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未来を育むエネルギー教育

これまでの学習指導の実情を知り、これからのエネルギー教育を考える

総合初等教育研究所 北 俊夫氏に聞く小学校におけるエネルギー教育の現在(いま)

電力の需要は世界で増大し続け、さらに温暖化や資源の枯渇など地球規模の問題とも向き合いながら、未来に向けて私たちはエネルギーをより有効に扱っていかなければならない。そのためにも、これから大人になる世代、子供たちへのエネルギー教育は重要な学習であると言える。では実際、それは教育の現場でどのように指導されているのか──。今回は、小学校の教育問題に精通した一般財団法人 総合初等教育研究所の北 俊夫参与に話を伺い、エネルギー教育の“現在地”、課題や展望を探る。
(<C>メイン画像:Fast&Slow / PIXTA<ピクスタ>)

これまでのエネルギー教育

あなたが小学生だった時代、「電気やガスなどエネルギーが何から作られ、どのように届けられるのか」を学んだ記憶はあるだろうか。

ある人は理科で電気の仕組みを学び、ある人は社会科で電気が家庭に届く過程を教わったかもしれない。

学校教育アドバイザーでもあり各地の小学校教育の現場に詳しい一般財団法人 総合初等教育研究所・参与の北 俊夫氏は「社会科における電気に関する学習の有無は小学校の学習指導要領に起因します」と語る。

「社会科の学習指導要領におけるエネルギーに関する記述をさかのぼると、1977(昭和52)年に告示された学習指導要領の4年に『飲料水、電気、ガス確保の対策』という内容が示されました。この内容が現在の学習指導要領(平成29年改訂)まで引き継がれています。

ただし、1989(平成元)年の改訂から取り上げる対象が選択的な扱いになりました。つまり飲料水、電気、ガスの中から一つを選んで指導するように示されたのです。背景には授業時間が少ないことがあります。教科書では飲料水が選択されました。従って、以降の世代は小学校で“電気やガス確保の対策”について十分に教わっていないというのが実態です」

飲料水が選択された背景は「水が手で触れられるなどの身近さ、飲料水の供給は自治体の管轄のため、教材(地域学習の副読本)など支援の受けやすさが挙げられます」と北氏は分析。「そのため学習指導要領に、電気、ガスに関する記述がありながら扱われない状態です。先生方に尋ねても十中八九『指導していない』と答えてくるでしょう」と解説する。

では、他の科目ではエネルギー教育の機会はあるのだろうか。

「理科では発電の仕組みや電気の性質などを学年ごとに段階的に学習しますが、エネルギーを取り巻く社会的な課題を学習する機会はありません。仕組みやメカニズムの学習になっています。また、家庭科では加熱用調理器具の安全な取り扱い方にとどまっていて、電気やガスなどエネルギー学習というところまでは至らないのが実情です」

小学校におけるエネルギー教育に関連する内容

資料作成:EMIRA編集部/監修:北 俊夫氏

「もう一つ、総合的な学習の時間を利用したエネルギー教育も可能です。ただし、小学校ではSDGsが教育に取り入れられる以前からESD(Education for Sustainable Development/持続可能な開発のための教育)が取り入れられてきました。小学校ではその事例として福祉や環境、減災・防災、食育、伝統や文化などが挙げられています」

総合的な学習の時間で、環境問題と組み合わせた「エネルギー環境教育」として扱われる場合もある。しかし、北氏は「環境に軸足が置かれがちで、エネルギー自体が十分に扱われない場合も多い」と指摘する。

エネルギー教育普及に立ちはだかる課題

電力の確保、つまり発電には火力、水力、原子力のほか、太陽光、風力などの再生可能エネルギーの活用が定着。さらに近年は火力発電に水素、アンモニアなど新たな燃料を用いる動きがある。そうした発電の種類や多様化の動きなどを小学校で学ぶ機会は乏しい状況にある。

「エネルギー教育が小学校で定着されない背景にはいくつかの問題があります。そもそも小学校の時間割が国語、算数、理科、社会科といった教科などで構成され、エネルギーについて専門的に学ぶ時間枠がありません。エネルギー教育を取り入れるときに『どこで時間を割くのか?』『代わりに何の授業を削るか?』という問題が生じます。ですので、現状は現行ある教科などの指導にエネルギー関連の内容を関連付ける形での教育にならざるを得ません」

