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食品ロス解決に導く!フードテック

アップサイクルで“かくれフードロス”を削減!

野菜の規格外品や端材をパウダー化し、食材として利用する過熱蒸煎技術

日本では毎日、大量の農作物の規格外品や食品工場の食品残渣が廃棄され、膨大な食品ロスを生んでいる。それらをアップサイクルしようとしているのが、フードテック企業のASTRA FOOD PLAN株式会社だ。同社代表取締役社長の加納千裕氏に、その取り組みについて話を聞いた。

パウダー化することで素材の風味を閉じ込める

2021年度の日本国内の食品ロス量は523万tと推計されているが、この数字は実態を表していない。なぜならこの食品ロスとは、製品になった後の売れ残りや食べ残しなどだけを指し、産地で除外される規格外作物や食品工場で発生する食品残渣は含まれていないからだ。それら「かくれフードロス」は、年間約2000万tも発生しているといわれている。(農林水産省 食品廃棄物等の利用状況等(平成30年度推計)より)廃棄量は、後者の方が圧倒的に多いのだ。ASTRA FOOD PLAN株式会社の加納千裕氏が言う。

「規格外品や余剰農作物が毎日、大量に捨てられている。今後、農家は減っていくことが予想されるので、食糧危機への対応という点からも生産量を増やすよりも、これまで食べていなかったものを食べられるようにする方が効率的なはずです」

SDGsやESGの推進が叫ばれる中、企業も“かくれフードロス”を野放しにできないが、解決策が見つからないのが現状だ。

「食品メーカーは今、大変な立場にいます。原価が高騰しているのにそれを価格に転嫁し切れず、さらにはサステナビリティの観点から環境に配慮するという、社会的な要請もある。そういう状況の中で食品ロスを減らしていかなければならないのです」

こうした社会問題に切り込むのが、ASTRA FOOD PLANだ。独自に開発した乾燥・殺菌装置「過熱蒸煎機」により、規格外作物や食品残渣を乾燥させ、食品パウダーとしてアップサイクルするのだ。

ASTRA FOOD PLANが独自開発した連続式乾燥殺菌装置「過熱蒸煎機」

過熱蒸煎機の装置構成

画像提供:ASTRA FOOD PLAN株式会社

過熱蒸煎機の仕組みを簡単に説明すると、3〜4mmほどにカットした食材を投入ホッパーに投入する。それらは乾燥ドラムへと送られ、約400℃の過熱水蒸気と風によって、上層のチャンバーへ噴き上げられる。水分を含む食材は最初、分級チャンバーの下の方へ沈んでいくが、次第に水分は失われ、軽くなったものから隣のサイクロンへと送り出される。そこで排気と乾燥物が分離され、パウダーが出てくるのだ。ここまでの工程がわずか10秒で完了する。

「熱をかける時間が長ければ長いほど、食材は劣化します。当社が開発した装置では5~10秒しか熱を受けないため、色が鮮やかなままで、風味も残した処理ができるのです」

𠮷野家の牛丼用タマネギの端材をアップサイクル

同社が設立されたのは2020年だが、過熱蒸煎機の開発に至るまでには長い歴史がある。加納氏の父は、1990年代から添加物を必要としない食材の加工を目指し、過熱水蒸気技術を活用したオーブンやそれを利用したピューレを製造販売する会社を経営していた。

加納氏も社員として手伝っていた時期があったが、エネルギーコストが高いことなどから事業化が難しく撤退を余儀なくされた。加納氏と、同社の吉岡久雄氏が父の思いを受け継ぎ、立ち上げたのがASTRA FOOD PLANであり、技術改良を経てたどり着いたのが過熱蒸煎機なのだ。

「父の会社が提供していた冷凍ピューレは、素材100%だったため、ロットごとに水分量のバラつきが生じていました。納品先のパン店から、解凍も水分調整も手間だから粉にできないかという声があり、それが開発のきっかけになったのです」

その要望に応えたのが過熱蒸煎機だが、パウダー化を志向した理由はそれだけでない。

「冷凍はエネルギーコストが高く、保存や流通に電力を要しますし、お客さまも製品を受け取ってから冷凍庫で保存しなければなりません。パウダーだと常温で保存ができますし、軽くてかさばらないので、物流費を抑えられます。しかも過熱水蒸気を作るには普通、ボイラーが必要ですが、当社はそれを必要としない過熱水蒸気発生ユニットを開発しました。消費電力やCO2排出量という面からも、パウダー化はメリットが大きいのです」

