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世界初! 東大などの研究グループが可視光エネルギーを用いて窒素ガスからアンモニア合成に成功

常温常圧の環境下で、超高活性アンモニア生成触媒の開発に成功

東京大学、九州大学(福岡県)、大同大学(愛知県)の共同研究グループが、常温常圧の環境下において可視光エネルギーを用いて窒素(N2)ガスをアンモニア(NH3)へと変換することに2022年12月に世界で初成功した。カーボンニュートラルな燃料およびエネルギーキャリアとして有望視されているアンモニアを、化学エネルギーによらずに合成する方法の詳細を紹介する。
(<C>メインおよびカルーセル画像:iStock / vchal)

環境負荷が高いハーバー・ボッシュ法

取り扱いが容易であり、かつ高いエネルギー密度で、燃焼しても二酸化炭素(CO2)を排出しないアンモニアは、ゼロエミッション燃料およびエネルギーキャリアとして脱炭素社会の切り札として期待が高まっている。

しかし、スタンダードなアンモニア製造方法である「ハーバー・ボッシュ法」は窒素ガスと水素ガスとを高温・高圧の極めて厳しい条件下で、鉄系触媒を利用して反応させることでアンモニアを合成している。

この手法は1906年にドイツで開発され、100年たった現在でもこれに代わる方法はないとされている。鉄系触媒を用いて400~600℃、100~200気圧という高温・高圧の条件で窒素ガスと水素ガスからアンモニアを合成するため、大量のエネルギーを必要とする環境負荷の高いプロセスだ。

さらに原料となる水素ガスはCO2の排出を伴いながら化石燃料から製造されるため、化石燃料由来の化学エネルギーがアンモニア合成に用いられている。

※「ハーバー・ボッシュ法」の詳細:「窒素ガスと海水、太陽光でアンモニアができる! 大阪大学大学院が光触媒新技術を開発」

窒素ガスからアンモニアを合成する手法

資料提供:東京大学

東京大学の研究グループは2019年、ピンサー配位子(遷移金属を含む同一平面上の3方向から3つの配位原子が結合する配位子。1分子の配位子が3点で金属と結合することで強固な結合を形成でき、高い熱的安定性を与える)を持つモリブデン錯体を用いて、さまざまな還元的有機変換反応に用いられる汎用的かつ温和な一電子還元剤のヨウ化サマリウム(SmI2)を利用し、常温・常圧の温和な反応条件下で、窒素ガスと水からのアンモニア合成法の開発に成功した。

この反応系では、水を水素(H)源として利用可能であったが、反応を進行させるためにはヨウ化サマリウムが持つ化学エネルギーが必要だった。

今回の研究では、この反応の進行に必要な化学エネルギーの代わりに、光触媒を用いて可視光エネルギーを利用できれば、化学エネルギーによらないアンモニア合成ができるのではないかと考えて詳細な検討を行った。その結果、ジヒドロアクリジン水素供与体(分子の中にある水素原子=Hと電子の両方を他の分子に渡すことのできる物質)として、イリジウム(Ir)錯体(金属イオンとそれに結合した配位子の複合体)を光触媒として用いた場合に、窒素ガスからアンモニアが触媒的に生成することを見いだした(上図c参照)。

※実は身近な存在のモリブデンの詳細:「世界最小の水力発電!? わずか1滴の水滴から5ボルト超の発電技術を開発」

グリーンアンモニア合成反応の開発に期待

窒素ガスとジヒドロアクリジンからアンモニアが生成する反応は、原料の持つ化学エネルギーの方が低く熱力学的に不利なため、外部からエネルギーを与えない通常の熱反応では進行しない。

しかし、光触媒が可視光エネルギーを吸収し、そのエネルギーを用いて水素供与体であるジヒドロアクリジンを活性化することで、モリブデン触媒上でアンモニア生成反応が進行する。

大量生産に用いるには反応速度などの面でなお改良が必要だが、触媒の利用可能な回数を増やすことを当面の目標としているとのこと。

化学エネルギーを消費する手法から再生可能エネルギーを科学エネルギーとして“貯蔵する”手法にアップデートした

資料提供:東京大学

今回のアンモニア合成反応では、再生可能エネルギーである可視光エネルギーを化学エネルギーの形でアンモニア中に蓄えることが可能となる。

カーボンニュートラルな燃料およびエネルギーキャリアとして有望視されながらも、現行の手法では大量のエネルギーを使い、CO2の排出を伴いながら製造される水素ガスを原料とし、工業的に合成されているアンモニア。

本研究の成果は、再生可能エネルギーを用いてCO2を排出しない方法でアンモニアを合成するグリーンアンモニア合成反応の開発につながるものとして大いに期待したい。

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