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極小水路でも発電! 農業用水を利活用する「ナノ水力発電」の実証実験スタート

わずか1kWの出力でも農業や養殖漁業従事者の大きな助けに

ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット化)を活用するスマート農業・漁業。省力化や効率アップなど利点はさまざまだが、農業や魚の養殖場は人里離れた場所で行われるケースも多く、電気が通っていないエリアもある。そのため、機器に必要な電力をどのように得るかが今後の普及を占うカギといえる。そこで、注目されているのが水の流れを活用する小水力発電。その中でも、規模の小さなナノ水力発電の製品化に向けた実証実験が始まったという。農業や養殖漁業に大きな貢献が期待される最新の発電技術を紹介する。

風力や太陽光に続く定番の発電技術に?

小水力発電という言葉を聞いたことはあるだろうか──。

これは、ダムのように水をためて行う大規模な発電方法とは異なり、河川や農業用水、上下水道など、既存の水の流れを活用して行う小規模な発電方法のことだ。

環境省によると、世界的に明確な定義はないものの出力数によって呼び方が分かれており、10万kW以上が大出力、1万~10万kWが中水力、1000~1万kWが小水力発電と呼ばれることが多いという。

また、日本では「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネ法)」の対象となる1000kW以下の水力発電の総称とすることも多く、近年になって普及が進んでいる再生可能エネルギー分野の一つでもある。
※農業用水を活用したらせん水車による水力発電の記事はこちら。
「農業用水路が発電所に!国産らせん水車が岩手県で国内初導入」


全国小水力利用推進協議会の発表によれば、日本各地で稼働する小水力発電は約550カ所(2019年4月現在)。場所や用途に合わせた多種多様な発電機が設置されており、地域に根差した運営が行われている。

そうした中、金沢工業大学と同大学の併設校である国際高等専門学校、プレス関連製品事業などを手掛ける東プレ株式会社による産学連携で、新たな小水力発電の実証実験が進められているという。

プロジェクトチームが開発しているのは、100kW以下とされるマイクロ水力発電よりもさらに低出力な「ナノ水力発電」を想定したもの。出力自体は低いが機器全体の大きさを抑えられるため、従来の小水力発電装置では設置が難しかった狭い場所でも使用できるのが大きな特徴だ。

発電の仕組みはシンプルで、直径125mmのパイプから取水し、直径100mmのデュアルタービンを水流で回転させるというもの。機器の両端につけられた発電機で電力をつくる。

ポイントとなるのは、特許出願中の取水口だ。効率よくタービンを回すため、さまざまな工夫が施されているという。

2019年の実験では、山間部を流れる農業用水を使ってテストを実施。実際に流れている水流のみで、発電できることを確認した。

2019年当時の実証実験の様子。パイプ内を流れる水のエネルギーによってタービンを回す

2020年10月には次の段階として石川県白山市の養鯉(ようり)場に発電システムを設置。

養殖目的に給水されるパイプラインを活用した発電実験を同年12月からスタートさせた。

ナノ水力発電が設置された養鯉場の全景。常に水が流れ込んでいるため、今回の実証実験に適した場所といえる

養殖場の全電力を賄うパワフルさ

東プレが強みとする流量制御やインバータ制御技術、型を押しつけて目的の形状を作る塑性(そせい)加工と金沢工業大学の杉本康弘教授が専門とする流体工学を応用して進められる本プロジェクト。

2019年のテストでは最大1.3kWの発電量を記録していることもあり、今回行われている養鯉場での実証実験では同様の値を安定した状態で長期的に得られるかに主眼が置かれている。

1.3kWと聞くと少ないようにも思われるかもしれないが、この発電量は一般家庭の平均消費電力2世帯分を超える値だ。
※電気事業連合会の一世帯あたりの電力消費量の推移データ参照
300kW/月と想定した場合、300kW/30日/24時間=0.42kW→約420Wとなるため

そのため、養殖に必要な水中ポンプや自動給餌機はもちろん、実験のデータ取得に必要な計測機やデータを送る通信機、連続稼働状況を確認するための遠隔監視装置や照明など、今回の実証実験で使われる全ての電力を賄えるという。

養鯉場の水中ポンプや自動給餌機。ナノ水力発電を活用すれば停電の影響を受けないため、魚たちの大切な命を守ることができる

養鯉場に設置されたシステムは、直径100mmのデュアルタービンを用いるもので2019年のものと同様。

電力はパワーコンディショナーを通じて100Vに変換して使用されるほか、蓄電池にもためることができる。

(上)養鯉場に設置されたナノ水力発電システム。右側から取水し、タービンを通って左側へと排水される。(下)中心にあるのがデュアルタービンで、機器の両端に発電機が設置されている

このシステムでは流れる用水の一部を取水するため、水量の変化による発電量の増減が少ない点がメリットだ。

「ことし3月までの実証実験中は、水と一緒に流れてくるゴミなどが与える機器への影響や、システムの効率と耐久性をチェックする」というプロジェクトチーム。得られた結果次第で、早ければ2021年度中の商品化を目指しているという。

商品化の際には、小川や用水路といった水面を有する開水路に設置するタイプと、水の周囲が壁に囲まれているパイプラインの中に設置する2タイプを販売する予定。

想定販売価格は未定だが、標準より少し大きめな5kWの住宅用太陽光パネルより安価に設定したいと担当者は語る。

電気が通っていない山の奥深くでも、水路だけは整備されているケースが多い日本。

わずか1kWというナノ水力発電が、今後の農業界、養殖漁業界を支える存在になっていくのかもしれない。

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