スポーツマネジメントの極意

目指せ鈴鹿8耐5連覇! YAMAHAをけん引する吉川流マネージメント術

YAMAHA FACTORY RACING TEAM監督 吉川和多留【前編】

7月25日(木)~28日(日)にかけて開催されるコカ・コーラ鈴鹿8時間耐久ロードレース(以下、鈴鹿8耐)第42回大会に、5連覇を目指して参戦するYAMAHA FACTORY RACING TEAM。監督を務めるのは、2015年にヤマハがワークスに復帰して以来指揮を執ってきた吉川和多留氏だ。選手時代には鈴鹿8耐の表彰台に上がった経験もある吉川監督が実践するチーム・マネージメント術とは? 気になるレース開催直前の思いにも迫る。

どんなに準備を重ねても安心できない鈴鹿8耐

“8耐=ハチタイ”の愛称で呼ばれる鈴鹿8耐。FIM(国際モーターサイクリズム連盟)が主催する世界耐久選手権シリーズの一つで、毎夏に三重県の鈴鹿サーキットを舞台に8時間の耐久レースで雌雄を決する日本二輪ロードレース界のビッグイベントだ。

1978(昭和53)年に始まり、ことしで42回目の開催を迎える伝統のレース。ホームストレートに並べられたマシンに選手たちが一斉に駆け寄って走り出すルマン式スタート、ライダーの交代劇、1分1秒の死闘が繰り広げられるピットインといったレース本来の醍醐味(だいごみ)に加え、日中から夕方、夜にかけてのドラマチックな風景の移り変わり、サーキット周辺で行われるさまざまな催し物など、夏の一大エンターテインメントとして二輪ファンを楽しませてきた。

「鈴鹿8耐は、私が高校生のころから憧れ、私自身がライダーとしても15回ほど戦った思い入れの深い大会。ことしはレースマシンの『YZF-R1』が発売されてから21年、現在まで続くエースゼッケン21のルーツとなった資生堂の『TECH21』カラーリングも復刻する記念すべき年なので、“成功させたい”という思いが一層強いですね」。

そう語気を強めるのは、YAMAHA FACTORY RACING TEAM(以下、ヤマハ)吉川和多留監督。選手として活躍後、テストライダー、アドバイザー、監督として20年近く経験を積んできた大ベテランだ。

チームの参戦体制発表会で「鈴鹿8耐はスプリントレース並みの8時間耐久レース。勝つための目標設定をし、実現するための努力を重ねている」と語る吉川監督

ヤマハがファクトリーチームとして現体制で鈴鹿8耐に参戦を開始したのは2015年のこと。以来、4大会連続で表彰台のトップを飾ってきた。はたから見ると圧倒的な力の差に思えるが、一度として楽に勝てたレースはなかったそうだ。

「天候が急変したり、誰かが転倒してセーフティカーが入ったりすると、それだけでレースがガラッと変わってしまいます。それが鈴鹿8耐というレースなんですよね。自分たちで制御しきれない“勝負のアヤ”のようなものがあります。そうした不確定要素が多い中で、いかに正確に状況を把握し、適切なジャッジを下せるかがいつも勝敗を握ってきました」

モデルチェンジしてから5年を迎えるマシンは、既に熟成の域に到達。もちろん昨年よりもさらにポテンシャルはアップしているが、それでも安心できる状況とはいえない。昨年まではマシンの性能による優位が気持ちの余裕に、いわゆる安全マージンにつながっている部分もあったが、ライバルチームも着実に力を付けており、いまやマシンの実力は僅差。ことしはより限界近くまでマシンの性能を引き出すシビアな戦いが求められると吉川監督は見ている。

ただし、同じマシンであってもサスペションやエンジン、ブレーキのセッティングによってバイクの特性は大きく変わってくる。例えば、ピーキーなセッティングにすればタイムは出せるが、マシントラブルなどのリスクは高まる。

また、8時間にわたって熱戦が繰り広げられる鈴鹿8耐の場合はピットインやライダーの疲労も考慮しなければならない。エンジン出力を高めると燃費が悪くなり燃料補給のピットイン回数も増えるため、先鋭化しすぎたセッティングはライダーの負担となるケースも出てくる。その結果、タイムを落とす可能性は十分にあるため、ライバルチームの実力を推し量りながらマシンのセッティングをどこに落とし込んでいくかが勝敗を握るカギとなる。まさにクルーの腕の見せどころであり、レースの前からすでに勝負は始まっているのだ。

