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2024.03.07
働き手不足打開の救世主! 導入が進む介護ロボットとICT
厚生労働省 老健局に聞く、介護現場のテクノロジー活用の道筋
2025年、日本は5人に1人が75歳以上の後期高齢者という時代へ突入。介護業界では要介護者の増加が加速する一方、働き手不足の深刻化が懸念される。この問題解消に、介護の現場で期待されるのが介護ロボットやICTに代表されるテクノロジーの普及だ。今回は、厚生労働省 老健局 高齢者支援課 介護業務効率化・生産性向上推進室の秋山 仁氏と佐々木憲太氏に、介護の現場で導入が進められるテクノロジーの概要を伺った。
(<C>メイン画像:metamorworks / PIXTA<ピクスタ>)
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介護現場の働き手不足、その現状
日本は2007年に全人口における65歳以上の割合が21%を超える「超高齢社会」へ突入し、少子高齢化が加速。2040年には全人口の約35%が65歳以上になると推計されている。
2025年にはいわゆる団塊の世代が後期高齢者に加わり、雇用、医療、福祉など社会へのさまざまな影響を、一般的に「2025年問題」と称し警戒する向きがある。事態解消には生産活動を支える15~64歳の生産年齢人口の増加が必須だが、減少傾向に歯止めがかからないのが現状だ。
厚生労働省 老健局 高齢者支援課 介護業務効率化・生産性向上推進室の秋山 仁室長補佐と、同室および介護ロボット開発・普及推進室の佐々木憲太介護ロボット政策調整官は、こうした状況に対し、テクノロジーの活用による“介護現場の生産性向上”の支援、取り組みを担っている。
「介護人材は、2040年度には2019年度に加えて約69万人が必要になるという推計値が出ています。そのため厚生労働省は2040年を見据えた介護人材の確保を視野に、介護現場の生産性向上の取り組みを推進しています」(秋山氏)
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日本の総人口の推移。今後、生産年齢人口が減少する一方、75歳以上の人口割合が急増。介護ニーズが急増するものの、介護人材の確保が困難になることが予測される
資料提供:厚生労働省
介護現場は、介助や食事、排せつ、入浴などの身体介護のほか、掃除や洗濯、買い物などのサポートといった生活援助、さらに日々の介護記録を残す事務作業まで多岐に及び、介護職員の体力的な負担はかなり大きい。
「介護現場で働く方々からも『このままでは必要なサービスを提供できなくなる』『職場を維持できなくなる』といった意見がよく聞かれます」(佐々木氏)
このような状況の中、介護現場の負担を軽減し、生産性を向上させ人手不足を解決に導くツールとして、厚生労働省が推進しているのが介護ロボットとICTの利活用だ。
イメージするよりも幅広い介護ロボットの定義と役割
介護ロボットと聞くと、人型のそれを想像する人が多いだろう。厚生労働省はこの一般的なイメージよりも広範囲に介護ロボットを定義している。
「第1に【情報を感知(センサー系)、判断し(知能・制御系)、動作する(駆動系)という3つの要素技術を有する、知能化した機械システム】、第2に【ロボット技術が応用され利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器】という定義です」(佐々木氏)
介護ロボットは、情報を感知・判断し動作する機能を備え、かつ自立支援や介護職員の負担軽減に役立つ機器の総称で、民間では“介護テック”“ケアテック”として紹介される例も見られる。
介護ロボットは、厚生労働省と経済産業省により6分野13項目の重点開発分野が定められている。それぞれの分野について佐々木氏が次のように解説する。
「【移乗支援】は、例えば高齢者などのベッドから車椅子への移乗に際し、介護者の抱え上げ動作のパワーアシストを行う装着型、または非装着型の機器が挙げられます。【移動支援】は、電動アシスト機能を備えた歩行カートなどが主な対象です。【排泄支援】は、介護施設の個室で見られるポータブルトイレなどで、排せつ物の処理にロボット技術を用い、設置位置調節可能なものや排せつ時の一連の動作を支援するもの、センシング機能により排尿・排せつを事前に検知し、的確なタイミングでトイレへ誘導する機器も活用されています」
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介護ロボットの種類と区分。厚生労働省と経済産業省では、移動支援(装着)、排泄支援(トイレ誘導・動作支援)、見守り・コミュニケーション(生活支援)、入浴支援、介護業務支援を重点的に開発支援する分野を定めている
資料提供:厚生労働省
6つの分野で、特に活用が進んでいるのが【見守り・コミュニケーション】である。
「見守り機器は、高齢者などが寝ているか、起きているか、ベッドから離れようとしているかなど、その状態を検知し、介護職員などへ通知することができる機器です。主に介護施設で導入が進んでおり、夜間の巡回業務の負担軽減や利用者の状態に合わせた訪室に変更することで不用意に利用者を起こすことがないようにするなど、ケアの質の向上のために活用されています」(佐々木氏)
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「この他【入浴支援】は浴槽への出入り動作、浴槽をまたいで湯船に漬かるまでの動作を支援する機器が主な対象です」と解説する佐々木氏。介護ロボット政策調整官として、その導入推進を担っている
