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サーキュラーエコノミーの新たな潮流

サーキュラーエコノミー推進で環境規制の覇権を狙う欧州! 日本はどう対峙していくか

欧州がけん引する「サーキュラーエコノミー」最新動向

今夏開催のパリ五輪では、ペットボトルの持ち込みを禁止するなど、環境保全を強く意識した施策が打ち出されている。開催国のフランスでは環境への意識が高く、2020年には循環的な経済(サーキュラーエコノミー)を促進するための「循環経済法」が施行された。サーキュラーエコノミーはフランスだけでなく、今や欧州での潮流となっている。第1回では、欧州連合(EU)のサーキュラーエコノミー戦略や最新動向、それに対する日本の取り組みについて、東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授の梅田靖氏に話を聞いた。

大量生産・大量消費を志向するリニアエコノミーからの脱却

人類が現状のペースで資源を消費し続けると、石炭は約130年、天然ガス・石油は約50年で枯渇するといわれている。それを回避するための取り組みが「サーキュラーエコノミー」だが、どのような考え方なのだろうか。東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授の梅田靖氏が解説する。

「持続可能な社会を実現するためには、地球の資源の上限を示す『プラネタリー・バウンダリー』の範囲内で人類が生活するよう、資源を循環的に使わなければならないという考え方がサーキュラーエコノミーです。それは二つの柱によって進められます。一つはリソーシングで、使用済みである『地上資源』を使って生産をすること。もう一つは、脱大量生産・大量消費です」

地球の限界を示す「プラネタリー・バウンダリー」

出典:ストックホルム・レジリエンス・センター(2022)よりEMIRA作成

つまりそれは、大量生産・大量消費・大量廃棄が一方向に進むリニアエコノミー(直線型社会)の否定だ。欧州連合(EU)では、2015年に「サーキュラーエコノミーパッケージ」を打ち出したことでその政策が始まった。

「WEEE(廃電気電子製品)指令」や「ELV(廃自動車)指令」が施行されるなど、EU は1990年代から環境施策を推し進めてきた。それがサーキュラーエコノミーへと格上げされたのはなぜか。

「海洋プラスチックごみの問題が大きいでしょう。人間の作ったものが地球環境を汚し、資源が枯渇しようとしている。化石燃料の使用を抑制するためには、リサイクルだけでなく、社会システムそのものを刷新しなければならないという危機意識が高まってきたのです」

欧州では市民の環境に対する意識が高い。それが政治的に利用されている側面もある。

「EUは27カ国の集まりなので、意見の対立が珍しくありませんが、サーキュラーエコノミーのように誰もが正しいと言わざるを得ないテーマは、同意しやすい。また、緑の党に代表されるように、環境政策は票に結び付きやすいのです」

サーキュラーエコノミーの考え方

出典:オランダ「A Circilar Economy in the Netherlands by 2050-Government-wideProgram for a Circular Economy」(2016)よりEMIRA作成

EUがサーキュラーエコノミーを促進するには、もう一つの目的があると梅田氏は言う。

「ヨーロッパはルールメーキングをすることで、サステナビリティの分野において世界のイニシアチブを握ろうとしています。それによって域内の企業に競争力を持たせ、雇用を確保しようとしているのです」

EUの中でもとりわけ環境意識が高いのがフランスだ。

「欧米では、『修理する権利』が広がっています。例えばスマートフォンのバッテリーを自分で交換したり修理したりすることができないために新品を買わされるのは問題だという考え方で、自分で、あるいは自分が選んだ業者が修理できるようにするための権利を求めた動きですが、それを法制化したのはフランスが最初です」

フランスでは2021年1月から、家電製品の「修理可能指数」をラベルに表示することが義務付けられている。その指数が製品の修理のしやすさを表すのだ。なぜフランスが環境対策において先進的なのか。梅田氏は、それが既に産業として成り立っている点を指摘する。

フランスでは、2021年1月からパソコン、タブレット、スマートフォン、テレビ、洗濯機、芝刈り機に「修理可能指数(Indice de réparabilité)」を表示することを義務化した

出典:フランス エコロジー移行省(https://www.ecologie.gouv.fr/politiques-publiques/indice-reparabilite)

「フランスにはヴェオリア・エンバイロメント(Veolia Environnment S.A.)というメガリサイクラーが存在し、リサイクルや水処理、エネルギーのマネジメントなどを一手に引き受けています。一連の環境施策は、彼らの意向も反映されていると言われています。ただし、サーキュラーエコノミーはリサイクラーの限った話ではなく、全産業が循環型になることを求めています」

矢継ぎ早に打ち出されるEUの環境施策

EUによるルールメーキングは、着々と進む。2020年には、「サーキュラーエコノミー行動計画 (CEAP)」を採択。環境に優しい未来にふさわしい経済の実現、競争力と環境保護の両立、消費者の権利強化のための指針を示した。

それを実行に移す具体的な取り組みとして、2023年にはバッテリー規則が施行された。容量が2 kWhを超える産業用、電気自動車用、自動車の始動等用のバッテリーについては2031 年以降、一定割合以上の再生原料の使用が義務化されることになった。

