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2024.11.28
ウェザーニューズが挑む気候テック事業。50年、100年先の気候変動を分析する
「気候変動リスク分析サービス」が企業に利活用される背景を探る
世界の国や地域の垣根を越えて、社会課題を解決する未来志向のビジネスとして期待される「気候テック」。日本ではスタートアップは成長途上であるが、世界最大級の気象観測網を有する株式会社ウェザーニューズでは「気候テック事業部」をいち早く開設し、企業の気候変動への適応をサポートする事業を展開している。本特集第2回は、実際に気候テックが、事業でどのように取り入れられ活用されているのかを、同社気候テック事業部部長の鈴木孝宗氏とマーケティングチームリーダーの折野未莉氏に伺った。
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今求められる、気候変動によるロス&ダメージへの適応
日常的な天気予報の配信から、事業者や自治体向けに気象予測を基にしたソリューションサービスを提供するウェザーニューズ。
同社では、2019年に気候テック専門のプロジェクトチームを発足、2022年に気候テック事業部として本格的に事業を開始した。
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千葉県千葉市美浜区のウェザーニューズ本社では日々さまざまな気象・気候データが集約され、気象予測サービスの提供や気候リスクなど多様な分析データを一般、事業者向けに発信
画像提供:ウェザーニューズ
執行役員でもある鈴木氏は気候テック事業部を統括し、気象予報士でもある折野氏はマーケティングチームリーダーとして事業を推進。主に事業者の気候変動への適応をデータ分析で支援するサービスを行っている。
「気候変動への対策にはCO2排出量を削減する『緩和』と、気候変動の影響を軽減する『適応』がありますが、私たちは、主に『適応』のサポートを担っています。『緩和』ももちろん大切なのですが、『適応』を重視する理由を説明するには『気象』と『気候』の区別をまずは理解していただくのがよいと思います」(鈴木氏)
気象と気候は以下のような意味を持っている。
■気象
今日や明日、今週といった直近の短期間の大気の状態(気温、湿度、風、雲、雨、雪など気象に関連する要素を総合した状態)を指す。「天気」は気象とほぼ同意
■気候・気候変動
気候はおよそ数十年先といった先々の長期間の気象の状態を指す。また、気候変動はある地域の長期間にわたる気象パターンの変化を指すもの
「気候変動の対策として『緩和』となる温室効果ガスの削減はとても重要なことです。一方、気温上昇によって気象が極端化する現象が増えてきています。気象と気候を別々に考えられがちなのですが、日常生活においても、事業にとっても密接に関係しているものです。その観点から、企業は気候変動による気象パターンがどのように変化するかを把握し、適応させていくことが求められます」(鈴木氏)
EUの気象情報機関によると、2023年の世界の平均気温は観測史上最も高い14.98℃となり、産業革命前から1.48℃も上昇した。これは地球温暖化対策としてパリ協定で設定された「世界の平均気温の上昇を、産業革命前から1.5℃以内に抑える」という水準にまで達している。
この状況が引き起こす危機を、折野氏が補足する。
「1.5℃未満に抑えていかないと気象の極端化が進み、自然災害の激甚化、頻発化が避けられない状況になる可能性があります。そういった可能性も踏まえて、しっかり適応していかなければいけないと思います」(折野氏)
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世界の平均気温は2050年ごろまで上昇が続き、CO2排出を直ちに抑えた場合でも効果が表れるのは今世紀末になるという(グラフ内SSP1-1.9の線)
出典:IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change/気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書
実際、2023年、そして2024年は記録的な猛暑日が続くことで熱中症リスクが高まり、100年に一度、千年に一度とも言われる局所的な豪雨が洪水をもたらすなど、気象の極端化がより顕著になっている。
「日本にとどまらずグローバルな視点では、干ばつによる穀物の収穫量の減少や、山火事の頻発化なども起きています。こうした気候変動による経済的な損失と損害、いわゆる『ロス&ダメージ』に対する適応が重要です」(折野氏)
30年、50年先の気候変動リスクを容易に分析・運用
気候テック事業部では現在、企業向けに「気候変動リスク分析サービス」を提供し、気候変動リスクの可視化と共に気象予測による適応をサポートしている。
「例えば、工場や店舗、不動産といった物件ごとに気候データから将来の自然災害の発生リスクを可視化し、財務影響をピンポイントで分析する。その結果を基にバックキャスティングで現在取るべき方策として、気象予測サービスにより被害の軽減・回避を支援しています」(鈴木氏)
