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脱炭素時代の燃料「アンモニア」の可能性

既存燃料との併用から100%アンモニアへ! IHIが見据える次世代火力発電ビジョン

液体アンモニア混焼率向上と低NOx化を推進、アンモニア専焼ガスタービンの商用化へ

ことし3月、株式会社 IHIは世界で初めて2000kW級ガスタービンで熱量比率70%の液体アンモニアを使った安定燃焼を実現。NOx(窒素酸化物)発生量の抑制と共に、限定的な条件下において100%液体アンモニア専焼でのガスタービン運転にも成功し、アンモニア発電の可能性を切り開いた。2025年をめどにアンモニア専焼ガスタービンの商用化を目指す同社戦略技術統括本部 戦略技術プロジェクト部 プログラムディレクターの須田俊之氏に、アンモニア研究の現在位置と見据える未来を聞いた。

アンモニア発電設備の商用化を目指して

水素を低コストで効率良く貯蔵・輸送できるエネルギーキャリアの役割に加え、火力発電の燃料として直接利用も可能なアンモニア。燃焼時にCO2を排出しない燃料として温室効果ガス排出削減に寄与すると期待されている次世代エネルギーだ。

これまでボイラやガスタービンなどの大型発電設備を製造してきた株式会社 IHIは、2014年より5年間、科学技術イノベーション実現のために創設された国家プロジェクトであるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)に参加し、アンモニアを活用する技術開発を担当してきた。

「水素から作られたアンモニアをさまざまな手法で利用する技術開発に取り組みました。主な事例はボイラでの混焼、ガスタービンでの混焼、燃料電池での利用の3つです。アンモニアは燃焼させてもCO2が出ませんし、水素と比べて輸送が容易で、コスト面での魅力もあります。比較的液体になりやすく、直接燃やすことができるのも大きなポイントです」と同社でアンモニア事業に携わる須田俊之氏は語る。

「CO2排出削減に向けて、IHIの研究所でアンモニアの燃焼実験をスタートしたのが2014年になります」と須田氏

液体アンモニアと天然ガスの混焼では、安定燃焼と低NOx化の工夫として「きちんと燃やしきること」がキーポイントだという。

「NOxを抑えるためには空気との混ぜ方を工夫して燃やす必要があるので、そのためにバーナ(燃料を燃焼させる装置)に工夫を施し、NOxの発生を抑制しています。東北大学 流体科学研究所の小林秀昭教授(本特集第1回に登場*)と連携し、ラボスケールの実験では成功していましたが、それを基にスケールアップさせることが課題でした。商品として実用化するには、燃焼器の開発や運転制御なども含めて発電システムとして完成させる必要があります。それがわれわれの役目ですね」
*該当記事アンモニア発電とはどんな技術? ポスト炭素燃料開発のいま

横浜事業所(横浜市磯子区)内に貯蔵されている液体アンモニア。このタンクがよりスケールアップする未来が近づいている

画像提供:株式会社 IHI

液体アンモニアと天然ガスを混焼した2000kW級ガスタービンでアンモニア熱量比70%の安定燃焼に成功。燃焼器には航空エンジンの技術が応用されているという

画像提供:株式会社 IHI

ガスタービンに多量のアンモニアを供給するためには、液体アンモニアを気化させる蒸発器や制御弁など付帯設備の大型化が必要で、コスト高も課題となっていた。

そこで同社は2019年5月より、小林教授と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)と共に、液体アンモニアを燃焼器に直接噴霧し安定燃焼させる技術開発に取り組んだ。

液体アンモニアを直接使用することができれば付帯設備が不要になり、制御性向上のメリットも生まれるという。

「アンモニアの元素記号(NH3)を見ると、窒素原子(N)に3つの水素原子(H)が結合していますよね。Nがあるので、温度が高いところへ入れるとNOxの一種である一酸化窒素(NO)が生成されます。アンモニアはNがあることからNOxが出やすいと昔から言われてきましたが、燃焼の工夫によってNOx生成を抑制する課題をクリアし、2000kW級のガスタービンで世界で初めて熱量比70%の混焼に成功できたのは大きな成果です」(須田氏)

今後は液体アンモニア混焼率の向上と低NOx化を推し進め、アンモニア専焼ガスタービンの開発に注力していくとのことだ。

石炭との混焼が脱炭素社会実現への大きなカギに

同社は他にも石炭火力発電の脱炭素化技術の開発に取り組んでいる。

アンモニアを混焼させることで石炭の量を減らし、CO2排出量を減少させつつ発電量は維持させる。

「CO2排出量削減の観点から社会的評価は厳しくなっていますが、日本の基幹電源として使われてきた石炭火力発電を一斉に廃止し新しい発電設備を導入するのは、コスト増などの観点から現実的には困難です。そこで既存設備の燃料配分を変更運用させてCO2排出量を減らし続ける技術が必要と考え開発を進めています。もちろん設備の改造は必要ですが、ゼロから新しいものを造るよりもコストは圧倒的に抑えられ、電力会社の負担も電気料金の値上がりも軽減できるはずです」

