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「気候テック」とは何か? 地球沸騰化が叫ばれる今、注目を集める理由

東京大学発のスタートアップ支援組織・FoundXの馬田ディレクターに聞く、気候テックビジネスの可能性

「気候テック(Climate Tech)」と聞いて、その具体例やビジネスをイメージできる人はどれくらいいるだろうか──。「天気予報向けの新しいテクノロジー」などと思う人もいるかもしれない。しかし世界では今、社会課題を解決する気候テックのスタートアップが次々と生まれ、未来を担うビジネスとして成長しつつある。本特集第1回は、そうしたスタートアップ支援を展開する東京大学産学協創推進本部「FoundX」ディレクターの馬田隆明氏に「気候テックとは何か?」「気候テックが注目される理由」を聞く。
(<C>カルーセル画像:Hsueh Yi An / PIXTA<ピクスタ>)

気候テックに眠る可能性

「気候テック」という言葉は、日本でもコロナ禍以前から気象・気候関連ビジネスを中心に使われ、気象情報を発信する株式会社ウェザーニューズでは2022年に気候テック事業部を立ち上げている(本特集第2回参照)。

東京大学の卒業生の起業、スタートアップを支援するFoundXの馬田氏は、気候テックに関して「2018~19年ごろに知って、ビジネスの可能性を感じました」と話す。

「『気候テック』という言葉は、地球温暖化で生じる社会課題を解決するテクノロジー、かつ、そうしたテクノロジーを包含する事業を指して使われています。近しい言葉に『クリーンテック』がありますが、ニュアンスとしてカバーする領域がエネルギー関連の技術などに限られます。一方、気候テックは地球の持続性に結び付くあらゆる事業を指すので、より広く多様な領域をカバーします」

「アメリカでビル・ゲイツが気候変動ベンチャーキャピタル・ファンド『ブレークスルー・エナジー』を創設するなど、世界的な潮流を踏まえ、日本でも気候テックから大きなスタートアップが生まれる可能性があると感じました」(馬田氏)

地球温暖化対策には、次の3つの概念がある。

■気候変動やその対応状況について知る「理解」
■二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を削減する「緩和」
■気候変動の影響を軽減する「適応」

これら「理解」「緩和」「適応」といった領域で気候テックはさまざまな形で用いられる。

「気候テックがカバーする主な領域を挙げると、『理解』に対応するような炭素排出量を把握するカーボンアカウンティング事業が先行しつつ、『緩和』に属する化石燃料由来エネルギーの再生可能エネルギーへの置換や、バッテリーやストレージの研究・開発を含むエネルギーのクリーン化、鉄鋼などの製造時に発生するCO2の排出削減などになります。ほかには自動車や飛行機などの電動化、水素の活用、鉄鋼・セメントなどの製造過程や畜牛の出すゲップから生じるCO2の排出削減、DAC(Direct Air Capture/直接空気回収技術)のように大気中のCO2回収なども、ビジネスとしての気候テックに含まれます」

※DACに関する記事:世界最速級を実現! 大気から直接CO2を高速回収するDAC(Direct Air Capture)はCNの切り札か?

気候テックが注目されている理由

気候テックが今、注目される背景について馬田氏は「ビジネス、中でもスタートアップが海外で非常に盛り上がっていることが挙げられます」と話す。

2021年、気候テックのスタートアップは世界で過去最高の320億ドルの投資を調達。5年間で投資額がおよそ5倍に増大した

引用元:「~パリ協定から5年~気候テック世界的投資動向2021レポート」

「ベンチャーキャピタルの投資領域を見ると、非常に高い割合でお金が気候テックに流れています。特にアメリカは、バイデン政権が率先して補助金や税制を整備し、スタートアップに限らず全般的に気候テックが盛り上がりました。ヨーロッパでもルールメイキングなどアメリカとは違う形での支援が進んでいます」

アジアでは現在、中国が気候テックをリードしているという。

「中国は2020年以降、ITのスタートアップが下火になったのですが、もともと国全体でグリーン製造業に注力していた結果、気候テックのスタートアップの存在感が高まってきています。元々、中国は排気ガスの大量排出や空気汚染が問題視され、この問題を解決するために技術開発が進んでいた結果、現在の気候テックにもつながっていると聞いたこともあります」

気候テックの領域で、このまま海外先行でスタートアップの成長が進むと、近い将来、日本の産業は大きな社会の変化にのまれ衰退してしまう懸念がある。

「日本は今、気候テックに向き合わなければ、例えばCO2を排出し続けている産業が近い将来、海外の気候テック企業にシェアを奪われかねません。エネルギー・鉱物資源は輸入に頼りきりな一方、輸出は自動車がけん引しているものの、EVの台頭で今後どうなるか分かりません。そうした国の状況を見れば、日本は産業政策として、気候テックの領域で20年、30年後にも通用する企業を育むべきです。

