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2025.08.28
東京電力グループが取り組むエネルギーレジリエンス最新事情
「減災対策」「災害対応力」「社会連携」の三本柱で防災レジリエンスを強化
台風、豪雨、地震といった自然災害は、人類のテクノロジーがいかに進化しようとも避けられないものである。故にいつ何時、いかなる場合にそれらが発生しても被害を最小限にとどめ、生活、社会活動をいち早く立ち直らせるための「備え」が不可欠だ。そうした観点から、首都圏の電力エネルギー供給を担う東京電力グループでは、現在どのような防災レジリエンスに取り組んでいるのだろうか。東京電力ホールディングス(以下、東京電力HD)株式会社 経営企画ユニット 総務・法務室の光田 毅グループマネージャーに話を聞いた。

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レジリエンス強化の三本柱
人々の暮らしを支えるエネルギー、電力の防災レジリエンスの重要性は言わずもがな、である。
東京電力HDで、その重要なミッションを指揮する光田氏は「東京電力グループは、防災レジリエンスに『三つの柱』を立てて進めています」と話す。
「第一の柱は『減災対策』です。地震被害、台風、豪雨による水害が起きても設備が壊れないよう備えることが、停電を起こさないための最も有効な対策です。ですが、電力設備は発電所や変電所、そして電線、電柱など数も膨大で、それぞれに適した対策が求められます。これを効率的、かつ効果的に取り組まなければなりません」
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近年、地球温暖化の影響などによる自然災害の激甚化を踏まえ、国(内閣府中央防災会議)や自治体は各種災害に対する被害想定を公表。「対策量が膨大ですので、設備への影響評価を行い、電力系統上重要な設備より設備更新等のタイミングと整合して、電力の供給に影響が大きい設備から順次対策を進めています」(光田氏)
資料提供:東京電力ホールディングス株式会社
第二の柱は「災害対応力の強化」である。
「設備対策をどれだけ行っていても、全ての被害を防げるわけではありません。私たちはこれまでも防災訓練や技術者一人ひとりの技能向上を通じて災害対応力の強化を図ってきました。昨今では、ドローンや情報連携アプリの活用による速やかな情報共有の実現とともに、情報を整理・判断することに特化した訓練を新たに追加し、災害対応力向上に取り組んでいます」
そして、第三の柱は「社外との連携により総合力を発揮すること」と話す。
「第二の柱は、当社グループの災害対応力の強化が前提ですが、やはり一つの企業体でできることには限りはあります。国や自治体、他のインフラ企業、そして国民の皆さまとも協力させていただき、社会全体の災害対応力の底上げが、より確かな防災アライアンスに結実していきます」
能登半島地震の復旧に生かされた台風の教訓
防災レジリエンスにおける「グループ社外との協力」の重要性を改めて認識したのは、「2019年の台風15号(令和元年房総半島台風)上陸時の経験に基づいたもの」だと話す。
「最大時で約93万戸が停電し、復旧までにおよそ2週間を要しました。中でも被害規模が大きかった千葉県では巡視要員が不足し、被害状況の全容把握に時間を要しました。また、復旧作業では全国の電力会社から技術者を派遣していただいたのですが、電線接続の工法や工具が電力会社ごとで異なり、応援の皆さんに効果的に復旧作業を実施していただくことができませんでした」
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「肌感覚では、各地で地震や台風などの被害が増えていると思いますが、同時に防災レジリエンスの取り組みも、近年非常にアップデートされてきました」(光田氏)
こうした事態を教訓に、同グループは最大1600の巡視班を組成できる体制づくりを実施。この編成数は、台風15号時の約590班から大幅な増加となった。
「第二の柱に挙げた災害対応力の観点からも、被災時の状況把握は復旧見通しを早く、正しく立てる上で重要です。台風15号の被害時まで、この状況把握を特定の部門に依存していた反省から、現在は部門外を含めて総動員できる体制を整えました」
また、設備の被害状況を現場でリアルタイムにデータ化、本社・支社と情報共有し効率的かつスムーズな復旧作業が行える環境を整備した。
「一方で、私たちの対策だけでは早期の復旧は難しいのも事実です。東京電力グループでは第三の柱の観点から、各自治体に協力を仰ぎ、万全な備えの足掛かりとして『防災協定』をサービスエリア内の1都8県、363市町村と締結しています。これは有事の停電事故の際、復旧作業をスムーズに進めるために自治体と私たちの役割分担を平時より確認、明確化するもので、双方の連携強化、地域の暮らしを守る上で欠かせない取り決めです」
さらに、台風15号の反省から全国の電力会社間で災害時連携を強化。2025年3月、愛媛県今治市の山林火災で7万6000軒の停電が懸念された際も、各社の発電機車が現地に派遣されるなど「各電力会社がよりプッシュ型で支援し合う体制が整った」と言う。
「電力会社間の応援をより効果的にするために、仮復旧を前提とする復旧方法に変更。各電力会社で共通の工具を開発し、工事復旧の迅速化を図りました。この改善は、2024年の能登半島地震の際、各電力会社の応援による復旧工事を加速化させる結果につながりました。また、交通インフラが寸断された孤立地域へ発電機車を派遣することを想定し、海上自衛隊の輸送艇での輸送や陸上自衛隊のヘリコプターで懸吊(けんちょう)する訓練を進めており連携強化も図りました」
