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2018.05.21
23年ぶり!出力1万kWを超える大規模地熱発電所が秋田県で完成間近
固定価格買取制度スタート後、最大規模の地熱発電施設「山葵沢(わさびざわ)地熱発電所」
地下深部のマグマといった地熱を利用した発電システムである「地熱発電」は、日本にポテンシャルがあり今後増えるであろうといわれている。天候や昼夜を問わず安定的に発電する純国産のクリーンエネルギーとして大きな可能性を秘めていることから、国も規制緩和してこの利用を後押し。2019年5月、国内では実に23年ぶりに出力1万kWを超える新たな地熱発電所として「山葵沢地熱発電所」(出力4万2000kW)が稼働を開始する。2012年7月に再生可能エネルギーの固定価格買取制度がスタートしてから最大規模となるこの地熱発電所。開発に取り組んできた電源開発株式会社(J-POWER)火力建設部・地熱室の赤坂千寿室長に、秋田県の山中に位置する山葵沢地熱発電所の現状と地熱発電の可能性について聞いた。
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地球のエネルギーを活用させてもらう、地熱発電の仕組み
自然エネルギーを活用した発電方法には、太陽光、風力、水力など、さまざまな手段がある。いずれも持続可能な再生可能エネルギーとして期待され、実際に長きにわたって活用されてきているものだ。しかしこれらの発電方法は、自然環境によって発電量が大きく変動するという課題がある。例えば風力発電の要となる風車は、風速25m/s以上の強風時には負荷がかかり過ぎるため回転を止める。太陽光は雨など天候に左右されることがある。その一方で地熱発電は、井戸を掘り、地下にある地熱貯留層(地層の割れ目に蒸気と熱水がたまっているところ)から噴出する蒸気を使って発電する。それゆえ自然条件に左右されることなく、地球から供給される大きなエネルギーを利用して、24時間365日、発電することが可能なのだ。
火山国にして温泉資源が豊富な日本の地熱資源量は、約2300万kWといわれる。これはアメリカの約3900万kW、インドネシアの約2700万kWに次いで、世界第3位の資源量だ。しかしその一方、この潤沢な資源を活用できているとは言い切れない状況にある。現在、国内にある地熱発電所は40カ所。設備容量は合計約52万kWで世界第10位にとどまる。そこには、例えば地熱資源の多くが国立・国定公園内にあるなどのさまざまな理由があるのだ。
また、現状の課題としては“運転を開始するまでの道のりの長さ”も挙げられる。赤坂室長に山葵沢地熱発電所ができるまでの過程を説明してもらった。
「山葵沢の調査を最初に本格的に行ったのはNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)で、1993(平成5)年からになります。しかし、その前段階として昭和50年代から国による地熱調査が山葵沢を含めて全国的に行われていました。そこから地熱資源が豊富にありそうな地点を絞っていき、さらに調査を続けます。そしていよいよ地熱発電所の開発を進めようという段階になり、われわれのような事業者が必要になってくるのです。J-POWERと三菱マテリアルが共同でNEDOから調査を引き継いだのは、2008年のことです」
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電源開発で火力建設部地熱室を率いる赤坂千寿室長
そのとき、山葵沢の隣りの秋ノ宮調査でも有力な地点が見つかっていた。そちらは2004年に三菱マテリアルがNEDOから調査を引き継いでいたが、おのおの単独で開発するより2地点を合わせて一貫して開発した方が長期的な安全運転が可能と判断し、「山葵沢地熱発電所」とすることを決定。2社に三菱ガス化学が加わり、2010年に「湯沢地熱株式会社」を設立。環境影響評価などを経て、山葵沢地熱発電所は2015年5月に着工となる。そして2019年冬に試運転を行い、5月には通常稼働というロードマップが作成された。
