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2023.10.20
レベル4解禁で自動運転トラックの実現にひた走る三菱ふそうトラック・バスの本気度
既にレベル4に必要な水準の技術に肉薄し、実用化も間近
三菱ふそうトラック・バス株式会社は2019年、10t級の大型トラック「Super Great(スーパーグレート)」においていち早く運転自動化レベル2を実用化した。商用車の自動運転技術に関して、間違いなく世界トップレベルの技術を持つメーカーだが、今後はレベル3をスキップし、一足飛びにレベル4の実用化を目指すという。その真意はどこにあるのか──。トラックなど大型車における自動運転技術の現状、将来について、同社開発本部アドバンストエンジニアリング部マネージャーの木下正昭氏に詳細を伺った。
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大型トラックで自動運転を実現する難しさ
今年4月の道路交通法改正は、自動運転レベル4=「特定条件下での完全自動運転」を認めるものだ。これは本特集1本目でも触れたように、特定条件下において運転の主体がシステムとなり、ドライバーが運転から“意識を離せる”「ブレインオフ」を可能とするものである。
そう聞くと、乗員が交通状況に背を向けて同乗者と語り合ったり、車内で仕事をしたりといったSF的なシーンを想像しがちだが、道交法改正の意図はもちろん快適性や娯楽のためではない。遠隔監視装置や特定自動運行主任者の設置義務、運行計画の届け出義務などの許可基準を見ても分かるように、トラックやバスなど主に商用車での運用を前提としたものであり、物流業界の労働負担低減、省人化に向けたものだ。
国産商用車の自動運転技術においては、三菱ふそうトラック・バス株式会社(以下、三菱ふそう)が先行してきた。
「当社では、2019年に運転自動化レベル2に相当する高度運転支援機能『アクティブ・ドライブ・アシスト』を国内商用車で初めて市販車に搭載しました。先行車との車間距離を維持しながら追従する機能、同一車線維持機能などをその時点で実装しています。それから他社でも開発が進みましたが、早い段階からこの両機能を全車速域に対応できたことが、当社の大きな強みになりました」と開発本部アドバンストエンジニアリング部マネージャーの木下正昭氏は語る。
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アクティブ・ドライブ・アシスト開発に当たっては自身でも試走を繰り返し、疲労軽減の効果を体感したという木下氏
乗用車の世界では既に一般的な技術となったレベル2の高度運転支援機能だが、大型トラックで実現するのには苦労が大きかった。
高速道路や自動車専用道路の車線幅は一般的に3.5~3.75m、対して大型トラックの車幅は2.5m近くもある。両脇にわずか0.5mずつの余裕しかなく、しかも車両総重量も25t前後(いずれのスペックも同社「スーパーグレート」の場合)と乗用車より圧倒的に重い。アクセルやブレーキ、ステアリングを操作しても利き始めるまでに大きなタイムラグがあり、より繊細な制御や正確な予測が求められるからだ。
三菱ふそうはそうした困難を乗り越え、2019年にミリ波レーダーとカメラを組み合わせた「アクティブ・ドライブ・アシスト」を開発。2021年には、ドライバーがステアリングホイールから手を離している状態が続くと警告し、60秒後に同一車線内で車両を停止させる「エマージェンシー・ストップ・アシスト」も実現した。
世界的に見ても業界をリードする水準の技術だ。
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ドライバーの疲労軽減に役立つ三菱ふそうの高度運転支援機能「アクティブ・ドライブ・アシスト2」。将来の自動運転レベル4は、このシステムをさらに発展させたものになるはずだ
こうした優れた技術力の背景には、三菱ふそうのグループ体制が少なからぬ影響を与えていることだろう。同社は「ダイムラートラックAG」のグループ会社として所属し、ダイムラートラック・グループ内で自動運転の基本コンポーネントをグローバルで共用することにより、開発工程を集約、大きなスケールメリットを発揮している。三菱ふそうがグループ全体をけん引している領域の技術も多いとのことで、なんとも頼もしい。
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左から三菱ふそうの「スーパーグレート」、米フレイトライナーの「カスケディア」、独メルセデス・ベンツの「アクトロス」。いずれもダイムラートラックAGグループの大型トラックで、レベル2の高度運転支援機能を搭載している
レベル4は既に市販目前のレベルに到達?
自動的に車両を停止させる機能まで既に実現しているとなれば、レベル3の実現も不可能ではなさそうだ。だが、三菱ふそうではあえてレベル3をスキップし、レベル4実現を目指すという。その理由を木下氏はこう語る。
「レベル3開発は自動運転技術に必要なプロセスかもしれませんが、商用車に関してはユーザーである運送事業者さまの人的負担軽減となるような技術でないと実装する意味がありません。レベル3ではドライバーがいつでも運転に戻れる状態でないといけないため、人の負担軽減というメリットにつながりにくいんですね。そのためレベル3をスキップし、現状のレベル2からレベル4へと一気に飛躍する方針を当社は選びました」
同社では経済産業省・国土交通省主導の下、「高度な自動運転を用いた移動・物流サービスの実現・普及に向けた道をつくる」ための「RoAD to the L4」※プロジェクトにも参画。同プロジェクトでは、2022年度をめどとして「限定エリア内での遠隔監視のみ(レベル4)の自動運転サービス実現」を目指してきた。今年4月の道交法改正により、それを実施できる土壌がついに整ったというわけだ。
ただ、三菱ふそうの市販車にいつ頃、どのような技術が搭載されるのかは明言されていない。
現状ではどれくらいのレベルに達しているのだろうか?