1985(昭和60)年にヤマハがファクトリーチームとして参戦した時の「TECH21」カラーを復刻したマシン「YZF-R1」で、ことしの鈴鹿8耐に臨む

世界トップレベルの選手とマシンがそろった盤石の布陣

そうした厳しい状況下においても、吉川監督が「他のどのチームにも負けない」という絶対の自信を持っている部分がある。それはライダー個々の実力とチームワークの良さだ。

「中須賀とアレックス、マイケルの3選手は誰もがトップを取れる実力を備えています。そんなチームは他にありません。またメカニックなどのピットクルーにも私が選手だったころから一線で活躍している、気心の知れたメンバーがたくさんいます。そこが強さの礎になっていますね」と自身のチームを分析する。

鈴鹿8耐は3人のライダーが交代しながら、その名のとおり8時間にわたって一台のマシンを走らせる耐久戦だ。

ヤマハはことし、2017、18年と同じく中須賀克行、アレックス・ロウズ(イギリス)、マイケル・ファン・デル・マーク(オランダ)の3選手でチームを編成。中須賀選手とマイケル選手は4回、アレックス選手も3回の鈴鹿8耐優勝経験を持つ実力派ぞろいだ。

個々の実力が高い選手が3人そろっていることこそ、ヤマハチーム最大の強みという

昨年の大会はまさに、そんな一枚岩のチーム体制が試されるレース展開だった。中須賀選手が本戦当日のフリー走行中に転倒し、けがのため欠場。さらに決勝レースが始まる直前に雨が降りはじめ、混乱した中でのスタートとなった。

「3人の中で一番経験豊富な中須賀選手が出られないと決まったときには正直、一瞬戸惑いもありました。ですが、そのことをアレックスとマイケルの両選手に伝えると、『体力的にはつらくなるけど、なんとか2人で8時間を走り抜こう』と言いました。“出場できない中須賀を表彰台の一番上に立たせて、彼に恥ずかしい思いをさせてやろう”と前向きな気持ちでレースに臨んでくれました。あのときはジーンと来ましたね。けがをした中須賀選手も『自分にもできることはあるはずだ』ということで、ピットからチームを支えてくれました。アレックス選手とマイケル選手は海外出身のライダーですが、2人とも日本人的なメンタリティを持ち合わせています。そのこともチームがうまくいっている要因かもしれません」

日本人的な精神というと、一般的には“他者に遠慮して譲り合うような性格”を示すことが多いが、吉川監督の言わんとしていることはそうではない。協調性、いざというときの団結力をそう表現しているのだ。

個性の強い選手をマネージメントする術とは?

レースの世界においてライダーが自分の性格を出さないことは、マイナス要因にしかならないだろう。実際、3人の選手は誰もが現在の二輪ロードレース界を代表する実力の持ち主。本来なら闘争心を隠さず、たとえチームメイトといえども互いにライバル視する関係であって不思議ではない。にもかかわらずうまく機能しているのは、吉川監督の手腕によるところが大きいはずだ。

「体格の異なる選手たちが一台のマシンに乗ることは想像以上に過酷なのです」と語る吉川監督

「“われ先に”という思いは、どの選手も抱いていると思うんですよ。それでも耐久レースでは、チームとしてのバランスを考えなければいけません。そのため、それぞれの役割を明確に示すようにしています。第1ライダーは(スタート直後という)安定していないレース状況の中で流れをつかみ、ポジションを取る重要な役割。例えば、ここで燃料を消費し過ぎて早めにピットインしたりすると、ライバルチームに『ヤマハは計8回のピットインが必要だな』などと悟られて、作戦の幅が狭くなってしまいます。

第2ライダーはそのポジションを守りながら、確実にタイムを稼いで次につなげる役割。第3ライダーは精神的にタフでなければなりません。タイヤは本数制限があるためレースウィーク中は好き放題に交換できず、練習走行の時も第3ライダーが乗るころには摩耗してしまっています。つまり本来の実力を発揮しにくいわけです。そんな状況を十分に理解して、ときにはなだめたりもします。本当はどの選手も、“自分が活躍したから勝ったんだ”という攻めに攻めた走りをしたいはずですからね」

一戦ごとに全く異なるドラマがある。同じライダー陣での参戦はことしで3度目となるが、キーマンとなる選手は毎年変わっているという。監督はそれをチーム内の関係がうまくいっているサインだと解釈している。要は全ての選手に主役を張れる実力があるということだからだ。





<2019年7月10日(水)配信の【後編】に続く>
コンセプトは“ライダー・ファースト”! 強いチームづくりが鈴鹿8耐での勝利を導く

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE