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次世代蓄電池実用化へ後押し! マグネシウム蓄電池の高速充放電を実現する新材料を東北大らが開発

従来材料よりも100倍の速度で充放電が可能

リチウムイオン蓄電池と比べて安全かつ安価、大容量を実現できることから、次世代蓄電池として有力視されるマグネシウム蓄電池。早期実用化が望まれる一方で、まだまだ乗り越えなければならない課題も多い。今回は次世代蓄電池が抱える課題に一つの解決策を示した最新研究をご紹介する。

マグネシウム蓄電池の実用化に光明

EV(電気自動車)の車載用や緊急時に備える家庭用蓄電システムなどの用途で、蓄電池の需要が増加中だ。今後、持続可能な社会を実現する上でもその性能向上が必要不可欠とされる中で、近年は硫黄を活物質(化学エネルギーと電気エネルギーを変換する際の酸化還元反応を担う物質)に利用する正極材料に注目が集まっている。

従来の蓄電池には正極材料として酸化系のインターカレーション材料(結晶構造中へのイオンの挿入・脱離が可能な材料)が用いられてきたが、これは既に性能の理論限界値に近づきつつある。対して、硫黄の理論容量はそれをはるかに凌駕(りょうが)することに加え、自然界に豊富に存在する資源のため低コスト化も期待できるという。

一方で、硫黄にも電気伝導性が低いという明確なデメリットがあった。

そのため、正極として利用するには導電性物質と混合するなど複雑な工程が必要になるほか、硫黄やその反応中間体(化学反応の反応物から最終生成物になるまでの過程で生成される物質)が電解液の中へ溶出(ようしゅつ)してしまうことが課題だった。

特に、次世代蓄電池として研究が進むマグネシウム蓄電池においては、固体内でマグネシウムイオンの拡散が遅いために、高性能の正極材料を得ることは困難とされていた。

そうした中、東北大学金属材料研究所(兼 学際科学フロンティア研究所)の下川航平助教および市坪 哲教授、同大大学院工学研究科修士課程学生・古橋卓弥氏らの研究グループが7月26日、液体硫黄を活用してマグネシウム蓄電池用の新たな硫黄系正極複合材料の開発成功を発表した。

研究グループが提案する新たな硫黄系正極材料のコンセプト図。金属硫化物から金属元素成分を電気化学的に脱離させて、液体硫黄(活物質)とポーラス状の硫化物(導電性フレーム)で構成される複合体を作製するというもの

さまざまな硫化物への応用が可能に

今回発表されたコンセプトに基づく硫黄系正極複合材料はイオン液体(電解液)と組み合わせることで、硫黄の融点約120℃よりも高い約150℃で作動でき、高速の液体反応が利用可能になるという。

さらに、ポーラス状の硫化物は導電性を担保すると同時に、硫黄を正極内に閉じ込めて電解液への溶出を防ぐ役割も果たすとのこと。

研究グループではコンセプトの実証を目的に、金属硫化物に二硫化鉄を用いた液体硫黄(S)/二硫化鉄(FeS2)複合材料を作製。150℃のイオン液体中で電気化学試験を行い、その充放電の特性をさまざまな角度から検証した。

実験に用いた液体硫黄(S)/二硫化鉄(FeS2)複合材料の150℃における充放電特性。生成した硫黄(活物質)基準で1246mA/gという高電流密度、かつ約900mAh/gという高容量の充放電ができることが明らかになった

放電後の電極の断面観察結果。鉄の脱離により二硫化鉄粒子中に生成した細孔部でマグネシウムとの反応が生じていることを示す。図中の枠線で囲んでいる領域では細孔部の鉄の強度が著しく減少している一方、硫黄には大きな変化がない。つまり、鉄の脱離により生成した硫黄は粒子内にとどまる傾向があることが確認された

非平衡状態からの放電が平衡状態よりも高電位の放電反応が生じることを示す実験結果。高速充電後すぐに放電を開始することで、従来よりも約1V高い電位の放電反応を確認。同条件で充電を行い、1時間放置してから放電した場合はこのような高電位の反応は観測されなかった

また、一般に硫黄系の正極ではサイクル特性の課題が残るとされるが、高耐熱性の結着剤を用いた電極を作製して充放電試験を行ったところ、50回以上にわたって安定した充放電サイクルが維持できたという。

なお、こうした充電特性は他にも二硫化コバルト(CoS2)や二硫化チタン(TiS2)を用いた場合でも確認されている。

研究グループでは、「(同コンセプトは)多くの硫化物に適用可能であることが明らかになったことから、今後の研究によってさらなる正極性能の向上が期待される」としている。

蓄電池の性能を引き上げる大きなヒントになり得る今回の研究成果。

次世代蓄電池の早期実用化に向けて、さらなる研究の加速に期待したい。

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