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各電力会社、陸上・海上自衛隊と災害発生時の相互連携を目的とした合同訓練を実施。ヘリコプターによる懸吊訓練のようす
画像提供:東京電力ホールディングス株式会社
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海上輸送訓練のようす
画像提供:東京電力ホールディングス株式会社
地震、水害、噴火。進化し続ける防災レジリエンス
防災レジリエンスでは過去の教訓に基づく取り組みとは別に、未来に起き得る自然災害への対策にも余念がない。
「地震は首都直下、南海トラフ、日本海溝・千島海溝など、今後懸念される地震の震動の最大値を想定、評価し対策の優先順位を決めて、発電設備、送配電設備の耐震対策を行っています。水害・高潮は水防法改正を踏まえた自治体等のハザードマップを活用し、変電所など施設の評価を行い、電力系統の重要度、影響度に基づき順次対策(浸水の軽減・遅延対策および恒久対策)を進めてきました」
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水害・高潮対策の一例(変電所構内の擁壁設置)
画像提供:東京電力ホールディングス株式会社
さらに噴火といったまれな災害への防災レジリエンスも検討。噴火は、富士山噴火に伴う降灰被害が想定されている。
「設備は法令や基準、規格類に基づき製作されており、所定の強度を有しています。しかし、すべての自然現象に耐え得るというものではなく、災害への備えとしては事象別の評価が必要です。
特に降灰災害への対応は、内閣府が2020年に富士山噴火による降灰シミュレーションを公表したことが発端になりました。その後、経済産業省も降灰による発電設備、送電線への影響を検討・報告し、私たちも検討会に加わりました。このときの検討を基に当社設備への影響評価、復旧対策を検討しました」
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2020年「降灰シミュレーションのパラメータと計算結果」(内閣府)より。首都圏主要地域ごとに降灰状況を風速、風向、噴火規模など3つのケースで計算、結果を公表した
降灰で懸念される設備被害は、火力発電所に設置された吸気フィルターの目詰まりによる発電出力の低下・停止、そして鉄塔・電柱に設置された「碍子(がいし)」への影響だ。
「碍子は電柱や鉄塔の上部で見られる白い器具です。電線を支え、電線と支持物を絶縁させる目的で設置されるのですが、この碍子に積もった灰が降水などで水分を含むと絶縁を保つことができず、停電事故を引き起こす可能性があります(桜島、阿蘇山等で停電実績あり)。対策は碍子に積もった灰を落とす高圧洗浄機等をあらかじめ配置し、迅速に対応できる体制づくりを進めています」
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碍子は、鉄塔など電線が集中する設備で多く見られる
(C)RewSite / PIXTA(ピクスタ)
地球温暖化、気候変動に伴い自然災害も激甚化しつつある昨今、光田氏は「自治体や企業の防災レジリエンスへの意識の高まりを感じています」と話す。
「自治体の防災・減災対策への関心は、能登半島地震を踏まえ特に地方で高まっていると感じています。そうしたニーズへ私たちは防災協定による連携とは別に、グループで培われた電力技術とノウハウ、災害対応力を生かし、地産地消型のエネルギー社会に即した災害に強いまちづくりに貢献していきたいと考えています」
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東京電力グループの「カーボンニュートラル×防災」によるまちづくりイメージ。受電設備事故の低リスク化、災害発生から72時間の非常電源確保、再生可能エネルギーの活用による分散型電源の導入等の減災対策(事前の備え)を提案してきたが、これに加えて災害対応力を生かした避難所支援等非常時のサービスの検討も進めている
資料提供:東京電力ホールディングス株式会社
同グループでは、「いすみ市地域マイクログリッド」(本特集第1回参照)のようなエネルギーの地産地消による災害に強いまちづくりの提案を推進。防災とカーボンニュートラルを組み合わせ、地域の社会課題の解決への寄与を目指している。
一般企業も、NEXCO東日本(東日本高速道路株式会社)、NEXCO中日本(中日本高速道路株式会社)、首都高速道路株式会社(緊急車両通行他)、イオン株式会社(復旧拠点としてのスペース利用他)など、相互支援に関する協定を締結。災害発生時の迅速な復旧を後押しする環境を整備している他、企業自体の防災対策も支援している。
「災害対応力強化に取り組む一般企業は増加傾向にあります。これに伴い、東京電力HDへの問い合わせも増えてきていますので、私たちも、これまでの知見を社会全体の防災レジリエンスの強化に生かしたいと考えています」
天災をきっかけに、自治体や一般企業など身近なところで防災・減災対策の意識が一層高まりつつある。
いざ災害が起こったときに、自分自身の身の回りはどういった事態に陥るのか。
激甚化する災害に備え、防災レジリエンスは着実に進化を続けている。

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