2050年のカーボンニュートラル達成を進める中で、産業の構造がいろいろと変わっていくことは間違いありません。そうした大きな変化は既存のビジネスにとっては脅威かもしれませんが、別の見方をするとビジネスチャンスでもあります。日本の気候テックスタートアップが世界に打って出る可能性も十分あるでしょう」

では、日本では今どのような気候テックが登場しているのだろうか。

「たとえば『カギケノリ』という海藻を養殖し、牛に食べさせることで、牛のゲップに含まれるメタンガスの排出量を減少させるスタートアップ事業があります。日本は海藻関連の技術が相対的に秀でています。かつ、牛のような反すう動物のゲップ抑制は世界的な課題ですので、ビジネスとして世界へ広がる可能性は高いです。また、持続可能でありながら自然条件への依存度の高さから普及が進まない地熱発電の課題を、テックを用いて解決して生産量を上げる事業を進めている起業家もいます。これも火山国で地熱利用が研究されてきた日本ならではのスタートアップでしょう」

牛の胃の微生物により消化分解と同時にメタンが生成され、ゲップとして排出される。メタンはCO2の約28倍の温室効果があり、気候変動の対策の一環として課題となっていた。「カギケノリ」(画像右)を飼料に0.2%混ぜて牛に与えると、メタンガス排出量が最大98%減少するという

画像提供:株式会社サンシキ

日本は他にもマテリアル、プラントメーカーの技術に優れ、世界に優位性をもって進出できる気候テックが生まれる下地がある。

だが、馬田氏は「現在の優位性だけで物事を判断するのではなく、産業の地殻変動が起こりつつある今、その機会の大きさにも目を向けるべきだと思います。現在の優位性のあるなしだけで判断してしまうと、大きな機会を見逃すことになりかねません。それに可能性の高い気候テックのスタートアップを一つでも多く育てなくてはならない状況を考えると、優位性はやり始めた後についてくると考え、さまざまな挑戦をしていったほうがいいように思います。それに世界視点で考えた場合、日本は産業的に『待ったなし』の状況でもあるからです」と強調する。

必要なのは、気候テックを担うスタートアップ人材

気候テックを活気づけ、20年、30年後の主要産業を育むことは、カーボンニュートラルの達成、気候変動の緩和と適応の観点はもちろんだが、国内外に通用する新たな産業の創出に伸び悩む日本にとって必須と言えるだろう。しかし、その実現達成にも課題がある。

「スタートアップの観点から見て、気候テックと向き合う起業家の数が足りません。世界的に見ても、投資する側には気候テックは十分認知されていますが、日本ではビジネス視点でまだまだ周知されていません。世界では多数のスタートアップが出てきているのに、日本では『環境に良いことは儲からない』と言われることもまだあります。私が知る範囲でもは、現在、日本で気候テックに取り組んでいるスタートアップは100社ほどではないかと思います」

こうした中、三菱地所株式会社が10月に気候テックに特化したスタートアップ事業拠点「0 Club(ゼロクラブ)」(本特集第3回参照)を開業するなど、ビジネスとしての気候テックを取り巻く環境は少しずつ変化し始めている。

2024年10月1日、東京・大手町に開業した「0 Club」。馬田氏も今後、同施設でスタートアップ向けのイベントなどに参加し、気候テックを担う人材育成を後押しする

画像提供:三菱地所株式会社

「誤解されがちですが、スタートアップ観点で気候テックへ参入する場合、気候・気象などの専門知識が事前に必要というわけではありません。もちろん、あったほうがいいことは間違いないのですが、先述の海藻養殖や地熱発電のスタートアップに取り組んでいる2人は、前職はソフトウェア開発のエンジニアでした。要は、自分の強みがあろうとなかろうと、機会がありそうであればそこに飛び込んでみて、そこで学ぶ意欲があるかどうかです。

確かにビジネスモデルを練る時間や事業化のために必要なノウハウは、例えばITなど他のビジネス分野よりも多いかもしれません。だからこそFoundXでは、その部分を少しでも支援できたらと考え、気候テックに向き合っています」

気候テックがスタートアップの台頭とともに、私たちにとってより身近なビジネスとなる。

そんな未来が見え始めている。

次回、本特集第2回は、気候テックをビジネスに取り入れ企業の気候変動対策をサポートする気象情報会社へ取材、気候テックをさらに深く掘り下げていく。

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