2020.3.12
建築業界に革命を! がれきと廃木材でつくる強度抜群のリサイクルコンクリート
コンクリートの再利用を促進し、環境負荷低減につなげる新技術を東大などが開発
古い建築物が目立ち始めた日本。早急な補修や解体、立て直しが必要とされ、近いうちに大量のコンクリートがれきや廃木材の発生が予測されている。その一方、コンクリートの原材料の一つ・セメントの製造工程において生成される、大量の二酸化炭素が問題視されているという。そうした中、がれきや廃木材を再利用して作られるエコなコンクリートが話題だ。十分な強度を誇り、環境にも優しいリサイクルコンクリートを紹介する。
INDEX
コンクリートがれきの現状
建築物の老朽化が止まらない──。
国土交通省の調べによると、日本で建設時期がはっきりしている橋(2m以上)は約73万橋。そのうち、建設後50年を経過した橋が2018年3月の時点で約25%にも上る。また、2023年には約39%、2033年には約63%に増加する計算だ。
なお、この数字には建設時期が不明な約23万橋が含まれていないため、実際にはもっと老朽化が進んでいる橋が多い可能性が高い。
一方、総務省が取りまとめている空き家率も上昇し続けている。2018年10月の時点で、国内の住宅総数に占める空き家の割合は過去最高の13.6%。戸数も過去最多の約846万戸になった。そのうち約347万戸は、長期にわたって不在の住宅や取り壊し予定の住宅だという。
これらに共通して言えるのは、高度経済成長期後半に相次いで建設されたものが多いということ。それぞれ50年を超えると崩落や倒壊の恐れがあるため、早急な補修や解体、建て直しが求められている。
そして、補修や解体に伴って生じるのが「がれき」だ。
コンクリートがれきは毎年約3500万トンも排出されており、今後も増加傾向にあるという。
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建設現場で数多くみられるコンクリートがれき。都心の再開発などでビル群を解体すれば、その量は一気に膨れ上がる
その中にあって、コンクリートがれきのリサイクル率は約98%と意外に高い。
しかし、その約9割が道路建設の際に舗装の下に埋められる路盤材料として使われており、残りの約1割しか新しいコンクリートとして生まれ変わっていない。ネックとなるのが、再利用できるきれいな砂や砂利を取り出すのに、多くのエネルギーと手間がかかることだ。
また、砂や砂利は再利用できたとしても、コンクリートを作る際に新たなセメントが必要となるのは変わらないため、その製造工程で発生する大量の二酸化炭素を防ぐことはできない。
つまり、循環を理想とするリサイクルには程遠いのが現状だ。
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一般的なコンクリートの例(左)とセメントや砂、砂利といった材料(右)
コンクリートがれきと同様、廃木材の量も年間推計約800万トンとその規模は大きい。そのほとんどが最終的に焼却や埋め立て処分されており、こちらも有効なリサイクル案の開発が急がれていた。
そうした問題を解決するために作られたのが、東京大学生産技術研究所が中心となって開発したリサイクルコンクリートだ。
これまで以上にがれきを生かす
研究グループが開発したのは、コンクリートがれきや廃木材を材料とするリサイクルコンクリート。
セメントを一切必要としないため環境に優しく、増加傾向にある建築廃材を有効活用できると注目を集めている。
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廃木材とコンクリートがれき(上)を用いて作られたリサイクルコンクリート(下)。3つの試作品は、右にいくほどコンクリートがれきの割合が多い
作り方は、コンクリートがれきと廃木材を粉砕して水を混ぜ、約180℃で1分間ホットプレスするというもの。
加熱しつつ圧縮成形するホットプレスを行う際の消費エネルギーは約0.2GJ/トンで、従来のコンクリート1トンを作るのに用いられるセメントの焼成で発生する約0.5GJ/トンに比べると半分以下。さらに、リサイクルコンクリートの厚みを増やす、1台のプレス機で複数枚制作可能な多段プレス機を用いるなどすれば、もっと有利な値が出るという。
上記の数字は20MPa(メガパスカル/圧力の単位)で厚さ1.5cmのリサイクルコンクリートを作る際のものだが、10MPa(1Paの1000万倍。約98.7気圧に相当)でも従来のコンクリートを上回る曲げ強度を実現可能だ。
また、加える圧力を大きくすることで、曲げ強度を既存のコンクリ―トに比べて10倍程度にできることも実験で判明した。
その際にもう一つ重要なファクターとなるのが、木材に含まれるリグニンという物質。この物質がコンクリートがれきを接着する働きを持つと考えられ、含有量が多いほど強度が高まるということが分かった。
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材料ごとのリグニン含有率とその材料を使用して作られたリサイクルコンクリートの曲げ強度の関係
ちなみに、リグニンは木材以外の多くの植物にも含まれている。野菜や落ち葉、お茶殻、製紙工程で発生する副産物としてのリグニンでも、コンクリートがれきを接着できることが確認されている。
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それぞれ、コンクリートと杉を1:1で混合(左)、コンクリートと杉、お茶殻を2:1:1で混合(中)、コンクリートとお茶殻を1:2で混合(右)して作られたリサイクルコンクリート
リグニンにはもう一つの特徴がある。特定の菌や微生物など、生物の作用により物質が分解される「生分解性」を持つことだ。
リグニンは「難分解性」であるため、リサイクルコンクリートが通常使用される環境下での進行は見られない。ただ、特定の木材腐朽菌によって生分解されることが知られており、その菌を使えば容易な処分が可能になると期待されている。
現段階で試作されたリサイクルコンクリートは縦50×横70×厚さ5(各mm)の板状だが、設備次第ではもっと大きくすることが可能。厚みがあると中まで熱が通りにくく内部の強度が落ちる可能性があるものの、あらかじめ材料を温めた状態でホットプレスすることで解決できるという。
この技術を生かして、今後は内装材や外壁材、合板の代替材料としての活用を目指す研究グループ。3年以内での製品化を目指している。
今後も増え続けることが予測されるコンクリートや廃木材といったがれき類。
リサイクルコンクリートとして生まれ変わることでエネルギー負荷の低減につながれば、建築業界の未来はもっと明るくなるのかもしれない。
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text:佐藤和紀