【介護業務支援】は、ロボット技術を用いて見守りや移動支援、排泄支援をはじめとする介護業務に伴う情報を収集・蓄積し、情報を基に高齢者などに必要な支援に活用するもの。特定の動作やシーンに限らず、事務作業も含め介護者をサポートする機器を包括する。
「例えば、見守り機器から得られた情報を介護記録ソフトなどへ反映させ、介護職員が次に行うべきことを通知するようなものです。他にも音声入力システムと介護記録ソフトとの連携、各種介護ロボットの画面をプラットフォーム化し、一つの画面にまとめたシステムなど、介護業務支援の機器にはさまざまなものがあります」(秋山氏)
これらの介護ロボットは、職員の負担軽減に寄与し、人材確保に苦慮する事業者を支えている。その開発が進められる中で、現場のニーズに合わないものも出てくるという。
「導入に積極的でない事業者からは『使い勝手が悪い』『あっても使いこなせない』という声も聞かれます。忙しい介護現場では、いかにその機器が困りごとの解決に寄与してくれるか、そして使い勝手がよいかということが重要になってきます。そのため厚生労働省では2020年より『介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム』事業を推進しています。
この事業では、介護事業者、開発企業などからの相談を受け付ける窓口を設置するとともに、実際の生活空間を再現し、新しい技術やサービスの開発を行うなど、介護現場のニーズを踏まえた介護ロボットの開発を行う企業を支援するための複数のリビングラボをネットワーク化し、各企業などからの相談内容に応じて、実証の支援や技術的な助言を行っています」(佐々木氏)
ICTによる介護現場のペーパーレス、脱FAXを推進
介護現場で負担削減が求められる業務は、要介護者との接触における体力的な負荷にとどまらない。介護記録を共有するための膨大な事務作業にも改善の余地がある。秋山氏は「中でも介護業界は、紙への記録とそのFAX送受信といったアナログ業務が慣習として根強く残っています」と説明する。
「居宅介護支援事務所と居宅サービス事業者の間では毎月、ケアプラン(予定や実績情報)をやりとりしています。具体的には、ケアマネジャーが要介護者や要支援者の相談を受けて居宅サービス計画書を作成し、居宅サービス事業者へ送付します。計画書を受けた居宅サービス事業者は、サービス提供の実績をケアマネジャーへ送付します。このやりとりの多くが今でもFAXや郵送で行われ、パソコンへの手入力など非効率な業務が生じています」
この状況を改善するため、厚生労働省はICTの利活用を推進。その1つが2023年4月から公益社団法人 国民健康保険中央会にて本格運用された「ケアプランデータ連携システム 」だ。
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ケアプランデータ連携システムの全体概要図。FAX利用が根強い事業所間のケアプラン(計画書)連携のデジタル化を推進。ペーパーレス化と業務効率化を後押しする
資料提供:公益社団法人 国民健康保険中央会
「データ連携の約束事を『ケアプラン標準仕様』として設定し、その約束事に従い異なる介護ソフト間でもつながる基盤として、国民健康保険中央会がシステムを提供しています」(秋山氏)
同システムにより介護職員は転記を伴う文書作成や郵送・FAXによる送付作業から解放され、同時に記載・転記ミスなどの書類不備を防止、業務時間を大幅に削減できる。
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「システム導入にあたってオペレーション変更への抵抗感が残る現場もあります。理解を促すために、国民健康保険中央会がコスト削減効果シミュレーションツールを公開していますし、私たち厚生労働省も効果を伝える活動を続けています」(秋山氏)
こうしたシステムや介護ロボットの活用に、導入コストの問題から消極的な事業者もあるという。この問題に対し厚生労働省では「地域医療介護総合確保基金」を活用した導入支援のほか、さまざまな支援も行っている。
「取り組みへの入り口となる支援として、生産性向上に関する基礎的な情報を学んでいただくセミナーを積極的に開催しています。また、導入するにも何から手を付けたらよいか分からないという事業者の相談場所として、各都道府県にワンストップ型の相談窓口の設置を促しています」(佐々木氏)
「『介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰』を新たに創設し、2023年8月に首相官邸にて第1回の表彰を行いました。内閣総理大臣表彰に2事業者、厚生労働大臣表彰 優良賞に4事業者、厚生労働大臣表彰 奨励賞に54事業者が選出されています。2月27日には、内閣総理大臣表彰受賞事業者などの『取組事例集』を厚生労働省ホームページにて公開しました。こうした事例も参考にしていただき、事業者が生産性向上に取り組むインセンティブにしてほしいと考えています」(秋山氏)
日本の子供の数が1982(昭和57)年から連続して過去最少を更新する中、介護業界に限らず人手不足が今後ますます深刻化するだろう。
そのため、ロボットやICTを活用し生産性向上を図るのは、安心・安全な社会を維持していく上で必要不可欠である。
その中で、現場のニーズに即した介護ロボットの開発は社会的な重要課題と言える。
本特集第2週では、実際に介護ロボットを導入、検証を行っている現場の最前線の取り組みをレポートする。
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