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数年後には実用化の期待大! 栗田工業と日清紡が微生物燃料電池のスケールアップに成功

実規模サイズの微生物発電セルとして他に類を見ない発電量を達成

国や企業がカーボンニュートラルの取り組みを進める中、工場排水処理にかかるエネルギーとCO2排出量の削減を期待させる大きな研究成果が発表された。今回は、次世代の創エネルギー技術として注目を集める微生物燃料電池開発に取り組み、新たな排水処理システム構築を進める日本企業による最新の研究を紹介する。
TOP画像:Mac / PIXTA(ピクスタ)

工場排水処理にかかる電力とCO2排出を実質ゼロに

かつて日本では産業の近代化と引き換えに、有害汚染物質を含んだ工場排水をそのまま河川や海域に放流しており、著しく環境汚染が進んだ。特に1950年代以降の高度経済成長期には、水俣病やイタイイタイ病などの公害病、河川や湖沼の水質汚濁や富栄養化が社会問題となっていた。

その後、法整備が進み、工場排水は周辺環境に影響を与えないレベルの水質に処理してから放流されるようになり、工場排水を起因とする汚染は大きく改善されている。

ところが、工場排水の処理を巡りその企業や自治体は新たな課題に悩まされているという。

現在、排水処理には活性汚泥法が広く用いられている。つまり好気性微生物(酸素を必要とする代謝機構を備えた生物)を含んだ活性汚泥を利用して酸素のある条件下で有機性汚濁物質を分解する処理方法である。

活性汚泥法による排水処理の流れ。(1)活性汚泥が水槽内の有機性汚濁物質を食べて成長・増殖しながら排水を処理(2)沈降分離によって上澄液処理水(きれいになった水)と過剰に増殖した活性汚泥(余剰汚泥)が水槽内で上下に分かれる(3)上澄液処理水は放流され、余剰汚泥は除去される

しかし、この活性汚泥法には曝気(ばっき:水に酸素を送り込む浄水処理工程の一種)や余剰汚泥の処理・処分のための電力消費により大量のCO2を排出するというデメリットがあり、カーボンニュートラルに工場排水を処理する新たな手段が求められている。

そうした中で注目されているのが、次世代の創エネルギー技術の微生物燃料電池である。

この技術は、発電菌と呼ばれる微生物の働きによって排水中の有機物を分解処理すると同時に、従来汚泥となっていた有機物を電気エネルギーに変換。創出した電気の有効利用が可能であり、CO2排出量削減が期待できるというものだ。

だが、現状では排水処理効率や発電効率、性能の長期安定維持、実規模サイズへのスケールアップなど、実用化には課題が残っている。

世界最高レベルの微生物燃料電池の開発に成功

微生物燃料電池の実用化が期待される中、水処理事業の国内最大手である栗田工業株式会社は2022年1月20日、日清紡ホールディングス株式会社と共同で微生物発電セルの実規模サイズへのスケールアップに成功。微生物燃料電池を組み込んだ排水処理装置の実用化に向け、実排水での適用評価を開始すると発表した。

栗田工業は多岐にわたる水処理分野の知見を基に、微生物燃料電池の構成に適した材料を選定すると共に、それらを組み合わせた装置形状や構造を最適化。

さらに日清紡ホールディングスと共同でスケールアップを進めた結果、実規模サイズでは他に例のないCODCr(二クロム酸カリウムによる酸素要求量。排水中の汚濁物質量を示す)除去速度20kg/m3/d、発電量 200W/m3という世界最高レベルの性能に至ったという。

微生物燃料電池を用いた排水処理プロセスの仕組み(左)とスケールアップした微生物発電セル

栗田工業では実排水への適用評価を開始することでさらなる性能改善を進め、今後、数年以内にCO2排出量が実質ゼロとなる排水処理技術の実現を目指すとしている。

排水処理のカーボンニュートラル実現に向けた日本企業の先進的な取り組み。

今後の研究開発の前進が大いに期待される。

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