1. TOP
  2. 特集
  3. “脳”は休ませながら使え!
  4. 日々の充実のために、脳を“鍛えて”脳を“休めよ”!
特集
“脳”は休ませながら使え!

日々の充実のために、脳を“鍛えて”脳を“休めよ”!

「脳エネルギー」をより効率良く働かせるための“マインドフルネス”とは?

新年度に突入し、新たな仕事や業務、また人間関係などコミュニケーションに疲弊している人も多いのではないだろうか。そこでEMIRAは、人間の全ての行動や感情をコントロールしている「脳」に着目し、「脳エネルギー」がどんなことに使われ、どう賢く使えば良いのかを考察。第1回は、脳をしっかりと使い、また休ませることで、仕事と人生を楽しくする方法を探る。

心の状態を整える「マインドフルネス」

人間は、脳が本来持っているパフォーマンスの1割程度しか使っていないのではないか…一時期、そんな説が世界を駆け巡った。真意のほどはいまだ解明されてはいないが、人間は脳を鍛えることで、より柔軟な考え方ができたり、本質を捉えることが容易になったりするようだ。

そんな「脳」の鍛え方の一つ「マインドフルネス」。今となっては、耳にしない日はないほど頻出しているワードだ。

マインドフルネスを活用することで、仕事もプライベートもより充実させ、そして幸せな人生を過ごすことを目指そうという瞑想(めいそう)家の清水ハン栄治氏に話を聞いた。


「きのうの夜、お風呂に入りましたか? そのときあなたは、お風呂場にいらっしゃいましたか?」


取材の序盤。
「マインドフルネスって、何ですか?」という質問に、清水氏はそんな問いかけを返してきた。「お風呂には入りました。だから、お風呂場にいましたよ」と答えると、「本当にいたんですか?」と畳み掛けてくる。

「これはマインドフルネスを説明する際によく使われる質問です。こんなことを聞かれても困りますよね。禅問答みたいでしょ。でも、実際にはお風呂場にいない人が多いんです。例えば、僕は朝風呂派なんです。すると、お風呂場でシャワーを浴びながら、いろいろなことを考える。朝ご飯は何にしようかなとか、何を着ようかなとか、何時に家を出ようかなとか、雨は降ってないかなとか。体はお風呂場にいても、頭はキッチンとか会社の会議室とかあちこち飛び回っているんです」

清水氏が問うていたのは、肉体ではなく、心がどこにいるかということだった。

「体はシャワーを浴びているわけで、そこで脳が感じることって、本当はたくさんある。お湯の温度とか、体を流れ落ちる滴の感じとか、シャンプーの香りとか。それをきちんと認識すること。そのとき、ここにあることだけに意識を集中させること。それがマインドフルネスを作り出す状況なんです。それができると、新しい世界が広がっていきますよ」

もう少し、具体的な説明をしてもらおう。

「以前、ある美大でのエピソードにヒントを得て、実際に行ったプログラムです。40人のビジネスマンを2グループに分け、同じテーマで絵を描いてもらいました。“恐ろしいトマト”というテーマです。一方のグループには自由に描いてもらい、もう片方のグループには、思い浮かんだものをすぐに描くのではなく、マインドフル瞑想をしてもらい、“いったん思考パターンをニュートラルにして、本当に恐ろしいトマト”というテーマで考えてから描いてもらったんです」

すぐに描いたグループの20人は、ほとんど似た絵になったという。ハロウィーンのカボチャのようなトマトたちだ。しかし、もう一方のグループでは多種多様な“恐ろしいトマト”が描かれた。

「真っ黒で腐ったトマトをはじめ、崖っぷちに置かれたトマト、十字架にはりつけられた人にぶつけられるトマトなど。実にさまざまな“恐ろしいトマト”が描かれていました」

これはどういうことか。ハロウィーンのカボチャのようなトマトは、創造力から生まれたわけではなく、“恐ろしいトマト=恐ろしい野菜=恐ろしいカボチャ”という、記憶の中にあるものを反射的に連想することで出てきたものだ。

「だからハロウィーンのカボチャのようなトマトを描くことは、脳の働きとしては“イノベイティブなものではなく、記憶を呼び起こした”ということなんです」

提示された題目に条件反射的に対応しようとすると、記憶をたどり最短距離で答えを導き出そうとする。

そうではなく、いったん止まって、そこからフラットに考える準備をする。脳の中を整える。それを行うことで、脳の働きを効率化し、より豊かなイノベーションを呼び覚ます。それが「マインドフルネス」ということなのだ。

「今、ここにあることに集中すること。それができると何が起きるかというと…心が安定するんですよ」

かつては敏腕のビジネスマンだった清水氏だが、今は世界中で「マインドフルネス」を通して「幸せ」を求める方法を説いて回る

脳が幸せを感じるための“瞑想”

清水氏のプロフィールはユニークだ。

アメリカ・マイアミ大学でMBA取得後、ネットベンチャーを起業するもネットバブル崩壊に伴い倒産。帰国後、IT企業、そして出版社に勤務して営業に従事しながら、社員のモチベーションアップのためのプログラム策定を指揮。その後独立し、再度渡米してメディアプロデュース事業を立ち上げた。

