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2023.09.25
レベル4解禁で車や移動サービスはどう変わる? 自動運転技術の進化を追う
いよいよ始まる“運転を車に任せる”新時代
自動運転は今どこまで進化し、私たちの生活にどんな変化をもたらしつつあるのだろうか──。本特集では、まず自動運転の基礎知識であるレベル分け、またレベル4が解禁された背景について、自動運転に詳しいモータージャーナリストの桃田健史氏に聞く。自動運転技術は今どこまで進化しているのか、将来的に車造りがどう変わる可能性があるのかも尋ねた。
(<C>メイン画像:日産自動車株式会社)
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今さら聞けない自動運転のレベル分け
車内で読書したり、仕事をしたりしながら目的地まで連れて行ってくれる自動車。運転手のいない無人バス。自動運転と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、そうした夢の移動だろう。
今年4月に解禁された自動運転レベル4とは、どのような内容なのだろうか?
まずは自動運転のレベル1〜5について、桃田健史氏は次のように解説する。
「レベル1は前後・左右いずれかの車両制御を自動化するものです。多くの場合は前後方向、つまりブレーキやアクセルをシステムが操作するもの、いわゆる自動ブレーキなどがそれに当たります。ハンドル操作とアクセル・ブレーキ操作の両方を状況に応じて自動化するのがレベル2。ここまでは自動運転と言っても、運転の主体はあくまで人です。それに対してレベル3は、時に人ではなくシステムが車を制御することがある。その点でレベル1、2と大きな違いがあります」
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レベル2とレベル3では、交通状況の監視がドライバーからシステムへと移行する点で大きく異なる。しかしレベル3でも自動運転の条件を厳しく設定すると、実質的にレベル2とほとんど変わらなくなってしまう
現在ではレベル1と2は多くの現行車に実装されている。レベル2は含まれる範囲が広く、“高度なレベル2”では高速道路など特定条件下でドライバーがステアリングから手を放して運転できる、いわゆる“ハンズフリー”が既に実現されている。
トヨタの「Toyota Safety Sense」における「レーダークルーズコントロール」や「アドバンスト ドライブ(渋滞時支援)」、日産の「プロパイロット 2.0」、テスラの「フルセルフドライビングケイパビリティ」なども全てレベル2だ。
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NASCARやインディ500などアメリカの著名なレースにドライバーとして参戦した経験を持つ桃田氏。現在はエネルギー問題やITを踏まえた世界の自動車産業を語るモータージャーナリストとして活動している
自動車メーカーはレベル3に慎重?
レベル3は“アイズオフ”とも呼ばれ、一定条件下でドライバーが運転から目を離すことのできる、レベル2のさらに上を行く技術として知られている。
しかし実装された市販車は、2021年に100台限定でリース販売されたホンダの「レジェンド」(現在は生産終了)のみ。その後、追随するメーカーはどこも登場していない。なぜか?
「レベル3をうたうには、国土交通省による型式指定を取得する必要があります。つまり新型車でないといけないんですね。技術的なハードルはもちろん、PL法(※1)への対応なども含めて開発には大変な苦労が伴いますが、その割に消費者へのメリットが少ない。
どういうことかというと、安全性を担保するためにODD(※2)を厳しく設定し、その上アイズオフできる状況も車内のディスプレー操作に限られるなど、自主規制を強めた結果、高度なレベル2とほとんど差が感じられない内容になってしまっていたのです。要するに費用対効果が小さいため、自動車メーカーも『高度なレベル2で十分だろう』という気運になっていると考えられます」
※1:製造物責任法/製造物の欠陥が原因で生命や身体または財産に損害を被った場合に、被害者が製造業者らに対して損害賠償請求できることを規定した法律
※2:Operational Design Domain/日本語では「運行設計領域」と訳され、速度や運行できる道路、天候といった自動運転できる条件を表す
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ホンダ・レジェンドを試乗中の桃田氏。レジェンドはハンズオフだけでなく、特定条件下でのアイズオフも実現した
ホンダ・レジェンドに搭載された「Honda SENSING Elite」は、システムによる運転を世界で初めて実現した、という点では確かに革新的だった。従来車種に搭載されていたレベル2の機能を強化しただけではなく、新たに3次元の高精度地図を採用するなど、野心的な内容だったのは間違いない。
しかし、自動運転を体感できる「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」が発動するのは、高速道路上で渋滞が発生したとき(30km/h以下で発動、50km/h以上で解除)のみ、アイズオフが許されるのも車内ディスプレーの操作のみで、スマホの操作や飲食などのセカンダリータスク(運転以外の行為)を許すものではなかった(システムからの要求があった場合には、すぐにドライバーが運転を代わらなければならない)。そのため、ドライバーがレベル3を実感できる場面が少なかったのだ。
一方で、既に多くの市販車で採用されている高度なレベル2ではハンズフリーによる前車追従機能だけでなく、ナビの目的地に合わせた進路変更までが実装されている。つまり実用面ではレベル3との差異がほとんどない。逆に言うと現段階で既に多くの人が“レベル3並みの自動運転”を体験している……ということでもある。
