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厄介者の“もみ殻”が電極に! 米どころ秋田県で誕生した蓄電デバイス

従来品より製造工程の簡素化&低コスト化を実現するカギは、稲に含まれる「シリカ」にあり

紀元前より稲作文化が根づく日本。食の欧米化により米離れが叫ばれて久しいが、まだまだその需要は高い。また、従来は燃やして処理されるだけだった稲わらやもみ殻などを有効活用する研究も近年は盛んに行われており、秋田大学では蓄電器の電極材料としてもみ殻を用いる方法を開発したという。これまでの電極より簡単に作ることができ、環境負荷軽減にもつながるという新しい蓄電デバイスを紹介する。

米どころ・秋田ならではの発想

「食欲の秋」。栗やサンマ、キノコなど、この時季に旬を迎える食材が多いことから作られた慣用句だが、それらを引き立てる新米も秋の味覚として欠かすことのできない存在ではないだろうか。

社団法人 米穀安定供給確保支援機構によると、現在、日本で栽培されている米の種類は900を超え、主食用に多く作られている品種は約290種。各生産地の気候に合わせて品種改良が進んだ結果、年々その食味は向上しているという。

収穫した米を稲から外す脱穀、もみ殻を外すもみすりを経てようやく玄米になるわけだが、20年ほど前からもみ殻の処分方法が問題になっている。

以前は野焼きを行うことでもみ殻を処分していたが、法律の厳格化により強く制限されるように。家畜の敷きわらや堆肥などに使われることもあるが、国内で年間約160万トン排出されるうちの約3割は再利用されていないという。廃棄する際には処分料がかかるため、農家にとっては頭の痛い問題だ。

そうした中、新潟県や北海道に次ぐ米どころ・秋田県において、もみ殻の有効活用法が模索されている。それが、“蓄電器の材料にもみ殻を用いる”研究だ。

秋田大学大学院理工学研究科の熊谷誠治教授らが進める研究は、リチウムイオンキャパシタ(以下、LIC)の電極部分に炭化させたもみ殻を使用するもの。かつて、もみ殻を炭にすることで灯油の不純物を除去する吸着剤を作った熊谷教授の経験を生かしたものだという。

LICの動作原理を表した図。正極と負極、電解液から構成されるのは、リチウムイオン電池と同じ

そもそもキャパシタとは、容量は小さいものの短時間で充放電ができ、電流を安定化させるコンデンサー(蓄電器)のこと。あらゆる電子部品の中でも回路の基本となる素子で、車や家電製品などに幅広く使用されている。

一般的な電気二重層キャパシタと同じく、瞬発的にエネルギーを入出力するという能力を持つLIC。リチウムイオン電池には劣るものの高エネルギーを蓄える力を併せ持っていることから、2つの中間、またはハイブリッドと称されることも多い。

それはLICの電極材料を見れば明らかで、正極には電気二重層キャパシタと同じ活性炭を、負極にはリチウムイオン電池と同じ炭素が使用されている。また、負極側には、リチウムイオンを負極材料に貯蔵させるプレドープ処理も施されているという。

従来品より簡単に作れ、耐久性も向上

正負極ともに、海外の農業副産物や化石資源などを使用することが一般的なLIC。ヤシ殻を炭化させたものが多いとされる中、熊谷教授はもみ殻で代用できるのではないかと研究を開始した。

まず2013年に、正極の材料となるもみ殻由来の炭素を開発。炭化させたもみ殻を水酸化ナトリウム水溶液に漬けることで、炭素と混じり合っていたシリカ(二酸化ケイ素)を完全に除去。ナノレベルの無数の穴が開いた構造を作り上げ、正極として優れた働きをすることを確認した。

一方、シリカを残した状態のままリチウムイオンのプレドープ処理を施すと、イオンの貯蔵・放出に活性のあるケイ酸リチウムという物質が形成されることを突き止めた研究グループ。

しかし、ケイ酸リチウムは多量のイオンを貯蔵・放出することで過大に膨張・収縮する特性を持ち、いかに構造安定性を確保できるかが課題となった。

もみ殻を用いた正極・負極のイメージ。シリカを除去する前までは完全に同じ工程となる

その後も研究を重ねた結果、一部のシリカを除去することでケイ酸リチウムの膨張スペースを確保しつつ、多量のイオンを貯蔵・放出させることに成功。

また、プレドープ処理する工程でシリカが余剰分のリチウムイオンを取り込む作用で、余ったイオンが表面に膜を作ることを阻害。ショートする危険性が少なくなり、作業の簡略化・低コスト化につなげることが可能になるという。

もみ殻炭素を用いた正極と負極を使って行われた実験では、従来の炭素系材料を用いたものより優れた性能を示すことが明らかに。さらに、簡易なプレドープ処理を実施しても、充放電に対する耐久性が従来の電極材料より高まることも判明した。

もみ殻由来の電極材料及び一般的な炭素系電極材料のLICで、繰り返しの充放電を行った際の結果。もみ殻由来の電極を使用した方が安定しているのが分かる

負極の製造方法で同研究グループは特許を出願しており、今後は実用化に向けてさらに研究を進める方針だという。

実用化が進めば費用のかからない材料を使っているためLICの価格が下がることはもちろん、中国やタイなどでいまだに行われている野焼きを防ぐことにもつながっていく。

簡単に製造できて高性能、環境に優しいという三拍子そろったもみ殻由来の電極が、LICの材料として大量生産される日も近いのかもしれない。

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