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ゲームで切り開く社会課題解決

“電柱を撮影する”ゲームが切り開く、市民参加によるインフラ維持

「ピクトレ」開発者たちに聞く、ゲームとインフラ維持の好循環

ただ夢中になってゲームを楽しむことが、知らず知らずに社会課題の解決に協力している──。そんな社会課題に寄り添ったゲームアプリの先駆者である「PicTrée(ピクトレ)」。街の至る場所にある「電柱」を撮影・送信する陣取り合戦が、インフラ維持の貢献につながるというゲームは、一体どのような設計思想の下、誕生したのか。ピクトレを運営するGrowth Ring Grid Pte.Ltd.(以下、GRG)共同代表取締役の鬼頭和希氏と、開発を担う株式会社Digital Entertainment Asset(以下、DEA)代表取締役社長の山田耕三氏に聞いた。

この記事のポイント

  • ゲームを通じてインフラ維持に参加できる新しい仕組み
  • 電柱の維持コスト削減と新たなビジネスモデルの実現
  • ゲーム性と実用性を両立し、実際の保守業務に貢献

東電管内に約600万本! 電柱の維持コスト問題が開発の始まり

ゲームの中で得られるお金、アイテムなどの報酬は、ゲームの外、すなわち現実では価値を持たない。そんな、これまでの常識を覆すゲームが近年生まれつつある。ゲーム内で得た報酬が「ポイ活」のように現実の価値へ結び付くものだ。

ピクトレは、全国各地にある電柱を撮影することで疑似的に陣取りを競い、ゲーム内でのポイントを得るゲームだ。

「どうして電柱?」と首をかしげる人もいるかもしれない。

この疑問に、DEAと東京電力グループのジョイントベンチャーとして誕生したGRGを取り仕切る鬼頭氏は「その背景には、電力会社が長年抱えてきた課題が関係しています」と語る。

「私は以前、“電気の次”を担うような可能性のあるビジネスを探求するミッションに携わる過程でDEAの山田さんと出会いました。DEAでは“Play to Earn”、つまり“遊んで稼ぐ”というスキームを、ブロックチェーンに代表されるようなWeb3の技術を活用したゲームの開発によって探求していました。そこで、一緒に何かできないかと模索を始めたんです」

【参考】Web3時代をけん引する“NFT”、そして“ブロックチェーン”とは

鬼頭氏は2009年に東京電力パワーグリッド株式会社(以下、東京電力PG)に入社。東南アジアにおける海外コンサルティングや国際協力機構(JICA)にてODA(政府開発援助)に関する案件開発に従事。現在はGRGでピクトレの企画運営を管轄。ピクトレを中心に据えた新たなビジネスモデル創出に取り組む

ゲーム開発をビジネスとして成長させるには収益化が欠かせない。アイテム課金や広告など、ゲームがマネタイズする方法はいくつかあるが、ブロックチェーンは前述の2つに加えて「プレイする権利をNFTとして購入する」という手法を取ることができる。一方で、プレーヤーが増えるほど分配される富が少なくなるというデメリットもある。

「山田さんと『何かマネタイズできるポイントはないか?』と探っていたとき、“社会貢献”というワードが浮かびました。企業の困り事を解決することで企業から報酬を得られれば、ユーザー以外からの売り上げを増やせます。私の出向元である東京電力PGに困り事がないかと省みると、電柱に目が向きました」(鬼頭氏)

東電管内に600万本設置され、電力を行き渡らせるために張り巡らされた電柱。そこにずっとあるものだと誰もが思っているが、もちろん経年劣化や災害などによって補修が必要となる。その保守には人件費などで年間数十億円ものコストと時間を要する。

電柱のひび割れなどの点検には、現地へ作業員を派遣し一本一本を確認する必要がある ※画像はイメージ

(C)bluet / PIXTA(ピクスタ)

「そのエリアごとに人を送り、電柱を目視で点検し、必要に応じてメンテナンスする。その莫大な予算をそのまま使うよりも、これから開発するゲームの報酬にできるのなら新しいビジネスモデルが生まれるのでは。そう感じてピクトレの開発に着手しました」(鬼頭氏)

インフラ維持に役立たせながら、ゲームの楽しさを担保

DEAでゲームデザインを担う山田氏は、鬼頭氏と議論していた当時を振り返り「ピクトレの可能性を強く感じた」と語る。

山田氏はテレビ東京で「ドリームクリエイター」などの人気番組の制作を経て、2018年に「エンターテインメントで世界を救う」という理念を掲げてDEAを創業。2024年、「スタートアップワールドカップ2024」東京予選で優勝するなどのキャリアを持つ

「例えば、道路のくぼみやひび割れを行政などに報告し、補修を行う仕組みはLINEなどを活用する形で既にありました。そこにゲーム性を付け、報酬を回すという設計にできればビジネスとして成立すると感じました」