「発電方法について説明しましょう。例えば、火力発電は化石燃料を燃やし、水を温めて蒸気を発生させ、その蒸気の力でタービン、そして発電機を回します。地熱発電の場合、その蒸気の供給源が“天然資源”であるということが大きな特徴です」
燃料を燃やすわけではないからCO2の排出量はごくわずか。さらに前述の通り、使用する蒸気は地熱資源のため安定的に供給される。
「地熱発電には、地下から取り出した蒸気と熱水を使うシングルフラッシュやダブルフラッシュ方式、熱水だけを取り出すバイナリー方式など、さまざまな方式があります。山葵沢ではダブルフラッシュ方式を採用しました」
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ダブルフラッシュ方式の概念図。生産井を通じて地下から取り出した高温・高圧の蒸気と熱水を気水分離器で分離する。さらに減圧気化器で分離された熱水からも低圧の蒸気を作る。この2段階の蒸気でタービンを回す
「地熱資源が豊富で、そのうえ温度と圧力が高い状態にあり、長期間にわたって運用する場合、ダブルフラッシュ方式が高効率です。山葵沢ではまず生産井(せいさんせい)から熱水と蒸気を取り出します。そして気水分離器を通して、高圧の蒸気をタービンに送り込みます。続いて分離されたまだ温度の高い熱水から減圧気化器を使って低圧の蒸気を発生させ、これもタービンに送り込むのです。2段階の蒸気を使って発電するのでエネルギー効率がいいのです。ちなみに、高圧の蒸気だけを使うのがシングルフラッシュ方式となります」
こう書くと温度と圧力が高い場所であれば、どこでもダブルフラッシュ方式をとれるように思うが、それほど単純なものではない。
「機材が増えるのでメンテナンスなどの手間がかかることが課題の一つ。2つ目の課題は、二次蒸気をとると熱水の温度が下がります。そのとき、熱水の中に溶けていた成分が沈殿し、パイプを詰まらせてしまうことが起こり得るのです」
山葵沢の熱水にもそういう成分が含まれていたが、詰まりにくいよう対策を施した。だからシングルフラッシュよりも効率の良いダブルフラッシュ方式をとることができたのだ。
「地熱発電は方式による効率の違いはありますが、それが全てではありません。地点に合わせて、経済性も合わせてベターな方法をとる。それも地熱発電の大きな特徴といえますね」
4万2000kWという高出力を決めた理由とは?
日本には現在40カ所の地熱発電所がある。そのうち、1万kW以上の出力を持つのは12カ所。その中で最も新しいものは、1996(平成8)年に運転を開始した滝上地熱発電所(大分県)で2万7500kWだ。それ以降では1999(平成11)年に八丈島地熱発電所が運転を開始しているが、こちらは3300kWである。それに対し、今回の山葵沢は4万2000kWを予定している。
では、そもそもこの出力値はどのように決まるのだろうか。
「地下の資源量が影響します。そして、それはどのように調べるのかというと、一般的な評価手法は地熱貯留層シミュレーションと呼ばれるものです。地下の数値モデルを作り、そこに地表や地中の調査から知り得たデータを入力します。そして発電を行った場合に“どれくらいの年数、安定的に電気が供給できるか”ということを算出するのです。そのシミュレーションを繰り返す中で最終的な発電出力や発電形式を決定していきます」
シミュレーションのポイントは、『持続可能な出力であること』だという。
「具体的には30~50年にわたって安定的に出力できることを想定します。このシミュレーションの結果、山葵沢には4万2000kWをそのくらいの期間、安定して供給できるポテンシャルを持つ地熱貯留層があったということです」
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生産井の能力を確認するための噴気試験を行っているところ
ポイントは生産井と還元井の絶妙な位置関係
山葵沢地熱発電所の面積はおよそ16万m2。東京ドーム3.5個分ほどの広さだ。
「発電所本館や井戸、取り出した蒸気などを運ぶ輸送管など、全てを含めた広さになります。広いように思うかもしれませんが、われわれとしては環境に配慮し、必要最低限の開発にとどめています」
