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2025年、住宅業界で起きること

2030年には市場拡大! 省エネ住宅普及で注目の「全館空調システム」とは

LIXILと東京電力エナジーパートナーが進めるZEH基準を見据えた高効率な家造り

住宅業界では2030年に義務化されるZEH(Net Zero Energy House)基準(断熱等性能等級5)を見据え、住宅の高断熱化に適した技術の研究開発が加速している。こうした中、株式会社LIXIL(以下、LIXIL)と東京電力エナジーパートナー株式会社(以下、東京電力EP)は、高断熱住宅向けの全館空調システムに関する大掛かりな実証実験を進めている。本特集ラストはその詳細と意義について、LIXIL Housing Technology ZEH推進事業部 ZEH推進商品開発部の市川啓介氏と澤村亮一氏、東京電力EP カスタマーテクノロジーイノベーション部の齊藤佑輔氏に伺った。

住宅の高断熱・高性能化を左右する空調システム

建築材料や住宅設備機器業界最大手のLIXILは、将来の省エネ住宅普及を早期より見据え、ZEH向けの住宅設備の開発・販売を積極的に行っている。同社ZEH推進商品開発部で構造体開発グループのリーダーを務める市川氏は次のように話す。

「住宅設備の開発・販売において弊社ZEH推進事業部は、ZEHの普及に注力してきました。事業領域は広く高気密・高断熱住宅工法、外装材、換気・空調設備、太陽光発電システムなど、サッシ以外の建物の外皮を構成する商品の開発、製造および販売を行っています」

LIXILは1995年に、気密性、断熱性に優れた「スーパーウォールパネル」を開発。同社の換気設備などを組み合わせた「スーパーウォール工法」を全国の工務店に提供し、高気密・高断熱住宅の普及をハード面から支えてきた。

そうした中、2025年4月1日の省エネ基準適合の義務化の波が押し寄せた。

「現在、既設住宅(ストック住宅)の87%が現在の省エネ基準(断熱等級4)を満たせていません。また、 WHO(世界保健機関)が推奨する住宅の平均室温18℃以上が達成できていない住宅が大半を占めます」

「18℃以下の住環境はヒートショックをはじめ健康へのリスクも大きくなり、新築住宅の高性能化だけでなく、既存住宅も改築・改修で18℃以上の室温環境を整え、住宅の高性能化を後押しする動きを加速させる必要を感じています」(市川氏)

新築および既設住宅の高断熱化が進むことで、より良い室内環境と効率的なエネルギー利用が求められる。

そこでLIXILが着目したのが「全館空調システム」だ。

実験住宅で全館空調システムの実証を開始

LIXILが2023年に発表した全館空調システムは、住宅全体を“夏は涼しく、冬は暖かく”年間を通して室温を一定に保ち、かつ効率的なエネルギー利用につなげられる。同社ZEH推進商品開発部で温熱・省エネ開発グループリーダーの澤村氏が全館空調システムの特徴を解説する。

「既存のエアコンは断熱性能等級2向けに設計されているので、風量・出力が大きくなります。この分野で後発の私どもが同じものを作っても勝ち目はありませんので、ターゲットを断熱性能等級6以上向けに絞り、全館空調システムを開発しました。

気密性が高く、空気を計画的に循環させられる高性能住宅の特徴を生かし、空調と換気を統合しエアコン1台分の出力で玄関から階段の吹き抜け、洗面所、トイレなども含む家全体の室温を調整、空気を循環させることが可能です。部屋ごとにエアコンを設置する必要がなく、室外機も1台で済みます」

ただ、全館空調システムは提供開始から日が浅く「普及させていくためにはエンドユーザーにとって分かりやすいエビデンスの取得が必要」(澤村氏)という課題を抱えていた。

LIXILの全館換気空調システム「エコエアFine」の特徴の一つ「自動循環切替システム」。夏は空間上部の熱気を取り込み空調し、冷房の涼しい空気を全体に行き渡らせる(画像左)。逆に冬は足元の冷気を取り込み空調し、暖房の暖かい空気を足元まで行き渡らせる(画像右)

資料提供:株式会社LIXIL

住宅全体をカバーするシステムだけに、確かなエビデンスを得るには住宅を丸ごと使用し、1年以上の長期にわたる実証が求められる。可能であれば、等しい条件下の2棟で全館空調システムと他の空調方式の数値比較による実証が理想だが「そのような条件下で実験をすることは難しく…」と市川氏は言う。

こうしたLIXILの状況を知った東京電力EPは、自社の実験住宅を提供し、実証を共同で行う運びとなった。2024年10月に新設されたカスタマーテクノロジーイノベーション部の齊藤氏が説明する。

「LIXILさんと東京電力EPは2017年にZEHの普及促進を目的とした合弁会社『株式会社 LIXIL TEPCOスマートパートナーズ』を設立するなど、省エネ住宅関連の取り組みでご一緒する機会がありました。今回もそうした『何か新しい取り組みを一緒に』と話していた中で、私どもが実験住宅を提供させていただきました。

