投入し新しい原子力発電設備を開発するテラパワー社を設立した理由です」
https://ieei.or.jp/2020/04/yamamoto-blog200407/

高まりつつある、原子力発電に賛同する声

全ての発電を再エネで行うというのは非現実的なビジョンであり、「他国に頼らない形で安定的に発電を行うには原子力の存在が重要になる」というのが山本氏の考えだ。

しかし、原子力発電についてはマイナスな視点で語られることもしばしば。

「以前、私の大学の研究室で『原子力発電所の再稼働に賛成か否か』というテーマの下、静岡県でアンケートを実施したことがあります。回答数は約8000でしたが、年齢が高くなるに従って、原子力発電所の再稼働に反対する人が増えるという傾向が現れました。『反対』は60代が最大になり50%を超える一方で、20代では再稼働に『賛成』が約3分の2でした。過去、国内外のメディアが実施した同様のアンケート結果も考慮すると、若い世代を中心に、原子力発電所の稼働に対して賛成している人が多数いると考えています」

原子力発電では核分裂によって発生した熱エネルギーが活用される。この過程でCO2が排出されないことが特徴の一つだ。

「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、CO2排出を実質ゼロにすることを目指している日本において、原子力発電は貢献度の高い技術といえる。また、発電時のコストも再エネ発電と比較すれば大幅に抑えられるというメリットもある。

山本氏によれば、こうした原子力発電の優れた面が改めて注目され、世界では電気料金の高騰を受けて原子力発電を支持する、あるいは容認する傾向が強くなっているという。

EU諸国や日本における電気料金の上昇率。EUの主要国においては2021年と2022年の11月を比較すると50%以上上昇していることも珍しくない

「例えばフィンランドでは、原子力発電を支持する人が全体の6割に達しました。またドイツでは、ロシアによるウクライナ侵攻が起きる以前は原子力発電所の稼働停止を求める人が全体の半分以上いましたが、エネルギー不安に直面している今、稼働停止を求める声は抑えられ、8月の調査では稼働延長を支持する人が全体の8割を超えています」

既存の設備の活用に加えて、現在では新たな設備の開発も進んでいるという。

米国では、ニュースケール・パワー社や韓国のサムスンC&T社が拠点を構え、小型モジュール式原子炉(SMR)を開発中だ。このSMRはコストが抑えられる上、安全性も高いとされているため、欧州でも需要が高まっているという。

日本も電力の安定供給や脱炭素を念頭に、廃止が決まった原子力発電所を建て替え、運転期間も現在の最長60年から延長するなど将来にわたって持続的に原子力を活用する方向へとかじを切る決断がなされた。次世代型原子力発電所の開発・建設が行われ、安全性を高めた革新軽水炉などの開発が進められている。

「日本には優れた原子力発電技術があり、かつてはこの分野で世界をリードしていました。これまで培われてきた技術は、国内の安定的な発電を支えるだけでなく、世界のエネルギー問題の解決にも大きく貢献するでしょう。原子力発電にマイナスな意見を持っている方もいることは確かです。しかし、このような危機的な状況に置かれている以上、今一度原子力発電のメリットを見つめ直さなければいけません」

世界がエネルギー問題に直面する中、いかに安定的にエネルギーを得ていくのか──。

今こそ、多角的な視点で議論を深めながら、進むべき道を見極める時なのだろう。

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