この広さに関わるポイントの一つが、生産井と還元井(かんげんせい)の位置関係だ。生産井とは地熱貯留層から熱水と蒸気を取り出すための井戸。還元井とは発電に使用しない熱水を地中に戻すためのものだ。この2種類の井戸は、絶妙な距離感でバランスを取って掘る必要があるという。
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山中に設置された輸送管
「山葵沢地熱発電所では、生産井9本、還元井7本を計画しました。この本数を増やせば出力を上げることはできますが、持続可能な量という意味では疑問符が残ります。ゆえに、これは4万2000kWという高出力を長期間にわたって提供するために必要な本数なんです。井戸の本数が決まったら、生産のための井戸と還元するための井戸の位置関係を決めなければなりません」
生産井と還元井の位置関係は、近過ぎても遠過ぎてもいけない。そのバランスを考える必要があるのだ。
「生産井から取り出すのは蒸気と熱水、還元井から戻すのは温度の下がったお湯です。両者の距離が近いと、還元井が生産井の蒸気と熱水を冷やしてしまいます。では、思い切り離せばいいかといえば、そうでもありません。遠過ぎると還元した水が他のエリアに流れてしまいますからね。持続可能なエネルギーとするためには、還元した水が地中で再び温められ、生産井に戻ってくるのが好ましいのです」
こうした地中の仕組みは、同社が1975(昭和50)年から稼働させている鬼首(おにこうべ)地熱発電所を運営する中で培ってきたことだという。
バランスを考慮した結果、山葵沢地熱発電所の井戸の深さは1500~2000mくらい(標高は発電所のある場所が870m、最も高い生産基地で930m)。還元井はそこから約2kmほど離れた標高620mの位置にある。
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井戸や発電所本館の基礎を造るために掘った地中から出てきた石。想定よりも大きなものが多く、工法の変更を余儀なくされることもあった
地熱発電に期待すること
「日本においては電力の安定供給と地球温暖化対策の両立が求められています。再生可能なエネルギーであり、さらに純国産エネルギーといえる地熱発電は、CO2排出量の少なさという観点からもその要請に応え得るものだと思っています」
と、地熱発電のメリットを語る赤坂室長。
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山葵沢地熱発電所の完成予想図。2019年5月の営業運転開始が予定されている
では、それほどメリットのあるものが地熱資源の豊富な日本で広がっていかないのはなぜか?
「地下には非常に多くの地熱資源が埋まっていると思います。ただ、それを取り出す側や、地表の土地利用…つまり国立・国定公園や温泉との兼ね合いがあるのは事実です。ですので、そこは共存・共栄できる方法を議論していけばいいのではないかと思います。また、その一方で“地点開発の難しさ”ということもあったのかもしれません。調査をしても発電所建設までには結びつかなかったり、発電所ができたとしても出力を維持するのが難しかったりと。そういう時期が過去においてはあったようですね」
地熱活用といえば危惧することもある。地震の影響だ。例えば東日本大震災の後、温泉が出なくなったという話があった。果たして地熱は──。
「温泉であったような影響はないと思われます。実際、鬼首地熱発電所は宮城県に位置していますが、影響は受けていません。2008年の岩手・宮城内陸地震のときも問題は起きませんでした。地熱の場合、鉄管で保護した井戸を使い、地中深くからくみ上げています。それによって受ける影響が少ないのかな、と思います」
風力や太陽光のように天候の変化による影響はなく、地震にも強い。そして、いったん蒸気を取り出すことができれば、長期間にわたり一定の発電が期待できる。再生可能な自然エネルギーの中でも大きな可能性を秘めた地熱発電。この山葵沢地熱発電所の運転開始をきっかけに、地熱利用の更なる促進を期待したい。
※「地熱」と異なり、“地域を選ばず利用できる低温の熱エネルギー”を意味する「地中熱」に関する記事はこちら
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