装置は5段階のサイズがあり、1時間に50kg処理できるタイプから500kg処理できるタイプまである。画期的な装置ではあるが、食品メーカーは、食品残渣の処理にそれほどコストをかけることができず、販売は容易ではない。そこで加納氏は、新たなビジネスモデルを構築した。

「装置を導入して、加工されたパウダーを自社で消費しようとすると償却がなかなか進みません。そこで装置をレンタルにし、当社がパウダーを買い取り、それを別の企業さんに販売して食品にするという、新たな仕組みを考えたのです」

その提案に乗ったのは、牛丼チェーンを展開する株式会社𠮷野家だ。実証実験には株式会社ポンパドウルが加わった。ポンパドウルは、加納氏が以前から付き合いのある前出のパン店だ。この3社により、2023年2月から実証実験を開始した。

𠮷野家のセントラル工場では、牛丼用のタマネギをスライス加工して各店舗に配送しているが、規格に合わない端材が廃棄されている。その量は、多いときで1日700kgにもなる。その端材を過熱蒸煎機で粉末化したところ、香りが強く、甘みとうまみのある仕上がりとなった。

𠮷野家のセントラル工場で発生しているタマネギの端材

画像提供:ASTRA FOOD PLAN株式会社

過熱蒸煎後のタマネギパウダー

画像提供:ASTRA FOOD PLAN株式会社

加納氏は、このタマネギパウダーを製パン用の原料として製品化することをポンパドウルに依頼。そうしてでき上がったのが4種類のオニオンブレッドで、この2月から販売を開始した。すると消費者の反応は上々で、𠮷野家も低コストで端材を再利用できる目処が立ったことから、2024年2月に正式に過熱蒸煎機を導入することを決めた。

「当社が自前で工場を所有して野菜パウダーを製造するという選択もありますが、それだとスケールしません。装置のレンタルとパウダーの買い取り販売を広げれば、製造工場が全国に存在するのと同じことになり、“かくれフードロス”が飛躍的に減ります。用途開発を進め、パウダーの市場を確立したいですね」

埼玉県で産学官連携による実証実験を開始

ASTRA FOOD PLANはパウダーを本格的に売り出すべく、名称を「ぐるりこⓒ」と命名して商標登録をしている。2023年10月30日には、タマネギの「ぐるりこⓒ」を使用したクッキーも発売となった。

過熱蒸煎機は、温度などを調節すればタマネギ以外にもさまざまな食材をパウダー化することが可能で、これまでに100種類以上の食材の乾燥・殺菌に成功している。
現在はニンジンやゴボウなどの食材でも実証実験を進めている。原料となる素材は、規格外品や端材だけでない。飲料の搾りかすも活用できるという。

ASTRA FOOD PLAN株式会社 代表取締役社長の加納氏

「用途は食品に限りません。お茶の搾りかすは消臭剤に使えるかもしれませんし、コーヒーの搾りかすはもしかしたら衣類や燃料になるかもしれません。可能性は無限に広がります」

伸び代の大きいパウダーだが、“かくれフードロス”が発生するのは工場だけでない。サプライチェーンの上流に位置する畑でも、多くの規格外作物が存在する。加納氏はそこにも着目し、2023年7月から「埼玉 食のサーキュラーエコノミープロジェクト」を始動させた。これは埼玉県による「サーキュラーエコノミー型ビジネス創出事業費補助金」に採択されたもので、同社の本社がある富士見市やJAいるま野、加納氏の母校である女子栄養大学が中心となり、飲食店やパン店などの県内事業者も参加する。

「生産者さんが収穫するホウレンソウやニンジンなど、6品目の規格外野菜をおいしく商品にするための用途開発を産官学連携で取り組んでいます。学生主導の商品開発で『ぐるりこⓒ』を使った学校給食を提供したり、地元のパン店や料理店で『ぐるりこⓒ』を使った商品を販売したりする計画です」

加納氏は、さまざまな企業や団体と手を組み、“かくれフードロス”の削減に取り組みたいとしている。

「食品メーカーであれば工場に装置を入れれば解決しますが、生産者さんは各地に点在し、それぞれから少しずつ規格外作物が出るので、それらを集荷する物流が必要です。JAさんに規格外品を有価物として規格品と一緒に買ってきていただかないと、生産者の課題は解決できないと思っています。我々が目指す循環型社会は、1社や2社でできるものではありません。他社さんと流通の拡大や研究開発を進め、仕組みを作っていきたいです」

ASTRA FOOD PLANがハブとなり、“かくれフードロス”削減のための取り組みが広がっていく。それが食品ロス全体の削減、そして循環型社会の実現につながっていくかもしれない。

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