「例えば、ダイムラートラックAGグループに属するフレイトライナー・トラックスでは、米国ニューメキシコ州アルバカーキという場所でレベル4に向けた公道試験を既に行っています。現状では念のために安全保安員が乗車していますが、大型トラックが工場を出発し、高速道路の接続道路から引き返して元の工場まで戻るという行程全てをシステムが行います」
※自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト
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アルバカーキで公道試験中のフレイトライナー・トラックス「カスケディア」。高速道路の入り口から出口まで自動運転で走行する
日本で同様の公道試験を行うことはまだできないが、技術水準としては既にレベル4の自動運転に極めて近いと考えてよいだろう。
三菱ふそうとしても2020年にゴミ収集作業の効率化を目指す塵芥(じんかい)車=ゴミ収集車のコンセプトトラック「eCanter SensorCollect」を発表。自社敷地内のデモンストレーションだったが、トラックが作業者を自動で追従し、指定の集積所などに停車、危険があると自動停止するシステムは、高速だけでなく低速でも自動運転が可能であることを証明するものだった。
トラックのユーザーである配送事業者などからは「高速道路だけでなく、一般道でこそ自動運転を実現してほしい」という要望が多いという。ドライバーの労働負荷は高速道路よりもむしろ、一般道の方が高いからだ。
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作業者の腕に装着されたスマートフォン型HMI(Human Machine Interfaceの略称。人間と機械が相互にやりとりできる仕組み)と車両が通信しながら追随するシステムを搭載する「eCanter SensorCollect」。作業者は徒歩で移動しながらゴミを塵芥車に投入するだけ。ゴミ収集作業の効率化を目指している
周辺環境の整備が自動運転普及の鍵
もちろん、市販車にレベル4を搭載するまでには、まだまだ多くの課題も残る。その一つは法制度で、運行計画や経路の届け出などが必要な現行道交法下では、たとえ自動運転トラックを発売したとしてもユーザーが享受できるメリットは少ないだろう。また、「トラックというハードの問題だけでなく、社会インフラ全体の整備も必要だ」と木下氏は言う。
「自動運転を実現するには車の進化だけでなく、詳細な3D地図情報やどこで工事をしているといった情報、あるいはそれを統合するようなリアルタイムのデータベースシステムを構築するITインフラが不可欠です。その領域はアメリカや中国などの自動運転先進国に対して日本がまだ後れを取っている部分と言えるでしょう。
また、問題なく運行できているときはいいですが、例えば自動運転車が故障したり、ガス欠したりといったトラブルも考えられます。そうしたときに誰が責任を負って救援に行くのか、どこに通報すべきなのかといったルール作りも必要になってきます。そうした社会全体のシステムを、レベル4実現に向けて整備していかなければなりません」
運行情報などを管理するプラットフォームについて、三菱ふそうは各車両の位置や軌跡を把握する機能、故障を遠隔から診断する機能などを持つ「トラックコネクト」というシステムを既に持っている。また、2020年には米国Wise Systems社と業務提携し、AI・機械学習を活用してドライバー手配や最適な配送ルートを自動作成する配送計画システム「ワイズ・システムズ」の国内販売もスタートさせた。将来的には、これらの技術をさらに発展させたものが自動運転を管理するプラットフォームとして使われるのかもしれない。
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「トラックコネクト」では、トラックの現在位置、稼働経路などを地図上に表示、駐停車した時間などを把握できる。この技術はレベル4自動運転車両の管制などにも役立つだろう
自動運転トラックを社会から受け入れられる存在にしていくことも課題の一つだ。
「先日、後学のためにアメリカで完全無人タクシーを利用してみたんです。運転席に誰も座っていない車に乗るのは多少不安な気持ちもあったのですが、いざ実際に乗ってみると安全かつスムーズな運転であることに感嘆しました。トラックでの自動運転については、最初から人が運転するほど自然なドライビングにはならないかもしれません。それでも安全を最優先し、一つずつ実績を積み上げていくことが、社会からの理解を得る唯一の方法だと考えています」
あくまで個人的な意見ですが、と前置きした上で、「自動運転の技術が進化した将来においても、例えば荷物を受け渡しするシーン、あるいはバスに乗車するシーンなど適材適所で人間によるコミュニケーションが必要になる場面は残っていくのではないかと思います」と語る木下氏。
省人化、無人化の先には、人が対面してこそ得られる体験が一層重要視される社会があるのかもしれない。
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