一方で、タッグを組むことに対しての苦労はなかったのだろうか。

「東京電力PGではなく、あくまでGRG代表という立場で意思決定できたことは幸いでした。大きな企業だと全ての裁量を自社で持ちたがるケースもあるのですが、DEAさんが培ってきたゲーム開発のノウハウは私たちのグループには決してまねできないものですから、“餅は餅屋”でゲームの構成やUI(ユーザーインターフェース)についてはお任せし、同じ目線で判断することを心掛けていました」(鬼頭氏)

開発に当たっては、電柱というインフラを維持するためのゲームであることを念頭に置きつつも、プレーヤーが楽しめる設計を心掛けた。指定の電柱を撮影することで自チームのものとすることができる「陣取りゲーム」のような形を取るが、自チームの電柱を敵に奪われるなど、バトルゲームの要素も取り入れている。

「電柱を撮って終わり」ではなく、時には奪い、奪い返す。こうしたゲーム性を維持することで、一方的なインフラ点検という社会貢献のためのアプリではない面白さを担保した、市民参加型で推進する“ゲーミフィケーション”型社会貢献プラットフォームと言える。

ピクトレの基本システム。スマートフォンで電柱を撮影、撮影した電柱間をつなぎ(コネクト)、長さを3チームで競い合う。サービス初年度で10万ダウンロードを達成

画像提供:株式会社 Digital Entertainment Asset

ピクトレのゲームプレイの一例。同じ色(チーム)の電柱をコネクトし陣地を競う。電柱獲得(撮影)の際は条件によりさまざまなアイコン(写真右)を獲得。シーズン、イベント限定のものもある ※画像は「ツル・ツタ大作戦! 2026」)

画像提供:株式会社 Digital Entertainment Asset

「プレーヤーは3つのチームから好きなチームを選択し、そのメンバーとして勝利を目指すというゲームの構成は当初から変わっていません。ゲームとしては非常にベーシックなものですが、チームやコミュニティーが連携することで勝負に勝てるという点は、インフラのためのサービスとしては新しい視点ですよね」(山田氏)

蔓(つる)・蔦(つた)、カラスの巣…電柱特有のトラブル解消に寄与

「ピクトレ」で撮影された電柱の写真は、社員による目視点検や修繕の必要性を検討するための材料として活用されている。そのため、プレーヤーが撮影する電柱の写真の条件も細かく設定されている。

「電柱の撮り方などについては、東京電力PGの配電部の方に協力をいただき、『どのような写真を撮ると点検に活用できるのか?』をヒアリングしていきました。配電部の方が見たい部分が見られる写真でなければ意味がないので、『どの部分が写っている写真が適切か』を含め、AIによる画像判定も組み込んでいます」(山田氏)

AI活用の次の余地として、鬼頭氏は「蔓・蔦」や「カラスの巣」といった電柱に起こりやすいトラブルを挙げる。

「2025年の春や夏に千葉県・埼玉県・茨城県の一部エリアで『ツル・ツタ大作戦!』というゲーム内イベントを行いました。蔓・蔦が絡み付いた電柱は停電などのトラブルにつながり危険なため、早急なメンテナンスが必要になります。このイベントには多くの方に参加いただき、トラブルを引き起こす可能性が高い蔓・蔦を効率的に除去することができました」(鬼頭氏)

電柱に絡み付く蔓・蔦の例。プレーヤーは街中のこうした電柱を発見し、陣取りを楽しみ、その報告が早急かつ効率的な除去作業の実現に結び付く

画像提供:株式会社 Digital Entertainment Asset

「ツル・ツタ大作戦!」は2026年春にも実施し、合わせて「発見!カラスの巣シーズン」というイベントも新たに実施された。

「文字通り、電柱の上でのカラスの巣を見つけてもらうイベントです。カラスは金属ワイヤーやハンガーを使って営巣することも多く、これも電気トラブルの原因になるため、カラスの営巣シーズンに合わせて実施しました」(鬼頭氏)

カラスによる電柱での営巣例。プレーヤーは蔓・蔦よりも高い位置を確認する必要があり、これまでに陣取りした電柱を再び撮影、ポイントを得る楽しみが享受される

画像提供:株式会社 Digital Entertainment Asset

過去に巣がかけられた電柱はその後も注視しているものの、社員が見て回れる電柱にも限界があると言わざるを得ない。

プレーヤーによって「ここにも巣がある」と知らせてもらい、対処できるのは業務の効率化や負担減にも貢献しており、さらに電線トラブルによる火災なども減少しているという。

電柱の写真を撮って報酬を得るゲーム「ピクトレ」。

2024年4月のローンチから2年が経過し、改善点や今後の可能性も見えてきている。

本特集の第2回では、ピクトレの利用が広がることで見える「インフラ×ゲームの未来」について掘り下げる。

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