スポーツマネジメントの極意

チームに変革をもたらした4つのカギ! 成功体験を継続させるクーパー流リーダー論とは

ジャパンラグビートップリーグ(TL) 三菱重工相模原ダイナボアーズHC グレッグ・クーパー【後編】

長年トップリーグに昇格できず、下部リーグであえいでいた三菱重工相模原ダイナボアーズのヘッドコーチに昨季から就任したグレッグ・クーパー氏。「過剰に褒め過ぎない」「ぬるま湯体質を生み出さない」という独自のマネジメント術によってチームは生まれ変わり、12季ぶりとなるトップリーグへの昇格を果たした。そんなクーパー氏に今後のチームの展望、さらなる目標について語ってもらった。

好調なチームの中で感じたストラテジー(戦略)への信頼度

2018年4月に三菱重工相模原ダイナボアーズのヘッドコーチに就任し、らつ腕を振るってきたグレッグ・クーパー氏。プレイヤーとしても指導者としても一流のキャリアを築いてきたクーパー氏は長年トップリーグから遠ざかっていたチームを変えるべく、就任当時からさまざまな改革を行ってきた。
※前編の記事はこちら

そうした成果はトップチャレンジリーグ(トップリーグの第2部に相当)開幕と共に現れ、開幕第1戦目となった同年9月9日の対釜石シーウェイブスR.F.C.戦を42対17で快勝。翌週16日の対NTTドコモレッドハリケーンズには敗れはしたが、30日の対中国電力レッドグリオンズ戦でも68対17と圧倒し、2勝1敗という好スタートを切った。

一見するとチーム状態は良好、順調そのものに見えたが、クーパー氏の目には少々違って映し出されていたという。

当時のチーム状況を振り返りながら穏やかな表情で語るクーパー氏。好調に見えた一方で、格上チームに苦戦していた理由を明確に述べてくれた

「確かに最初は手ごたえを感じましたが、それが途中で止まったような気がしたのです。私が思うに、チームとしてストラテジー(戦略)はしっかり持っていたけれど、選手たちからするとそれに対する信頼が足りなかったのかな?と思っています」

ダイナボアーズが勝利した開幕3戦のうちの2試合は、いずれも前シーズン、ダイナボアーズよりも下位に終わったチームで、いわば勝って当たり前ともいうべき相手だ。一方でトップリーグから降格してきたNTTドコモレッドハリケーンズには敗れている。

善戦していた当時のダイナボアーズだが、トップリーグから降格したチームには苦戦を強いられた

最初に感じたいい手ごたえを失いつつある中で臨んだのが、リーグ5戦目となる対近鉄ライナーズ(現W杯日本代表メンバー最年長のトンプソンルーク選手<38歳>が所属)戦。

そしてこの試合こそクーパー氏が“チームにとって、ターニングポイントになった”と語った一戦でもある。

チームを変えた「成功する4つのキー」

トップリーグから降格してきた近鉄ライナーズは、トップチャレンジリーグにおいてその無念さを晴らすかのように開幕から4戦無敗という好成績を収めていた。ダイナボアーズにとって不足のない相手ではあったが、結果は14対52で敗戦した。

「この試合は最初のキックオフから30分の間にストラテジーから大きく離れた試合になり、自分たちのプレーが全くできないまま点差をつけられて負けてしまいました。近鉄ライナーズはその後の試合で、(われわれが負けた)NTTドコモレッドハリケーンズにも勝ちましたが、スコアは28-24と接戦だったので、私たちもストラテジー通りに試合を進められたらもっといい試合ができたのではないか?とも思いました」

格下相手には勝てても、格上を相手に敗れてしまってはトップリーグ昇格の願いは叶わない──。

そう考えたクーパー氏は「成功する4つのキー」を新たに設定した。
それが
(1)ストラテジー
(2)ディテール
(3)個人責任
(4)ハート
の4項目だ。

「この4つはすべて一連のモノでつながっていきます。まずストラテジーですが、リーグ戦を通じてみても、私たちのストラテジーはいいものを持っていることが分かります。だからこそストラテジーに強くこだわり、自分たちの武器を信じていくことにしました。