アンモニアと石炭の混焼実験設備は、相生事業所(兵庫県相生市)内に設置されている

画像提供:株式会社 IHI

混焼実験設備の内観。「現在はアンモニア2に対し、石炭(微粉炭)8の割合でバーナの開発、実証を進めています」(須田氏)

画像提供:株式会社 IHI

「まだまだ時間はかかりますが」と前置きをしつつ、「アンモニアはCO2の排出“削減”だけでなく、“100%減”を目指せるでしょう」と須田氏は話す。

「アンモニアの混焼割合を徐々に増やしていき、最後はアンモニア100%にすることも技術的には可能と考えています。アンモニアを使えばCO2を全く出しませんが、その際は設備の大幅改造が必要かもしれません。まずはバーナの一部改造で20%混焼の実現を目指しています」

アンモニアをエネルギーとして用いるとなれば大幅な需要増が見込まれる。

現在、国内でアンモニアは肥料や樹脂の材料として年間約108万トンが導入されているが、経済産業省は2030年には300万トン、2050年には3000万トンを発電などで利活用する目標を定めている。

「供給量3000万トンを目指すのであれば、生産プラントやタンカーなどの設備投資は避けられません。ですが、こちらも今ある設備をベースに大型化するなど工夫を施し、手間もコストも最小限に抑えながら供給量を増やしていくことを目指しています。弊社が注目しているのは中東、オーストラリアです。昨年は一般財団法人 日本エネルギー経済研究所(IEEJ)とサウジアラビアン・オイル・カンパニー(サウジアラムコ)が進める『ブルーアンモニア』のサプライチェーン実証試験に協力しています」

国内の発電電力量の比率は、2011年を境に一変した。

原子力発電は、2010年に国全体の発電電力量のおよそ25%だったが、2019年には6%程度に。一方、石炭火力発電は2020年には31%を占めている。

「今、電気料金が安定しているのは、石炭を使用しているからにほかなりません。この事実は知っておいてほしいと思います。その上でCO2削減、脱炭素社会を目指すなら、設備投資が必要になり、誰かがそのコストを負担することになります。負担を最小限に抑えることがわれわれの役割の一つでもあります。トータルでのCO2排出量削減を考えるなら、今、最もやるべきことは、まず石炭火力発電にアンモニアを投入することではないでしょうか。将来的には高効率なガスタービンへとシフトしていく可能性もあります。アンモニアはガスタービンにも使用可能なため、供給設備への投資も無駄になることはありません」

「通常アンモニアの生産には化石燃料を用いるため、CO2を排出します。サウジアラムコは、このCO2を地中に戻すカーボンニュートラルなブルーアンモニアを天然ガスから生産しました。さらに再エネ電力から作られた水素を利用すれば、カーボンフリーなグリーンアンモニアの製造も可能で、サプライチェーン全体を脱炭素化することもできます。そこが注目すべきポイントです」(須田氏)

商用導入のターニングポイントは「2024年」

最後に同社が企業として目指していること、さらに今後のロードマップを聞いた。

「やはり既存の設備でいかにCO2を削減していけるのかに尽きると思います。少しの改造で削減が見込めますので、正直、私たちはもうかりません(笑)。研究当初の目標だったアンモニア20%混焼について、最近では『もっと比率を変えて燃やせるのでは?』という周囲の期待とリクエストの声が大きくなってきました。最終的にはボイラもガスタービンも100%にし、脱炭素社会実現への貢献を、と考えています。海外からのアンモニア導入を推し進め、実現した技術を今度は海外に売ることも視野に入れています」

去る5月24日には、株式会社 JERA(東京電力グループと中部電力の合弁会社)が所有する碧南火力発電所(愛知県碧南市)の出力100万kW発電機において、2024年度にアンモニア20%混焼の実証を目指すことも発表した同社。

JERAがアンモニア貯蔵タンクや気化器などの付帯設備の建設やアンモニアの調達を、IHIは実証用バーナの開発を担当し、設計や工事を進めていくという。

今後、IHIがJERA碧南火力発電所でアンモニア混焼に用いるバーナの改造イメージ

画像提供:株式会社 IHI

「大型の商業石炭火力発電所で大量のアンモニアを混焼させる世界初の実証事業になります」と須田氏をはじめスタッフの士気もさらに高まっているという。

脱炭素、循環型社会の実現に貢献すべく、多様なソリューションを提供するIHIが思い描く未来は、すぐそこまで来ている。

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