では、総合的な学習の時間の選択肢としてエネルギー教育の推進をと思うところだが、北氏は次の問題として「指導の難しさが立ちはだかる」と言う。

「小学校で電気、ガスの学習が避けられる理由に指導の難しさがあります。小学校ではクラスの担任が全ての教科を教えるため、先生自身がエネルギーの専門的な知識を持ち得ていない場合があります。大学でもエネルギーについて学ぶ機会はありません。また、通常は目に見えない電気やガスについて子供たちに教え、理解を得ることも難しく、先生方は不安を抱きながら教えることになってしまいます」

そうした状況を解消しエネルギー教育に関心が持てる環境を整えるには、「教育現場の外側からの協力や援助が不可欠でしょう」と話す。

「これからの小学校で『エネルギー教育』を押し進めるためには、教職員向けの指導案の提供、研修の機会など支援が必要です」(北氏)

「例えば、電力会社や電機メーカーなど企業による出前授業の実施、エネルギーに関わる施設への見学や校外学習が促進されれば、教師の負担は軽くなります。子供たちはより専門的な知識を見聞きし興味を持つでしょう。

エネルギー教育も本来は子供たち一人ひとりのことを知る教師が直接教えられる環境づくりが理想的な支援だと思います。実際、資源エネルギー庁などがエネルギー教育の子供向けの副教材、教職員向けの指導案を提供していたり、教職員向けのエネルギー教育の研修会を実施する団体などの動きも広がっています」

エネルギー教育のこれから

これまで北氏は教育の現場へ、小学校でのエネルギー教育実践の提案や働き掛けを行ってきた。そうした中、2017(平成29)年の学習指導要領の改訂で、先述の「飲料水、電気、ガス確保の対策」に関する内容に新たな記述が付されたという。

「指導内容に『(飲料水、電気、ガスを供給する事業は)安全で安定的に供給できるよう進められている』という文言が加わりました。これは私たちの身の回りのライフラインがどのように確保・維持されているかにとどまらず、安全性、安定性の観点から指導することを示唆しているものです」

エネルギー問題を語る上で日常的に叫ばれるこの文言を生かし、飲料水を扱う授業でも、飲用水についての学習の後に電気やガスについて発展的に触れることで「子供たちが電気やガスの初歩的な知識や関心を持つ教育ができるのではないか」と、北氏はエネルギー教育の現状に差した光明を話す。

「2024年度 に入って都内の小学校で行われた4年生の社会科で興味深い授業がありました。子供たちが『飲料水は安全かつ安定して届けられている』ことを学んだ後、『安全で安定した供給は電気にも当てはまるのか』という授業を行いました。この時間は『飲料水の学習で学んだことを電気に応用する発展的な学習』と位置付け実践したものです。

さらにもう1時間。火力、水力、原子力、太陽光、風力などあらゆるエネルギーによる発電の種類を学習しました。その後、先生は2021年と2030年目標の電源構成のグラフを子供たちに示し、『2030年の目標を実現するために、誰がどんなことをしたらいいか』を考える授業を行ったのです。電源構成のグラフは中学校・高校の授業で使用する場合がありますが、小学校で使用された授業に初めて接しました」

2017年度の改訂以降、こうしたエネルギー教育の状況が「少しずつ変わってきています」と北氏は実感を込めて話す。

「これは可能性としての話ですが、2017年度の改訂で4年生の社会科に自然災害の防止に関する内容が加わりました。地域の防災・減災対策を学ぶ際に『電力会社やガス会社が、暮らしや社会活動を支えているライフラインの確保のため、どのような備えをしているのか、災害発生時にどのように対処しているのか』を学べないかという提案を行っています」

今後は、子供向けウェブサイトなど、学校を通さず子供に直接エネルギー教育を行う機会を設ける必要がある。

タブレットなどが学習教材として普及したことで「デジタル機器を使えば目に見えにくいエネルギーを視覚化しやすく、副教材として有効でしょう」と北氏も話す

(C)Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

北氏がこうしてエネルギー教育の普及を働き掛け続ける理由の一つに、実は「電力、ガス事業者の切実な声」があったという。

「電力、ガス会社の広報の方から『なぜ小学校では学習指導要領に(電気やガスについて)書かれているのに扱われていないのでしょうか』という声を耳にしたのです。小学校で実践してもらうための仕組みを考える必要があると考えています」

そして「電力やガスを供給する側からの働き掛けも必要ですね」とも。

豊かな未来を次の世代に託すため、より良いエネルギー敎育の機会を子供たちに提供するためにも、これからは教育現場の外からのさらなるバックアップが求められそうだ。

本特集第2回では、実際に小学校への出前授業を行っている企業に話を聞く。

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