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人工で夜空に星を走らせる! 壮大なチャレンジと流れ星の不思議

人工流れ星の誕生が本物の流れ星の謎を解明する手掛かりに

盛夏到来。普段は夜空を見上げなくても、今ごろになるとキャンプ場や旅行先で星を眺める機会が増えるのではないだろうか。実際、8月は一年で最も「流星群」に遭遇しやすい時期である。夏の風物詩のエネルギーを見つめる本特集第1回は、そんな流れ星を“人工的に”作り出そうと試みる、日本大学理工学部航空宇宙工学科の阿部新助准教授に、星が夜空を流れる仕組みと人の手で生み出す方法について聞いた。

流れ星が光るのは燃えているからではない!?

今年も8月13日前後にペルセウス座流星群の観測ができるなど、夏には必ず話題に挙がる「流れ星」。その様子は「星が落ちてきている」とも表現されるが、「夜空に瞬く星と流れ星は全く違う現象」と、日本大学理工学部航空宇宙工学科に勤める天文学者・阿部新助准教授は話す。

「空に輝く星の光というのは、宇宙に最も多く存在する物質である水素原子が核融合した際に発せられるエネルギーの可視光線です。その光が何十何百光年という距離を経て、地球にいる人の目に届いています。

一方で、『流れ星』と呼ばれる現象は、上空約100kmの熱圏(地球大気圏の一部)で発生します。地球は太陽の周りを公転していますが、その際に宇宙にあるちりが地球に飛び込んできます。実はこれが流れ星の正体の一部。直径が数十㎛(マイクロメートル)から㎜(ミリメートル)程度の非常に小さなちりですが、その量は実に1日100~300tで、しかも秒速11~72km(時速3万9600~25万9200km)という超高速で地球に降り注いでいるのです」

NASAの航空機観測ミッションに参加し、流星の高精度TV分光観測とハイビジョンによる流星嵐の撮影を世界で初めて成功させた経歴を持つ阿部新助准教授。一般の人たちに向けた天体観測会なども実施し、その面白さを伝えている

熱圏は真空ではなく、酸素や窒素が存在している。そこにちりが超高速で飛び込んでくると、空気が圧縮され、加熱されるのだという。

「この原理を『空力加熱』と言いますが、これによって、ちりは温度が1000~1500℃となり溶け始めるのです。しかも、空気が希薄なので、固体からすぐに気体(ガス)になりやすい。このガスはいわゆる“プラズマ”の状態となっていて光ります。こうして、地球大気とちりの両方が“プラズマ発光”する現象こそが流星現象、つまり流れ星です」

プラズマは固体、液体、気体に続く物質の状態の一つ。気体の温度上昇で物質の原子から電子が離れると変化し、プラズマ発光とは、高いエネルギー状態になった中性あるいは電離した原子や分子が発光によりエネルギーを放出して元のエネルギー状態に戻ろうとする現象だ。夜空で光り輝く星が核融合のエネルギーである一方、流れ星は宇宙から降り注いだちりが地球の上空でプラズマ発光しているもの。酸素が薄い熱圏では燃焼反応が起こらないため、素人考えでイメージするような、大気圏の摩擦熱で“燃えている”わけではない。

また、プラズマ発光は、身近なところで言うと、中に入れる金属の種類によって炎の色が変わる炎色反応と同じだという。「ナトリウムをあぶると橙色の炎になる」といった理科の実験を覚えている読者も多いだろうが、「地球大気に含まれている成分とちりの成分によって、流れ星の色は違って見える」と、阿部准教授は説明する。

阿部准教授が手にしているのは、「分光器」と呼ばれるもの。このレンズを通して光を見ると、そこに含まれる成分によって色が変わって見えるという

「『流星群』は特定の日時に多数の流星が発生しますが、これ以外の流星群に属さない流星のことを『散在流星』といいます。実は人の目に見えないだけで、流れ星というのは常に降っている。数十㎛くらいのちりもプラズマ発光しているのですが、暗過ぎて見えないだけなのです」

こうした肉眼では観測できない流れ星を含め、阿部准教授は超高感度カメラや分光器という観測器具を使って、流れ星の素となるちりやその発光具合を調査・研究している。例えば、分光器を通して流れ星を観測すれば、ちりの中に含まれている成分や温度、密度といった物理データを収集することができる。これは地球にいながらにして、宇宙のさまざまな場所からやって来る物質を、地球大気を望遠鏡代わりにして間接的に探査しているようなものなのだ。

“本物”を知るための人工流れ星

とはいえ、「流星現象」の全貌はまだ完全に解明されたわけではない。そのため、研究を進めることによって、人工衛星やスペースシャトルが地球に帰還する際の地球帰還カプセルの耐久性や軌道計算などもより正確に割り出すことができるようになるという。

