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2018.01.09
コネクテッド・カーって何?
この先目指す“新たなクルマ社会”
「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Services(共有化&サービス)」「Electric(電動化)」……それぞれの頭文字から取った“CASE”。これは、新EV(電気自動車)ブランド発表時にメルセデスベンツが語った“CASEがクルマ業界を変える”という言葉で、クルマ社会が今後目指すところを表しているという。1つ目のキーワード「Connected」は、ネットワークにつながることでクルマから社会へ、さらに社会からクルマへと双方向通信に情報をやりとりし、より良いクルマ社会を築いていこうというものだ。しかし、それを構築するためには検討すべき課題は多い。例えばその一つが、今回クローズアップする“情報セキュリティー”だ。
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メーカー各社はもちろん、業界全体が推移
2017年10~11月に開催された「東京モーターショー2017」で、トヨタは今夏に発売予定の新型クラウンのコンセプトモデル「クラウン・コンセプト」を発表した。フラッグシップモデルにふさわしい、押し出しの強いエクステリアデザインが印象的だったが、それよりも注目されたのは、新しいクラウンが「コネクテッド技術とそのサービスを本格的に具現化すべく、革新的進化を追求する」と宣言したことだった。
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トヨタの「クラウン・コンセプト」。ドイツのニュルブルクリンクで鍛え上げた高い走行性能とコネクテッド技術が大きな注目点だ
では、コネクテッド・カーとは、どんなクルマなのか──。
世界中のクルマ先進国が進める技術開発にあって、日本においても総務省が研究会を発足。コネクテッド・カー社会の実現に向けた取り組みが始まっている。そして、その研究会ではコネクテッド・カーを次のように定義付けている。
コネクテッド・カーとは双方向でいろいろな人やモノにつながるクルマ
つまり、「クルマとクルマ」「クルマとインフラ」「クルマと人」「クルマとネットワーク」という具合に、人・モノ・データを有機的に結合することで、それぞれが協調して動く新しいクルマということだ。そして、もう一歩踏み込んでいえば、その“クルマが実現する新たなクルマ社会”を指している。
われわれはすでにVICS(道路交通情報通信システム)やETC(電子料金収受システム)といったサービスで、ネットワークを介した情報を享受している。しかし、それらは“受け取る”ことがメインだ。これに対しコネクテッド・カーは、クルマからも情報を発信し、それを社会に還元することで新たなクルマ社会の可能性を広げていこうというわけだ。
例えば、トヨタは「クラウン・コンセプト」の発表の中で、“モビリティサービスプラットフォームを活用することで、交通渋滞の情報検出による街の渋滞削減をはじめ社会問題の解決に貢献していく”とし、さらなるエネルギーの高効率化や新たなクルマ社会への関わり方を明言してみせた。
「しかし、双方向で情報をやりとりするということは、“セキュリティー”について考えないわけにはいきません」
そう語るのは、総務省の「Connected Car社会の実現に向けた研究会」の構成員であり、情報通信のオーソリティーである早稲田大学大学院 基幹理工学研究科の戸川望教授だ。
“集合知”としてのクルマ
情報通信セキュリティーの専門家である戸川教授から見て、コネクテッド・カーがもたらすメリットはどこにあるのだろうか。
「ひと言では言い表せないくらいにたくさんありますよ。総務省の研究会では、セーフティ分野、カーライフサポート分野、インフォテイメント分野、エージェント分野の4分野に類型化して検討しています」
■セーフティ分野
運転サポートサービスに関わる分野。事故や渋滞情報からドライバーの体調管理にまで及ぶ
■カーライフサポート分野
最短ルート探索から、住民情報や迷子情報といったビッグデータを連携した上での見守りサービスなど
■インフォテイメント分野
映画鑑賞やVRゲームといった車内エンターテインメント
■エージェント分野
事故対応や救急救命対応の迅速化への貢献といった、ロードアシスタント
戸川教授が注目するのは、全ての分野に関わるであろう“集合知”としてのクルマだ。
「ご存じのように、現代のクルマには数百個のマイクロプロセッサーが積まれ、汎用のPCよりも大きな能力を持っています。しかし、これまではその能力の一部しか使っていませんでした。
例えば、渋滞や事故の発生場所などの情報はサーバー側にあり、クルマはそれを受け取るだけ。しかし前述の通り、クルマ自体は大きな能力を持っているので、サーバー側…つまり情報を発信する側に立つこともできるわけです。とはいえクルマ1台から得られる情報というのは、それほど大きなものではありません。それが相当数集まることによって、意味ある情報になる。それが“集合知”ということです」
例えば、大災害後のインフラをいかに把握するかと考えてみる。あちらこちらの道が寸断され、どこが通れて、どこが通れないか分からない状態としよう。そこを実際に通ったクルマが、“通行可能”という情報をサーバーにアップすれば、その道路が通行できることが分かる。
ところが情報をアップしたクルマが軽自動車で、道路幅ギリギリに通過できた場合、災害復旧のための大型車は通れないということになる。だから、サーバーにさまざまなタイプのクルマから情報が寄せられることで、ようやく“生きた情報”になる。それが戸川教授の言う“集合知”ということだ。
「クルマがネットワークにつながっているからこそできることですね。こういう情報の共有は、すでに2016年4月の熊本地震の復旧過程でも見られたことですが、コネクテッド・カーは、これをさらに進めていくことになるんでしょうね」
そう言ってモータージャーナリストの川端さんも、戸川教授の“集合知”という考え方に同調する。
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情報理工・情報通信のスペシャリストとして総務省の研究会に参画している早稲田大学の戸川教授(右)と、モータージャーナリストの川端由美さん