カスタマーテクノロジーイノベーション部は、ご家庭での太陽光発電など再生可能エネルギー利用による“電気の地産地消”の推進に必要な研究開発も行っていますので、省エネの全館空調システムは自宅でつくった電気で賄う未来の実現など、ご一緒させていただく意義は大きいです」

実証が行われている東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所(横浜市鶴見区)内の実験住宅

画像提供:東京電力ホールディングス株式会社

「元々、オール電化住宅が普及し始めた時期に建てられ、電化機器と従来機器のエネルギー消費量の比較、最新設備の実測や運転環境におけるPRなど、さまざまな目的で使用しています」(齊藤氏)

両社の交流をきっかけに、同じ設計の2棟が横並びに立ち「ここまで大掛かりな比較実証に適した環境はなかなかありません」(市川氏)という実験環境が整い、2024年7月より「高断熱住宅における全館空調システムのエネルギー消費・温熱環境実測」が始まった。

「実測は2年間、年度ごとに環境を変えて行います。2024年度は、1棟(A棟)を断熱等級6相当に改修、全館空調システムを設置し24時間稼働させます。もう1棟(B棟)は実験住宅の元々の断熱等級4相当のままで、各居室にエアコンを設置し生活リズムに合わせて間欠運転させます。2棟で夏期、冬期の実測、比較分析を実施します」(市川氏)
※…エアコンの稼働と停止を繰り返す運転方法

実測は、室内温度、湿度、PMV(Predicted Mean Vote:人が感じる暑さや寒さの度合いを示す指標)などを測り、複数人による被験者試験を実施する。

既に実測を終えた2024年度夏期の計測では、A棟の室温は24~26℃の範囲で24時間快適な環境を維持。B棟は、エアコン稼働時は24℃前後になるが、停止すると室温が急上昇し、再びエアコンをつけると下がるというように、時間や部屋間で最大10℃もの温度差が生じていた。

「上下階をつなぐ吹き抜け周辺は特に上部に熱気がこもりやすく、階段上と下で温度差が激しくなることがありますが、A棟では温度差わずか0.6℃ほどで、B棟との差は歴然でした。PMVも7段階評価でA棟はほぼ0(中立)で安定し、B棟はエアコンが切れた直後などは+3 (暑い)になるなど、グラフ化すると変動の激しさが一目瞭然です」(齊藤氏)

現在進行中の冬期の実測をふまえ、年間を通しての数値比較、全館空調システムの高断熱住宅における確かなエビデンスの確認を目指す。

体感して実感できる全館空調システムのすごさ

今回の実測は、全館空調システムを開発・提供してきた側にとって実感で得られる成果も多い。被験者実験に同行した市川氏、齊藤氏も自身の肌で全館空調システムの実力を実感した。

「A棟では、夏場に階段を上がるごとにどんどん暑くなる“住宅あるある”な感覚が全くなかったことに驚きました。実際に体感してみないと分からない感覚でした。また全館空調システムの場合、床面が極端に冷え切らないことが数値で分かり、その辺りも快適性につながっていると考えられます」(市川氏)

「A棟は玄関ドアを開けた瞬間から涼しさを感じられたのが印象的でした。B棟はエアコンをつけて30分経っても暑さを感じたので、その“待たされた感”を感じない点でも全館空調システムの必要性を実感できました。やはり数値だけでは分からない感覚を得られたことは、お客さまへサービスをお伝えする上でも大きな経験でした」(齊藤氏)

「一般的なエアコンではどうしても肌に触れる風に不快感を覚えます。しかし、今回の全館空調システムは低出力、低風量のため“気流感”がほとんど感じられなかったという感想を被験者試験でもいただいています」(澤村氏)

2年目となる2025年度は断熱等級2相当の住宅との比較検証を視野に入れ、実測を継続する 。

「断熱等級2は、約40年以上も前の断熱性能レベルの住宅です。既存住宅も今のままの断熱性能では、住宅の省エネ化、暮らしやすさの観点で改善が求められるでしょう。そうした住宅に住まれている方々にも全館空調システムの良さを知ってもらい、リフォームの際の選択肢に加えてもらえたらと考えます」(市川氏)

ZEH基準が義務化される2030年度、全館空調システムの市場規模は2023年度比の1.3倍に広がる予測も発表されている。

省エネ住宅の未来を担う全館空調システムは、2025年も進化を遂げるだろう。

カーボンニュートラルの目標達成まで、あと四半世紀──。

2025年は、省エネ基準適合の義務化をトリガーに「住まい」のあり方の大転換期が始まる。

国、自治体、企業、住む人それぞれがこの変革とどう向き合うかで、快適で健康的な暮らしの実現と、カーボンニュートラルの目標達成の道筋が鮮明になるはずだ。

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