チーム全員がストラテジーを深く理解しながら、スキルに磨きをかけて一つ一つのプレーのディテール(細部)にまでこだわっていく。そうした研ぎ澄まされたプレーをするためには、セレクトした行動に対して各個人が責任を持つことが求められます。同時に、気持ちを前面に押し出したプレーを継続していけば、より成功に近付いていくはずです」

成功への4つのキーを決めて以来、再び好成績を残すようなったダイナボアーズ。力強いタックルで課題のディフェンス面も向上した

この4つのキーを決めてからダイナボアーズは再び連勝街道に乗り、1stステージ7試合を5勝2敗の3位で通過。2ndステージへと進出すると、12月1日には再び近鉄ライナーズと対戦した。試合はキックオフ早々からマット・ヴァエガ選手がトライを決めるなど終始リードした展開で進み、30対19で勝利。見事にリベンジを果たした。

「自分たちをもう一度見つめ直す機会を作れたあの試合の失敗を経たからこそ、大きな成果が生まれました。コーチやスタッフが変えなくてはいけないところを理解して、選手たちもしっかりとストラテジー通りにプレーしようと意識したからこそ、勝つことができたのだと思います」

結果的に、ダイナボアーズは2ndステージも2位で通過し、トップリーグ入れ替え戦への出場権を獲得。そして、12月23日の対豊田自動織機シャトルズ戦を31対7の勝利で飾り、12季ぶりのトップリーグ昇格を決めた。

“勝てる文化を継続させる”のが私の使命

ダイナボアーズの大きな目標となっていたトップリーグ昇格を就任1年目にして達成したクーパー氏だが、「これはまだ第1段階。まだまだ上を目指していく」と、決して現状に満足しているわけではない。

それだけにトップリーグカップ2019(トップリーグとチャレンジリーグの計23チームが参加し、初の合同大会として開催)のプール戦で4敗を喫したことに不満を抱いているかと思われたが、意外にも“ポジティブなこともある”と前向きなコメントが返ってきた。

「トップリーグに昇格したばかりですから、われわれのレベルを試す意味合いがあったのでとてもよかったと思います。もちろん結果はイマイチでしたし、納得はしていません。ただ、先日(7月6日)の対クボタスピアーズ戦は7-12と負けはしましたが、準優勝したチームを相手に接戦まで持ち込めたのはチームにとって大きな自信になったと思います」

今後の課題として「プレー一つ一つの精度を高め、長期的に強いチームを作っていきたい」と語るクーパー氏にとって、ヘッドコーチとはどんな存在なのだろうか?

「チームをマネジメントするのが主な仕事ですが、その目的は2つあります。まず一つはウイニングカルチャー(勝てる文化)を作っていくこと。勝つともちろん選手たちも会社も喜びますよね? だからこそ勝てるチームを作ります。そしてもう一つは、選手だけではなくスタッフたちも含めてみんなを成長させて、育成すること。ヘッドコーチである私の使命です」

インタビューの最中、終始にこやかな表情だったクーパー氏。間もなくに迫ったラグビーW杯の話を聞くと「日本代表にとっては10月13日(日)のスコットランド戦がカギになると思います。この試合が日本ラグビーの歴史を変える日になるかもしれません」という予想も

最後にクーパー氏は自身の今後の目標について、こう語ってくれた。

「ヘッドコーチとしてダイナボアーズでキャリアを終えたときに、私が来たときからの経験を素晴らしい文化として残していきたいですね。これは一過性のものではなく、仮に私がヘッドコーチでなくなっても変わらないもの、という意味です。指導者が変わったからといって、またゼロからスタートするのでは非効率ですよね。だからこそ、ダイナボアーズに根付く文化を、私もみんなと力を出して作っていきたいです」

ラグビーに限らず、成功体験を継続させられるような文化があれば、発展が続くのは間違いない。

本当に良いマネージャーとは文化を作るもの。

この考えはビジネスの舞台でも大いに役立つことだろう。

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