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究極のメモリ完成へ一歩前進! 超低消費電力化と高速動作を実現する強誘電体とは

世界初! わずか9nm(ナノメートル)での強誘電性実証で、新たな技術革新への大きな一助に

従来のHDD(Hard Disk Drive)に取って代わり、最近のパソコンの主流となったSSD(Solid State Drive)。その速さや静音さは、すでに広く知られるところだ。SSDは不揮発性メモリとも呼ばれ、通電していなくてもデータを保持できるのがポイント。これは、SDカードやUSBメモリにも共通する点だ。今回、これらの記憶媒体の性能をさらに高める新たな不揮発性メモリ開発に向け、世界初の実証がなされたという。これまでより低消費電力で、汎用性を高めた期待の技術に迫る。
カルーセル画像:metamorworks / PIXTA(ピクスタ)

実は身近な不揮発性メモリ

電車やバスへ乗る際に欠かせない交通系ICカード。2001年11月に東京圏で導入されたSuicaを皮切りに、現在では幅広い事業者で使われる当たり前の技術となった。

開発当初は、カード自体に電池を持たせる計画だったSuica。しかし、不具合が続出したことで、改札機側から無線でカードへ給電する仕様に変更し、現在の形に落ち着いたという。

給電の仕組みは意外なほどシンプルで、物理の授業で習った「ファラデーの電磁誘導の法則」を活用している。具体的には、改札機側から発せられた磁場をICカード内のコイルが受け取ることで磁場が変化。コイルに起電力が発生し、ICチップが作動する仕掛けだ。

改札機にタッチする度に給電される仕組み。その都度、情報が書き換えられる

では、カード自体に電池がないのに、なぜICチップ内の情報が長期間保存され続けるのか──。

その答えは、「強誘電体」にある。

電気を通さない代わりに、ためる性質を有する物質を「誘電体」と呼ぶのだが、電圧をかけるとプラスとマイナスの電気を帯びた部分に分かれる「分極」という現象が必ず発生する。

また誘電体にも種類があり、かける電圧をゼロにすると分極しなくなるものは「常誘電体」、分極したままの状態を保つものを「強誘電体」と呼ぶ。

強誘電体はその状態を保つのに電力をまったく使用しないため、電源がなくても情報を保持できる記憶保持素子=不揮発性メモリになるという寸法だ。

強誘電体のヒステリシス(履歴)特性を表した図。外部からの電圧によって分極が発生し、データ“1”もしくは“0”を記憶し続ける。また、電圧を加えることで反転し、データを書き換える

SSDやSDカードなど、現在では幅広く採用されているイメージのある不揮発性メモリ。しかし、強誘電体の特性を保持しつつ膜を薄くする技術は非常に難しく、低電圧で作動する技術を生かしたものは交通系ICカードなどのごく一部に限られていた。

そのような状況を打破するかもしれない技術が発表されたのは2019年。スマートフォンの高周波フィルターに使われている窒化アルミニウムスカンジウムに、高い強誘電性を持つことが報告されたのだ。

しかし、この研究は150nmという厚膜に関するものであり、メモリを低消費電力で動作させるための薄膜化には触れていなかったという。

そこで、東京工業大学物質理工学院の舟窪浩教授と修士課程2年の安岡慎之介さんらの研究グループが挑んだのが、汎用性を高めるための薄膜化だった。

薄い膜でも強誘電性を実現できたポイント

強誘電体には、薄膜化すると強誘電性が失われる「サイズ効果」という現象が存在する。これは物質によって減少率が大きく異なるため、研究グループはスカンジウム(以下、Sc)とアルミニウム(以下、Al)の金属を窒素ガスと反応させ、それぞれの比が異なる数種類の強誘電体・窒化アルミニウムスカンジウムを作製した。

そこでまず突き止めたのが、物質中のSc比を小さくすることで、電源を切り離したときに物質に残る1cm角あたりの静電容量(残留分極値)が大きくなることだ。

電源から切り離したときに残る1cm角あたりの静電容量(残留分極値)。Sc比を小さくすると静電容量が高くなる

また、Sc比が小さいほど、別の分極状態に反転させる際に必要な電圧と、物質に加えることができる電圧(いずれも1cmあたり)に差が出ることが分かった。

つまり、窒化アルミニウムスカンジウム内のScの濃度を低くすれば、分極状態を繰り返し反転させた場合でも、反転と印加(電圧を加えること)を安定して行き来できることを見いだしたのだ。

反転させるための電圧(抗電界、Ec)と印加できる電圧(最大電界、Emax)と膜中のSc/(Al+Sc)比の関係

上記を踏まえて窒化アルミニウムスカンジウムの薄膜化に着手した研究グループは、これまでの約3分の1にあたる48nmに薄くしても高い強誘電性が維持できることを証明。

さらに、分極分布をナノスケールで観察できるプローブ顕微鏡を用いた非線形誘電率顕微鏡法で、より薄い9nmでも強誘電性が実現することを世界で初めて実証した。

(a)さまざまな強誘電体を電源から切り離した際に残る1cm角あたりの静電容量。今回製作したものは、代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zr0.2Ti0.8)O3と比べても倍以上の大きさ(b)膜厚9nmの膜に+6Vを印加し、一部領域にのみ−6Vを印加した模式図(c)同じ範囲の非線形誘電率顕微鏡像。2通りの分極状態に対応したコントラストが像で確認でき、印加によって反転することを確認した

これにより期待されるのが、強誘電体を有するごく薄い膜を用いた不揮発性メモリの普及だ。

今回の実験で作製された窒化アルミニウムスカンジウムは、従来よりも高い強誘電性を有しつつ膜の作製方法が容易になったため、広い用途での応用が見込まれている。

たとえば、IoTの普及によって需要の増える各種センサへの搭載。極めて低い消費電力で動作してデータを保存できる不揮発性メモリは、IoTを活用したセンサとの親和性が高いためだ。

また、分極の方向も制御できるようになったことから、従来なかったような新規デバイス開発も期待できるという。

消費電力が極めて小さく、高速で動作することから“究極のメモリ”と称される強誘電体を用いた不揮発性メモリ。

加速するデジタル化、そして新製品の開発において、今回の成果を活用した技術が採用される日も近いのかもしれない。

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