「コネクテッド・カーの登場によってクルマとサーバーだけでなく、“クルマとクルマ”や“クルマとインフラ”の通信が可能になります。するとリアルタイムに近い状況での情報共有ができるようになるんです」
さらにいえば、コネクテッド・カーから寄せられた情報を分析することで、事故が多い交差点の場所や時間帯を割り出すことも可能となってくるという。
クルマが情報発信することのリスク
クルマ同士が情報を交換し、共有することで円滑なドライブが楽しめるなら、それはクルマ社会全体のメリットとなる。しかし、物事が進化する過程においてはリスクを洗い出さなければならない。
例えば、インターネット・メールが普及する中で「迷惑メール」というデメリットが生まれたように、コネクテッド・カーにおいてもセキュリティをいかに担保するかを考える必要がある。
そこが戸川教授の専門分野だ。
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戸川教授が構想するコネクテッド・カーのセキュリティーシステムの概念。部品、システム、ネットワークと階層ごとのシステムを確立する必要性を説く。総務省「Connected Car社会の実現に向けた研究会」構成員提出資料。戸川望教授提出資料より
「コネクテッド・カーを普及させるに際して、セキュリティの担保は不可欠です。いずれは全てのクルマがネットワークにつながる時代が来るでしょう。現在、日本では毎年500~700万台のクルマが販売されていますよね。極めて大きなパワー・エネルギーを持った、しかも移動できるものが、それほどの単位で毎年増えていって、それがネットワークにつながる。これはすごい話なんですよ。その中の一つが悪さをしただけで、大変なことになるわけですから」
次世代自動車についての取材を続けている川端さんも「それが最も大きな課題として、いつも俎上に載りますね」という。
「ネットワークに悪意を持ってアクセスする何者かが現れたらどうするか。ドライバーの意思と関わりなく、暴走させることだって考えられるわけですから」
そんな川端さんの言葉に、戸川教授も「総務省の研究会では“暴走はもちろんダメだが、止められてもダメ”という話が出ていました」という。
「何者かによって数時間クルマを止められたら、物流をはじめ大きな影響が出ますよね。こういったリスクに対して、どのような対策を講じていくかは、まだ議論を重ねる必要があります。コネクテッド・カーによってできることが増えるほど、リスクヘッジの方法論を整理するのも大変になっていくんです」
とはいえ、その苦労をしてでも進める価値が、コネクテッド・カーにはある。
「だって、過去のデータをひっくり返して渋滞を予測するよりも、現場にいる人が“渋滞していますよ”と発信した方が早いじゃないですか。そういうことが、いろいろなことに汎用できるのがコネクテッド・カーのメリットだと思います」
さらにいえば、“今、ここが渋滞していますよ”という現状把握を基にして、“1時間後にはここが渋滞するだろう”と予測できる可能性もある。しかもそれは現実に即した予測だ。
「つまりクルマそのものが、社会の重要なインフラになるんです。そのクルマがつながって、情報を共有したり解析したりすることで、非常に有用なアプリケーションがいくつも生まれてくるのではないでしょうか。だからこそ、セキュリティーを大事に考えなければならないんです」
そこで必要になってくるのが、設計段階からセキュリティーを考えておくことだと戸川教授は言う。
「いわゆる“セキュリティー・バイ・デザイン”という考え方です」
IoTが進む過程で生まれてきた考え方だ。機器やサービスの中で何が重要なのかを考え、守るものを明確化する。そして基本設計の段階から、どういう問題が起こりうるのか、いかにして対応するのかを考え、セキュリティーの枠組みを決める。そして機器やサービスの詳細設計の段階からセキュリティーを組み込んでいく。
「クルマはソフトウェアとハードウェアの塊。後からウィルスメールのようなものによって影響を受けることも考えなければいけません。さらに言えば、万一、トラブルに発展した場合、その責任を誰が負うのか? 総務省の研究会に保険会社が連なっているのは、その部分における検討もしておかなければならないということなんです」
リスクは乗り越えるためにある
新たなモータリゼーションとして大きな可能性を持つコネクテッド・カーだが、これまで語られたようにクリアしなければならない課題は多い。
しかし、戸川教授は悲観することはどこにもないという。
「それはインターネット・メールのアンチウィルスソフトの普及を考えれば明らかです。1990年代前半、アンチウィルスソフトが入ったパソコンというのは、ほとんどなかったんじゃないでしょうか。しかし、今では入っていないパソコンがほとんどありません。アンチウィルスソフトを入れることでCPUのスピードが遅くなったとしても、それ以上にセキュリティー対策が重要視されたということです」
それと同じことがコネクテッド・カーにも言えるのだ。
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オシロスコープ(測定器)に表示される波形を見る。「この波形をAI(人工知能)に学習させることで、異常な波形を検知させます」と戸川教授。それがセキュリティーの第一歩となる
既にコネクテッド・カーの社会実装に向けて、自動車メーカーと通信会社が連携した実証実験などがスタート。そして総務省の研究会が描く「Connected Car社会実現ロードマップ」は、ワイヤレスネットワーク、データ収集と利活用の推進、セキュリティー・プライバシーの確保などについての制度およびインフラの整備を、2020年をめどに進めたいとしている。
「クルマがあらゆるものにつながるメリットは大きい。だから、セキュリティーのことだけでなく、現状で考えられる課題は乗り越えていくしかないんです。パソコンもそうだったし、今ではWEBブラウザなしの社会は考えらませんよね。コネクテッド・カーも同じ。きっと、乗り越えられるはずです」
果たして、その産みの苦しみを乗り越えた先に、どんなコネクテッド・カー社会が広がっているのか。全体像が見えるまでにはもう少し時間が必要かもしれないが、それだけに楽しみも大きい。
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