2024年5月には「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」が策定され、7月18日に施行された。製品の環境への影響を最小限に抑え、持続可能な生産と消費を促進することを目的とし、企業はこれまで以上にリサイクル性やサプライチェーンの持続可能性を考慮した設計が求められる。

東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授の梅田氏

「全ての製品に『デジタル製品パスポート』を義務付け、製品のライフサイクルに沿ったトレーサビリティを確保するための情報を全てデジタルで開示する必要があります。それぞれの製品がどういう条件下でエコデザインと定義されるのかといった具体的なルール作りは、これからです」

具体的なルールが決まらない中でも施行するスピード感が、EUの施策の特徴だ。2023年に欧州委員会(EC)は、「自動車設計・廃車(End-of-Life Vehicles:ELV)管理における持続可能性要件に関する規則案」も発表した。

「これが承認されると、自動車に使用するプラスチックの25%は再生材を使わなければならなくなります。日本でそれに対応しようと思ったら、再生材が圧倒的に不足するでしょう」

ところが欧州では、先述のヴェオリア・エンバイロメントのようなメガリサイクラーがプラスチックの再生材を供給できる。規制が始まる前からそれに対応する体制が構築されているのだ。

こうした環境ビジネスに特化した企業だけでなく、欧州ではさまざまな業種でサーキュラーエコノミーを志向した事業が既に展開されている。梅田氏がその一例を紹介する。

「フランスのルノーはフラン工場を改修し、『Re-FACTORY』を開設しました。使用済み部品を使って自動車の修理をしたり、使用済みバッテリーをリサイクルしたりと、まさに循環を前提にした自動車のライフサイクルを進めています」

電機業界も積極的だ。

「オランダのフィリップスは『Lighting as a Service(サービスとしてのライト)』をオランダのアムステルダム・スキポール空港などに提供しています。照明器具ではなく『明かり』そのものを販売するという発想で、ユーザーは照明器具を所有しません。フィリップスがメンテナンスを請け負い、照明器具をリサイクルやリユースして使い続けるのです」

日本のスタートアップの取り組みに期待

欧州で高まりを見せるサーキュラーエコノミーだが、日本の状況はどうなのだろうか。日本ではサステナビリティばかりが強調され、サーキュラーエコノミーはあまり話題に上がっていない。梅田氏が日本の現在地について言及する。

「日本では3R(リデュース・リユース・リサイクル)が定着しています。市民生活を送る上での環境保護活動はリサイクルの枠内で収まっているので、サーキュラーエコノミーが生活者の中に意識されていないのでしょう。むしろ産業界がヨーロッパからの圧力に対応するため、それに着目しています」

欧州で生産をしている企業はもちろん、輸出を行っている企業にとって、環境政策による影響は深刻だ。そうした中、日本にも動きがある。

2023年に経済産業省は「成長志向型の資源自律経済戦略」を策定。サーキュラーエコノミーを通じた新たな成長戦略を打ち出した。同年12月にはサーキュラーエコノミーに関する産官学によるパートナーシップ「サーキュラーパートナーズ」が設立され、約400社・団体が参加を表明した。

「環境省が策定を進める『第五次循環型社会形成推進基本計画』でもサーキュラーエコノミーを全面的にフィーチャーするといわれており、政府も積極的に動き出しています」

ただしサーキュラーエコノミーの推進は、簡単なことではないと梅田氏は強調する。

「大量生産・大量消費が経済的に最も効率のいいシステムだということが前提だった社会を、適量生産である程度豊かな暮らしができる社会へと変えていく動きなので、どうしても摩擦が生じます。大量の再生プラスチックがなかなか手に入らないなどの理由で、かえってコストは高くなる。社会が転換するために伴う一時的な痛みですが、それを乗り越えていかなければなりません」

それでも徐々に企業は動き出している。特に期待が大きいのは、デジタルによって社会課題を解決するスタートアップだと梅田氏は言う。

「傘のシェアリングサービスを提供する『アイカサ』はビニール傘の使い捨てを減らしていますし、ファッションのサブスクリプションサービスを提供する『エアークローゼット』は、洋服の循環を推進しています。DXと社会課題解決が結び付き、しかもユーザーに利便性をもたらすサービスが続々と誕生しています」

重要なのは、サーキュラーエコノミーが単なる理想ではなく、ビジネスとして成立することだ。

「ルールを決めるのは不得意だけれど、ルールさえ決まれば何とかするのが日本企業。昔はどちらかというと義務的に環境対策に取り組んでいましたが、今はそれをビジネスに結び付けなければならないという機運が高くなっている。日本の企業ならやってくれると期待しています」

日本の製造業はかつて、公害問題を克服することで環境保護のための技術力を高めてきた。サーキュラーエコノミーに向けた課題も、デジタルを活用することできっと克服できるに違いない。

本特集第2回では、フランスの先進的企業の取り組みを紹介する。

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