運転主体がシステムへと完全移行するレベル4
さて、いよいよ本題のレベル4について、どのようなものなのか桃田氏に聞いてみたい。
「レベル3は運転の主体が人間とシステムの間を行き来するものですが、レベル4、5ではシステム側へと完全に移行します。原則的にドライバー側に運転が戻されることはありません。さらに言うと人間が不要になる=無人運転を実現できる点で、既存の自動運転レベルとは全く異なります」
乗っている人間全員が同乗者であり、ドライバーが存在しない車。これこそ多くの人がイメージする自動運転そのものだろう。レベル4は限定された区域内、一定速度以下など特定条件下での完全自動運転、レベル5は条件なしの完全自動運転を指している。
ここで今年4月に改正された道交法の内容を簡単に振り返っておこう。改正道交法には「特定自動運行」という単語が初めて登場し、それが認められた。「特定自動運行」とは道路上に自動車を運転する人がいない状態で、かつ自動運行装置が使用条件を満たさなくなった際などに安全な方法で車両を停止させることが可能な状態を指す。要するに、システムが全面的に運転を担いつつ、安全が確保されている状態、ということだ。「特定自動運行」を行うには都道府県公安委員会からの許可を得る必要があり、経路などの運行計画を提出しなければならない。
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「特定自動運行」の許可を受けるまでの流れを示したもの。都道府県公安委員会へ運行計画を提出し、許可を得る必要がある
さらに特定自動運行主任者による遠隔監視もしくは乗車、また事故時の対応も義務付けられている。かなり制約が厳しいようにも感じるが、安全を第一に考える上では仕方ないところだろう。公道での無人運転が認められたことは大きな前進だ。
「レベル4、5は当面の間、個人所有の車ではなく、サービスカーの領域になります。日本では内閣府主導のもと2014年に創設された戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の中で自動走行システムの実現に取り組み、私自身もさまざまな形で関わってきました。第1期のスタート時、日本は自動運転の分野で技術的にも、また法整備においても世界から周回遅れの状況でしたが、この8年で大きく進歩し、やれることは全てやった、と言えるレベルにまで到達しています。第2期の目標では『2022年度頃に限定地域での遠隔監視のみの無人自動運転(SAEレベル4)移動サービスの実現』が掲げられ、それが今回の道交法改正につながりました」
完全自動運転がもたらす未来の交通社会
ところで、レベル4は本当に実現可能なのだろうか?
実は既に「いつでも実装できる技術水準にある。問題となるのは社会受容性」だと桃田氏は言う。
「SIPを通して自動運転技術については研究し尽くされたので、レベル4だけでなく、レベル5も既に実現可能です。ただ、技術的に可能であることと、社会から自動運転が受け入れられるか否かは別問題。例えば安全性について、人が運転するよりシステムに任せた方がリスクは少ない、と言われていますが、それでも事故をゼロにすることはできない。いざ自動運転による事故が起きてしまったときに、それでも自動運転化を進めるべきか、という選択が迫られます」
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五輪・パラ五輪2020東京大会の会場などで移動サービスを提供してきたトヨタの「e-Palette」。レベル4に相当する自動運転を実現している
(C)トヨタ自動車株式会社
自動運転の社会受容性は、地域や業界によっても大きく異なるだろう。例えば運転手の担い手不足、過酷な労働環境が深刻な課題となっているバスやトラックなどの業界では、自動運転へのニーズが高そうだ。無人運行の路線バスなどが実現すれば、そうした課題解決の一助となるかもしれない。さらに今回の道交法改正は、自動車産業の構造そのものを変える可能性があると桃田氏は語る。
「これまで自動車産業は多数の消費者をターゲットとして製品を大量生産するビジネスモデルでした。それに対してレベル4の自動運転は、移動そのものをサービスとして提供する、あるいは地方自治体などをターゲットとするビジネスモデルです。従来の自動車ほど、大手自動車メーカーの優位性は高くない。ベンチャー企業、スタートアップ企業にもチャンスがあります」
自動車産業に参入するには、製品を製造、販売するための莫大な資本とノウハウが必要不可欠だった。参入障壁が極めて高い業界であることは明らかだ。しかしレベル4以上の自動運転サービスカーについては、大手自動車メーカーも未経験の分野。新興企業もアプリケーションの開発力などを武器に勝負できる可能性がある。
また、オーナーカーの分野においても今後、さらに自動運転が高度化すればモノ作りが変わる。操縦性や乗り心地といった、これまで重視されていた評価軸は、あまり意味を成さなくなるだろう。画一的な製品となり、メーカーや車種ごとの個性が薄れてしまう懸念もあるが…。
「それでも高級スポーツカーに特化したブランドは生き残るでしょう。大変なのは大衆車を主力としている自動車メーカー。どの製品を選んでも性能は似たようなもの、だとすると消費者に選んでもらえなくなる可能性があります。そこで求められるのは斬新な発想力。既存の自動車メーカーは、若い社員たちからのアイデアを積極的に採用していく姿勢が必要です」
国土交通省では2023年度を「電動化・自動運転実装化元年」に位置付け、2025年度に50カ所程度、2027年度には100カ所以上で自動運転移動サービスを実現していくという。
私たちは今、車造り、移動サービスの在り方が大きく変わる節目に立ち会っているのだ。
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