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気候リスク分析のイメージ。気候リスクの可視化、影響を分析するClimate Impact(気候シナリオによるリスクと機会)分析を基に日々の気象予測を活用し、事前に定めた対策により運用を継続的に観察、リスク回避・軽減を支援するClimate Risk Monitoring(レジリエンス)で運用まで支援する
資料提供:ウェザーニューズ
サービスへのニーズは、2022年4月、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿い、コーポレートガバナンスコードの改訂により気候変動リスクの開示や有価証券報告書への記載が実質義務付けられた背景もあり「生産拠点への自然災害が操業停止に直結する製造業を中心に増えています」(鈴木氏)という。
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気候パターン分析のイメージ。特定の場所の雨、風、気温、日射量などを、現在・2℃昇温・4℃昇温した場合と3パターンの将来の数値を算出しヒストグラム化。気候変動影響対策のBCP(事業継続計画)/BCM(事業継続マネジメント)への反映、設備投資の検討などに活用できる
資料提供:ウェザーニューズ
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事業者向けプラットフォーム「ウェザーニュースfor business」は気候変動の分析にも対応。「生産拠点の数十年先の洪水による浸水域の分布、被害率、浸水に伴う操業停止日数などを、利用者が独自に分析することも可能です」(鈴木氏)
「将来起き得る自然災害の発生確率とその損失を算出して、生産拠点の防災、防水などハード面の拡充、または移転などの対策を、投資効果などと比較して対応するケースもあります」(鈴木氏)
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気候リスクモニタリングのイメージ。浸水、熱中症、操業停止などリスクの可能性を、気象予測を活用したオペレーションで提示。企業により具体的な対策の検討で役立ててもらう
資料提供;ウェザーニューズ
また、本サービスは自治体にも活用されている。
「自治体は、環境基本計画への適応計画の記載が定められており、気候変動の影響の分析、適応策の検討にご利用いただいています。特に特産品、米に代表される農産物は気温上昇による猛暑にも耐え、かつ、おいしく育つよう品種の開発が地域産業の未来を左右します。そうした種子の改良も適応策に挙げられます」(折野氏)
これからの気候テックへの期待
膨大な気象・気候データを多角的、かつ長期的な視点で分析するウェザーニューズでは、以前から、高性能気象IoTセンサー「ソラテナPro(R)」、防災チャットボット「SOCDA」※、花粉観測機「ポールンロボ」などを開発してきた実績を持つ。その意味では「私たちのサービス全てが気候変動への適応策と言ってもいいと思います」と鈴木氏は話す。
※「SOCDA」に関する記事:“適切な避難誘導”でアクション喚起! 防災チャットボット「SOCDA」が実現する被災住民への的確な情報共有
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高性能気象IoTセンサー「ソラテナPro」。気温・湿度・雨量・風速などの気象データを1分ごとに観測、農作業や建設現場、屋外イベントなどで気候予測、災害対応に活用される
画像提供;ウェザーニューズ
昨今、気候テックは将来性や投資の観点から、スタートアップの登場を期待する論調で話題になっている。
その可能性についても、鈴木氏は「期待は大きいです」と話す。
「企業が気候変動への適応を推進することでニーズはより高くなるでしょうし、そのような気候変動への適応の促進が求められております。気候変動を含む地球温暖化対策は、一企業で全てを解決できるものではありません。多様なプロダクト、スタートアップが出てきて、一緒になって対策していくことが重要だと思います」
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鈴木氏(左)は「スタートアップも出てくるでしょうし、私たちもそういう動きに対応できるサービス・プロダクトを開発していきたいですね」と話す。右は折野氏
取材の最後、折野氏は前述の「気象と気候の区別」について、次のような考え方があると補足する。
「気象は明日、明後日の天気で『自分たちでは変えられない』けれど、気候は『自分たちの今の行動で変えられる』という考え方があります。ですので気候リスク分析も、その対策も、後から答え合わせをするという感覚ではなく、日々の何らかの変化をどのような視点、視座で見ていくのか、積み重ねの観点で接していくことが大切だと思っています」
自分たちの日々の行動で、気候変動に適応していく──。
ウェザーニューズとの共創で気候変動に適応していくソリューションが、これから芽生えてくるかもしれない。
次回、本特集ラスト第3回は、そうした可能性を秘めた新たな気候テックのスタートアップ拠点を取材する。
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