
2025.1.30
世界初! 水素液化温度での大型引張試験に成功
JFEスチール・JFEテクノリサーチ・鈴木商館・東京大学と液化水素の大型貯槽普及を促進
JFEスチール株式会社、JFEテクノリサーチ株式会社、株式会社鈴木商館、東京大学工学系研究科川畑研究室は、水素が液化する-253℃での大型広幅引張試験※1に世界で初めて成功。平底円筒形の大型液化水素貯槽(タンク)に用いる候補材料の安全性を実証した。液化水素の大量貯蔵を促進し、水素を新たなエネルギーとして用いる水素社会の実現を促す、今回の取り組みを解説する。
※1…引張力を加えた試験片が破断するまでの強度、変形挙動などを測定する試験
(<C>メーン画像:東京大学 川畑研究室)
液化水素の大型貯槽に求められる安全性の課題
水素は燃焼時に二酸化炭素が発生しないため自然環境に負荷をかけることなく発電でき、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す上で社会利用・普及への期待が高まるエネルギーである。
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水素は、代替技術が少なく転換が困難な鉄鋼・化学分野、モビリティ分野などでの活用が期待され、その需要は世界で高まっていくと目されている
水素社会の実現には水素発電の導入に加え、安定した水素供給システムの整備が必要となる。そして水素供給システムの確立には、水素を大量貯蔵できる基地の整備も欠かせない。
そこで現在、企業や学術機関では水素を貯蔵する貯槽の大型化が検討されている。水素は液体、つまり低温での大量貯蔵が望まれるが、ここで課題が生じる。
低温の液化天然ガス(LNG)などの大型貯槽は、大きな災害に見舞われた場合などに多大な変形を受けることが想定される。このような大きな変形は貯槽の破壊につながる危険があるため、大型貯槽には安全性が求められるとともに、使用可能な材料が規定され、LNG液化温度(-162℃)より低い-253℃で運用される液化水素貯槽は同等以上の安全性が求められる。
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液化水素貯槽の大型化には、材料を含む実大試験に基づく明確な技術基準の確立、安全性の確保が求められる
資料提供:東京大学 川畑研究室
安全性の実証には実物大での試験による耐破壊特性評価※2が必要なため、大型液化水素貯槽の実現には、世界でも実証報告がなかった-253℃での大型試験技術の確立と、使用される材料の耐破壊特性の十分な評価・検討が求められた。
※2…使用温度、地震荷重など鋼材が使用される環境を想定し、材料の強度、破壊靭性(じんせい)を調査。併せて構造物が安全に長期間使用できるかを確認・実証する評価方法
世界最大級の研究開発施設で、世界初の実証に成功
こうした課題にJFEスチールは、大型破壊・疲労評価センター「JWI-CIF2」(千葉県千葉市)で保有する世界最大級の載荷能力を持つ8,000t大型引張試験機を活用。
JFEテクノリサーチ、鈴木商館、東京大学と共同で大型引張試験機内の評価材料を水素液化温度の-253℃以下に冷却・保持して破壊試験を行えるシステムを開発した。
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JFEスチールの研究開発施設「JWI-CIF2」は、8,000t大型引張試験機(画像)をはじめ大型破壊、疲労試験機の実験設備を多数備えた鉄鋼分野において世界最大級の施設である
画像提供:JFEスチール株式会社
この評価システムを確立したことで、液化水素貯槽への適用候補材料として「SUS316L」(耐食性、加工性に優れたステンレス鋼の一種)が水素液化温度においても急激に破壊が進む不安定破壊が生じないことが実物大の貯槽で確認された。
また今回の実証は、東京大学が国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募で受諾した「大型液化水素貯槽実現に向けた極低温・水素環境下材料信頼性評価確立および社会受容のための実大試験」の項目内でも、世界で初めての実例となる。
JFEグループは水素社会の実現に資する研究開発を今後も推進。
水素供給・活用の拡大によるカーボンニュートラルの実現に貢献していく。
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text:サンクレイオ翼