そんな阿部准教授は、現在、日本の民間企業ALE(エール)と共に、人工流れ星を生み出すプロジェクト「Sky Canvas」を進めている。実際に人工衛星を打ち上げ、そこから流れ星の素となる「流星源」を放出。流星現象を引き起こすことで、“人工的な流れ星”を作ってしまおうという研究だ。


「Sky Canvas」のプロモーションムービー

“天然”の流れ星は観測によって、その組成や質量、速度などを算出するわけで、「そもそも出現日時と出現方向が不明という答えの分からないものを観測して、新たなものを得ようとしている」こととなる。

一方で、人工的に作る流れ星は、素となるちりの組成や質量、大気圏突入速度や突入角などはあらかじめ自分たちで設定しているため、出現日時と場所が明確で、その流星現象が起こった際にどのような挙動を示すのか、最高精度の観測装置でデータを取ることが可能となるわけだ。実際の観測データと現在の理論モデル計算によって導き出された答えを比較し、そこで得られたフィードバックを使い、理論モデルに改良を加えていくこともできる。

阿部准教授は、「今、われわれの研究室はJAXAと提携を結び、人工の流れ星を使って、最新の理論モデルを改良していこうと話しています」と語る。流れ星を人工的に生み出す試みは、何とも壮大でまさに“大人の自由研究”と呼びたくなる。

「人工流れ星の場合、万が一にも宇宙ステーションや人工衛星にぶつかってはいけないので、それらが存在しない上空400km以下から『流星源』を放出します。天然の流れ星は秒速11~72kmで地球に飛び込んでくると言いましたが、地球を周回する人工衛星から放出する場合は秒速約8kmで降り注ぐこととなり、上空60kmくらいで最も明るくなるのです。ただ、これは地上に近いところで光るというメリットにもなります。

『Sky Canvas』は多くの人に流れ星を見せるというビジネス的な側面があるので、都心や街中にいても、みんなが見られるような非常に明るい流星が必要なのです。詳細は企業秘密ですが、流れ星を明るくするためのアイデアを実践してみると、確かに明るくなるんですね。まだまだ明るくするための研究は必要ですが、そうした一つ一つの試みが、新しいデータの発見にもつながっていきます」

地上から流れ星が見える範囲を示した図。「Sky Canvas」で使われる流れ星の素となる粒は上空60~80kmで輝きながら燃え尽きるため、地上では直径200kmという非常に広いエリアから鑑賞することが可能になるという

出典:株式会社ALE

現在、人工流れ星プロジェクトは着々と進行しており、2018年度には人工衛星打ち上げ、2020年初頭をめどに実験を行う予定とのこと。数年後には、実際に人工的に光り輝く流れ星を見ることができるかもしれない。

下から上に走る流れ星がある?

最後に、数年後を待たず、すぐに「流星現象」を見たいという読者のために、阿部准教授から流星観測のアドバイスをもらった。

「夏は地球が太陽の周りを回る黄道面にちりが多いため、年間でも流れ星が多く流れる時期なんです。流れ星を見る際には、流れる速さや長さ、色と、星座早見盤などを使って、どの星座から星が流れてきたのかを記録できると良いですね」

2017年12月に日本大学船橋キャンパスで行われたふたご座流星群の観測&観望会のときの空の様子。1時間で最大50個ほどの流星群を肉眼で観測することができ、一晩で約500個の群流星が撮影された

画像協力:阿部新助准教授

阿部准教授の研究室で、過去に分光器を使って観測された「ペルセウス座流星群」(上)と「ふたご座流星群」(下)。色の違いで、ちりに含まれる成分が異なることが分かる

画像協力:阿部新助准教授

「例えば速さの違いを見るなら、現れてから消えるまでに最大で0.5秒くらいの差があります(※時間を計ることは難しいため、数字を幾つ数えられたかで判断するとよい)。また、高速の流れ星は、流星痕(りゅうせいこん)と呼ばれる残光のように緑色に光る様子が確認できます。これは、高度100km付近に存在する酸素原子によって起こる禁制線(きんせいせん)というオーロラと同じ発光です。

流星群というのは、ある母天体から放出されたちりの帯の中に地球が飛び込んでいって、流星が通常の数十~数百倍に増える現象のこと。そのため、8月11~13日のペルセウス座流星群では、放射点であるペルセウス座から四方八方にたくさんの流れ星が降ってきます。上から下にだけでなく、下から上に移動する流れ星もあるので、そうした方向なども観測、記録してみてください」

阿部准教授は現在、小惑星探査機「はやぶさ2」のサイエンス・メンバーとしても活動を行っている

阿部准教授によれば、8月の夜空は、1時間ほど空を仰げば必ず1つは流れ星に出合うことができるという。この時期はぜひ、毎日空を見上げて、明るさ、色、進行方向など違う流れ星の“個性”を観察してみてはいかがだろうか。

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