そこで一本の映画をプロデュースする。2012年に公開され、アメリカ、カナダ、オーストラリアのiTunesで5週連続ナンバー1ドキュメンタリーとなった「happy – しあわせを探すあなたへ」だ。

清水氏がプロデュースした映画「happy - しあわせを探すあなたへ」は、世界中でロングヒットを続けている

「このドキュメンタリー映画を製作するにあたり、世界中の科学者、宗教家、心理学者、脳医学者…さまざまなジャンルで最高権威と呼ばれる皆さんにお会いしました」

そこで清水氏が解き明かしたかったのは、“幸せになるためには何が必要か”ということだった。

「いわゆる企業戦士として、僕はそれなりに結果を出していたし、口はばったいですが給料も良かった。でも、それが本当の幸せなんだろうか、と。そんな考えから独立したのです。“幸せとは何か”を問うこの映画は監督から声が掛かって製作したものですが、ある意味、必然だったんだと思います」

そうして映画のために世界的権威と会う中で、一つの偶然に出合う。

「皆さん、多くの人が“瞑想”をしているんですよ。クリスチャンだろうが、イスラム教徒だろうが、無神論者だろうが“瞑想”とは呼ばなくても、何らかの“内観的な作業”を日常の中でしていました」

それはなぜか。“瞑想”と“幸せ”は関係しているのか。

「人が感じている幸せ…幸福度は、今、科学的に計測することができます。実際に僕自身も経験しました」

計測にはfMRIを使う。MRIを利用し、脳の活動に関連した血流の反応を視覚化するもので、1990年代から世界中で研究が進められていた。

「fMRIで測定中に、例えばオレンジジュースを飲む。おいしいなと思うと、脳の前頭葉の左側の動きが活性化するんです。次にリンゴジュースを飲むと、それほどでもなかった。ということは、オレンジジュースを飲むと幸せを感じているんだな、と分かるわけです」

この測定を、チベット仏教の僧侶が行ったときのエピソードが印象的だと清水氏は言う。

「元科学者でチベット仏教に出家したフランス人の方です。みんな、さぞすごい数値が出るだろうと思っていたら、最初は平均的な数値だった。しかし、“瞑想”してから計測し直すと、測定針が振り切るほどの数値を示したんです」

この元科学者マチュー・リシャールは、それ以来、“世界で一番幸せな男”と呼ばれるようになったそうだ。

「このマチューさんが行った“瞑想”こそ、マインドフルネスで言う、“いったん止まる”ということ。そこから慈悲の瞑想をすることで、針が振り切るほどの幸せにつながっていったんです」

セミナーの参加者に“瞑想することの脳に対する効果”を説いていく

脳が平穏になると、人生が濃くなっていく

物事に対処する前に、いったん止まって心を落ち着かせてから考え、そして行動に移す。言うのは簡単だが実践するのはなかなか難しい。特に瞬時に判断することを求められる働き盛りのビジネスパーソンならなおさらだろう。

「確かに、社会生活をしていく中でいったん止まるのが難しい場面は多々あると思います。それは僕も同じです。でも、マインドフルネスを知っていると、知らないでは違いますよね」

実践するヒントを教えてくれた。

「僕が実践していることを一つお伝えしましょう。街を歩いていると必ず赤信号にぶつかりますよね。そのときに“早く青信号に変わらないかな”とイライラしている人や、スマホをチェックしている人を見かけます。それは心が落ち着いていないから。そんなときに僕は“何もしないでいい時間を30秒もらった”と考えるんです。今、ここにあることだけを感じる。すると“風が気持ちいいな”とか“ビルの間にきれいな青空が見える”といったことが分かってくる。そうすると“脳と心がリセットされる”んですよ」

大事なことは“いったん止まる”という行為を脳が意識し、それを実践すること。

参加者と共に“瞑想”にふける。このアクションを一つ加えることで、脳内で起こっていること…感情や思考を整理するきっかけになる

「マサチューセッツ大学医学大学院に、ジョン・カバット・ジン博士という方がいます。同大のマインドフルネスセンターの創設所長…つまり、この施設を牽引している博士です。その博士がおっしゃるのは“マインドフルネスを極めると長生きできる”ということでした」

それを聞いた清水氏は、「血行も良くなるだろうし、ストレスも減る。人とのコミュニケーションもスムーズになるんだから、長生きもできるよな」と思ったという。しかし、ジン博士が伝えたいことは別にあった。

「時間的な意味じゃないんだ、と。同じ時間を過ごすにしても、密度が濃くなる。それは結果的に、人生において、より多くのことを経験できるということなんです」

目に見えるものや体験するものの一つ一つをきちんと味わう。そこに人生の豊かさや本当の幸せがあるんじゃないだろうか。そのためには、“脳を平穏にするための術”を手にしてはいかがでしょうか?と清水氏は穏やかな笑顔とともに語りかけた。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. 特集
  3. “脳”は休ませながら使え!
  4. 日々の充実のために、脳を“鍛えて”脳を“休めよ”!