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注射が痛くなくなる? 高速注入・採取と多量投与を可能にする新技術“貼る注射”とは

バイオ発電スキンパッチ×多孔性マイクロニードルで挑むセルフメディケーション革命

「注射=痛い」という図式は近い将来、成立しなくなるかもしれない。そんな期待を抱かせるのが、東北大学大学院の研究チームによって新たに開発された、オール有機物の使い捨て発電パッチと多孔性のマイクロニードルだ。これまでネックとされてきた外科処置的に薬剤やワクチンを体内に流すメカニズムを電気浸透流によって改善し、将来的にはそれらの投与を自動で行えるようになるかもしれない注目デバイスを紹介する。

注目を集める貼る注射の弱点とは

世界保健機関(WHO)により、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な体の不調は自分で手当てすること」と定義されるセルフメディケーション。

健康志向の高まりもあって徐々に耳目に触れる機会が増加していたが、昨今のコロナ禍においてその意識はさらに向上。これは常備薬や健康維持グッズの需要増加からも見てとれる。

そうした中、セルフケアデバイスを象徴する先進ツールとして注目されているのが「マイクロニードル」だ。

触れても全く痛みを感じない数百ミクロン(1mの1/100万)の短い針(マイクロニードル)が多数並び、貼る注射としての実用化が進む同技術。特に美容分野での普及が顕著で、目元に貼るヒアルロン酸パッチなどが新たな市場を開拓している。

現在はニードルの表面に成分を塗布、もしくは成分を含むニードル全体が溶け出す2種類の方法が開発済み。将来的には薬剤や簡易ワクチン投与といった医療分野での利用拡大も検討されている。

しかし薬剤やワクチンへの展開を考えた場合にはどちらの方法にも課題がある。投与できる量の少なさと皮下組織への浸透の遅さだ。

これらを解決するためには薬剤を圧力で押し出すような仕組みが必要だが、その構造からマイクロニードルでは非常に困難だと考えられており、用途拡大には新たなメカニズムが必要とされていた。

そこで、東北大学大学院の研究チームは電気で流れが発生し、かつ制御可能な電気浸透流(EOF/Electro Osmotic Flow)に着目。独自に開発した多孔性のポーラスマイクロニードル(以下、PMN)にこの性質を取り入れ、これまで課題とされていたマイクロニードルによる薬剤の多量および高速の注入、皮下組織液の高速採取を実現可能にしたという。

従来のマイクロニードルとの比較。PMNでは注射器のように中から薬剤を注入できるため、量を増やすことに成功した

電気浸透流とは、固定の電荷(正もしくは負)を有する溶液に電圧をかけると、対となる電荷の移動に伴って溶液そのものの移動を引き起こす現象のこと。
※同グループが開発した「電気浸透流を用いたコンタクトレンズ」の記事はこちら
さらばドライアイ! 電気の力で目が潤うコンタクトレンズの機能実証に成功

マイナスイオンを固定して起こした電気浸透流の例。注射器のような圧力式でなくても注入が可能になる

たとえば、PMNに充てんした溶液内のマイナスイオンを固定した場合、プラスイオンの移動が電気浸透流を生み出すといった具合だ。

同グループが行った実証実験。(a)バイオ発電スキンパッチとPMNの使用例(b)バイオ発電スキンパッチの構造と出力特性(c)アノードによるブタ皮膚切片へのデキストリン注入の様子(d)カソードによるグルコースの抽出

薬剤に見立てた低分子炭水化物であるデキストリンを使用したブタの皮膚への注入実験では、PMNなしでは進まない皮下注入が動作することを証明。

また、プラスイオンが流れ込む方の電極(カソード)を用いて行ったグルコースの抽出実験についても、電気浸透流による明らかな促進を確認している。

汎用性抜群のバイオ発電スキンパッチ

この電気浸透流を活用したPMNには、もちろん電気が必要だ。

同研究チームは電気エネルギーを得る手段として、2020年1月に発表した酵素の反応によってマイクロ電流が流れるバイオ発電スキンパッチにその役割を期待している。

小型電池とオール有機物で構成され、使い捨てを想定しているこのパッチ。

その仕組みは、酵素を炭素繊維に修飾したアノード(マイナス極)とカソード(プラス極)を使用。吸水をきっかけに糖(フルクトース)を含む燃料溶液が作られて起動する仕掛けで、アノードは糖を酸化することで電子を引き抜き、カソードは空気中の酸素を還元することで電子を受け渡すというもの。

つまり、酸化還元反応を起こすことで、イオンを介した電流が皮膚に流れるロジックだ。

バイオ発電スキンパッチの構造と皮膚に電流が流れる仕組み

バイオ発電スキンパッチは柔軟性もさることながらわずか0.2cmの厚さに抑えられているため、体のあらゆる場所に貼りつけられるのが特徴。

直列につなげれば電圧を高めることができ、0.3Vから最大1.2Vまで調整可能。加えて、経皮電流値は5~80μAで、通電時間は15分~12時間の間でコントロールもできる。

バイオ発電スキンパッチの例。皮膚に塗った薬効の上に貼り、マイクロ電流を流して体内に吸収させるイオントフォレシス(薬剤浸透)にも使用可

同グループでは、このバイオ発電スキンパッチにより、外部からの電力供給を必要としないPMNの自立型デバイスとしての可能性も模索しているという。

PMNとバイオ発電スキンパッチの間に薬剤やワクチンを含ませたコットンを挟んで使用を想定。コットンに含ませる成分を変えることで、美容や医療などさまざまな分野に対応する

電源事情に恵まれない発展途上国はもちろん、被災地での医療行為に活用される可能性をも感じさせる使い捨て型発電パッチとPMNの組み合わせ。

美容や健康分野での実用化も含め、電気浸透流を使った経皮セルフメディケーションの新たな展開に期待したい。

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